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一章-1

 しかし、 流石にあの後すぐに移動というのも疲れるので、取り敢えず場所を移し、近場のホテルに泊まることになった。


 何故こんな場所にホテルがあるのかはわからない。昔はここも栄えていたのだろうか。


 ケンジ自身の荷物は無く、 アカネも身軽な格好だったのですぐに見つけられた。


 とは言え、 人っ子一人居ないので自由な状態で使わせてもらうことになる。 部屋の内装は洋風なもので部屋の中にはキッチンもあった。 下の階にはレストランもあったし、結構豪華なホテルなのかもしれない。


  「いつ出発するんだ? 」


 「おそらく明日の午後になると思います。 一切の報告をしないで帰るというのは、やはりマズいものがありますから」


 何故だかアカネの顔が微妙に赤い。 何かあったのだろうか。 これまでの道中別に変なことは無かった気がするが……。


  「なあ? どうしてそんな顔が赤いんだ? 」


 「へっ……!? 」


 どうやら気付いて無かったらしい。 本気で狼狽している。


 「えっと……。 た、 多分ですけど、 これまで男の人と話したことが殆ど無くて……。 そ、 それで緊張してしまっているのかと……」


 「話したことが無い? いくら魔法使いには女性しか居ないって言っても父親とか、 居るんじゃないのか? 」


 そう言うとアカネの顔が少し曇った。 失言だったかも知れない。


  「悪い……、 余計なこと言った」


 「い、 いえ。 普通違和感持ちますもんね……。 父と母は私が小さい頃に離婚しています。 考え方の相違とか、 方向性だとかバンドの解散みたいな理由しか教えられていません」


 「なるほどなあ。 まあ、 俺も親父は居ないしな。 お袋も蒸発したし」


 「え? そう、 なんですか……? 」


 自分よりも遥かに家族関係にヒビが入っているのに、何故この人は自分を気に掛けてくれるのだろうか。


 アカネは胸にトクトクと溜まる感情に一旦の蓋をした。


 「ああ、 親父は事故死らしいし、お袋に至ってはなんも知らん。親父の事故がどんななのかは、 今は言えないな」


 「えと、 言えるタイミングってあるんですか? 」


 「ああ。 俺と深い関係になったらな? 」


 ケンジの意味深な発言(明らかにからかうような口調)に


 「ふ、 深い関係って…… /// 」


 アカネの顔が真っ赤になった。 そして、 顔を手で覆うとそのまま部屋のベッドに倒れ込む。


 「なんか、 アカネって本当に可愛いよな。 乙女だわ」


 「〜/// 」


 なんかもうダメみたいだな。


 ケンジは苦笑しながら、 今日の夕飯はどうしようかと他人事のように考え始めた。


  (ケンジ、 なんだか面白いことになってきたなあ)


 だが、 ケンジの身体の中から話しかけて来るものが居た。


 六雷火ではない。 違う奴だ。


 (ああ、 面白いことになってきたのかも知れないな、 死霊? )


 (そんな警戒するなよ、 俺だって傷つくぜ? )


 (お前の能力が危険過ぎるから俺も使いたくないんだよ)


 (んだよ、 それぐらい使いこなせよなあ)


 (無茶言うな)


 ケンジ自身、 出来れば使いこなしたいとは思う。



 だが、 死霊の力は恐ろしすぎる。 まだまだ使えるレベルでは無いと、 ケンジはいつも判断してきた。


 でも、


 (本当にこの戦いが長引くとしたら、 そんなことも言ってられないな)


 (だろだろ? )


  ケンジはそう思いながら、 制御の仕方に一切のめどが付かないまま、 三時間程が過ぎていった……。




 「さてと、 夕ご飯作りますね」


 アカネはいつの間にか立ち直っており、 エプロンを付けてキッチンに立っていた。


 だいぶ悩んでいたのだろう。 まさか気配に気付かないとは……。


 しかしアカネって、


 「アカネってご飯作れるの? 」


 「それはやっぱり、 女の子ですから! 」


 (……今の時代、女の子でも料理出来ない人多いからな〜……)


 ケンジはそう思いながらもら決して口には出さないよう気を付けながら、料理風景を見ていた。



 (はあ……、どうしてこんなに狼狽しているんだろう私)


