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 神剣は使い手を選ばない。

 だからクロードは神剣に魔力を付加したのだろう。しかも汗ひとつかかず、また新しい神剣をキースから受け取っている。

 ごくりとアイリーンは喉を鳴らした。


(つ……つよ……)


 神剣は魔王様の命をも奪う危険な武器だが、魔王様に持たせた方が危険ではないか。

 会場には安堵と困惑の空気が漂っていた。ひとまず目の前から脅威が消えたため、混乱が続かなかったようだ。


(今のうちに、この場から皆を避難させてそれからあの女の行方を……いえ、それよりもう一度ハウゼル王国に戻って)


 考えていたせいで、崩れ落ちた砂の山から出てきた影に気づかなかった。


「アイリちゃん!」


 ウォルトの叫びに振り向いたときは剣先が迫っていた。だが剣が届く前に、腰を抱きよせられる。

 目前でクロードの魔力と相手の聖力が剣ごしにぶつかり合い、爆風が吹き荒れた。


「クロード様っ……アレス様!?」


 横抱きにされたまま、アイリーンはクロードに剣を打ちこんだ相手に瞠目する。その目の前で、クロードが持っていた剣のほうが溶け出した。

 舌打ちしたクロードが魔力でアレスに衝撃波を飛ばす。

 アレスは背中から地面に落ちていったが、一回転して綺麗に着地し、クロードの魔力を切り捨てた。

 その余波をくらった観客席の壁が吹き飛ぶ。悲鳴があがった向こうで、エレファスが魔力の壁を作っていた。

 溶け出した神剣を魔力で補うクロードに、アイリーンは確認する。


「……い、今、アレス様が持ってたのも、神剣ですわよね。どうしてクロード様のほうが」

「あっちが持っているほうには聖石が埋めこまれている。しかも、完璧に使いこなしているようだ。少し、聖なる力にも目覚めたか? ……そういえば聖王の従兄弟だったか。素質はあったわけだ」


 アレスから視線を動かさないクロードの分析に、アイリーンは唇を噛みしめた。

 アレスは本来、神剣を使いこなし魔竜に乗っ取られた聖王を倒すキャラだ。魔に侵されているとはいえ、あの聖王を打ち破るのだ。聖なる力の潜在能力は十分にある。


「僕とは相性が悪いな。まったく、お客様の中に神剣を持った聖王様はなぜいらっしゃらないんだ。あの男が恨むのも挑むのも聖王だろうに。……いや、聖王がいるとまずいからいないのか」

「まさか、バアル様がここにこれないように……」

「今頃、ハウゼル女王国で死んでいるんじゃないのか?」


 ぼこりと再度地面がうごめいて、白い兵隊が現れる。


「クロード様、わたくしがアレス様の相手をします! わたくしの聖剣なら」

「だめだ、剣技はあちらのほうが上だ。しかも見たところ、武器の威力は互角だろう」

「でも!」


 姿勢を低くしたアレスが突っこんできた。

 だがその途中でウォルトとカイルが左右から躍りかかり、たたき落とす。さらに背後から飛びかかろうとする白い兵隊達を背後に回ったエレファスが魔力で吹き飛ばした。


「どうされますか、クロード様」

「そうだな……ドートリシュ宰相。招待客を避難させて、城下町の国民達もすべて第五層に避難させろ。敵はここから北の古城へ押しこむ、一般人を近づけさせるな。騎士団、聖騎士団、ともに出動させてかまわない」


 ちょうどクロードの背後の貴賓席にいたルドルフがその言葉を受けて一礼する。

 その隣でセドリックが腰を浮かせた。


「兄上」

「お前はいつもどおり、婚約者から目を離すな」


 何かをのみこんで、セドリックが頷きリリアの手を取る。

 ちらとアイリーンが一瞥を投げると、リリアがぱっと顔を輝かせて手を振ってきた。目を向けるんじゃなかった。


「ゼームス、聞こえているな。お前には魔物達をまかす。城下町にいる敵はすべて排除するかここへ誘導しろ。キース、お前とエレファスはアイリーンの護衛だ。ここを動くな」

「かしこまりました。さ、アイリーン様。こちらへ」

「待ってください、クロード様! わたくしも」

「ウォルトとカイルは引け。その将軍は僕が相手をする。……神剣に本人本来の能力に、おそらく神の娘の加護とセレナの強化つきだ。お前達では荷が重い」


 それはわりと反則技的に強いのではないか。

 クロードの言葉を証明するように、再度アレスは平然と立ちあがった。アイリーンはもう一度クロードに訴えるべく、服をつかんで抱きつく。


「クロード様、わたくしも戦います!」

「――心配しなくていい、アイリーン」


 アレスが剣を振るった。聖なる一撃となって向かってきたその攻撃を、クロードがすべてたたき落とす。


「相性が悪いとは言ったが、勝てないとは言っていない」


 アイリーンを抱いたまま、クロードが頬に手をすべらせて甘く笑う。


「君の夫は強いぞ。たぶん、世界一だ」

「クロード様……」

「たまには信じて、見ていてくれ」


 そうだ、自分の夫なのだ。

 信じなければと、不安をのみこんで頷く。

 背伸びをすると、自然に唇が重なった。あとは視線を一瞬かわすだけだ。うしろで待っているキースとエレファスと同じ、観客席にそっとおろされる。

 アイリーンと離れ地上におりたクロードは、まっすぐアレスに剣先を向けた。


「さて、一対一で魔王に挑む栄誉をやろう、人間」


 その赤い瞳を物騒にきらめかせ、口づけを交わしたばかりの唇をぺろりと舐める。これ以上なく好戦的に、獲物を前に舌なめずりをする獣のような美貌が、愉悦にゆがむ。


「安心するといい。最後は、殺してくれと言いたくなる」


 夫を信じよう、と強く思う。たぶん、まだ人間の心を持ってくれていると。



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