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兄様は平和に夢を見る。  作者: T138
邂逅編
10/373

鬼子

 初依頼の達成から2か月ほどが経過した。アデルがエストリアにやってきて早3か月弱が経過したことになるが、冒険者業は概ね順調に軌道に乗っていた。

 ある時は2人のみで、ある時はヴェーラ達と合同で少し大きな依頼を受けることもあった。

 冒険者レベルとしてはアデルが《戦士:17》他、ネージュが《暗殺者:13》に認められ、戦士特化型のヴェーラが《戦士:16》、いくつか技能を習得しているエスターが《戦士:14》他、後衛組もそれぞれレベル14に認められていた。

 《暗殺者》は《斥候》や《狩人》等の技術を内包する上位クラスとされるため、レベルアップは他よりも時間が掛かってしまう様だ。

 この大陸における冒険者とそのレベルは依頼の達成内容、達成状況を鑑みて冒険者ギルドに属する冒険者の店の担当者が認定することで更新される。コンピューターゲームに例えるなら必要経験値を満たすとその場で上がる某大手竜探しRPG式ではなく、往年の迷宮探索型のそれに近い。レベルは宿屋(馬小屋)で上がるのである。

 それぞれに十分な下地があったのは事実であるが、それでも3か月程で一人前の冒険者として認められるようになるのは滅多にない早さであるとアリオンは得意気だった。

 特に大型の人喰い熊、グリズリーをホイホイと綺麗な状態で狩ってくるアデルとネージュは一部の衛兵や商人から《熊殺し》やら《熊屋兄妹》などと呼ばれるようになっていた。軍の小隊でも討伐に苦労する魔の森を自由に動き回るグリズリーを少ない傷で仕留めて持ち帰ってくるため、特に毛皮や革の加工業者からの評判がすこぶる高い。そのおかげで蓄えもそれなりにできた。

 少し前にヴェルノから正式に1つのパーティにならないかと言う話も出たが、ヴェーラ達が定期的に村に帰る必要があったためその話は流れている。


 そしてある時、懸念されていた問題がついに起きてしまった。



 妖魔退治の依頼を受け、依頼票を元に発注元の村へと向かう。

 村までの距離は説明にあったのは徒歩で丸4日だったが、アデル達は今回も、重めの荷物をプルルに乗せ、またフォーリ、ヴェルノが交代でプルルに乗るなどして半日詰め、出発4日目の昼前に何事もなく村へと到着した。

 しかし、ここで重大な問題が起きた。

 村の出入り口を見張る青年が、ネージュのフードを見咎めたのだ。

「そこの女の子。悪いが一度フードを外してもらえるか?」

 最初は控えめだったが、ネージュが首を横に振ると口調が一気に荒くなる。

「フードを外せないと云う事はやはり亜人だな?亜人を村に入れる訳にはいかん。帰れ!」

 その言葉に怒りが湧いたアデルだが、ひとまずこらえて事情を説明する。

 エストリアの曉亭の依頼票で訪れた冒険者である事、依頼票に受注条件が明記されていなかった事、そしてネージュを「鬼子」の妹であると説明する。さらに、ヴェーラが彼女がメンバーの中で一番腕のいい《斥候》であること、ここまでくるのアデル達なしではもっと時間がかかっていたことなどを付け加える。

 説明を一応聞いた見張りは苦い表情を浮かべると、

「事情は分かったが。が、俺の一存でここを通す事は出来ん。村長に尋ねてくるからここで待っていろ。」

 と高圧的に告げてくる。

 ヴェーラやヴェルノが心配げにこちらを窺うが、アデルは片手をあげて答える。

「今回は仕方ない。村長次第だな。」

 そしてほどなくして村長とやらがやってくる。

「まさか“鬼子”がやってくるとはな。確かに受注条件には何も記さなかったが……悪いが村の掟で、亜人に村の土を踏ませるわけにはいかない。次からはしっかり条件を記すからお引き取り願えるか?」

 どうやらお断りらしい。だが、せっかく3日半掛けてここまで来たのだ。ただで引き返すわけにも行かない。

「村の土を踏まなければ良いのですか?なら、俺と妹は少し離れた場所で野営をしましょう。討伐の依頼だけでも受けさせてもらえませんか?条件指定の無い依頼にわざわざ4日かけて来たのにどうしても門前払いというならそのように店に伝えますが……

