表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/39

七章-2

 「潮鳴ルイビさんは居ますの?」


 部室に入り開口一番、 カスミが入口近くに居た部員に話し掛ける。


 他の部活では、 中等部から大学部までが同じ部活に在籍していたため、 それなりの人数になっていたのだが、 ここでは中等部しか居ないようだ。


 そのため、 ケンジとは全員初顔合わせとなる。


 転入式の時は自分の入る高等部のみ。 緊急任務の時は高等部以上というルールのため、 自然と中等部との関わりは少なくなる。


 しかし、 向こうはケンジの部活見学について事前に聞いていたらしく、 すぐに話が通った。


 「中等部しか居ない部活もあるんだな」


 「茶道というものは決して身近なものではないから、 近寄り難いのかもしれない。 顧問の方はそう仰っていましたわ」


 まあ、 茶道というものは若い人なら、 修学旅行で京都に行った際に体験する人はするぐらいのものだろう。 茶道の他にも武道や剣道など、 『道』と名のつく物は取っ付き難い雰囲気は確かにある。 と、


 「こんにちは」


 一人の女子生徒がこちらに歩いて来た。 というか、 ケンジ以外男子が居ないのだから『女子生徒』という言い方も違和感があるのだが。


 「私が、 潮鳴ルイビです」


 大和撫子。 直ぐにその言葉が浮かんで来た。 ああ、 確かに見た目から「和」の雰囲気が出てる。


 黒髪を膝裏まで伸ばしており、 それを一纏めにしている。 袂には隠してはいるが、 扇子をしまっているようだ。


 「おう、 こんにちは。 俺が三啼止ケンジ」


 「こんにちは。 私のことは知ってますわよね?」


 「ええ、 カスミ先輩。 というより、 ケンジ先輩のことも知ってますよ」


 「お、 マジ?」


 「ケンジさんのことは皆さんが知っていますわよ?」


 カスミの呆れたような声に、 ルイビが口元を押さえて笑みをこぼす。


 本当に何処が、 これまでの魔導長(セレスト)と違うのだろうか。


 「ルイビさんはなんで」


 「呼び捨てで良いですよ先輩」


 ケンジがさん付けでルイビを呼ぶが、 気を遣わなくていいと、 本人から言われたので甘えさせてもらおう。


 「わかった。 じゃあ、 改めて。 あ、 てかこのままここで話しちゃっていいのか?」


 ケンジは部室を見回して、 ルイビに確認を取る。


 「あ、 部活はもう一段落着いてるので、 あとはもう片付けるだけです」


 「それなら良かった。 で、 ルイビはなんで魔導長(セレスト)になったんだ?」


 「それは、私が魔導長(セレスト)としては力不足だと? そう仰るんですか?」


 途端にルイビの瞳に好戦的な光が宿る。


 ケンジは肩をすくめて


 「まさか。 単なる疑問さ。 魔導長(セレスト)になった経緯を知りたいだけ。 そもそも、 ルイビの実力を俺はまだ知らないんだからな」


 「あ、 なるほど。 すいません、 咄嗟とはいえ先輩に失礼な態度を取ってしまって」


 「いや? 別に失礼な態度とも思わなかったし」


 「ケンジさんの質問の仕方も、 少々悪かったと思いますわ」


 「そうだな、 悪かった」


 ケンジがカスミの指摘に苦笑する。


 「いえ、 こちらこそ、 なので。 えっと、 魔導長(セレスト)になった理由なんですが、 大体の魔導長(セレスト)は学園長からのスカウトですね」


 「スカウト?」


 「はい、 強かったら強い者なりの責任を果たせ。 というような感じですね」


 「その、 強い者ってやつのライン。 基準は何なんだ?」


 アンヌのいう強い者の基準がよくわからない。


 アカネはケンジが来るまで、 デスクワークタイプで実戦に対して苦手意識を持っており、 そこを前回の緊急任務の時にケンジに叱咤された程だ。


 逆に、 カスミはケンジが転入する際の実戦相手として戦っており、 その強さは身に染みているが、 頭の方は実はそうでもないと聞いている。


 それはまあ、 普段からの行動や言動を見ていればなんとなくはわかる。 こんなことを横にいる本人に知られたら、 魔法によるゲンコツがあってもおかしくはない。


 二年生のリーフについては、 緊急任務の際に会った時のみが今のところだ。 魔法を使って戦っている場面を見はしたものの、 殆どが防御しかしていなかったため、真の実力はわからない。


 頭の方は、 おそらくかなり良いと思われる。 勉強の方はわからないが、 ケンジの考えていることを当てるなど、 そういった部分での聡い部分には目を見張るものがある。


 ヒヨリについては何も知らない。 知ろうとも思わない。 そもそも話せる気がしない。 ケンジは心の中でそっと呟くが


 (タニカの性格が性格だから、 また呼ばれそうな気もするんだよな……)


