王家の慣習
ロゼとの「初めまして」な再会を終え、急ぎブラーバ亭へ戻った一行を待っていたのはネージュだった。どうやら、無事に“仕事”を終えて戻ってきていた様子だ。一同まずは一安心してネージュにこちらの現状を伝え、今後の話に移る。
ブラバドから改めて、ロゼことロゼールがコローナ王国第3王女であったことの説明を受ける。どうやらブラバドは最初から知っていた様で、話によるとコローナ王室は先々代からの伝統で、成人した王族は一度王都内のいずれかの冒険者の店に登録して、冒険者の真似事をし、嗜む程度の仕事をこなしつつ、技能を取得するのが習わしであるとのことだ。基本的に、冒険者ギルドや加盟店の主以外には秘密で、店の方で命の危険が極力無いように計らうのだが、技能はしっかりと冒険者と同等のものを身に付けさせる様だ。基本的には、男性が《騎士:15》以上、女性は魔法系技能のどれかのレベル20が目安らしい。今の世代は他店所属だったらしいが、王太子が《騎士:19》、第2王子が《騎士:15》、第1王女は《魔具師:40》、第2王女が《神官:30》、第3王女ことロゼールが《神官20》であるそうだ。王太子らもその気になればもっと上の水準にあるそうだが、《騎士》技能に関しては上げ過ぎても他の騎士の負担になりかねないと敢えて20前で止めるそうだ。もちろん、近衛騎士たちは《騎士:30》と同等以上の能力を保持している。そして周り関係なく突き詰めてしまった第1、第2王女はそれぞれ、“稀代の天才”“地母神の祝福を受けし者”という通り名まであるらしい。特に第1王女は“使う”よりも“作る”方面での天才らしく、魔具後進国と言われていたコローナをここ数年で標準付近の水準まで引き上げた才女として評価されているそうだ。今や多くの国民が持つ着火具や、一部の店で保有するコンロが量産・普及されるようになったのは第1王女が才を発揮する様になってからだと言う。
尚、成人間もない第3王子はまだ実戦経験がなく、認められた技能は保持していないという。恐らく今回どこかの店に所属し、《騎士》として技能を取るだろうと言う話だ。当然、現時点でも実戦以外の場所での訓練・鍛練は充分に行っており、実戦経験を積めばすぐにでも《騎士:10》以上は取れるだろうと見込まれている。
万全のお膳立ての上ではあるが、実戦の肉体的・精神的消耗の経験や国民の生活の様子などを知ることは将来の国の運営、軍の展開を考えるうえで必ず役に立つという先々代の残した言葉が発端であるそうだ。
その後、身に付けた技能をベースに各々各所で公に活躍して見せ国民にその存在感と威厳を示すのだという。
コローナ王族に関しての話が終わると、いよいよアデル達の話だ。恐らくエストリア領への派兵の随行することは確定。国から誰が派遣され、誰に随行するかは結局はっきりとしなかったが、恐らくは王子の誰かに同行するであろうロゼールの隊に所属することになるだろうという。ブラバドの予想では、恐らく第3王子クロードに同行し、イスタ防衛にあたる事になるのではないかと言うことだ。
兵科や移動形態は現時点でははっきりせず、その辺りの準備は正式な話が来てからになるだろう。そうなるとまずはアデルの装備だ。
少々遅い時間になったが、アデル達はブラバドを除いてアモールの所へと向かう。
「……本当にきやがったか。お前さん、王家にコネなんてあったのか?」
開口一番、アモールはアデルにそう言った。
「え?」
「ついさっき、王宮付の騎士がやって来てな。お前の装備を最優先で仕上げろと言うお達しが来た。」
流石のアデルのこれには驚く。
「もうですか?ほんの1時間ほど前に話をしたばかりなのに。」
「……まあ、随分と逼迫しているってのはわかった。今夜中にあらかた済ませておく。明日、少し時間が取れる時に持ちに来い。最終調整をして引渡す。」
