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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
四天動乱編
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反省会

 アデルが持ち帰った袋……卵を見てグリフォン夫妻は大いに喜んだ。先の例があるため、孵るまでこれがこの夫妻の卵である保証はないのだが、少なくともこの群れの中でなら数は合ったので9割方堅いだろうということだ。

 夫妻の喜びとは対照的にアデルは少々冴ない顔だ。当然だが、アデルとしては最低1人は生きたまま身柄を確保したかったが、結局全員に逃げられてしまったと云うことがある。

 卵を取り返すことが最大の目標であり成功は喜ばしいのだが、プルルの仇を討とうという観点からは、大失敗である。一応1人血祭りには上げたが……あれが実行犯とは考えにくい。恐らくは先頭にいた斥候と4人目の斥候あたりが最有力だろう。特に4人目は夜間にも拘わらず、不可視状態の上からの襲撃を見事に防いだのだ。相当な腕であることは確かだ。

 あとはネージュが急に体勢を崩したのも気になる。竜の鱗はそれなりに固いようで大きな傷にはなっていないが、それでも戻ってきて気が少し抜けたところで相当痛む様子を見せた。勿論、説明の後アンナの治療は受けたのであるが、原因がはっきりしない。さらにはアデルを落としかけた機動も反省点と言えば反省点だ。

 次に逃げた密猟隊に関してだ。卵は既に持っていない為、普通の冒険者の振りをすれば恐らくドルンなりどこへなりと入り込めるだろう。フードを被っていたこともあり、アデルとしても顔ははっきりと見えていない。倒した1人から何かしら情報を得ようとしたが、冒険者タグのようなものは持っていなかった。出来れば死体でも持ち帰って明日の朝にでも王都へ突き出せばそれなりの手掛かりにはなるだろうが、魔術師の魔法で卵に悪影響が及んでも困ると、地上での活動は極力抑え、すぐに離陸し戻ってきたのである。

 母グリフォンは引き続き精霊たちによる網は維持してあるのでそれほど気にすることはないと言うが、卵の次の目標がプルルの敵討ちであったため、そこは複雑なところである。

 とりあえず、今最大の問題はネージュの姿ということになる。

 しかし、それ自体は翌朝あっさりと解決した。

「うぉぉぉぉぉぉ!」

 いつの間にか居眠りしていたアデルを全裸の幼女――そろそろ少女と言っても差しさわりないか。の雄たけびがたたき起こした。

「お?おおお?」

 アンナの見立て通り、意識を手放したらいつの間にか元に戻っていたのである。

「キーは意識か。で、もう一回同じことできそうか?」

 アデルは一応の安堵をすると、ネージュにそう尋ねた。

「ん……正直わからない。思い出してみる……のも、なんかいやだしなぁ。プルルが……」

 あの状況を思い出すというのは、プルルの死の瞬間を思い出すことになるのだ。ネージュの表情が曇る。

「まあ……そうだな。あんまりあてにはできないし……ん?」

 そこでアデルはネージュに起きている異変に気付く。

「お前、その角……」

「え?」

 今まで、お団子頭で隠していた角だが、竜化を機会にそちらまで覚醒したかのように、竜人の成人と同様の立派な角がこめかみからやや後ろへと湾曲しながら伸びていた。

「あ……あー……」

 どうやらアンナもそれに気づいたようだ。ネージュも指摘され、自分の角を確かめてみて、その状況を把握した。

「これ……まずいかな?」

「かなりまずかろうよ……」

 やはり居眠りをしていたが、途中からそのやり取りを見ていた父グリフォンがアンナに事情を尋ねる。

 それを聞いた父グリフォンが周囲のグリフォンたちに声を掛けると、様々な反応が返ってくる。そして一番重要そうなものが

「白竜の竜人は前代未聞だそうです。」

 その言葉にアデルは先日の竜人を思い出す。確か、炸裂する火球と核熱というべき閃光を放出する竜人は赤い竜だった筈だ。コローナ王都にいる時もいくつか文献を調べてみたが、確かに“氷を吐く”という竜人は一切記載がなかった。ただそれにはどれもこれも、竜化には竜玉が必要であるようなことが記されていたので、この状態になるとまったくあてにはならないが。竜人とはまた違うのか?アデルの疑問に答えらえる者はこの場にも、恐らくドルケンにもコローナにも、“人族”にはいそうにない。

「まずは服だが……着ていたものは壊れたか。」

 アデルの言葉にネージュは竜化直後のことを思い出す。

「んー、そうみたい。一応替え……持ってきてくれてるよね?」

 ネージュの持ち物袋はアンナがしっかりと回収してここへ到着と同時にしっかりと置いてある。アンナはそれを持ちに行く。

「そういえば、昨日の夜、いきなり姿勢崩されたのはなんだったんだ?直後に山の木に突撃しに行った奴。」

「あー……あれね。多分“催眠スリープ”だと思う。急に意識が飛びかけて、眠気と気付いて痛い目にあってみたらなんとか持ち直せた。」

「なるほど…………」

 そこでアデルは長い沈黙をする。その間にアンナがネージュの荷物袋を返すと、ネージュはそそくさと着替え始めた。

「“催眠”か……真言魔法の初步中の初步じゃないか……」

 そう言いながらも、もしかしたら対竜人に有効なのではないかと考える。この手の魔法は相手の精神力が打ち勝てば全く効果が出ないまま終わるのだが、ほんの1~2秒でも何かしらの効果が出れば、空に居座る竜人をなんとかすることが出来るかもしれない。コローナに戻ったらロゼールにでも伝えよう。だがしかし、この状態でネージュをコローナ王都に戻せるものかどうか……グリフォンの意向が最優先されるドルケンならグリフォンの羽根飾りを身につけていれば大丈夫なのかもしれない。が、それは逆にアンナにとっては不安が増すことになる。その辺りも考えないとな……

 しかし、今必要な考えはそこではなかった。ネージュが元の姿に戻ったものの、再度竜化は出来そうにないとなると、アデルは……歩いて帰るしかないのだろうか?