 引き返すのに4日、『条件を満たした』次の冒険者が来るまで4日。8日の間に被害が拡大しなければ良いのですがね。」

 アデルの言葉に、村長と見張りは少々怒りを覚えたようだが、それはお互い様だ。ただ村長の方は流石に村長だけあって多少冷静に返すことができた。

「良いでしょう。村に一切入らないというのであれば『今回は』受けていただきます。速やかに奴らを始末して頂きたい。」

 少なくとも依頼の遂行は出来そうであった。一緒に来たヴェーラ達に迷惑を掛ける訳にも行かないと、アデルはネージュと共に村の敷地を離れることにした。

 エスターは怒り心頭のようで「無理に受ける必要はない。引き返して次の冒険者を来させればいいのに」と我が事の様に憤りを漏らしていたが、そこはアデルがとりなす。

「いや、最初に会った時の君らの反応を見れば多少は予測できたことだ。これでもテラリアよりはよっぽどマシだよ。迷惑かけて申し訳ないが、君らは村でしっかりと情報を集めておいてもらいたい。それにこのまま引き返したら1週間無駄するどころか保存食とか赤字になるしな。その分明日暴れさせてもらうさ。」

 アデルの言葉にエスターは納得行かないまでも理解し、しっかり情報を集めてくると村長らについていく。

 ところが問題というのは往々にして重なるものなのである。



「……来てる。妖魔の群れ30くらい。オーガが1体いるね。あれがボスかな?」

 村の様子が見える位置――暗くなったこの時間ではもう灯りの存在と、見張りが2人立っている程度の事しかわからないが――でテントを張っていたアデルとネージュは、敵襲をいち早く知る事となる。妖魔の方にしても、村外れにぽつんと1つ立っているテントの意味が解らず接近し偵察に来たところであったが、逆にそれでネージュに察知されることになった。

「妖魔だ!来てるぞ!30はいる!」

 アデルは大声で叫び、見張りの気が引ける様に焚火から一本の太めの薪を村の入口の方に投げつける。

 静まり返った夜であったため、声が通ったのだろう。程なくして敵襲を知らせる鐘が見張りによって鳴らされるのであるが……

 やる気、準備万端で夜の視界も安定している妖魔の方がリアクションは早かった。

 妖魔の群れは奇襲の失敗を悟るが、それでも引く気はないようでオーガが大声を出すとその前哨の位置にいるアデル達を襲うべく走りだす。

「見えてる?村の柵まで下がる?」

「弓……飛び道具持ちは見えるか?」

 ネージュの問いにアデルは問いで返した。

「見た感じ弓はいないね。投石器スリングもいなさそうだけど、短槍を飛び道具とするならいくらかいるね。」

「……そうか。とりあえずプルルの縄を切って村へ走らせろ。先行隊と一当てして決める。」

「わかった。」

 初動を決めると2人とも即座に行動に切り替える。

 アデルはまず焚火を蹴散らし、淡いながらも光の届く範囲を広げる。攻撃目的でなくても火を自分たちの方へ飛ばされた先頭の妖魔達はまだ距離はまだあるものの一瞬怯んだ。その隙にネージュはテントの支柱につないであったプルルの縄を切り、お尻を叩いて村の方へ走らせる。

「向こうの詳細わかるか?」

「大体だけどゴブリン30にオーク5、オーガ1。」

 ネージュの言葉にアデルは脳をフル回転させる。

 ――敵数・多、視界・不利、遮蔽物・無或いは自分たちのテントのみ。戦力的には不可でもなくといったところか。

 アデルは楯を構えて防戦の姿勢と取る。

「暗いところの……特に上位種の動きを見といてくれ。基準はお前が1対1で時間稼ぎができるかどうかだ。」

「1対1なら負ける気しないけど?」

「今回はそのうち“他”が合流するだろうし、空に逃げるってのはなしだぞ?それを踏まえてだ。」

「チッ」

 ネージュが舌打ちをする。

 2人が十全の力で相手が出来るなら正直オーガはそれほどの脅威ではない。

 しかし、今回は暗闇、取り巻き、状況による翼展開不可等の不利な条件が多い。油断はできないのである。

 そうこうしている間にテントの様子を見に来ていたらしい敵の先遣隊が迫る。5体ほどのゴブリンがギャーギャーと騒ぎながら武器を振りかぶり飛びかか――ろうというところでアデルが動いた。

