一章-4
ケンジは筆記試験を終えた後、 渡された校内地図に従って次の試験場、 実戦テストの舞台に向かうことにした。
校舎は六階作りだが、 良く見ると高等部一年生校舎となっていた。 という事は恐らく学年ごとに校舎が別れているのだろう。
高等部という事は中等部もあるのだろうか。
そう言えば、 十九年制だとか、 アカネが言っていた気がする。 ということは、 小学部も大学部も、 もしかしたら、 幼稚園も別れているのかもしれない。
筆記試験の会場は三階だが、 次の試験場は一階なので少し移動することになる。
校内の内装は外装と違ってそこまで金ピカはして無かったが、 あくまでも比べて、 だ。
明らかにケンジの通ってた高校とは豪華さが違っていた。
例えば、 全てのドアに豪華な装飾がある。 恐らく宝石かなんかだろう。 所々に彫物もあった。 一体いくらアンヌは自由に金を使ったのだろうか。 冷静に考えると頭がクラクラしそうなので途中で考えるのを辞めた。
にしても、 本当に他の生徒に会わないな。 新しい生徒が入る時は休みになるんだろうか。
ケンジはそうこう考えている内にテスト会場に着いた。 見るからに頑丈そうな感じが扉を見るだけでも伝わってくる。
流石にここには装飾品などは無さそうだ。
魔法使いの魔法は大なり小なり周りに被害をもたらす。 無駄に金を使う装飾品が壊れるぐらいなら頑丈にする方に金をかけた方が得だろう。
多分、 これはハノネさんが担当したんだろうな。 アンヌは絶対にやらないと思う。
ケンジはそう結論付け扉に手をかけ開けた。
「その扉を魔法を使わないで開けるなんてな。 どうやってんだ? 」
入った途端にアンヌから話しかけられた。
試験場にはアンヌの他にアカネとハノネ、 そしてもう一人。 黒髪の女子が居た。
一瞬動きが止まったが、 ハノネの言葉を思い出す。
恐らく、 ケンジのテスト相手だろう。 実戦一位の女子生徒。 なんかケンジを睨んでいる様な気がするが理由は分からないので無視する。
試験場はドーム型をしており、 一般的な体育館の三倍ほどの広さがある。 観客席などもあるのでテスト中は教官たちがそこに座って観戦するのだろう。
「なに、 アレ魔法で開けんの? 」
ケンジはそれよりもアンヌの言葉に少し引っかかった。 どこに魔法を使う要素があるというのか。
「ああ、 いや。 普通に扉がスゲー重いからみんな魔法で開けるんだよ。 片手で開けたのはお前が初だよ」
「アンヌなら片手で開けられそうだけどな……」
「なんか言ったか? 」
「いんや、 なんも」
どうやらアンヌは力が強いとかそういうのを言われるのは嫌いらしい。 やっぱ結構女の子だな。 あんな見た目なのに。
「学園長! どうしてこんな軽口を許してるんですか! 」
突然ケンジとアンヌの会話に割り込む声が響いた。 あの黒髪の女子だ。
先程よりもケンジを睨む瞳に力が入っており、 エキサイトしてる。
なんか俺やったかな?
「軽口? オレは別に敬語とかを義務付けてはいないぜ? 」
「そういう問題ではありませんわ! 目上の人に敬語を使うのは当たり前です! 」
アンヌも手に余る様子で彼女のことを見ている。 ケンジはアカネとハノネのもとに駆け寄り、 彼女について聞いた。
「なあ、 あの女子生徒なんなんだ? 俺の相手ってのは分かるけど」
「彼女の名前は羽島カスミ。 実戦一位の生徒ですよ」
「カスミは結構プライドが高くてな、 そして学園長に憧れてるんだよ。 だからケンジくんが学園長にタメ口を使っているのが気に入らないんじゃないかな」
「なるほど」
つまり、 めんどくさいタイプだ。 プライドが高くて憧れてる人が居るってのはなまじ、 強いところを持つ人が多い。 口調もなんかお高い。
しかしケンジはそこで、 ハノネもタメ口に近くなっているのに気が付いた。 学園長が居る時と居ない時で口調を変えてるのかもしれない。 その方がケンジも話しやすいので気にしないことにした。
「さてケンジ。 少し時間を食ったが予定通りカスミと戦ってもらう」
「はあ」
「……よろしくお願いしますわ」
「ああ、 よろしく」
ケンジとカスミが定位置につこうとした時、 扉が開いた。
そこから入って来たのは何人かの女子だった。
アカネたちと同じ制服だが何人かのカラーリングが微妙に異なっている。 先輩だろうか。 この学校は学年ごとに制服の色が違うのだろう。
一々買い換えるのは金がかかるから入学年度で色を決めてる感じなのかもしれない。
「なんだお前ら? 今日は休みだぜ? 」
アンヌが入って来た生徒たちに話しかける。 やはり今日は休みだったらしい。
「入学して来る子はどんな子かなと思いまして。 ってあれ? どうして男子が……? 」
「え、 あの人男の人? 」
「……にしては可愛いくない? 」
「美人さんだね」
「イケメンだよ」
「中性的な顔立ちの人だね〜」
これまで思っていた事態がここで発生した。 他の生徒たちも訝しげにこちらを見ている。
一緒にここに通う以上はあまり敵意を持って欲しくはないのだが。
というかケンジも男性なので可愛いという評価はあまり好きではない。
「ああ、 今回入って来る生徒は男子だ」
「えっ? ……えええ!? 」
「魔法使いの男子!? 」
「そんな人が居たんですか!? 」
「オレも昨日初めて知ったよ」
「「「「「「えええええ!? 」」」」」」
やっぱスゲー驚いてんな……。 しかし意外なことに誰も敵意のこもった目でこちらを見て来ていない。
逆に好奇心がそそられている感じだ。 研究者タイプの子が多いのかな?
