一章-3
「失礼します、 学園長」
やや時間が経った頃、 一人の来客があった。 眼鏡をかけた、何だかお堅そうな印象の人だった。 スタイルは申し分無い。
「おお、 待ってたぜハノネ」
アンヌが片手を上げてそう言うと、 ハノネはアンヌの傍へと歩いて行った。
すれ違いざま、 興味ありげにこちらを見るのも忘れずに。
「紹介しよう。 オレの秘書の藤山ハノネだ」
「宜しくお願いします」
ケンジも頭を下げる。 アンヌがケンジについてハノネに幾つか語った後、 ハノネは何か書類を出して来た。
内容は自分の生年月日等を答えるものだった。 簡単にその作業を済ませるとアンヌが
「さて、 ケンジ。 お前にはこれからテストを受けてもらう」
「テスト? そりゃまあ、 普通に入れるとも思ってなかったけど」
「内容は二つ。 理論と実技だ。 詳しくはハノネに聞いてくれ」
ハノネは一枚の書類を取り出し読み始める。
「まず理論の方からですが、 一般教科。 これは国語とか数学とかですね。 ケンジさんは高校生との事でレベルは高校受験です」
「はあ」
「次に魔法教科。 これは主に魔法を発動する為の理論等ですね。 使い魔とか」
「それって、 俺キツくね? 」
ケンジはちょっとした非難を口にするが
「まあ、 ここで赤点取っても一般教科と実技で点数稼げ」
アンヌからの投げやりな答えを食らった。
マジかよ、 無理だろ。 素人だぞ俺。
しかしハノネの説明は止まらないので仕方なく意識をそちらに向ける。
「そしてもう一つの実技ですが、 これはこちらが選んだ当校の生徒と対戦して頂きます。 実技で一位を取るレベルの人物と」
「ハードル高っか」
「まあ、 頑張れよ。 無事合格したら色々教えてやるよ、 オレの旦那様? 」
アンヌがニヤリとこちらに言ってくる。
あ、 もう自分でネタにしてやがる。 これじゃ弄り倒せ無いじゃんか。
ケンジはそんな事を考えながらも一時間後に始まる筆記試験をどう乗り切るか考え始めていた。
ケンジが学園長室から退出し、 試験の為の準備をするハノネも退出したのでアカネとアンヌの二人だけになった。
「学園長、 流石にケンジさんに筆記試験・魔法理論は酷では? 」
「うん? まあな。 でも、 アイツがどの程度の知識を持っているのかやっぱり知りたいしな」
「それは、 そうかもしれませんが……」
「なんだアカネ? ケンジの事心配してんのか」
「! /// いや、 あの、 別に、 そういう事ではなくて……! 」
アカネは思わずあたふたしてしまい、 まるで図星みたいな状態に陥っていた。 まあ、 結果図星なのだが。
「まあ、 アイツは本当に面白いタイプだ。 オレの事もアカネの事も貰ってくれそうだったぜ? 」
「//// ど、 どういうつもりなんでしょうかケンジさんは……」
「どうもこうも本気なんじゃね? 」
「だとしたら本当に恐ろしいですね……」
アカネとアンヌはその後もケンジの話をした後、 時計を見たらもう筆記試験は既に終了している時刻となっていた。
「随分と長く話したな……」
「良く見たら外は暗いですね」
窓から外を見ると周りの店たちが電灯を灯していた。
ここ、 ゴールドクルーズは学園都市となっている。 つまり、 学園を中心として周りに街が出来ているのだ。
とは言っても民家は更にその街の周りに出来ている。
中心街は屋台やファッションショップ。 レストランにカラオケなど学生たちのお楽しみになる街づくりが行われていた。
「学園長」
暫らくするとハノネが答案用紙を片手に部屋に入って来た。 何故だか少し疲れている。
「おうハノネ、 どうした? なんか疲労の色が濃いが…」
アンヌも気付いたらしく声を掛けるが「大丈夫です」と一言告げられたのでこれ以上は何も言えなくなった。
「ケンジくんの筆記試験の結果ですが」
「おう、 もう採点できたのか」
「流石ですね。 ハノネさん」
アンヌもアカネも褒め称えるが何故か浮かない顔をしている。 その理由は比較的すぐに分かる事になった。
「ケンジくんの筆記試験の結果は」
二人とも固唾を飲んで耳を澄ます。
「一般教科は全て満点です」
「へ? 」
「ま、 満点? 」
二人が呆気に取られるのも無理はない。
毎回問題を作るのはハノネ自身であり、合格者も平均点が七十五点を下回るレベルの難易度なのだから。
アカネ自身、 平均点は八十五点とその時の最高得点だったがそれすらも上回る、 まさかの満点。
驚きを隠せる訳もなかった。
ちなみに、 アカネは偏差値七十五〜八十の高校であれば平均点が九十五を超えるレベルの学力である。
「っと、 で魔法理論は? 」
アンヌは比較的すぐに立ち直り続きを促す。 アカネも気を取り直してハノネの方を向く。
「それがですね……、 」
「随分と歯切れが悪いな。 なんだ? まさか一般教科は満点だけど魔法理論は零点とかか? 」
アカネもそうかも、 と思ったがハノネの様子からしてどうやらそうでは無いらしい。
「え〜っと、 私でも丸を付けるべきなのか分からない回答ばかりされまして……」
「ハノネが丸付けに悩むだと? どんなんだったんだ? 」
アカネもハノネに無言で続きを促す。
「例えば、 魔法の発動スピードは速いが威力は低い。 魔法をチャージする事で幾分か威力は高まる。 その代わり、 発動スピードは下がる。 彼女を戦略に加えるにはどういった作戦になるか、 という問題です」
アカネもその問題を出された事がある。 だから、 解答はスラスラと出た。
「後衛に置いてチャージしている間は仲間が敵を引き付け、 隙を見計らって攻撃してもらう。 ですよね? 」
「そうだ、 アカネ満点」
アンヌもその答え以外に何があるのか興味津々な様子だった。
「ケンジくんの答えは、 同じ魔法を複数個同時に発動させ、 その後魔法らを一つに纏めて攻撃させる。 でした」
これにはアカネもアンヌも絶句した。
確かに、 そうすれば魔法の発動スピードも失われないし、 威力を充分にした状態で攻撃まで持っていける。 そうすれば、 わざわざチャージ中の彼女の護衛に魔法使いを回さなくて良いので相手への攻撃の幅も広がる。
……盲点だった。 何故こんな事にこれまで気付かなかったのかが不思議なぐらい完璧な戦術だ。
しかし、 確かに丸付けには困るだろう。
ちゃんと答えがあるのに違う解答をされ、 しかもそれが間違っていない物なのだから。 他にも効果的な魔法の使い方など魔導王のアンヌでさえも思い付かないような物ばかりだった。
「学園長、 どう致しましょうか」
流石にハノネも判断に困るようでアンヌに解答を託した。
「確かに、 誰も聞いた事が無いような理論ばかりだが……面白いな」
「ええ、 ケンジさんは実戦魔法使いだと思ってましたが……。 理論タイプでもあるんですね」
「アイツをこの学校に入れないのはこちらにとって、 不利にしかならないな」
「仰る通りですね」
「にしても……一体、 魔導神はケンジに何を教えたんだ……? 」
アカネとアンヌは益々ケンジという人間に興味が湧いた。
ハノネも困惑はしていてもかなり好奇心が刺激されている。
この時点でケンジの入学は決まった様な物なのだが、 まだ実戦がある。 三人は試験場の準備の為に学園長室を後にした。