 2歩の助走の後、一歩踏み込んで槍を横凪一閃する。

 守りを固める姿勢のアデルを見て間合いを計っていたゴブリン達には奇襲として十分の効果があったようで、先頭5体の内の3体の腹部を大きく切り裂く。致命傷にはならなかったが、こちらにまともな攻撃をする事も出来ないだろう。かと言って無視も出来ないが。

 3体を倒したアデルはそのまま槍を引き、すぐもう1体の頭に突き刺す。こちらは文句なしの致命傷だ。倒しきれなかった1体が短剣を振り降ろしてくるがそれは左手の楯で余裕を持って防ぐと楯を押してゴブリンごと弾き返し態勢を崩したところに槍を首に突き立てる。今のスタイルにして2ヶ月、楯の扱い方もだいぶ慣れてきていた。

 最初の当たりは完全にアデルの勝利だ。先頭5体が一瞬で倒されたのを見てゴブリン共は怯む。ゴブリンは残虐であるが、臆病な種族でもある。優勢と思っているうちは好き放題派手にやらかすが、不利と悟ると逃げに入る事もある。まさに無駄に命を大事にしている種族である。対してオークやオーガは怯むと云う事はない。痛みどころか、自身の命よりも破壊衝動の方が上と言う危険な種族だ。それでもある程度の手下を率いるのであればそれなりの配慮くらいはするのだが。

 そこで次にアデルが取れる行動は2つだ。

 もちろん、最初の3体に止めはきっちりと刺しておく。鉄製の靴底を持つハードレザーのブーツで頭を蹴ればゴブリンの首の骨程度簡単に折る事が出来る。或いは踏みつぶし、槍を突き立てる。

 さて、次に取れる行動だが、一つはゴブリンやオークを牽制しつつ防衛ラインを下げ、ヴェーラ達の援軍を待つ。

 オーガは体高3m、腕を伸ばせば5mに届こうと言う巨体だ。筋骨隆々で手にする棍棒も丸太と呼べるほどの太さを持つ。これを受けたらいくら楯があろうと、レザーアーマー程度の装備ではひとたまりもない。

 だがそれは敵にも言えることで、敵前衛のゴブリンやオークがウロチョロしていればオーガも全力で腕を振る事はない。そこで雑魚を牽制しつつじりじりとラインを下げるという手だ。

 メリットはもちろんヴェーラ達の支援を受けられること。雑魚の相手は任せられるし、多少の傷を負わせられてもフォーリの神聖魔法で回復もできる。もし運よくヴェルノのスリープがオーガに決まれば戦局は一気に決まる。そしてなりより灯りの範囲だ。デメリットはオーガの攻撃に彼らや村人が晒されかねないことだ。村人は論外として、ヴェルノ達もせいぜいハードレザー程度の装備。何かの拍子に一撃を貰えば命の危機だ。楯でのガードを考慮しても最低でも手足の一本は覚悟がいる。さらにせっかく買ったばかりのテントをダメにされるかも知れない。

 2つめの行動がこの場で応戦だ。かなりの危険が伴うが、村への被害は確実に防げる。危険なオーガであるが、往々にして単調な攻撃ばかりなので、集中して見極めれば勝てない相手ではない。ただし、周りには暗闇の中まだ20体以上の取り巻きがいることは忘れてはいけない事実だ。

「仕方ない。少し下げるぞ。」

 アデルは苦々しげに告げる。これが昼間であれば、或いは敵の構成がもう少し違っていれば2つめの選択肢もあったかもしれないが。

 こちらが下がる様子を見せると、敵はすかさず戦術の再構成をしてくる。オーク1体とゴブリン5体の組を3つ編成し、2隊をアデル達に、1隊をテントにと向かわせる。暗くて見えなくなっていたが、新調のテントが切り裂かれる音をアデルは聞いた。荷物も中に入れっぱなしだったが、もはやどうする事も出来ない。しかもその損害はこちら持ちで他に請求できないのも辛いところだが、大怪我するよりはマシだ。と思う事にした。絶許。

