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一章-5

 「それでは、 試合開始! 」


 審判の言葉でお互いに魔導書を取り出す。 カスミの魔道書は小さめの水晶。 恐らく、 水晶には自分の異空間とでも言うべきものを持っており、 そこに魔法式が書き込まれているのだろう。


 対するケンジの銃剣に好奇心溢れる視線があちこちから突き刺さる。 ケンジとカスミはもうそんなものを気にしてはいなかった。 そして戦う為の言葉を吐き出す!


  「私の体内に流れるテシオンに告げますわ! 私の言葉と意思を感じとり力を与えなさい! 」


 「我が体内に流れるテシオンよ! 俺に力を寄越せ! 」


 ケンジたちの服装はメイザーイヴルティーに変わる。 ケンジの服装は黒と銀の軍服に、 カスミはどこかの国のお嬢さまを思わせるドレスに。


 ケンジが戦闘態勢に入ろうとした時、 カスミは水晶をドレスの内側へと閉まった。


  「なんのつもりだ? 」


 ケンジのこの当然とも言うべき言葉に対し、 カスミは余裕のある顔で


 「私やアカネさんの様な魔導長(セレスト)レベルになると魔道書を見なくても言葉と身振りだけで魔法を発動できますわ」


 セレスト……なにかの階級のようなものだろうか。

 取り敢えず分かったのは相手がアカネと同レベルの相手である、 ということだ。


 「アカネはルーシアの時は魔導書を使ってたぞ? 」


 「格上の相手と戦う時は私も魔導書を使いますわ。 でも、 貴方はどう見ても格上とは思えませんので、ここで私が圧倒して追っ払おうと思います」


 「舐められたものだな。 まあ、 俺も本気を出すつもりは無いけど」


 お互いの視線がぶつかり合う。 そしてカスミの方から攻撃は始まった。


  「ロックスロー! 」


 カスミは少し間を置いてから地面の土や石を空中に集め一つの巨大な岩とした。 そしてそれをケンジ目掛けてぶつけてくる。


 「うお!? 」


 ケンジは驚きながらもなんとか躱すが、 次々に岩を投げつけられる。 ケンジは少しの間逃げながら相手することになった。


 「ケンジのやつなんで壊さないんだ? あの岩程度だったら壊せそうな気がするが」


  アンヌのその疑問に答えるのはケンジの戦い方を直接その目で見たアカネだ。


  「ケンジさんの属性は私と同じ雷でした。 なので土属性のカスミさんとは相性が決定的に悪いですね」


 「なるほど、 地面に雷が落ちても我々が感電しないのは地面が電気を通しにくいからです。 同じく岩も電気を通しにくい物質となっています」


 「ケンジにとって相性が悪い相手か。 でも、 カスミの方も決定打と言えるものも無くないか? 」


 アンヌの問に対し、 ハノネは


 「いえ、 その為の岩と言えるでしょう。 身体そのものにダメージを与えれば属性はあまり関係なくなりますから」


 「なるほど、 頭で分かってるよりか直感なんだろうな。 カスミが頭使う訳がない」


 アンヌの普通に考えれば冒涜とも取れる物言いに対し、 二人は苦笑するに留まった。


 実際カスミはその通りの魔法使いだからだ。 理論よりも実践タイプ。 筆記試験も赤点ギリギリレベルだ。


 だが、 実践能力がずば抜けているため魔導長(セレスト)入りしているのだ。 どれほど長い戦いになるのか……、 はたまた早いうちに勝敗が決するのか、 見物(みもの)となる試合になるのは間違いなかった。


 ケンジはその話を盗み聞きながら岩を躱しまくっていた。


 「随分と避けるのが上手いのですわね」


 「雷だからな。 スピードは取り柄の一つさ」


 「でも、 私の土属性には相性が悪いですわよ? 学園長たちが言っていたように」


 ケンジたちはアンヌたちの方を見ながら先程のアンヌたちの言葉を思い出していた。


  「確かにな。 岩は雷を通さない。 でも、 俺にも手段はある」


 「そうですか。 では、 見せてもらいましょうか! 」


 カスミはそう言って更に岩を投げてくるスピードを速める!


