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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
四天動乱編
120/373

Who killed the King?

 卵から孵ったのは間違いなくグリフォンである。しかし、これは何者かに嗾けられ、アデル達を襲ったグリフォンのつがいの子供ではないと言う。

「わかるのか?」とのアデルの問いに、グリフォンは揃って「自分たちの持つものとは魔力の質が微妙に違う。」と答えた。どうやら個体差があるらしい。そうなれば当然……「これは誰の子で、あんたらの卵は本当は今どこにあるんだ?」

 と、言うことになる。が、生れて来た子を少し観察した母グリフォンは程なくしてこれは“王の子”ではないのか?と言うと、父グリフォンも、この所“王”を見ていないななどと言い出す。

 自分の子供、卵ではないと言う事だが、番のグリフォンは大急ぎで巣へと戻った。

 一行はドルケン奥地の高い山――グルド山の西面にあるグリフォンの巣へと到着した。高度……標高で言うならおそらく1000メートルは超えているであろう場所にあるやや大きめのステップに着地する。

 突然の竜の来訪に、10体近いグリフォンが現れ一時騒然となったが、やはり風の精霊を介して纏めて状況の説明がなされると、落ち着くと共に野次馬の如く数体のグリフォンが集まって来てはネージュを観察したり、軽くつついたりし始める。

「Guora……」

 と、低くやる気のまったく感じられない威圧をしてみると、一応つつくのはやめた様だ。

 そしてここからが本題となる。

「“王”と言うのは?」

 便宜上、今迄通りに父グリフォン、母グリフォンとするが、その父グリフォンにアデルが問いかけた。

「……王種と呼ばれる、優位種……優れた血統の個体だそうです。まあ、優れているのでほぼ自動的にここの様な中規模の群れのリーダーに納まるのでやはり“王”なのだそうですが。」

「わかった。それにこの子の親かも知れないんだろう?……ってことはもしかするとこの子は王種なのか……」

 例によってアンナが同時通訳をしてくれている。

「グリフォンにもそんな社会があるのか……」

 その言葉にアデルは静かに呟くと、父グリフォンは“王の様子を見てくる”と、数体のグリフォンを伴ってどこかへと飛んで行った。その間に母グリフォンは可能な限りの精霊を集めて情報収集をしている様だ。

 アンナは風の精霊を介さずにグリフォンに語りかけてみた。精霊が一ヶ所に多数集まると、互いに引かれあい制御が難しくなるという。その為母グリフォンが別の精霊と話をする邪魔にならない様にと、試しに別のグリフォンに話しかけてみた所、しっかりと伝わる様であった。やはり精霊語なのだろうか?人間の言葉よりも少々テンポが遅く、抑揚が細かいが、音が明らかに少ない。勿論アデルには何を言っているのかわからない。ただ、よく聞くと似た様な音をグリフォンも微かに発しているのが分かる。たまに聞く“念”で会話をしている様ではないので、至近距離であるならば音声のみで精霊を介さずに話が出来る様である。

 程なくして父グリフォンたちが戻って来たが、その様子は出て行くときと比べてもより深刻――そしてグリフォンの表情などわからない筈のアデル達でさえ察せられる程の怒りと悲しみを含んでいた。そう、ほんの数刻前までアデルが問答無用で放出し続けていたあの空気だ。

 父グリフォンが周囲に何かを伝えると、一同騒然となるのが気配でわかった。

「……この子たちの本来の父親であろうグリフォンが死んでいたそうです。」

「死んでいた?誰かにやられたのか?」

「……恐らくは……と。」

「恐らくってなんだよ……外傷は?外敵?人の手によるもの?」

「……それが……不可思議なんだそうです。」

「不可思議?」

 興味をもったアデル、そしてそのアデルに興味を持った父グリフォンが声を掛ける。

「……我らの王だ。できれば綺麗にして埋葬したい。手伝ってほしい……と。」

 その言葉にアデルは答える。

「他殺であるなら無視は出来んな。もしかしたら今回の真犯人に辿り着くかもしれないし。」

 アデルは子グリフォンを一度アンナに預けると、再度ネージュの首へと乗り、子を受け取った。

 アデルからアンナに、アンナからアデルに渡す時は大人しくしている子グリフォンだが、そのどちらからも離そうと拒否を見せるのだ。プルルを失くした直後とは言え、離そうとすると駄々っ子のように暴れ、離れると大慌てで駆けよって来る子グリフォンにアデルとアンナは苦笑し、その子の嫌がる事を避けた。

 アデルが首に跨ろうとしたところで、ネージュが不満げに半分目を閉じ軽く睨むが、「それどころじゃないだろ?色々と。」という言葉に妥協を選んだ。

 アデル達が移動の準備を終えたのを確認すると、父グリフォン他その場に集まった12体のグリフォンの内7体と共に離陸した。リーダーの変死。当然グリフォンとしても捨て置ける話ではない。母グリフォン始め5体は自分たちの物ではないとわかりつつも、結局卵を見守る為に残るそうだ。

 白竜を中心にグリフォン8体、計8体+2名の大編隊で空を数分移動すると、山肌に穿たれた穴。もはや広く浅い洞窟と言うべきか。に、到着する。当然奥に行こうとすれば中は暗い。「グリフォンは暗くても平気なのか?」と尋ねると、「あまりよくは見えない。」と返ってくる。それならばとアンナに光の魔法を用意してもらう。