 私、 桐中アカネはそんなことを思いながらも料理を進める事にした。


 いや、 狼狽してるのは一緒に居るのが男性だからだ。


 あまり男性と話したことが無いのに、なんで料理を作ってあげることに……。 なんか新婚さんみたいじゃない……。


 いやちょっと待って!? なんで私そんな新婚さんだなんて!?///


 な、 なんでこんな恥ずかしい事……。


 う〜ん、 なんだかケンジさんだからこんなに恥ずかしい思いをしてる気もするし……。


 なんだかんだ言いながら料理を完璧に続けるアカネはやはり、 才女なのだろう。


 しかし、 ケンジについてこんなに悩む彼女の顔は誰も見た事が無い。 と断言出来るレベルの深刻な表情となっている。


 ケンジだから悩んでるというのは、 別に誇張ではない。


 アカネ自身、 写真や映像などで男性を見ていても見惚れた事は無いし、 ケンジに会うまでは男性はいやらしい人たちという、少し捻くれた。偏見的な考えも持っていた。


 だからこそ、 男性に会ったとしても冷静に話せるだろうという確信を持っていた。


 しかし、 ケンジは例外となってしまった。 初めて話した男性と言うのもあるが、それより何より顔に見惚れてしまった。


 ケンジ自身、 気付いてないかも知れないが、 ケンジの容姿はこれまでアカネが見て来たどんな男性よりも、 美麗な顔立ちだった。


 いや、 それだけ言うとなんだか「顔だけ」みたいに聞こえるが、 第一印象ということなので勘弁してほしい。


 人によって印象は違うだろうが、 それでも「美人」又は「可愛い」の違いだろう。


 どちらかと言うと、 男性よりも女性的な顔立ちをしていた。


 そしてまさかの魔法使いで自分よりも強い。


 しかも、 そこで更に可愛いとか乙女とか……そして、 立たせてもらう時にあんな自然に腰を抱かれてもうアカネはダメになっていた。


 完璧にアカネはケンジに恋をしていた。



 「スゲー! 美味そう!! 」


 ケンジは目の前に並ぶ料理に目を奪われていた。 何故普通にステーキとかカルボナーラがこの短時間でできるのか……。


 「魔法とか使った? 」


 ケンジがそう聞くと、 少しムッとした表情になったがすぐに顔を赤くしながら


 「い、 いえ。 ちゃんと料理しました」


 「そか。 にしても早くない? 」


 「効率性を考えれば料理は幾らでも短時間でできるようになります」


 いや、 これは効率性とかそんな次元じゃないような気がするのだが……。


 「……うん? アカネも少し俺に慣れて来たかな? 」


 「へ? あ、 そうです……か? 」


 「うん、 まだ少し赤いけどだいぶ平常心に近くなったんじゃないか? 」


 「そ、それ なら良かったです」


 「うんうん、 顔が赤い美少女も良いけどやっぱ笑顔の女の子が一番だからな」


 ケンジがそう言うとアカネはまた顔を赤くして俯いてしまった。 やはり、 褒められ慣れていないのだろうか。 取り敢えず夕飯を食べることを優先にする為、 またアカネに話しかける。


 「アカネ、 取り敢えずご飯食べてから話そうか? 」


 「え、 あ……はい。 そうですね。 食べましょう」


 ケンジたち二人は「いただきます」と言ってからスプーンやフォークを持って食事を始めた。



 「さてと、 美味しい食事をありがとうな、 アカネ。 で、 俺がアカネと話したいことは、 どうやったら俺と自然に話せるようになるかなってことだ」


 「私は自然に話してるつもりなんですが……」


 今のケンジたちは、 お互い向かい合って座っている状態にあるが、 アカネの目は少しピントがズレて、 ケンジの横を見ている。


 「いや、 俺の事を正面から真っ直ぐ見れてないんだから自然では無くない? 」


 ケンジはそう言って、 顔を近づけると、 アカネはまた顔を赤くして下を向く。


 ケンジは自分の容姿についての評価を、 中の中の平凡としているが、 アカネ含め周りから見ればこれ以上無いぐらいの美男子である。 そのギャップがこの状況を生み出していることに、 ケンジは気付いていない。


 ケンジは埒が明かないと思い、 アカネの横に座ってみた。 するとアカネは驚きながらも決して離れようとはしなかったので、 取り敢えず嫌われていないことを確認し、 アカネに迫ってみることにした。


 「アカネ。 取り敢えず俺と普通に、 自然に話せるようになる為に、 なんかしようぜ? 」


 「な、 なんかって……? 」


 「う〜ん、 そうだな。 俺に魔法についてもっと教えてくれないか? 」


 「え? ケンジさんはもう、 充分魔法について知識を持ってらっしゃると思いますけど……」


 「俺も独学で学んでたけど、 アカネの戦い方は俺とは明らかに違ってたろ? 魔導書なんて言葉聞いたことも無かった」


ケンジがそう言うとアカネは少し腕組みをして悩む姿勢を見せると、 魔導書を取り出した。


 「私の使う魔導書は、 魔法使いの中ではかなり一般的なものです。 何故なら、 魔法式を書き込むことによって発動スピードを上げるのに、 紙は一番適しているからです」


 「それはやっぱ、 魔法式をそのまま紙に写せるからだよな? 」


 「そうです。 まあ、 他の人が見ても魔法式はわからないようコーティングするのが一般的ですね……そう言えばケンジさんの場合は、 魔法式は何処に?」


 「ん。 何処ってかまあ、 俺は銃弾一発一発の内側に書き込んでるからなあ。 銃剣自体に書かれている魔法は、 俺自身の魔法に対する耐久力をあげる魔法だな」


 ん?という風にアカネが首を傾げる。しかしそれは、言葉の意味ではなく、その行動に対する疑問のようだった。


 「それは……一体どういった効果が?」


 「効果っつーか、 俺は龍から力を借りたりして、 魔法を使うことがあるからな。 銃剣がそれに耐え切れないかもしれない。 それが理由で、 耐久魔法の式を銃剣に刻んでるんだ」