「申し訳ありません。」
「何。一晩徹夜するくらいの手当ては出たさ。それに……良くも悪くも稼ぎ時が来そうだしな。」
恐縮するアデルにアリオンは笑って見せた。無理を通させるに当たり多少の色が付けられたのだろうか。とにかく防具に関しては何とかなりそうだ。
次はカイナン商事、ヴェンの所だ。ブラーバ亭でドルケンの話を切り出すわけにも行かず、話を聞けなかったので直接聞いてみつつ、しばらく王軍の指名依頼で出る事を伝えておく必要もあると思ったからである。
「なるほど。王族の直掩部隊ですか。いよいよ君達も出世街道に乗れそうですかね?」
ヴェンに伝えた所そう返された。
「慎ましやかに……でも確かに、ある意味チャンスでもありますね。ドルケンは大丈夫そうなんですか?」
「手応えは充分だそうだ。グランとの交易が滞るのは残念だがドルケンともそれなりの交易は出来そうだと言う話だ。こちらは心配ない。むしろ、コローナ東部の不安定化の方が懸念事項だ。まあ、自分でまいた種とも言えなくもないが、それで領内が落ち着くなら願ったり叶ったりだ。」
「蛮族軍が南下、ドルケンに向かう可能性は?」
「ゼロではないが、低いと見ている。ドルケンは狭い国土を防衛する分には十分すぎる戦力があるからな。逆に他国に侵略して“制圧”できる程の人数はいないが……それよりも念のため、テラリアの情報収集を始めたよ。何かあれば君達にもおすそ分けしよう。」
「よろしくお願いします。」
「うむ。まあ、こちらからも何か起きて愈々になったら強引にお嬢だけでも帰還させてもらいたいしな。まあ、当面は心配ない。きっちり蛮族どもを森に追い返してやってくれ。」
ヴェンは軽く笑ってそう言った。
とりあえず、喫緊の用事を済ませてブラーバ亭へ戻ると、すでにブラバドの所に王宮からの連絡が届いていた。
「明日の昼前に出陣式、昼過ぎには出陣するそうだ。アデル達は王太子の部隊700についてイスタの防衛或いは、イスタ東部の敵主力部隊の殲滅に当たるそうだ。移動は徒歩だが、馬の使用も可能とのことだぞ。」
ポールから聞いた話とは若干異なってきている様だ。
「王太子が東?少し話が変わりましたね。」
「そのようだな。魔物の群れと蛮族軍と比べたら、危険なのはやはり蛮族軍だ。蛮族軍主力は王太子を旗頭に精鋭・主力を集めきっちりと叩くとのことだ。代わりに第2王子が軍務大臣と共に西へ向かう。知能の低い魔物の群れなら、数さえしっかり揃えればそれほどの脅威ではないという判断だろう。そして第3王子と第2王女、それにエストリア辺境伯がエストリア防衛を考慮しつつ、北東の新拠点を叩くという方向らしい。」
「なるほど。精鋭700で蛮族軍600程ですか。」
「イスタからもそれなりに人は集めるだろうからもう少し増えるだろう。ロゼール様は王太子殿下の部隊に入るから、お前たちも恐らくはそこだろう。装備は間に合いそうか?」
「すでに王宮から声が掛かって今夜中にあらかた、明日のどこかで最終調整だそうで……アモールさんには悪いけど、明日の朝1番に向かうことになりそうですね。」
「そうか。それならその様に準備をしておけ。お前たちの合流は出陣式の後、門からでたところでポールに声を掛けてほしいとのことだ。」
「わかりました。……そういえば他の冒険者も参加するんですか?」
「そりゃ勿論するだろうな。各店に緊急で依頼が届いたはずだ。うちにも届いている。まあ、言葉通りお前たちだけ“特別待遇”だそうだが。」
「そりゃまた怖い話ですね。勿論、大きなチャンスでもあるのですが……」
アデルは状況を整理しつつあれこれ考えを巡らせていると、結局その晩はゆっくり眠れないことになった。




