三章-1
「……ん? 」
朝、 そろそろ起きる時間という時、 何故か少し暖かい気がしてケンジは薄らと目を開ける。
まだ視界がぼやけているが目の前になにかがあった。 それが暖かいのだろうか。 ケンジはなんとなく、 そのなにかに近寄ってまた眠りにつこうとする。
すると向こうも動いてくる。 ケンジがもう一回瞼を上げると目の前にピンク色をしたボタンが見えた。 何気なくそのボタンを押してみる。
「んっ……! 」
何故か喘ぎ声が漏れてケンジは一瞬で目が覚める。 そして勢いよく起き上がり隣を確認する。
アンヌが居た。
しかも裸で。
「うんっ……」
アンヌがゆっくりと体を起こす。 胸がその重さを伴って大きく揺れる。
「なっ……、 ! 」
「おう……おはよ」
アンヌはあくびをしながらことも何気に挨拶してくる。 朝は弱いのか、 昨日とは打って変わって、 儚げな印象がある。
最初は気にしていなかったがかなりの巨乳だ。 乳首は淡い桜色をしており、 まるで綺麗な蕾のようだった。 見ていると罪悪感に襲われるほどである。
そこでケンジは自分が下着姿であることに気が付く。 二時頃に一度起きて寮の周りを走って、 風呂に入ってからもう一回ベッドに入ったのは覚えている。
いつもだったら寝起きはもう少し良いのだが、 自分でも気付かないぐらい疲れていたのだろうか。 自分の寝間着が変わっていることにも気付かないぐらいに。
「ア、 アンヌ? な、 な、 なんでこ、 ここにっ? 」
自分でも分からないぐらいに口が回らない。
「いや、 なんとな〜くケンジと寝てみようかな、 って」
「お、 俺が張った結界は? 」
「壊しといた」
「どんだけ来たかったんだよ……」
ケンジの張った結界は確かに、 かなり強いとも言えないがそれなりに壊すのに時間がかかるものにしておいた筈だった。
「俺が下着姿の理由は? 」
「なんとなく脱がせといた。 替えの服もクローゼットに入れといたしな」
「なんでだよ! というのと服をありがとう、 っていう二つの感情を処理しきれねえよ」
「つ〜か、 なに焦ってんだよケンジ〜」
アンヌが笑みを浮かべてこちらに近づいてくる。 その笑顔はまるで幼い子どものようにも、 艶やかな大人の女性の顔にも見える。
「い、 いや。 てか、 なんで裸なんだよ? 」
「ん〜? オレは裸にならないと寝れないんだよ」
「そんなのありか……」
ケンジ自身、 女性の裸を見るのは決して初めてではない。 女性というか単純に姉と妹が居たからだ。
だが、 流石にここまでの美人の裸を見るというのは人生そうそうないものである。 ケンジは硬直し切っていた。
「でも、 まさかケンジがあんなことしてくるとは……/// 」
アンヌが頬を赤らめながらもニヤニヤして聞いてくる。
「あ、 あんなこと……? 」
ケンジがなにかしただろうかと記憶の中を漁る。
「まさか、 胸を触ってくるとはな/// 」
「んなっ……! /// 」
「しかも結構遠慮なく」
「い、 いや、 それはだな、 その/// 」
何か言おうとするものの全く言葉が出て来ない。
アンヌは毛布を被らずに裸身をおもむろに出したまま話しているし、 胸の感触を思い出し頭の中が真っ白になる。 その時、
「ケンジさん、 失礼します……よ」
タイミングの悪いことにアカネが部屋に入って来た。 もしかしたら起こしに来てくれたのかもしれない。
アカネのような美少女に起こしてもらう、 というのは普通ならばかなり有難いものだ。 だが、 今のこの状況ではどうだろうか。
「な、 ケ、 ケンジさん、 が、 学園長と、 な、 何を!? 」
ケンジ以上に言葉が繋がらないアカネ。 かなり焦っている。 それはかなり当たり前のことで、 そしてケンジも焦っていた。
最悪、 アンヌと二人だけの間でこの事が問題になるのは諦めがつくのだが、 そこに第三者が加わるとなると話はガラッと変わる。
「ア、 アカネっ……!? 」
自然と声が裏返る。 どうすれば良いのか一切分からない。 もういっそのことベッドに寝転がろうとも思ったが、 アンヌがまだベッドから降りていないため、 更なる誤解を生む可能性が高かった。
「違うんだ! アカネ! いや、 違うってその、 この状況は違くはないけど、 それでもその、 なにか誤解があるというかその」
「……学園長、 ケンジさんと何かしました? 」
アカネはスッと目を細めるとアンヌの方を睨みつける。 アンヌは飄々とその視線を交わしながら
「いや〜、 別に? 逆にオレがケンジにされた感じ? 」
「んなっ……! 」
「……ケンジさん? 」
アンヌの裏切り ( ? ) による言葉でアカネがこちらの方を向く。 表情に出ない怒り方をしているのは大体が本気でキレてる時だ。
「いや、 そのじ、 事故だから! 決して自分の意思で、 ってかそれがなにか分かった状態で触ったとかそんなんじゃないから……」
「……触った? 何を? 」
「あっ……」
思い切り気持ちのイイぐらいに墓穴を掘りダラダラと冷や汗を流す。
「何を? 触ったんです? ケンジさん? 」
「い、 いや、 その」
「オレの乳首」
「ぶはっ!? 」
「ち、 乳首……!? 」
アンヌがそのまま馬鹿正直にアカネに答えを返す。 アカネは体をプルプルと震わせながら魔導書を取り出す。
「ちょ、 ちょい待ち! ここで魔法使うの!? 」
「ケンジさん、 反省して下さい」
ケンジはそのままアカネから鉄拳制裁(というか魔法による制裁)を本気で味わい、 これからはもっと気をつけようと考え始めていた。
ちなみに、 アンヌはいつの間にか帰ったらしく、 部屋に残されたのはケンジとアカネだけになった。
「何処行った、 アンヌ〜!! 」
新しく作られた寮の一室から叫び声が溢れ出ていた。