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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
邂逅編
11/373

相棒

 敵の先陣はやはりオークが率いるゴブリン小隊だ。

 ただ今回は無駄死にを嫌ったか、それとも村人を狙いと定めたのか、アデル・ネージュ・ヴェーラの前衛を迂回する様に走り、2列目のエスターやフォーリ達を狙いに行く。

 役割分担を確認しているアデルとネージュはそれに釣られることはなかったが、仲間を狙われたヴェーラはその片方の小隊へと向かってしまった。

 そこへアデル達の正面に愈々オーガが現れる。

 楯に掛けられた灯明の魔法に照らし出されたオーガは知識の通りだった。

 しかし、実物を目の前にするとやはりその大きさに目を瞠る。

 体高や重量といった数値にしてしまえば、グリズリーと大差はないのだが、発達した四肢の長さや筋肉をみるとやはりこちらの方が危険に見える。

 ある程度の知能がある分、やはりこちらの方が強いのであるが。

 オーガが一声上げると、取り巻たちが一斉に飛びかかってくる。

 包囲される前になるべく数を減らそうと、アデルは右側面を重点的に攻撃する。

 ゴブリンの体高が低いためどうしてもしゃがみ気味にさせらるが、薙ぎ払い一閃で3体を戦闘不能にする。これまでの隊であれば3体同時に倒せばいくらかは動揺を見せるゴブリン達だったが、今回はオーガの咆哮に鼓舞されたか怯むことなくアデルに襲い掛かってきた。左側に回ったゴブリンが斜め後から飛びかかりアデルの左足を切りつけた。

「ぬ!」

 聖壁の効果が効いているがそれですべての衝撃を弾ける訳ではない。

 ゴブリンの持つ刃の切先がアデルの左腿のズボンを切り裂くと徐々に血が滲んでくる。それでも聖壁のおかげでその程度で済んだ。何もない状態であればもう少し深く切られ、動きが鈍る恐れもあっただろう。

 アデルは楯の下側の縁で左足のゴブリンを叩き伏せるとさらに右側へ踏み込む。

 一度畳んだ腕を目いっぱい伸ばし、動きの鈍いオークの腹部を突き刺す。

 オークは体躯に似合わない甲高い声悲鳴を上げるが、倒れる事はなかった。

 腹の傷を顧みることなく武器を振り上げ、怒りと共に武器を振り降ろす。アデルと比べてもさらに一回り大きいオークの質量が乗せられた剣が振り降ろされるが、アデルは特別体勢を崩されていた訳でもなくそれを難なく避けた。

 ドスッという音とともに剣が四分の一程地面に突き刺さるが、オークはそれを苦も無く引き抜くと再度振り上げようとする。が、当然アデルはそれを許す事はなく、オークの喉を一突き。オークは数秒の後、そのまま前のめりに倒れた。その際下敷きになった負傷のゴブリンも止めを刺された事だろう。

「危ない!」

 暗闇から掛けられた声にとっさに反応し、全力で飛び退くと、アデルのいた場所に丸太の様な棍棒が振り降ろされ、地面に小さくないクレータを開ける。

 本来なら取り巻きを排除したところで満を持して登場する筈のボスが、オークに気を取られていたところに待ちきれなかったのか攻撃を仕掛けてきたのである。もちろん、そんなお約束を実際に行う丁寧な蛮族などいない。

 ついに、オーガが動き出した。


 先発隊を潰された蛮族共の再編成の結果、アデルの前にはオーガとゴブリン数体が残っている。散開し村への襲撃を優先した2小隊が2列目、エスターと動きに釣られたヴェーラ、数名の村人有志、それを支援するフォーリとヴェルノのグループに襲い掛かっている。オーク2体を同時に相手どらなければ、今の彼らの実力ならそれほどの損害は出ないだろう。フォーリとヴェルノの支援があれば村人でもゴブリン数体の相手はできる筈だ。あとはヴェーラとエスターが1体ずつオークを始末すれば片付くだろう。


 と、云うことで問題のオーガだ。体高は3m強、アデルがどう頑張ったところで頭部への攻撃は無理だ。ネージュが隙を見て飛び上がれば首を掻き切るくらいは出来るかもしれないが、オーガの表皮は見るからに硬そうでその内側を固める筋肉の束を見るに、ネージュの力でどれ程の深さを抉れるかはわからない。

 (それでもまずはゴブリンか……)

 オーガを視界にとらえつつ、チラっと周囲を見回してアデルは結論を出した。聖壁がまだ効いているとはいえ、ゴブリンの存在を丸々無視するわけには行かない。不要なダメージを受けかねないというのもあるし、何より足場だ。打点の高いオーガの腕に集中するあまり背の低いゴブリンに足元を掬われたら元も子もない。

 アデルは次のオーガの攻撃を横ステップで躱し、視界にチラチラ入っていた1体のゴブリンを屠るとすぐに周りを確認する。

 周囲にはオーガと自分以外に動くものの気配はなくなっていた。死体の数を数えている暇はなかったが、恐らくネージュが引き付けるか倒した後気配を眩ませたのだろう。状況的に後者だろうな。不穏なネーミングの上位クラスは伊達ではない。

 いよいよ目前のオーガだ。灯明の魔法が掛けられた楯を正面に翳すとオーガは不快そうに目を細める。暗闇の中、正面からのハイビームを浴びせられて目が慣れることはなく、数秒の間正視できないという経験もある方はいるだろう。松明とは光の量と指向性が違う。

 アデルは一歩離れた位置で楯を構えて腰を落とす。他者がみれば踏ん張って一撃を受け、その隙に槍を持つ腕を伸ばすものだと思うかもしれないが、アデルは受ける気などなかった。低い相手に攻撃させ、まずは高い位置にあるオーガの急所を低い位置に誘うのが目的だ。

