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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
四天動乱編
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 白竜は周囲の変化、視線、そして自分の姿を何度も見返しながら数秒戸惑った様子を見せた。しかしアンナが治療の為にアデルの左腕を拾い、アデルに駆け寄った所で何が起きたのかようやく理解する。あり得ないと思うと同時に、心が震えるのをしっかりと感じた。

 アンナが治療を始めようとしたのに気づいたか、それを阻止する様にグリフォンが襲い掛かろうとすると、白竜は低く唸り、2つ羽ばたいて浮揚するとその進路を邪魔する様に飛び、氷のブレスを吐きつける。グリフォンは慌てて高度を上げ直し竜の後上方に飛び抜けた。

 白竜はその間にさらに羽ばたくと、高度を上げアデル達の少し上をゆっくりと、そして次第に加速を始めながら周回する。白竜の巻き起すダウンウォッシュは強烈で冷たい。真冬の猛吹雪の様な風を周囲に吹き散らかす。一面氷に覆われた周囲一帯はそこだけオーレリアの氷河を思わせるような寒さに包まれていた。

 そんな中で最初に行動できたのはアンナだ。まずはアデルの鎧を外し、切り落とされた血まみれの左腕をアデルに渡し合せているようにと言う。アデルは歯を食いしばりながら右手で自らの左手を受け取り、切断面に合せた。

 すぐにアンナが魔法詠唱を始めると効果はすぐに現われた。眩い光が千切れたときに散った肉片をも再生しつつ腕がつながる。アデルは不安げに左手を2度3度、握ったり開いたりして感触を確かめると、すぐに鎧を装着し直し、楯を拾う。

 その様子を確認した白竜は、グリフォンに向けて再度氷の息を吐きつけると、それを牽制兼目眩ましにして一気に高度を上げる。白竜は標的をまだ無傷の方のグリフォン、アデルの腕をもいだ奴に定めると、強烈な殺気を放ちつつ詰め寄った。

 この間約1分、アンナ、アデル、そして狙われたグリフォン以外は未だに殆ど動けない様子だ。狙われたと察したグリフォンは慌てて距離を取ろうとし、手負いのもう1体は状況を確認するかのように上空で負傷した翼を内側に大きな円を描きながら旋回している。

 白竜が1体に狙いを絞って飛び掛かるのを確認すると、もう1体のグリフォンは白竜を挟むように、背後に回るように行動を開始する。

「後ろの1体だけでも何とか注意を引きたいな……」

「やってみます。」

 アンナは風の精霊を召喚するとすぐに何かを説明すると、すぐに風の精霊が応える。

 後に回ろうとしていたのはアデルが傷を負わせた方だ。負傷した翼に集中して風圧を加えることでグリフォンの姿勢を大きく崩した。左右のバランスを維持できないグリフォンは思う様に飛ぶ事が出来ずに、こちらを先になんとかせざるを得なくなる。後ろのグリフォンが自分の背後から離れた事を気配で察した白竜は正面の、無傷のグリフォンへ一気に加速した。

 恐らくは牽制だろう、無数の小さな氷塊を高速で散布するブレスを広範囲に向けて吹き付けると、グリフォンは高度を下げつつも片翼でガードする様にその氷塊の息を受けた。白竜がブレスを吐こうと全身の魔力を意識しながら放出すると、白竜の周囲に氷片に現れキラキラと輝いた。下にいる商会員達はその様子を呆気に包まれながら眺め、少し離れた位置で観察していたドルケンの飛竜騎士たちは神経を尖らせながらただ遠巻きに見守っていた。あのブレスを浴びれば自分たちではただでは済まないだろう。かといって国の神獣であるグリフォンが殺されるのを黙ってみているわけにもいかない。いよいよになったら白竜の注意を引くべく戦う覚悟はしている……つもりではある。

 白竜はそのまま突進を続けると、グリフォンがガードの為に少し高度が下げた所で一旦上昇し、ガード中の片翼に爪での一撃を見舞うと、その結果を確認せずにグリフォンの後ろへ抜け、さらに頭を上にあげ真上へと加速する。ハーフループでグリフォンの真上に回るとそのままループを続け、角度がほぼ垂直になったところから今度は巨大な氷柱のブレスを吐きつける。どうやら拡散モードと収束モードがあるらしい。流石のグリフォンもこれはガードでは厳しいと判断したか、とっさに両翼を広げ、数メートル、バックステップする様に下がる。

