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四章-1

 次の日、 とうとう入学式(この場合は転入式か? )当日となった。


 ケンジは準備の為にステージ横の倉庫にいた。 因みに、 昨日の夜は三人とも疲れていた為、 特に何も起こらず今日になった。 このままなにもなく、 バレなければ良いなと考えてもいる。


  「これが制服? 」


 ケンジが手に持っていたのはアカネたちの来ている制服の謂わば男子版だった。 カラーリングは赤が基準で所々に学園の紋章が金色で刺繍されていて、 ネクタイがしてあり、 下は勿論ズボンだ。 刺繍模様は海の女神テティスの横顔と羅針盤である。


 「ああ、 そうだ。 デザインはかなり悩んだらしいぞ、 そりゃまあ男子の制服作るのなんか初めてだからな」


 「後でお礼言わないとな」


 ケンジがそう言って制服に着替えようとする。 が、


 「……アンヌ」


 「なんだ?」


 「ここから出るか、 目瞑っていてくれないか? 」


 そう、 何故かアンヌは目を逸らすどころかケンジのことを凝視していた。 そこはかとなく怖さを感じる。


 「いや、 もう下着姿も見たんだし良くね? 別にパンツ脱がないだろ? 」


 「いや、 そりゃ脱がないけどさ、 精神的にっつーか、 普通に恥ずい」


 「……ああ、 なるほど」


 アンヌはニヤッと笑うとそのまま後ろを向く。 ケンジはズボンに手を掛け着替えながらアンヌに聞く。


 「アカネたちは? 」


 「アカネは生徒会、 カスミは一般生徒の所だ」


 「あ、 アカネって生徒会なのか」


 生徒会か、 案外似合うかもな。


 「もしかして、 書記とか? 」


 「お、 正解」


 「やっぱりな。 最初見た時から、 アカネはデスクワークタイプぽかったし」


 そう言ってケンジは着替えを終える。


 「さて、 着替えたぞ」


 「うん。 ……よし、 似合ってる似合ってる」


 「サンキュー」


 「この制服無くすなよ? この制服そのものが、 戦闘服になってくれる。 自分の思う服装にもしてくれる。 相当高いからな」


 ふと、 ケンジが頭に浮かんだ気になることを聞く。


 「そういやさ、 体育館に居るのって、 全校生徒? それとも……」


 「うん? ああ、 高等部だけだよ」


 予想通りの答えが帰ってきた。


 「高等部って何人? 」


 「五百四十人弱」


 「……やっぱ多いよな」


 「まあ、 他の学校よりかな」


 「他の、 中等部とかは? 」


 「生放送でそれぞれの教室に送ってる」


 「なるほど」


 ケンジはふぅーと息を吐きながら、


 「絶対緊張する」


 「それはない」


 二人して軽口を言い合っていると、


 「ケンジさん、準備して下さい」


 「お、そろそろか」


 アカネがステージの脇から顔を出した。心なしか何時もより真面目に見える。


 「あ、 結構似合いますね」


 と思ったら少し顔が緩む。 表情の移り変わり結構あるな! と衝撃を受けたところで


 「んじゃ、 ケンジ。 俺も向こう行かなきゃなんないから」


 「おう、 じゃあまた後でな」


 アンヌが手をヒラヒラさせながら出て行く。 ケンジとアカネだけが残った。


 「……緊張してます? 」


 「スゲー緊張してる。 人前で挨拶するような立場も、 やって来なかったしな」


 「まあ、 皆さんいい人たちばかりですから。 そこまで気を張らなくてもいいと思いますよ」


 「ああ……、 それもそうだな」


 ケンジが微笑む。 と


 『さて、 そろそろ新しい生徒を紹介します』


 ステージから確か、 生徒会長の声がした。 すると、 体育館のざわつく声の割合が一気に上がった。 確か、 ここは生徒総数が三千人を超えると言っていたハズ。 自ずと緊張の度合いが高まる。


 『では、 登壇してもらいましょう』


 アカネがステージ横の扉を開く。 ケンジは扉まで寄って一呼吸着いて、 ステージに出た。



 圧巻だった。 自分が通っていた高校とは比べ物にならないぐらいの生徒数。 やっぱり食堂がめちゃ旨いから、 今日まであまり見なかったんだな、 とかそういう訳分からない考えも浮んで来る。


 『では、 名前とちょっとした挨拶を』


 生徒会長よりマイクを渡される。


 『こんにちは、 初めまして。 高等部一年に入ることになりました、 三啼止ケンジと申します』


 全員ケンジの動き一つ一つに目を光らせてくる。


 ケンジは内心そこまで見てくる生徒たちに引いていたのだが、 それを悟られないよう言葉を紡ぐ。 しかし、


 『挨拶……、 やべそれ考えてなかった! 』


 ケンジの言葉に一気に場が弛緩する。 アンヌは笑っていたし、 アカネも苦笑していた。


 『え、 えと、 なんか簡単な挨拶でいいですよ? 』


 生徒会長が助け舟を出してくれる。


 『えっと、 取り敢えず、 男性唯一の魔法使いとかなんとか言われてますけど、 正直自分でも実感がありません』


 少し間を置いて言葉を発していくケンジを、 先程までとは違い、 体育館から緊張感を無くして皆聞いていた。


 『俺自身は、 すげぇ普通の男子高校生なのであまり、 お互いに変な気を使わないで過ごせたらな、 と思います。 えと、 そんなんでよろしくお願いします』


 ケンジが頭に手を置いて、 テレっとしながら頭を下げる。 すると、 自然に拍手が出てくる。 それが次第に体育館全てを包む温かい拍手へとなった。

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