「そんな……」

 光に照らされ浮かび上がった光景にアンナが思わず声を漏らした。

 洞窟の少し奥まった所で2体のグリフォンが重なって眠るように横たわっていた。死後数日経っている為か、部分的には腐敗も始まっている。無残に抜けおちた羽根は、他のグリフォンと比べて少々明るい茶色のようだ。光の加減次第では金と呼べなくもない。これが王種か。

「……魔力の質からして間違いないそうです。この子の両親であろうと……」

「そうか……」

 子グリフォンの身元が判明した。

「魔力がまだ残っているってことか?」

「……そのようですね。魔石が……残されている様です。」

「魔石が?」

 その言葉にアデルはつい別の事を考えてしまうが、ばれない様に確実に飲み込んだ。

「……魔石目当てじゃないってことか。まあ、卵だったんだろうけど?」

 そう言いながらアデルは2体の様子を観察する。興味があるのかネージュも歩いて寄ってくる。

「あんまり見せたくないな。」

 アデルは子グリフォンの頭を軽く撫でてアンナに預けた。死んでいるグリフォンは大きな翼に隠れている部分はともかく、露出してる部分はすでに腐敗が始まり、虫が湧き原形の崩壊が始まっている。近づくごとに腐臭が強くなるため、風の精霊に強制的に換気をしてもらった。

 最初の異常に気付いたのはネージュだ。顎でアデルの頭を上から軽く叩くと首を伸ばして箇所を示す。

 首筋に短剣が刺さっていた。

「首に短剣が刺さっている。抜いて確認してもいいのか?」

 アデルが念のため父グリフォンに尋ねると、彼らの同意を得られた。

 短剣を慎重に抜き取る。血流が既に止っているためか、完全に凝固してしまっているのか、新たに血が噴き出る事はなかった。

「羽根を見る限り出血の跡はないな。他に外傷があるのか?」

 アデルは消えない腐臭に顔を顰めながらも丁寧に観察する。少なくとも背面にはそれ以外の外傷は見られない。

「急所に短剣が突き刺さっていたところで他殺なんだろうな。でも、グリフォンが2体、狭い洞窟内とは言え、こうも簡単にやられる物か?」

 アデルがグリフォンたちに問いかけると、アンナ経由で父グリフォンが答える。

「先程の野外のような戦闘は出来ないが……王がこうも簡単にやられるとは到底思えない。」だそうだ。

「うーむ……ネージュが元に戻れたらもう少し調べらるんだが……」

 実はネージュの方にも問題が起きていた。元の姿に戻る方法がわからないのである。グリフォン夫妻の巣に到着した時点で一度戻る様にと指示をしたのだが、ネージュは首を横に振り、傾げてみせ、戻り方がわからないという仕草を見せた。様子からしてネージュ自身も自分が竜化できるとは思っていなかったようで、そうなれば当然だがそれをコントロールする術を知らない。本来なら親が基本を教えるのだろうが、珠無として生れたネージュは最初から投げ出され、それを教わる機会は1度もなかったのである。そして、珠無竜人が竜化すること自体が恐らくイレギュラーである筈だ。プルルが殺され、アデルが死にかけ、感情が暴発したせいと考える他ないのだが、もしかしたら竜人なら竜化は誰でもできるが、その制御に竜玉が必要であったということなのかもしれない。そうであるなら大きな発見ではあるが、現状の打破には全く役に立たない。

「一応洞窟の方も調べて見よう。その間に、埋葬場所まで運んでやってもらえるか?」

 アデルがそう言うと、グリフォンたちは既に腐敗が始まっていて運び出せそうにないからここを崩して埋めるなどと言い出した。

「おいおい……それじゃあ、ちょっと待ってくれ。もう少し、“何があったか”調べて見る。」

 ここを崩せば確かに“埋葬”ではあるが、それをされたらもう何の痕跡も得られない。彼らの条件の一つである“密輸の真犯人”に辿り着くための何かがあるかもしれないと説明し、少し時間を貰う。

 アデルはまずネージュやグリフォンの協力を得て死体を裏返し、腹部に外傷がないかを確認するが、やはり見当たらない。もう一体を調べると、驚いたことに、同じような短剣が同じように首筋に付き立てられていた。グリフォン相手に2体同時にこれが出来るとは到底思わないのだが……グリフォンに尋ねてみても、王種夫妻がこうもたやすくやられるとは考えられないと言う。

 洞窟内は地面も普段通りの様で、所謂“争った形跡”は見当たらなかった。しかし、卵を産み、孵る直前の卵を残して親が何の抵抗もなく殺されるとは考えにくい。

 アデルは何とか痕跡はない物かと時間をかけて必死に調べた。数体のグリフォンが痺れを切らしたか一旦巣に戻ると出て言った後も、結局1時間以上調べて回った。数体のグリフォンは黙ってそれを見守っている。

 そして1時間を超える探索の結果、不自然と思える物が2つだけ見つかった。

 それは、共に高さ1メートル弱、一番太い部分が直径40センチメートルという、やや大きな割れた陶磁の壺であった。


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