 だが実際、もし立場が逆であったならアデルもそう言う指示を出しただろう。テントの中に何が居て何が有るかわかったものではないだから。

 足の速さはアデル達の方が速く、村の入口から30メートルの辺りまで一気に下がる。

「オーガがいる。狩りの経験のない人は速やかに避難させろ!統制も取れているようだから、他の入口の見張りを厳に。何でもいいから灯りになる物を向こうに投げつけてくれ!」

 村の見張りに怒鳴りつけると、アデルはそこで止まり先行2隊の食い止めに掛かる。

 オーガが来るまでに相手の戦力を削れるだけ削っておきたい。オーガが到着したらアデルとネージュはそちらに集中しないと色々危険な事になるだろう。

 一時的とはいえ背を見せたため、一度は怯んだゴブリン達の士気も回復してしまったようだ。先鋒に勝るとも劣らぬ勢いで飛びかかろうとして来る。

「前衛に一当てしたらネージュはオークを優先的に狙ってくれ。隊長格を速攻で仕留めればゴブリンの勢いは止まるだろう。」

「ん。わかってる。」

 二人共転身し、まずアデルが楯を構えて1隊へ突進する。間合いを測り、一歩踏み込んだところでそのまま腰を下げ、強足払いの如く体を一回転させて下段を薙ぎ払うと、数本の細い足を切り飛ばし、当たりが弱かった部分もしっかりと切り裂いた。

 前衛ゴブリン5体の内4体の動きが止まった所でネージュがオークに飛びかかる。

 この大陸のオークは直立歩行するように進化した豚である。それでも体高は2メートル強。重量は200キロを超える者もいるだろう。これが楯を構えて突進してくるだけでもかなりの脅威であるが、今回のヤツらは楯はお嫌いらしい。棍棒を構えて突進してくる、破壊衝動と食欲の権化のようだ。

 アデルの陰から不意に飛び出したネージュは数歩の助走の後大きく跳躍する。ネージュの跳躍は完全に人間離れしている。と、言ってもまだまだ10歳程度の体躯であるため、せいぜい自分の身長を飛び越せる程度のものだが、“人間の子供”と思ってみていたオークに対しては十分すぎる距離と速度だ。

 異常な存在に気付いたオークが見上げた次の瞬間には、アリオンの勧めで購入したダガーが顔を上げたため無防備となっていたのど元に突き刺さっていた。

「今何か見ちゃいけないものを見た気がした……」

 後ろから声が掛けられたとほぼ同時にうっすらと、そして数秒後には昼間を思わせるような強烈な光が迫ってきた。

 ヴェーラ達が間に合ったのだ。光はヴェーラの剣から発せられている。

「間に合ったか。助かったぜ。てかなんだそりゃ?勇者様用の光の剣とか持ってたのか?」

「違う!ヴェルノの“灯明”(ライティング)の魔法だよ。初級魔法らしいぞ?」

「ああ、聞いたことはある。大いに助かるよ。」

 “灯明”は“催眠”と同レベルの初級魔法だ。効果時間はそれほど長くないが、半径10メートルくらいは充分な光量を補うことができる。

 ヴェーラが横に並んだ時点でアデルは2隊目に飛びかかっていた。先ほどの前衛残りの1体と足を切り払われたゴブリンはヴェーラがきっちりと止めを刺してくれていたようだ。

「オークはネージュに任せてしまってくれ。俺達はとにかく敵の数を減らす!」

「え?」

 相手ゴブリン3体に十分な傷を負わせながらアデルが言う。言われたヴェーラは一瞬だけ困惑の表情を見せたが、その隙に今度は背後から首を切られたオークの頭が頷くように前に傾き、ほどなくして前に転げ落ちる。刀身の短いダガーでは太いオークの首を切り飛ばすことができなかったためだ。それでも4分の3くらいは切断できていたため、頭の重さを支えきれなくなった首の前側の皮膚がちぎれ時間差で転がり落ちるという不気味な光景を作り出した。勿論ネージュの仕業だ。オークやゴブリンが合流したヴェーラや光に気をとらわれているうちに、こっそりと死角から後ろに回り込み切りつけたのだ。

「……わかった。」

 いきなり自分たちの隊長オークが倒され、硬直していたゴブリンを難なく捌きながらヴェーラは納得できたのか、そう返事をしたのであった。

「良かった!間に合った……アデルさん!無事ですか。」

 ここでヴェルノが到着したようだ。残りの敵との距離がまだ若干あったので振り返ると、すでにエスターとフォーリは到着しており、緊急で武装して出てきた村人たちを割ってヴェルノが今到着といった感じだった。流石は田舎村の娘たちだ。豚の首程度では怯むどころか意にも介していない。

