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五章-5

 「OK、 もう来ないと思います」


 ケンジのその言葉にチームが歓声に包まれる。そんなに大きな声を出したら、 またミノタウロスが来るだろうに……、 とケンジは苦笑したが、 それを言ってしまうのも野暮というものだ。


 「さて、 そろそろ昼飯の時間じゃないですか? リーフ先輩」


 「あ、 そうですね〜。では、皆さんご飯にしてください〜」


 その言葉で、 皆地面へと体重を預ける。 ほぼ全員が息を切らしている状態だ。


 「やっぱ、 皆疲れてますね……」


 「ふふ、 一切息の乱れてないケンジさんが異常なんですよ〜? 」


 「……先輩も息が乱れてないようですが? 」


 「うふふ〜、 なんのことですか〜? まあ、 こう見えても魔導長(セレスト)ですからね〜」


 掴めない人だ。 ケンジは心の中でそう呟いて、 近くの木の根に座る。 と、 翼を出したままだったことに気が付き、 内側へと収納する。


 「時間も時間だし、 他のチームからも連絡は……無い。 ここで弁当食うことにします」


 「あら、 そうですか〜」


 ケンジがそう言うと、 近くにリーフも座る。 すると、 何人かが近くに座る。


 「ふふ、 皆さんケンジさんと一緒に食べたいんですよ〜? 」


 ケンジが僅かに首を傾げていると、 リーフが答えてくる。 ……本当に掴めない人だ。 ケンジはリーフに対し、 また別の言葉、 質問をする。


 「先輩のあの魔法、 木属性……ですよね? 」


 「ええ、 そうですよ〜」


 「木属性で、 防御魔法をする。 というのはポピュラーなんですか? 」


 「ええ、 そうですね。 木の属性は、 自然のものの中で一番身近なものだから、 影響を受けやすいの〜。 私の魔法、 木の盾スクード・ディ・レゴノは特に防御が硬いの。 だから、 魔導長(セレスト)入りしてるのもありますね〜」


 「スクード・ディ・レゴノ……、 先輩って、 イタリア人? 」


 「あ、 気付きました〜? 母がイタリア人で、 父がアメリカ人なの」


 「あ、 なるほど。 だから、 アメリカ人風の名前なのか。 あれ、 向こうに魔法学園って……? 」


 「あ、 あるにはあるんだけど、 両親が日本に移住してそこで産まれて、 魔法使いに覚醒したから、 そのままここに入学したの〜」


 「へ〜」


 ケンジとリーフの会話に区切りがつくと、 周りに座った上級生たちから質問が飛ぶ。 リーフがイメチェンと称した格好についても、 相手が上級生な為丁寧に答える。


 「ケンジくんは、 何処生まれ? 」


 「北海道ですね、 スゲー田舎だったらしくて産まれてすぐに本州に来たらしいです。 ていうか、 そういやここって日本の何処になるんですか? 」


 「日本列島から三千五百キロ離れた無人島だよ。 元無人島だね」


 「普通の人には見えないように魔法がかかってるんだよ」


  「あ、 なるほど」


 「兄弟とかいるの? 」


 「姉と妹が居ます」


  「さっき、 ミノタウロスを見ないで、 倒してたよね? あれ、 何? 」


 「あ、 私も気になった! 」


 他にも何人かが、 そんな声を上げる。 ケンジは懐からある物を取り出す。


  「これがさっき使った弾丸です」


 「あ、 これ? でも、 普通の弾丸に見えるけど……」


 「確かに、 普通に見えますね〜。 でも、 鉛、 ではありませんね〜? 」


  「うん、 タスラムって知ってます? 」


 「タスラム……? 確か、 ケルト神話に出てくる弾丸、 だよね? 」


 「そうそう、 まあ、 神話の中では単なる投石として書かれてたり、 相手である神を倒すもの。 って感じで話は安定してないですけどね」


 ケルト神話の原作では、 単なる投石としか書かれていないが、 タスラムをセメントとする一編の詩によれば、



 タスラム一個、 重く、 烈火のごとく、 固く、


 トゥアハ・デ・ダナーンがたずさえしもの、


 これこそバロールの目を破壊せしもの、


 昔、 大軍の戦の折に。



 と書かれており、 ルー神がバロールへの攻撃に使ったもの、 というふうに安定しておらず、 また資料も少ない。


 「で、 ケルト国、 アイルランドの方に一回旅行したことあって。 その時にこの弾丸を見つけたんです」


 「え、 そんな簡単に見つかるの? ていうか、 本当にあったの? 」


 「簡単では無かったですよ、 流石に。 死にかけましたし」


 周りがマジか……。 という感じに少し引く。 何故、 そこまでこの弾丸が欲しかったのか……。


 「何でそんなにその弾丸が欲しかったの? 」


 思うだけでなく、 声にも出た。


 「俺が考えてた魔法は、 相手を視認せずとも攻撃できる魔法です。 でも、 どうしてもできなくて……。 まあ、 そもそも魔法に関する学なんかありませんでしたから」


 そう、 ケンジの魔法に皆が驚いているが、 本来であれば、 魔法について詳しくは、 一生知ることのない男性である。 果たして、 そこに気付いたのはリーフだけだった。


