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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
四天動乱編
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英雄の再起

 イスタへと急ぐ王太子軍であったが、途中、街道沿いにある村に立ち寄ることになった。

 アデル達にはすでに馴染みがある、ディアスが移住した村である。

 事前に伝令が入っていた筈だが、村はいろんな意味で大騒ぎである。

 まずは、総大将である王太子だ。基本的に元日を家族で過ごすコローナの地方民にとっては王太子を目にする機会などまずない。王太子としては西方面に何度か出征しており、西方面なら何度か見た者もいるのかもしれないが、今回初の出征となる東では、その王太子の姿を一目見ようという村人たちでごった返していた。

 残念ながらこの程度の村ではいささか狭く、700超の軍で夜を明かすことは出来そうにないが、元々急ぎの道中であり、村で一泊する予定はないのでそこは問題ではない。とは言え、これだけの人数が一度に訪問する機会はまずない筈で、休憩と経済を回す的な意味も込めて、王太子は軍全体に村への立ち寄りと買い物を認め、1時間ほど自由時間を与えた。

 アデル達はこれ幸いにと、ディアスを尋ねたのである。

「何の騒ぎかと思っていたら……王太子が来ているらしいな。」

 少々呆れた、と言うような表情でディアスはアデル達を迎え入れた。

「今度は鬼子の双子か。相変わらず面白そうな奴ばかり集まるな。お前の所は。」

 取れる時間も少ないと云う事で、アデルはディアスにニルス達を紹介した。

「鬼子とは何度かあったことがあるが……兄妹、双子なんて前代未聞だ。ふむ。やっぱりいい体してるなぁ。」

 ディアスがニルス達をそう評価する。ニルスとしてはいきなり前代未聞だの、いい体の言われて少々不愉快そうな表情を見せたが、アデルはディアスに目配せをして、紹介の黙認を確認すると、ディアスの素性を伝えた。

「そうだったんですか。西の方のことはあまり詳しくなくて……申し訳ない。」

 ディアスたちが西方面で活躍したSランク目前の冒険者であったと教えると、ニルスは自分の無知と不愉快そうな対応を取ったことを詫びた。

「構わんよ。すでに引退した身だしな。それに知られていない方が今となっては気が楽だ。」

 ディアスがそう肩を竦めて見せる。アデルは取り急ぎと情報の交換をした。

 ディアスの村にも、東部地方への蛮族の襲撃の話は届いていた。特にここから2日歩いたところにあるイスタへの比較的規模の大きな襲撃の話はかなり関心が高い様だ。ディアスによれば、もしイスタが陥落したなら、この村なんてひとたまりもないとのことで、住民たちもかなり不安がっていたそうだ。それを聞くとやはり王太子の演説は的を射ていたということがわかる。

 次いで王太子について尋ねると、その表情はやや険しくなった。ディアスたちはその実力を見込まれ、何度か囮や殿といった危険度が高い仕事を割り当てられたことがあったらしい。結果として生存し、西方面や王都では英雄視されているされているのだから、ある意味王太子の目は正しいと言えるのだが、結局その流れでマリーネを失うことになったという思いがあるようだ。その時の指揮を執ったのは王太子ではなかったようだが、相手が中級以上の敵性亜人、蛮族である場合は捨て駒戦法を取ることもしばしばあったという。

「死んでからいろいろ文句を言おうと思っても遅いからな?」

 と、言うのが今のディアスの論である様だ。

 今回、直接指示を受けるのが《聖騎士》であると伝え、その印象を尋ねると、やはり最初に思い浮かぶのが“白風”リーダーイリスの様である。

「神に仕え、民を思い……武人としてはこの上なく立派な存在だよ。俺らから見れば生真面目すぎてつまらない奴らだったが。それでも信用はできたさ。一緒に囮部隊を任されたこともあったな。見合う実力がない奴は兵士・冒険者関係なく皆死んだがな。」

 ディアスが皮肉気に笑う。その辺りの印象はアデルのそれと近い様だ。民は守るが、剣を取り報酬を得る人間は全て自己責任であると言ったところか。ディアスの言葉にアデル達全員が高いの顔を見合う。

「そういえば、随分と高級そうな鎧を着ているな。よほどいい稼ぎがあったのか?」

 ディアスがアデルの装備に気付いた。アデルは、アリオンから譲られ、アモールの手によって再加工されたものだと伝えると、「ひゅ~」と口を鳴らしてその出来を確認した。

「アリオンさんも思い切ったことをするな。それにしてもアモールも……腕を上げたもんだ。」

 ディアスはそう言いながら、アデルの鎧を、次にアンナの胴鎧の出来を確認して……最後にネージュのプレストプレートを懐かしむように手で触れる。

「…………ふむ。」

 ディアスは一つ大きな息を吐いた。ネージュのブレストプレートは元々マリーネの形見だったものだ。

「東はそんなにやばい状況なのか?」

「イスタの東に蛮族軍600。構成はオーガを隊長としたオーク・コブリンの30体くらいの小隊が20くらい。取りまとめているのは多分竜人でしょう。」

「竜人?」

 真剣な表情で尋ねてくるディアスにアデルは知っている情報をすべて話す。年末の東征、竜人との交戦とエストリアの被害、竜人の撃退。さらに、エストリア北東部の蛮族の新たな拠点と増援。

 それを聞くと、ディアスは一度瞑想するように目を閉じ、深呼吸をして1分ほど間を置くと、目を開いた。

「お前のパーティ、まだ空きはあるよな?」

「え?」

 ディアスの言葉にアデルが驚く。

「イスタは何としても守らなきゃならん。村の為、俺の為、ソフィーの為、あとついでにコローナの為にもな。」

「それって、つまりは……?」

「ああ。分け前寄越せとは言わんさ。助っ人Aとしてイスタをこっそりと影乍ら守る手伝いが出来りゃそれでいい。」

 ディアスの言葉に、アデルとネージュ、それに他の3人も一様に目を見開き、息を飲み込む。

「勿論です。神官隊とポールさんにはうまく説明しましょう。ただ、ポールさんは結構その辺の情報も詳しそうですが……」

「助っ人Aで何とか通してくれ。まあ、イスタを守った後のことは当面保留だ。公に復帰する気はない。」

「……そうですか。それでもソフィーさんあたりは喜ぶでしょう。出発まであと半刻もありませんので急いで準備をお願いします。もしかしたら――アンナ?」

「はい?」

「もし時間が掛かりそうだったら、“不可視インビジ”を使って、野営の準備が始まるころにこっそりとディアスさんと一緒に合流してもらえないか?こちらでも事前にちょっとした細工をしておくから。」

「……私は大丈夫ですが、ディアスさんは先行した軍に追いつけますか?」

「歩兵部隊に追いつけない理由はないさ。任せてくれ。」

 ディアスは精悍な笑顔でそう返した。


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