 尚、エスターとフォーリや村人達も今のネージュの攻撃はしっかりと見ていたようだ。そう言えばエスター以外、ネージュさんの本気攻め見たことない筈だったな……

 暗殺技能取得時にアリオンに対しての攻撃を見ていたのはエスターだけだ。それ以外、ヴェーラ達と行動する時はネージュは斥候としての役目しか見せていない。もちろんアデルと2人だけで大型単体生物とかの討伐依頼を受ける時は全開で攻撃しているが。

 基本的にグリズリーやビッグボア等の大型害獣駆除の討伐を2人で受け、妖魔の群れなどの多数の相手が見込まれるときはヴェーラ達と組む形で依頼をこなしていた。ヴェーラの責任感が強いのをいいことに、どうやら彼らの村は彼らを都合の良い戦力兼買い出し係としているのか、ヴェーラ達は村との往復をひっきりなしに行っている。他人に対して否定的な部分から考えてしまうアデルとしては、巫女と村長が結託してヴェーラを勇者と祭り上げ、都合よく使っているんじゃないかと思えてくるほどだ。


「“鬼子”は身体能力高いからね。シカタナイネ。」

 若干意味不明ではあるが、鬼子である(ことになっている)ネージュの活躍をアピールする。

 ――村人、ちょっと引いてるわ……これは逆効果だったか……

 正確には、今回の冒険者に鬼子がいたことを見張りと村長しか知らなかったため改めてその存在に引いただけなのであるが。

「……村には一歩も入らないから安心してくれ。それよりオーガがいる。ヴェルノ、俺の楯の表面にも“灯明”をくれ。オーガは俺達で引き付けるから、その間にヴェルノ達でオークとゴブリンの残りを始末してくれ。もし抜かれたらそんときゃ村の皆サンも手持ちの武器で村を守ってくれ。」

「敵はどれくらいいる?」

「だいたいゴブリン30にオーク5、オーガ1だった。ここへ下がるまでに下っ端を丁度半分くらい削ったところだ。」

 アデルの言葉に、一部の武装(笑)村人から「おおお」という声があがる。そのまま受け取るならここまでゴブリン15体強を1人(実際は2人)で倒したことになるからだ。

「とにかく、オーガは勝てなくはないがヤバい相手だ。俺らで引付けて相手するから他を頼んだ。」

 ヴェルノが“灯明”の魔法を唱え終え、アデルの楯の表面に眩いくらいの光が灯る。これなら自分の視界を一定水準に保ちながらもオーガを牽制できるだろう。奇襲でないので目つぶしとはならないが、至近距離でこれだけの光を放たれれば眩しいものは眩しい。

「ありがと。オーガが見えたら作戦開始だ。それまで出来るだけ雑魚の数を減らそう。ヴェーラ達はなるべく雑魚を後に通さない事を優先してくれ。」

「わかった。」

 そうこうしている間にオーガを含む後続が光が届く――正確には、闇が若干拭われている範囲に姿を見せる。アデル達のテントを物色したのであろう、テントの残骸と、アデル達の荷物袋をオークが持っていることに気づき、アデルとネージュはとっても苦々しい表情を見せる。

 本来なら村の安全な所に置いておかれた筈なのだ。これが店の正式な依頼でなく、何かの拍子に訪れて手を貸すつもりだったとかであれば、こんな村さっさと見限って次の目的地に向っていた事だろう。

「いくぞ。」

 唸るような声を発するとアデルは駆け出した。そのタイミングを見計らってか動く直前にフォーリが“聖壁”(プロテクション)の魔法を掛けてくれたようだ。これならゴブリン程度の攻撃はほぼ無視できるだろう。

 アデルに続いてヴェーラとネージュが走り出す。エスターは数歩前に出た所で剣と楯を構え、そこから後ろにはいかせないという姿勢を示す。

 こちらの行動に向こうの行動も一気に加速する。今まで緩慢に歩いて接近していたやつらが走り出した。

 村をすぐ背後に6対20の大一番が幕を上げる。


ファが可愛すぎて素材にできない。

尚、ネージュさんに可愛い気は当面期待するだけ無意味な模様。

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