序章-3
それは龍の腕だった。 限りなく金色に近い黄色の光を放つ腕だ。 鱗の数も尋常ではなく、 バチバチと雷を放っている。
「これが俺の使い魔」
そう言うとケンジの身体からゆっくりと腕の持ち主が出て来る。
ゆっくりと全貌を現したその姿は正に龍と言えるものだった。 翼は生えていないが、 巨大な爪とヒゲが生えている。 その荘厳なオーラは隠せるレベルでは無いものだった。
その龍のオーラによって周りの景色が少しずつ変わっていく。 地面にはヒビが走り、 建物は幾つか崩壊しているものもある。 空を見れば雲は龍を中心に綺麗な渦巻きを描いていた。
「……六雷火だよ」
「りく、 らいか……」
「そう、 六雷火。 漢数字の六に雷の火とか書いて六雷火」
「な、 なんなんだ……、 その化物は……」
ルーシアはもがいているが動ける気配は無い。 まあ、 六雷火がまだ腕掴んでるしな。
「つ、 使い魔の中には獅子や蛇、 不死鳥や私のような犬が居ますが……、 その中でも龍は最強の生物です! でも、 私がこれまで見て来たどの龍よりもオーラが強過ぎる……」
「そうだ、 なんだそのオーラは……。 何故身体にそんなものを入れてられるんだ! 」
「そりゃ答えられないな。 スマンが」
ルーシアは最早戦意を失っていた。 だが、 ケンジには殺すのを辞める理由がない。
「六雷火。 力を貸してくれ」
ケンジがそう言うと六雷火は自分の口から雷の塊を出した。 そして、 その雷はケンジの銃に吸い込まれて行った。
「じゃあな、 ルーシア。 これで終わりだ」
「くっ! 」
ルーシアは六雷火の腕から逃れようとするが決して離そうとはしない、 流石だな。
「くそ、 くそくそくそくそ、 くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 」
「ライトニングドラクル・壱之雷鉄 龍散弾!! 」
ケンジの銃から大量の雷の弾丸が放たれる。 ある弾は一直線に。 他の弾も不規則な軌道を描きながらも全てルーシアにぶち当たった。
残った物はヒビが入った荒地だけだった。 元の世界に戻った感覚もする。 ルーシアは居ない。 だが、 死んではいないような気がする。
多分、 仲間が来て逃げたな。 六雷火ももうケンジの中に帰ってる。 荒地に残ったのはケンジと、 アカネだけになった。
ケンジは苦笑しながら
「さてと、 俺は……。 もう行く所も無いしな。 リンカのこと探しに行きたいけど、 宛は無いしな〜。 アカネはどうするんだ? 」
ケンジがアカネに問い掛けるが、少し呆然としている。
ああ、 まあアレを見たあとだしな。
「アカネ? 」
アカネはビクッと身体を震わせると
「え、 えと。 が、 学校に帰ります」
なんかこの会話には似つかわしくない言葉が出て来たぞ……。
「学校? え、 魔法使いの学校? そんなのがあるのか? 」
「え、 ええ。 ありますよ、 魔法使いは全員学校に通ってます。 えと、 学年は十九年制で四歳から二十三歳までです。 一応」
「一応? 例外は何なの? 」
「魔法使いだとわかった時点での入学になるので、 入学時の年齢はバラバラなんです」
「なるほど、 てかなんでそもそも学校? そんなの必要なのか? 普通に一般の学校に通っとけば良いじゃん? 」
「それでは魔法を誰にも習えません。 学校の目的は魔法の使い方の他に、 魔法の制御や使い魔との契約などがあります。 そしてちゃんと一般教科もありますよ」
「ふ〜ん。 そかそか。 んじゃ、 気を付けて帰れよ? 」
ケンジがそう言うとアカネは本気で驚いている様子を見せた。 何か変なことを行っただろうか。 ケンジがそう思っていると、
「え、 えと? い、 一緒に来ないんですか? 」
「へ? 」
まさかの選択肢が出て来た。 いや、 でも
「俺には勉強とか必要無いしな〜。 行っても意味無くないか? 」
「が、学校と言っても私が通っている黄金の航海者は一組織としての面もあって、 他の学校よりも特に情報に長けてます! だから、 ケンジさんが探しているリンカさんや、 あの組織についてもなにか手がかりが見つかるかもしれません! 」
……なるほど。 確かに情報が集まるのならそれは利用するべきだ。 だが、 それよりも一番の問題は、
「……でも、 女子高だよな? 」
「え? あ、 そう、 ですね。 でも、 貴方の存在が明るみに出れば他の勢力からも狙われますよ? 」
「他の勢力? 何があるんだ? 」
「私たちのような《学校》。 他には、 悪の魔法使い《フレグランス》。 そして、 その中立である《ヴァチカン》など、 他にも多数の組織があります」
フレグランス……flagrance(凶悪・悪名高い)の方だと思う。
「それに追われるのは……確かに面倒臭いな」
「はい。 な、 なので是非こちらに来てください! お願いします! 」
「な、 なんか凄い熱心だな。 なんでだ? 」
そう言うと何故かアカネの頬が赤くなる。 また何か変なことを言っただろうか。
「べ、 別に良いじゃないですか! /// 見過ごせないだけですよ! 貴方みたいに危なっかしい人は! 」
(なんか理不尽に怒られた気がする……)
でもまあ、 確かに魅力的な条件だな。
とにかくケンジには情報が無かった。
情報とは、 一番の武器だ。 どんな兵器があっても相手にその弱点という情報があればその兵器は足枷になってしまう。
そして、 他の勢力という言葉が出て来た時点でケンジは脅されていることになる。
(自分の組織に来なければ他の勢力に貴様の情報を流す。 そうなれば、 安定した生活は望めないし、 リンカのことも追えなくなるぞ)と。
まあ、 目の前に居るアカネはそんなこと露ほども思ってないだろうが……。
「……そうだな、 わかったよ。 その黄金の航海者に入学するよ」
ケンジがそう言うと一転して輝くような笑顔を見せてくれた。 この笑顔を見れただけでもこちらの選択にしておいて良かったと思える気がする。
「では、 一緒に参りましょう! こちらに来てください」
これがケンジとアカネの出会いであり、黄金の航海者に入学することになった経緯である。
別に後悔はしていない。 普通に楽しませてもらってるし、 情報も充分な量が集まってくる。
ただ、 敢えて言うのであればこう言わせてもらおう。
「俺はこの時、 どんな波乱な日常が訪れるのかを知る由もなかった」と。