 ケンジは岩たちに向かって銃を向ける。


 「雷は通さないんですよ!? 」


 「俺を雷だけの男だと思うな! 」


  ケンジはそう言って周りの岩に向かって銃弾を放つ。 カスミはその岩たちを一度上昇させケンジに狙いをつける。


 「これで終わりにしますわ! 」


 カスミはケンジに向かって岩を投げる! ケンジはその岩に向かって雷を穿つ。


 「ライトニング・クローガー! 」


 ケンジの放った弾丸は岩に命中する。 そして、 周りの予想を全て裏切り岩を一つ破壊した。


 「なっ!? 」


 カスミが動揺する。


 ケンジはその間にも次々と岩を破壊していく。 カスミも岩を増やして行くが、 その度にケンジが何かを撃ち込み雷で破壊するという応酬となった。


 「何が起こってるんですの!? 」


 カスミはケンジが何かをした岩を手元に持ってきて中身を見たところ何か光るものがあるのを見つけた。


  「これは……金、 ですの? 」


 「ああ、 そうだ。 金の弾丸を撃ち込んで雷の通り道を作った。 金は多少電気を通すからな」


 「貴方は……、金を作る魔法を持っていると……!? 」


 カスミが驚くのも無理はない。


 金が作れる、 それは簡単に言ってしまえば働かなくても世界最高の大金持ちになることも可能だという事だ。


 金を売れば高値がつく。 その魔法を習得しようとこれまで何人もの魔法使いが挑戦しては敗れてきた魔法だ。


 カスミは分かってはいなかったが、 金を人工的に作るにはSUPERNOVA(超新星爆発)を超えるHYPERNOVAレベルのエネルギーが無いと作れないとされる。


 そもそも金とは遠い遥か昔に、 地球に隕石がぶつかり、 その隕石から生まれたとされるのが金である。


 魔法使いと言えども一人の人間。 そんな途方もない力は持てないし、 持ってたとしても扱い切れない。


  このケンジという男は得体の知れない相手、 それだけはカスミにも伝わってきた。


 だから、 もう躊躇しないことにした。


  「確かに、 貴方は強い。 先程のインチキ発言は訂正しますわ」


 「そりゃ有り難いな。 でも、 まだ認めないんだろ? 」


 「ええ、 その通り。 ここからは貴方に敬意を表して私の奥義を発動しますわ」


 カスミはそう言うと岩を全て宙に浮かせ水晶を取り出す。 言葉通り本気を出すらしい。


 「岩よ岩よ岩よ、 私の属性を受け取りその身を新たな姿に、 火を纏いたまえ! 」


  すると岩が突然火に包まれどんどん肥大化していく。 それはまるで本物の隕石かのようにケンジめがけ堕ちはじめた。


 「クソっ! 」


 ケンジはなおも岩を撃ち落としていくが、 相当の火力なのだろう。 金が溶けている。


 今更ながらにこのカスミという女子が魔導長(セレスト)という地位に付いているという事実がケンジに強くのしかかった。


  「ケンジ! まさかカスミが火の属性を持ってるとは、 オレも知らなかった! だが、 これぐらいで負けるお前じゃねぇんだろ? 」


 「当たり前だ! 」


 観客席から大声で叫ぶアンヌと、 その横で祈るようなポーズをしているアカネに視線を送る。


 だが、 確かにこのままでは負ける。 その前に先手を打たなくては。


 だが、 隕石は止まらずとうとう逃げ場も無くなりカスミも余裕の表情になる。


 「これで終わりですわ! 」


 ケンジがギリギリ対応しきれない絶妙なタイミングで全ての隕石が落とされる。


 その光景はまるで戦争映画のように暫くの間続いた。 観客席の方は何人かがその光景を見ないように下を向いたり隣の友だちに話しかけたりしていた。


 アカネたちの方は全員目を離さないでケンジの方を向いている。


 敗者が最後まで戦った姿を見るつもりなのだろう。


 そう思いカスミは踵を返し試験場から出ようとした。

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