 白竜は数瞬前までグリフォンがいた位置をほぼ垂直に降りると、目いっぱい前足を伸ばしてグリフォンの腹を狙うが、こちらはグリフォンが寸前の所で更に後ろに移動し回避した。

 そこで白竜は身体を捻り、180度の横回転ロールをすると、アデル達を狙おうとしていたグリフォンの背後から拡散型の氷塊ブレスを吐きつける。

 すでに負傷とアンナの魔法で正常な飛行が困難だった手負いのグリフォンは背後からの急な攻撃に対処できよう筈もなくそれをもろに浴びた。

 叩きつけられる氷塊によるダメージに加え、着氷により身体全体の重さが増し、さらには急激に体温を奪われたグリフォンは遂に飛行を維持することが出来なくなったか、アンナの魔法に圧し負けて地面へと衝突した。必死に羽ばたいたおかげで落下と言うほどではないが、相当なダメージが見込まれる。

 地上に落ちれば当然、殺気満々の冒険者が襲い掛かってくる。手負いグリフォンは身体をなんとか起こすと力なく空へと避難した。

 下のグリフォンはすでに脅威にならないと踏んだのだろうか、白竜はすでに上空のグリフォンへと進路を変えていた。先ほどの垂直降下と手負いグリフォンへと追撃の為に高度を下げていたため、相当な速度になっている。白竜は地表10メートル付近で上体を引き起こすと水平に十分距離を稼いだところで再度上昇する。

 上にいるグリフォン――グリフォンAとしようか。は、下ですでに半死状態のグリフォンBを気にかけ、なんとか支援に向かおうと高度を下げていたが、白竜の再上昇を確認すると大きく旋回し、距離を置く。ほぼ同じ高度でグリフォンAと白竜が正面から対峙した。

 高度は60メートルほどか。具体的な速度は分からないが、どちらも相当の速度になっている。

 高度と速度が同じであるなら、氷のブレスという遠距離攻撃を持つ白竜の方が有利であった。白竜はさらに加速すると、グリフォンBに有効打となった拡散氷塊ブレスを吐きつける。先の氷柱ブレスと比べれば威力こそ大したことはないが、広範囲に散布された氷を浴びれば空での機動力は大きく損なわれる。そうなると最早勝ち目はないとグリフォンAは判断し、左旋回でその氷塊地帯を避ける。だがそれは悪手であった。同程度の速度で真正面同士ヘッドオンの状況から先に旋回をすればどうなるか。白竜は少し上昇して速度を殺しつつ旋回半径を抑えると、さらに身体を捻り先に旋回を始めたグリフォンAの後ろ上方に回る。そうなればあとは追いかけるだけだ。白竜はグリフォンAの後方斜め上、グリフォンAからすれば、攻撃はおろか、目視すら難しい位置を取ると、次のブレスを吐きつけるタイミングを探す。

 白竜を見失い、急旋回から直進へと機動を変え、一気に加速し振り切ろうとしたところで、そのタイミングを待ち構えていた白竜の密度の高い氷塊ブレスを浴びる。翼に付着した氷塊はさらに周囲の水分を取り込みさらに体積を増して凍らせる。翼はたちまち凍り付き、翼の動きを大きく妨げ、さらに尋常ならざる重量を加える。ほどなくして速度が落ちたところを白竜が少し上から一気に踏みつけ、さらにそのまま地面へと押し付けた。


 上空の空中戦に決着がついた頃には、下にいたグリフォンBも襲い来る下降気流に屈していた。

「プルルの仇め!死ね!」

 アデルが槍を構え、グリフォンBに走り寄ろうとしたところで、アンナがそれを止める。

「待ってください!」

「なんだ?目の前でプルルが殺されたんだぞ?邪魔をするな!」

 アデルがアンナを怒鳴りつけたが、アンナは怯まずにこう続けた。

「卵を……卵を返せと言っています!」

「……何?」

 アンナの叫びにその場にいた全員が一斉にアンナに視線を向けた。

「頼む!待ってくれ!少し落ち着け!」

 ヴェンはそう叫ぶと同時にいくつかの馬車に駆け寄りその中を確認する。

「これはなんだ……?そうか……お前ら!ヨハンを取り押さえろ。但し殺すな!」

 ヴェンの指示に1人を除く商会員が一斉に反応し、動いた。

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