 オーガは一つ吠えた後、一歩踏み込んでアデルを盾の上から押し潰そうと木の幹を握りやすく削っただけであろう棍棒を振り上げる。

 注文通りの行動にアデルは棍棒の軌道を見極め、最小の距離でそれを躱すと、屈んだ為か少し低くなった脇腹に槍を突き立てる。

 予想通りの固い表皮と筋肉に阻まれるが、そこは金属製の刃物だ。弾かれることはなく、オーガの表皮に穴をあける。

 しかし、ゴブリンの腹なら易々貫通させられる突きを食らわせても、表層に多少に傷をつけた程度だった。体力もゴブリンやオークとは段違いだろう。固い。

 アデルはこれ以上の痛撃を諦め、すぐに槍を引き抜く。固い表皮と筋肉で絞めることで槍が引き抜けなく、或いは引き抜きにくくされたら今度はアデルが詰んでしまう。

 アデルは槍を引き抜きまた数歩分飛び退きオーガとの距離を取る。本来なら間合いの距離が有利となる筈の槍だが、アデルの片手槍とオーガの丸太製棍棒では腕の長さも含めてオーガの方がリーチが長い。

「ぐへっ!?」

 オーガは体勢を戻すと、今度は即座に、振りかぶらずに棍棒を横に薙ぐ。怒りに任せて振り上げて全力攻撃をしてくれれば見切りやすいのだが思いの外オーガは冷静だったようだ。振り下ろしならほんの少し体を横にずらせば避けられるのだが、リーチの長い、低い位置――と言ってもアデルの腰付近の高さだが――の横薙ぎはとっさの回避は難しい。

 何とか楯で受け止めるが、それでも勢いを殺しきれず、アデルはついに姿勢を崩しふらついてしまう。楯を握る左手から肘までの感覚が痛みと衝撃でわからなくなってしまっていた。

(楯なしで食らうと重傷は免れないな。今のところ左足以外のダメージはない、一旦楯を捨てて避けに専念するか?いや、また深い横薙ぎをされると危険、というか光源が楯だから楯を捨てるという選択肢はないか)

 ふらついたところを止めというつもりだろうか、オーガが棍棒を振り上げたのを見て早めに2歩後ろへ下がる。それを見てオーガはさらに大きな一歩を踏み込み攻撃してくる。やっぱりよく見えている。

 アデルの方も慎重に見極め、振り下ろしの軌道を確認してから横に飛び退く。楯で受けてもいいが、この振り下ろしを2~3回も受ければ楯か腕、握る手のどれかが壊れかねない。勿論、姿勢の下がったところはきっちりと見逃さず、今回は脇の少し下を一度突き刺すがあばら骨に阻まれたか、最初の脇腹よりも感触は浅かった。

 膠着状態に陥った。アデルから見ればオーガにまともなダメージを与えるにはまず攻撃させて姿勢を低くさせないといけない。オーガにしてみれば必殺の振り下ろしは外すと自分の傷が増える。牽制の仕合いだと恐らくアデルの方が上手であろう。

 こうなるとアデルは光の届かないところで気配を消して隙を窺っているであろうネージュの横やりを期待してしまう。そしてそう思った時アデルはつい軽い笑みを浮かべてしまう。苦笑というやつだ。まだ出会って半年にも満たない、成人間もないと言える歳のアデルよりもさらに5つ以上年下のやんちゃ姫に相棒としての仕事を期待してしまっているのだ。村にいた頃のアデルには想像もできなかったことだ。

(太ももを狙ってみるか。その反応次第で次を考えよう。)

 アデルはそう決し、楯を構えて腰を落とし数歩駆け出す。先に仕掛けてくるのを考えていなかったのか、狙いを変えたことに気付けなかったのかオーガは少し遅れて迎撃しようと腕を持ち上げる。

(いける。)

 アデルはオーガの動きをみて、ここで一気に軸足を潰そうとオーガの左脚太腿の内側に3発の突きを入れ、腹に牽制の突きを見せつつ一気に飛び退いた。

 不意の痛撃に怒ったのか、重心に予想外の攻撃を受けたためか、オーガの振り下ろしは今までの安定感を失い、上体が大きく前のめりになる。そこへアデルが期待していたものであろう気配が一気に膨れ上がった。

 アデルの位置からは何も見えなかったが、オーガが急に苦しみだし首の後ろを押さえつける。オーガが大きく姿勢を崩し、体が前に傾いた隙にネージュが背中を駆け上がって首の後ろを一突きしたのだ。アリオンはクラス名は飽くまでも能力の呼称などと言っていたがどうみて暗殺者の手口だ。一体どこで覚えたんだろうか。

 オーガが首に突き刺さったショートソードを引き抜くとそこから大量の血液が噴き出す。

 グルオォォォと痛みと怒りからオーガは背後を威嚇しながら首を襲った犯人を捜すがすぐには見つからない。注意が完全に逸れいている。そしてアデルもまたこのタイミングを見逃すわけには行かなかった。

 完全に無防備になった背後から、自分の心臓の位置を考慮して狙いをつけ全力で槍を突き刺す。

 オーガが再びアデルを捉えるが、その動きは完全に緩くなっていた。大量のオーガの血が首筋から吹き出し、心臓や口からあふれ出る。致命傷としては十分だった。

 程なくしてオーガの巨体が膝から崩れ落ちる。うつ伏せに全身が地面に触れたところで、アデルは槍を首に突き立てそのまま切断した。


 村の入り口の方から上がった歓声が徐々に村の奥の方へと拡がっていくのが聞こえた。



序章大詰めといったところでしょうか。

次で一区切りとなる予定。

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