 「それで、 昔何かの文献でタスラムは必ず相手にぶつかる道具。 って書いてあったんです。 なので、 これは使うしかないな、 て。 死んだとしても、 自分の研究で死ぬんだったら別に良いかなって。 いや、 死んだら死んだで、 それまでだし、 それを誉れだと思ってる自分も居ましたから。 まあ、 神話の物だから本当かは分からなかったんですけど、 そもそも魔法だって普通の人からしてみれば、 夢物語ですからね」


 「それは……そうだけど」


 魔法使いからしてみれば、 魔法は常に身近にあったもの。 ケンジの例えは確かに一般論だ。 だが、 魔法使いからしても伝説上のものである道具を求め、 死にかけるなど……。


 ゼロではないが、 限りなくそれに等しい可能性にかける。 それは誰から見ても異端的な考えだ。 ケンジに一般論はあっても一般的な人物・魔法使いだとは決して言えない。


 また、 死にかけたことをまるで名誉の様に話す者など、 それこそ戦闘を誉れとし、 戦闘に人生をかけ、 戦闘で死ぬことを良しとする神話の英雄のみだ。


 高等部二年A・B組のケンジへの認識は、 単なる恋愛対象から英雄へと神格化された。 そう聞くと、 大袈裟かもしれないが、 年頃の高校生、 ましてやこれまで異性ともあまり交流が無いと来れば、 ここまで来るのも多少仕方ないのかもしれない。


  (まあ、 ホントなら死んでる筈のこの命。 ここの為に使ったって良いんだ)


 ケンジのその悲観的な、 ある意味達観したその表情に、 リーフだけが気付いていた。



 「ちらほら魔物が見えますが、 動きが少し特殊な気がしますね」


 周りの魔物たちを見ながらアカネが呟く。 昼食を食べ終わった後は、 休憩した場所を中心に辺りを見張っていた。 その時、 魔物の動きに注目してアカネは見張っていた。


 「特殊ってアカネ? 」


 「……十二もチームがあるのに一向に他のチームには会いません」


 「魔物を追ってるんじゃないの? 」


 「そうです。しかし、 それがもし相手の作戦だとしたら……? 私たちをそれぞれ引き離すという……」


 「そ、 そんな知性あるのかな……? 」


 クラスの何人かが身を寄せあって震えている。 しまった、 無理に怖がらせてしまった。やはり、 自分はこういうのが合わない。 ケンジの言う通り、 自分はデスクワークタイプなのだと嫌でも実感する。


 「取り敢えず、 相手の大きさは平均よりも小さいようですし、 そこまで不安がる必要も無いでしょう。 しかし、 最悪のケースは考えておいた方が実際にそのケースになったとしても、 冷静に対処できます」


 アカネの言葉を聞いても冷静さを取り戻すのはせいぜい数人だ。 こんな人数を纏めきれるのだろうか。 こういうのはケンジが適任なのではないか。 そんな思いばかりがアカネの内に広まる。


 「……アカネ? 」


 「はい、 何ですか? 」


  「もしかしてケンジくんのこと考えてた? 」


 「えっ? 」


 その言葉にアカネはバカ正直に動揺してしまい、 木の根を踏んで、 バランスを崩して転びそうになる。


 「ちょ、 ちょっと大丈夫? 」


 「だ、 大丈夫です! 」


 「いや、 そんなに声を大きくしなくてもいいから……」


 「わ、 私は別にケンジさんのことは、 考えて、 ませんよ? 」


 「いや、 バレバレだから」


 そういうチームメイトの後ろの方を見るとほぼ全員が頷いていた。


 「う、 〜/// 」


 「アカネちゃんは本当に乙女だね」


 もう一人別のチームメイトが声を掛ける。 そのセリフは既に一度聞いている。


 「その言葉、 ケンジさんにも言われました……」


 「お? 感触は良いじゃん」


 「そのまま頑張りなね、 応援するから」


 「応援って……」


 そこでまた、 皆の中で笑いが起こる。


 (……そっか、 私の代わりに皆のことを……)