 ケンジの説明で理解したらしく、 納得というようにアカネは大きく頷いていた。


 「しっかし、 なるほどなあ。 そう言えば、 俺の目の前で初めて使ったあの雷属性の魔法……、 あれは『雷追撃』か? 」


 ケンジの言葉にアカネは一瞬固まると、


 「わ、 わかったんですか? 」


 「うん? そりゃまあ、 俺も雷属性だしなあ。 雷属性の中では、 それこそポピュラーな魔法だろ。 まあ、 少し改造してそうだったけど」


 「そ、 その通りです。 改造してわかりにくいようにしてました。 事実、 これまで雷追撃だと気付かれたことはありませんでした」


 「そりゃスゲーな」


 「でも、 なんでわかったんです? 本当に誰にも気付かれたこと無かったのに……」


  アカネが少し傷付いてしまったように俯く。 それもそうだろう。 これまで誰にもバレたことが無かったのに、 それを初見で見破られたのだから。


 「俺だけだったらわかんなかったかもな。 でも、 六雷火が居たしさ。 六雷火が気付いたんだよ」


 「六雷火……、 あの黄色い龍のことですね? あの龍がわかったんですか? 」


 「ああ、 アイツは言うなれば雷の化身みたいなものでさ、 雷属性の魔法には敏感なんだよ」


 「なるほど、 そんな使い魔は聞いたことがありませんが……」


 「まあ、 気にするな。 とは言え無理だろうけど、 極力考えないようにしてくれ。 機会があったら説明するよ」


 「わかりました。 で、 話は戻りますが、 魔導書には本の他にも水晶などがあります」


 「水晶……、 また魔法使いっぽい物だな。 俺みたいな銃剣とかは居ないのか? 」


 「そもそも魔導書そのもので、 相手に攻撃を加えるなんて、 そのこと自体が目からウロコですよ」


 「マジか……。 良いもんだと思うけどなあ」


 「貴方が学校に来たら、 多分皆が真似し始めますよ」


  ここまで話して気付いたが、 容姿について褒めなければ、 アカネは普通に話せるらしい。 褒めるのは極力少なくしようと思う。


 「まあ、 それぐらいかな。 ありがとな」


 「いえ、 こちらも少しはケンジさんについて聞かせてもらったので」


 「そか。 んじゃ、 取り敢えず今日はもう寝て、 明日に備えようか」


 「そうですね」


  そうして立とうした際に、 足が痺れてたのかアカネがこちらに倒れて来た。


 「きゃっ! 」


 「アカネ! 」


 ケンジはギリギリで支えたが、 そのまま倒れてしまう。


 モミッ。


 なんだか柔らかくて、 とても好ましいものを掴んだ感触がするが、 それよりもアカネの無事を確認する。


 「痛てて、 アカネ大丈夫……」


 全然大丈夫じゃなかった。


 倒れ込んだ拍子に思わず胸を掴んでいたらしく、 更に胸の部分もはだけてしまい、 ピンクの下着が見えてしまっていた。


 アカネの顔はこれまでで最も赤く染まっており、 涙目になっていた。


 焦ったケンジは急いで立とうとしたが、 アカネと自分の足が絡まっていたらしく、 また倒れ込む。 その時、



 アカネと、 キスしてしまった。



  お互い顔を真っ赤に、 無言になるがすぐに


 「す、 すまん! アカネ! 悪気は無かったんだ! 」


 と謝ったのだが……、


 「は、 初めてだったのに……」


 アカネからまさかの事実が飛び出し(まさかと言うか、 つい先程アカネは男性と会ったことが無いといった類のことを言っていたのだが、 それすらも忘れてしまう程の衝撃だった)、


 「ケンジさん……、 歯を食いしばってください」


 ケンジはもう、 そのまま罰に甘んじることにした。



  ケンジらはその後、 それぞれの部屋に戻って寝ることにした。 ケンジも風呂に入って寝巻きに着替え、 ベッドに飛び込む。


  (痛い……、 アカネ思いっ切りだったな……)


 それはそうだ。 事故とは言え、 胸を揉まれて、 その上ファーストキスも奪われてしまったのだから。


 ケンジはもう余り考えないようにした方が、 アカネのためだろうと思い、 今日の話の内容を復習することにした。


  (う〜ん、 俺の戦い方は随分と異質みたいだな)


 (そうだといつも言ってると思うんだけど……)


 今話しかけて来たのは死霊でもないな。 このお節介な感じは……


 (マジで? 十豪華いつも言ってる? )


 (言ってるよ! 全く君というヤツは……)


 (あ〜、 お説教無しな。 流石に今日は疲れた)


 (そうだね、 説教は明日にしようか。 じゃあおやすみ)


 (ああ、 おやすみ)


 明日お説教があるということに少し傷付きながら、ケンジは深い眠りに落ちて行った。

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