二章-1
「さて、 改めて入学を祝おうかケンジ? 」
試験が終わり、 ケンジの入学が認められて二日後から通う事が決まった時。
ケンジはアンヌに招かれて学園長室に居た。 通う日までに寮そのものを作るらしい。
流石に、 女子たちと同じ寮というのは倫理的にダメとのこと。 ケンジもあまり知られたくない事もあるので大歓迎だった。
「寮さ、 なんかスゲー広い部屋とか欲しいんだけど」
「何に使うんだ? 」
「トレーニングルーム的な」
「それなら、 学園の地下にあるぞ」
「いや、 それとは別に欲しいかな。 龍の事とかあまり見せるものでもないし」
「なるほどな、 だが龍については少しでも話してもらうぞ? 」
「それは今度な」
ケンジがそう言うとアンヌは少しムッとした。
「……何故教えられないんだ? 」
「……俺の母さん、 つまり魔導神が関わってくる事だからな。 教えられない事の方が割合はデカい」
「そ、 そんなに魔導神という存在は大きいんですね……」
改めて魔導神の存在についての認識をアカネが把握したところで
「そういや、 ケンジ。 お前の髪の色って白髪だけど染めてるのか? 」
アンヌから突然質問されるが、 この質問はケンジも何回もされた事がある物だったのですぐに答えられた。
「いや、 これは地毛だよ」
「え、 地毛ですか? 」
「うん。 昔色々やってた所為で、 髪の色素が抜けたんだよ。 因みに、 今眼の色変えてる」
「え? マジ? 」
アカネたち三人がケンジの眼を覗き込む。 ケンジは魔法を解いて眼の色を見せる。
「わ、 本当だ……。 それも色素が抜けてるんですか? 」
「そうだよ、 色素が抜けて血の色が見えてるの。まあ、 もうここじゃ隠す必要も無いけどな」
「サングラスとかは必要無いのか? そういう奴らって瞳弱いんじゃねーのか? 」
「そりゃもう、 魔力だろ」
ケンジはさらりと言ったが、 ここにも普通の魔法使いからすれば疑問が湧く。
「それってつまり、 普段から常に魔力を使っているのか? 」
「ああ。 これぐらいだったら別に疲れないしな。 とは言え、 さっきも言ったけど、 ここでは別に眼の色赤くたってそんな目立たないだろうし、 魔法は解くけどな」
「ケンジさんはどれだけの魔力を持っているんですか……」
少しの間アカネたち三人は閉口させられたが、 気を取り直してケンジたちの歓迎会の話になった。
「ここ黄金の航海者の周りは学園を中心とした、 学園都市になっています。 なので、 パーティー用のレストランやカフェ等も沢山ありますよ」
「あ〜、 そっか。 そりゃ魔法使いは秘密の存在なんだからここから出る訳にもいかないのか。 あれ、 でもそれじゃあアカネはなんであそこにいたんだ? あの偽学校」
「あ、 それはこの学校の活動ですね」
「活動って? 」
「実はお前が出会ったあのルーシア、 だったか? アイツのいる組織フレグランスも勿論我々の敵だが他にも’’魔物’’と呼ばれる奴らがいる」
「魔物……」
「ああ、 そうだ。 奴らは何処から来たのかも分からない。 これまで人に害をもたらすことはまだ確認されていないが、各地の重要な遺跡に出現し周囲の自然にも悪影響を与えるんだ」
「悪影響て? 」
「例えば、 川が飲めなくなったり木に毒のある果実がなったりな」
「なるほど。 確かに、 そりゃあ人は暮らせなくなるわな」
その後結局話が脱線していったので近場のレストランで歓迎会をすることになった。
ケンジたちが来たのはイースト・ステージと呼ばれている場所である。 学園都市のイースト(東)側という意味のそのままの場所である。
ちなみにメンバーは、 ケンジとアカネ、 アンヌとハノネの四人である。
話に聞くとここが一番レストランやカフェ等が多い地区とのこと。 確かに周りを見ればその様な看板が多い。 寿司などの和食系やBAR等かなり種類が豊富なこともわかる。
「そういや、 ここは男性もいるのな」
ケンジは今気付いたことを半ば独り言の様に呟く。 てっきりケンジはここには男性が一人も居ないと思っていたのだが。