 アカネは自分の代わりに皆の不安を吹き飛ばし、 自分を励ましてくれたチームメイトに礼を言う。


 「ありがとうございます」


 「ん? ううん、 その代わりにケンジくんとなにか進んだら話、 聞かせてね」


  「それは……、 難しいですね」


 アカネが頬を少し赤くしながらも道を進んでいく。その時、


 「何あれ!? 」


 一人が声をあげる。そのチームメイトが指さす方向を見るとそこには大きな魔物がいた。 恐らく、 十メートル以上の。 しかし、 単に大きいだけなら少々てこずるがさして問題は無い。 問題なのは


 「魔物を……、 生み出している? 」


 そう、 その魔物(仮にsuperのSをつけよう)S・ミノタウロスは自らの腹を裂き、 そこから多数の魔物を生み出していた。 それぞれの大きさは三メートル程。


 「あの魔物が今回のボス、 元凶!? 」


 「あんなにデカいなんて……聞いてないよ! 」


 「皆落ち着いて! 」


 アカネが皆を落ち着かせる為に声を上げる。


 「今すぐ、 このことを端末で学園長に知らせて下さい。 恐らく、 細かな指示が出される筈です」


 「分かった。 ケンジくんには? 」


 「ケンジさんは、 先程あった通知を見る限り、 他のチームの元に向かっている筈です。 私たちで何とかしないと」


 そこから暫く、 反応を伺っていると、 S・ミノタウロスがゆっくりとアカネたちの方を振り返る。


  (気付かれた!? )


 ウォォォォォォォォォン!!!!


 その瞬間S・ミノタウロスが唸り声を上げる。 余りにも不愉快で聞くだけで気分が悪くなる。 その時、


 「なっ!? 」


 S・ミノタウロスが身体を大きく振動させたかと思うと、 大量のミノタウロスを腹から、 ではなく口から産み落し始める。


 「皆さん逃げてください! 」


 アカネは大量の魔法式を扱い、 真っ先にこちらに向かって来たミノタウロスたちを消滅させる。


 (一体一体が、 硬い! )


 S・ミノタウロスが口から産み落としたミノタウロスはこれまで倒してきたものよりも明らかに強かった。 更に知性があるのか、 アカネの魔法の合間合間に特攻してくる。


 「ケンジさんに、 ケンジさんに応援を頼みます! 」


 「分かった! でも、 アカネは!? 」


 「私はここで足止めします! 無理かもしれないけど、 それでも皆に迷惑はかけられません! 」


 「迷惑とか止めてよ! 誰もそんなの思ってないから! 」


 「ミ、 ミサトさん!は、 早くケンジさんを呼んでください! 」


 「もう! 」


 チームメイトである、 小鳥遊ミサトがアカネに焦れて、 端末を取り出す。 が、


 ウォォォォォォォォォン!!!


  S・ミノタウロスがもう一度叫び声を上げる。


 「え!? なにこれ!? 」


 「どうしたの? 」


 「端末が……! 」


 S・ミノタウロスの咆哮により、 端末が一時使用不可に陥っていた。 電波を狂わす魔物。 そんなものはこれまで存在していなかったその為軽くパニックになる。


 「アカネ! どうするの!? 」


 「わ、 私が、 ここでミノタウロスを止めます! 死んででも! 」


 「アカネ!? 」


 「は、 早く、 ケンジさんに! 」


 その言葉でチームメイトはすぐにケンジの元へと向かう。 だが、 端末を使えない今、 ケンジの場所へ真っ直ぐ向かうなど不可能だ。 アカネはそれを理解していた。 だから、死んでも止めるのだ。


  (倒せる訳……ない)



 何分経っただろうか、 アカネは最大限にS・ミノタウロスを警戒し、 周りのミノタウロスを消滅させていた。


 「雷落! 」


 上から雷を落とすという、 シンプルでありながら雷属性の代名詞とも言える技で、 次から次へと湧いて出てくるミノタウロスを消滅させていくが、 それ以上にS・ミノタウロスが産み落とす方が速い。


 いくら、 魔導長(セレスト)と言われていようが、 まだアカネは女子高生だ。 一年生だ。 肉体的にも精神的にもまだまだ未熟な年頃だ。 そろそろ、 魔法が尽きる。


 「なんで…! こんな所で! 私には、 まだやりたいことが沢山あるのに! 」


 ケンジと初めて出会った時にも叫んだ、 まだやりたいこと。

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