 アデルがそう言うと、父グリフォンがアンナ経由で、卵のお礼に今回は王都まで送ってやると言う。ただし、背に乗せるわけには行かないから、来るときの卵同様に幌の風呂敷での輸送になるが……と。

「おおう……」

「それに卵が戻ったことの連絡と、賊が逃げ散ったこと、王殺しの犯人がいまだ見つからないことも伝えたいそうです。」

「それもそうか……こうなるとここで出来る事もほとんどないしな……山が封鎖されればそうそう賊も入っては来れないか。かといってもう油断しないでくれよ?」

 アデルがそう言うと、やはりアンナ経由で、「うむ。」と返ってきた。そしてアンナが文にならない音を覚える様にと言う。

「精霊の言葉で“また会おう”です。王都に付く前に頑張って覚えてください。」

「……善処します。」

 突然の要求にただアデルは言葉を濁した。


 程なくして各々の巣に戻っていたグリフォンたちも姿を現した。

 母グリフォンの話をきいて、卵の無事な帰還をみんなが喜んだが、一部、ネージュの姿を見てがっかりした者がいたようだ。こればかりは訳さなくてもいいのにと思ったが、それをアンナがご丁寧に訳すと、ネージュは「おう、表に出ろ。」と促す。グリフォンの方も少しその気になった様だが、そこは父グリフォンが止めた。

 そして父グリフォンの連絡と共にアデル達が一度王都へと戻ると聞くと、昨日の8体に次いで別の8体も友誼の証として各々の羽根飾りを用意してくれた。

 アデルはまず感謝を述べると、最後にこういう。

「とりあえず、ドルケンにいる間はこれで角を覆っておけば大丈夫か。」

 実際は大丈夫どころか、逆に目立って畏怖されるだけの結果になるのだが、現時点ではそれを知る由もなかった。




 昨日同様、いや、昨日よりは規模を縮小してグリフォン5体+αの編隊でドルケン王城に到着する。まずは風呂敷から取り出されたアデルに周囲は目を丸くしたが、今回もご丁寧に国王自らが庭に現れて話を聞いた。

 まずは父グリフォンから、アデルの手によって卵が無事戻ったことが伝えられ、その功績者で友人たる竜人のネージュと翼人のアンナらにおかしな真似はしない様にと釘が刺される。“王殺し”の犯人は未だ見つかっておらず、こちらでも情報を集めるがそちらでも引き続き探す様にと伝える。王も“全力を尽くす”と約束をし、続いてアデルから昨日の交戦の話を聞く。

 アデルは、交戦場所、状況、そして8人の特徴や技能、そのうちの1人を討ったが、卵の無事を優先させ他を取り逃がしたこと、討った1人は身元につながるようなものは持っていなかったことを伝えると、王はその周辺の念入りな探索を約束した。

 アデルはついでで申し訳ありませんがと、ドルケンの言葉で“茶色の風”とは何というかを尋ねると、ヴィンドブリューンと教えてくれた。アデルはそこで少しうーんと唸った後、子グリフォンに「お前の名前はブリュンヴィンドだ。」と告げた。そのままではなく、少し崩してアデルの中での響きの良さを優先したのだ。グリフォンに名前を付けるという行動に周囲は少し騒然となったが、そこは父グリフォンがプルルを死なせたくだりから説明があり、複雑ながらも了承を得られた。ただし国王からは、「もし成長して飛べるようになっても、ドルケン内でグリフォンに騎乗するというのは遠慮してもらいたい。」と言われる。父グリフォンが敢えて幌風呂敷でここまで送ってくれたことを考えると、やはりグリフォンに乗るというのは王家的にはNGなのだろう。アデルもそこは承知した。

 “王殺害”に加えて、ドルケンの人による卵の亡失という最悪の事態は回避されたところで両者それなりに安堵したようだ。父グリフォンも昨日のような怒気は見せず、国王の表情も昨日よりはいくらか柔らかい。そこで、アデル達はこのまま王都に残ることが伝えられると、国王は是非城に招きたいと申し出ると、アデルはこちらもまだやることが山積なのでと一度は辞退したが、国王が引き下がらずに熱望したため、アデルの方が折れることにした。


 父グリフォン達との別れ際、アデルは習った通りの“また会おう”をグリフォン達に言うと、一応は伝わったのか、同じような音が沢山返ってきた。

「『いつでも来い。犯人が見つかったらすぐにでも来てくれ。』だそうです。」

「そりゃあまた……」

 アンナに託された言葉にアデルは苦笑した。


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