「ああ。 学園都市ってのはなんつーかな。 最初はここに黄金の航海者がぽつんとあってな。 で、 魔物たちに居場所を奪われた者や魔法の研究者たちが集まって都市になったんだよ。 今じゃ日本とは別の国扱いだけどな」
「なるほど、 だから遊び場とかも一般的な都市よりも多いのか。 ここから出る訳にも行かないから。 別の国扱いか……。 まあ、 その方が楽だけどな。 でも、 民家は無いよな」
「この学園都市の外側に民家があるんだよ。 魔法の実験とかで周りに被害が及ぶこともゼロでは無いからな」
「なるほどな」
魔物たちに居場所を取られた者たちからすれば頼れるのは魔法使いだけ。 ならば、 魔法使いの多い学園の周りに人たちが住むのも納得できることだ。
「と言っても日本と違うのは細かな法律だけ。 使ってる電波とかは同じだ」
「まあ、 そっちの方が分かりやすいけどな」
電波が同じというのは案外連絡を取り合う際にも便利だ。 隣り合う国で言語も同じ電波も同じ、違うのは細かい法律のみ。 これは確かに避難する時にも気が楽だ。
「で、 ここがさっき言ってたレストランだ。 値段の割に量が多いから学生たちもここで済ませる奴らも多い」
そこは、 ごく一般的に有り触れた形容をしていた。
テーブルの数はおよそ二十で、 強いて他のレストランとの違いを上げるとすればテーブル同士の間隔が他よりも少し広い程度だ。
確かにこれなら、 学生たちも余計な気を使わないで自然体で話ができるだろう。
幸い席も空いていた為、 すぐに通された。 が、 その近くに今日一日で嫌という程見た制服の姿があった。
「あ、 学園長〜。 こんばんは」
そのうちの一人がこちらに気付いて挨拶してくる。 栗毛をツインテールにしている子どもっぽい女の子だ。 他の子たちもみんな子どもっぽい容姿をしている。
よく見ると制服もアカネのとは異なっている。 もしかしたら小学部なのかもしれない。
しかし、 そうなると確かに遅いとはまだ言えない時間帯だが小学生だけで出掛ける時間とも思えない。
すると奥からもう一人が出てきてケンジを見て声を上げる。
「こんばんは! 」
「おう、 ケイか」
ケイと呼ばれた女子が頭を下げる。
短髪の黒髪で顔立ちは幼い。 スタイルも顔相応のものだったが、 意外にもアカネと同じ制服を着ている。 どうやら同い年らしい。
小学部の子たちのケイを見上げる視線に安心があるのがわかった。 おそらくケイがこの子たちの面倒を見ているのだろう。
「こんばんは! 美人なお兄さん! 」
「……美人て言わないでくれるか。 俺は普通の顔してるんだから」
「いや、 それは無いと思いますけど。 周りの視線見てくださいよ」
「周り? 」
言われた通りケンジは周りを見渡すと、 アカネたち三人とそれどころか小学部の子たちまでケンジを冷めた目で見ていた。
まるで 「え、 本当にこの人そう思ってるの? 無いわ〜」という感じだ。
なんとなく居心地が悪くなったのでケンジの方から話題を変える。
「……そんなことより」
「逃げましたね」
「逃げたな」
「逃げたのか」
「逃げちゃったよ」
「「「「逃げた〜」」」」
一気に顰蹙を買った。
ケンジとしてもかなり不本意だったので一気に聞きたいことを言うことにした。
「君がこの子たちの面倒を見てるの? 」
「あ、はい。そうですよ」
「えっと、 理由を聞いてもいいかな? 」
「理由ですか……? 声を大きくしては言えないですけど、 私たち身内が居ないので……」
みるみるうちに顔が曇っていってしまった。 よく見るとアカネもケンジを非難する目になっていた。
「ああ、 すまん! そんなつもりは無かったんだ」
「いえ、 魔物と会った事が無くて、 それでいて男性なんですからそれは当然だと思います」
「ああ、 そういえばケンジさんはほとんど何も知らないんですもんね」
ケイもアカネもケンジの境遇の方側に立ってくれたが本当であればケンジが自身が配慮すべきことだった。
いたたまれなくなったケンジが一つの提案をする。