この学校の特徴は情報らしいし。 他にも何人か生徒たちが入って来て最終的に百人を超えるギャラリーが集まった。
連絡魔法、 空中に魔方陣を形成してビデオ通話のような状態にして設置し、 学園の外からも見れるような状態にしたらしい。
正確な数は把握出来ないが、 それで五百人近くの人数にはなっただろう。
ケンジがそんなふうに周りを観察していると
「やはり、 女性がそんなに気になりますの? 」
カスミが向こう側から話し掛けてくる。 実戦フィールドは面一杯を使う。 カスミの魔法はかなり範囲が広いタイプの物らしい。
「気になるってか、 周りに女子しか居ないんだが」
「しかし、 貴方にはなんだか貞操観念が少し薄い気がしますわ。 私たちのことを襲うつもりではありませんの? 」
「とんだ言いがかりだな」
カスミの言葉に観客席は悲鳴が上りこちらを見て来る。
しかし、 悲鳴もなんだか恐れていると言うよりも、 嬉しさとか喜の感情の方が濃かったような気がしたが……。
「そうですか? では、 貴方は女性に対してその、 いやらしい事をするつもりは無いと、 仰るのですか? 」
「ああ、 もちろんだ」
ケンジは自信満々にそう言ったがギャラリーの方から
「でも、 ケンジのヤツさ、 アカネの胸揉んだんだろ? 」
「それに、 き、 キスもされました……/// 」
「マジで? アイツスゲーな。 オレにもやってくんないかな」
「が、 学園長!? /// 」
「学園長、 ご自重下さい」
「んだよ、 固いね〜ハノネ」
「当たり前です、 貴女はこの学園を預かる長なんですから」
「はいはい」
...…なんか俺の不利になる会話をしてらっしゃる。 よく見るとカスミの方も顔を震わせていた。
「最低ですわ! やっぱりそういう事をやってるではありませんの! 」
「そういう事って? 」
「い、 言わなくても分かるはずですわ! 」
や、 まあ分かるけど……。
カスミは息を荒くしながらもケンジの方を睨んでくる。 ケンジは苦笑しながらもアカネたちの方を向いて目で訴える。
頼むから静かにしててくれ、 と。
三人はそれぞれ、 アカネ・アンヌ・ハノネの順に苦笑・失笑・微笑を浮かべケンジの目に応える。 と、
「んじゃ、 オレの旦那様の勇姿を見届けるとするか」
アンヌの言葉に試験場が一瞬静かになると次の瞬間ざわめきに包まれる。 見れば女子たちはキャーキャー言いながらアンヌの方やケンジの方をチラチラ見ている。
カスミに至っては口を開けて呆然としている。
なにをアンヌはこのタイミングでそれを言うのか。 確かに受け入れるとは言ったが……
「も、 もう我慢できませんわ! 貴方は私の手で倒しますわ! そして、 そのインチキを見抜いてやります! 」
「インチキ? なにがだ? 」
「どうせ、 魔法を使えるとは言っても微弱な物、 あの相手を倒したのも本当はアカネさんなんじゃありませんの? 」
あの相手と言うと、 ルーシアの事か。 なるほど、 それを疑ってるのか。 でも、 この試験自体……
「それを見極める為の試験だろ? だったらさっさとやろうぜ」
「! い、 良いですわ! 始めましょう! 」
ケンジたち二人はフィールドの端にお互い向かいあって書かれているラインの上に立つ。 その瞬間試験場のざわめきは一切の音を消した。
誰もがこちらを見ている。 しかし、 誰もが言葉を発しない。 瞬きしない。 審判がフィールドの外側から俺らを見る。
「それではこれより、 入学受験者三啼止ケンジ 対 実戦テスト一位羽島カスミの試合を始める! 両者共に礼!」
ケンジたち二人は互いに頭を下げる。 そして、 互いに相手の目を見て戦意を確認する。