 ケンジのそんな葛藤を、 当然のことながら知る由もないルイビル は解説する。


 「そうですね、 評価するところは二つ。 勉学と実戦です。 先輩は、 転入式の時に理論と実技と説明されてたと思います」


 「あ〜。 なんかアンヌが言ってたな。 それなら、 人格とかは? 責任てものが必要なら人格も必要だろ」


 「人格を入れてしまうと、 その、 入れない人も居ますし……」


 「ああ、 まあ、 うん」


 そこについては本当に何とも言えない。


 「まあ、 人格は良いや。 勉学と実戦、 でもそれどちらかに偏ってる人も居るよな?」


 正にアカネとカスミの二人のことだ。


 「はい。 実は基準というのは、 この二つの平均を見るのでなく、 合計で見るのです」


 「合計?」


 「はい、 合計なのでどちらかに特化していても良いのです」


 「あ、 なるほどな。 でも、 その特化ってのも相当えげつないレベルなんだろ?」


 「それはそうですよ。 そこにいるカスミさんは、 勉学が最下位でも実戦が圧倒的な一位だったので」


 「何で知ってるんですの!?」


 あ、 やっぱりそうだったんだ……。


 顔を真っ赤にして怒るカスミを苦笑しながら


 「カスミ先輩、 魔導長(セレスト)は全ての成績が、 デバイスで共通データとして送られて来るの忘れました?」


 「……あ」


 「カスミ、 お前……」


 顔を真っ赤に俯いてしまったカスミの頭を、 ポンポンと撫でながらケンジは話題を変える。


 その時、 微妙にルイビの瞳の色が変わったのだが、 ケンジの見ていない一瞬だったため、 ケンジは気付かなかった。


 「じゃあ、 ルイビはどっちも良い成績ってところか?」


 「そうですね、 私は学園全体でどちらも六位だったので」


 「ん? 学園全体?」


 「……学部のみと学園全体の両方の成績がこの学園では出るのですわ。 本来なら、 魔導長(セレスト)は学部のみなのですけれど、 ルイビさんは学園全体の方でその成績なので、 文句無しの魔導長(セレスト)になったのですわ」


 カスミがケンジに頭を撫でられている状態で解説する。


 先程まで意味合いの違う顔の赤さに、 ケンジは気付いたのだろうか。


 「ところで、 ケンジ先輩」


 「ん? なに?」


 「やっぱり、 私のことも先輩の物にしますか?」


 「はい?」


 ルイビの口から何やら、 不穏な響きのする言葉が放たれる。


 「ですから、 私も先輩の恋人になるという……」


 「え、 なにそれ」


 「ルイビさん? 突然どうしましたの? 別に魔導長(セレスト)と、 ケンジさんの関係はそのようなものではありませんのよ?」


 「いえ、 知ってます。 魔導長(セレスト)は全員、 先輩の恋人になるという話は学園中に広がってますから」


 「いやいや、 何で?」


 アカネ、 カスミ、 リーフ、 そしてヒヨリ。


 ケンジが会った魔導長(セレスト)はこの四人であり、 今目の前に居るルイビが五人目だ。


 何故そんな話が出るのかとケンジは本気で頭を抱え、 悩む。


 実際には、 アカネとカスミ。 この二人がケンジのことを好いているのは、 他の生徒の目にも明らかだ。


 リーフ、 この二年生に関しては、 ケンジが会ったのは僅かに二回。 それも先程述べた通りの両方緊急任務時だ。 生徒たちに囲まれての質問の時。 それに連絡があって助けに行った時のみだ。


 ヒヨリに関しては本当にわからない。 そもそもが、 ケンジがヒヨリと会ったということを知っている人も限られている。


 (何か変な雰囲気になって来てないか……?)


 ケンジがそう思い、 辺りを見回すと予想通り茶道部の部員殆どが、 こちらを凝視している。


 「しかし、 複数の女性と付き合うという行為は決して推奨されるものではありません」


 「あ、 ああ。 そうだな」


 なんだ、 ルイビもその噂はおかしい。 そう、 わかってるんだな。


 ケンジは、 ほっと胸をなでおろすが


 「それならば、 私とだけ付き合うという選択肢が……」


 あ、あれ? 何を言い出すんだこの子は?


 ケンジとカスミは次々と変わるルイビの言動に頭が混乱して来た。


 よく見れば、 目もトロンと何かに酔っているような表情になっている。


 「そしてゆくゆくは結婚して……」


 「ちょちょ、 ルイビさん?」


 「あ、 そのためには私以外の女性とは、 一切話さないようにしてもらって……」


 「待て待て!?」


 「あ、 でもこの学校は女子校だから無理ですよね」


 「お、 おう?」


 「それならもういっそ、 みんなこr」


 「失礼しましたーーー!!!」


 なんだか聞きたくない言葉を聞きそうになったケンジはカスミの手を引いて一目散に逃げ出す。


 途中聞こえた「あ! 私以外の女性の手を……!」という言葉を全力で無視して文化棟から逃げ出すケンジたちだった。



 文化棟からグラウンドまで一目散に逃げて来たケンジたちは、 息を切れさせながら


 「ル、 ルイビってなに、 ヤンデレ属性なの?」


 「や、 やんでれというものがどういう物かはわかりませんけれど、 あんな性格なのは、 初めて知りましたわ……」


 アンヌの言っていた言葉の意味がやっとわかった。 確かに、 これまでの魔導長(セレスト)とは明らかに違う。 見た目通りの性格とはならなかった。


 「はあはあ……、 後半一人目でこうなら、 あとの三人はどうなるんだよ……」


 ケンジは肩を揺らしながら、 若干の憂鬱を持つのだった。

今回は、 魔導長(セレスト)のなり方と言いますか、 基準について書いてみました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキング参加してみました!お願いします!↓ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