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序章-1



 神は不平等だ 人に位という概念を与えたのだから


 神は無慈悲だ 人に死という概念を与えたのだから


 神は懇篤だ 人に愛を与えたのだから


 神は懇切だ 人に男女という違いを与えたのだから


 神は策士だ そうして無能な人間を増やし、信仰心を煽るのだから


 人間は傲慢だ 自らを最上の者と過信し、神を信じず下の者に慈悲を与えないのだから




 人間は劣等だ その考えすらも、 神の掌の上だとも気付かないのだから……





 俺、 三啼止(みなし)ケンジはこの瞬間のことを未だに覚えている。 それほど忘れられない事件だったのだ。


 だって信じられるか? 太陽が消えたんだぜ? パッと、 手品みたいに。 なのに誰も気にしてないようだった。


 不安でしょうがなかった。 俺の方が狂っていると言われた方が安心した。


 でも、 俺だけがわかっている。 これは異常だ。 でも、 ありえないことじゃない。


 少なくとも、 この世界では。


 そうだ、 異常だ。 そこに気付いた途端、 他の違和感にも気付いた。 気付いてしまった。


 例えば、 ケンジが通ってる高校は生徒数が千人を超えるマンモス校だ。校舎は六階建てで教師の数も多い。


 近くには幼稚園があってケンジも高校の活動で何回か行ったことがある。


 子どもらしい可愛い絵がたくさん飾ってあった。 虹があったり太陽があったり、 傘をさして笑顔で遊んでいる子どもたちの絵もあった。


 しかし、 ここにも不自然なところ異常な部分を見つけてしまった。 そもそもここに高校なんか無かった。


 ここから見える景色は元々通ってた場所とは全く異なる。 ここからの景色は遠くに大きな森が見えた筈だ。 それが、 ここからは全く見えない。


 ケンジが元々通ってた高校の制服だし、 校舎の形も一緒だったから気付かなかったが、 この場所には建物なんか無かった。


 いや、 厳密には廃墟があった。 ここはある研究所の跡地だ。 詳しくはわからないが、 相当曰く付きらしい。


 しかし、 何故かここに校舎がある。 ここは一体なんなのか。 ここは、 自分が居た世界なのか。


 周りの生徒たちを見ても、 全員目が死んでいる。 そう気付くと自分も死者なのではないか。


 そんな気がする、 でも、 一人だけ居た。


 生きている目をしている子が。


 ケンジの幼馴染みである光月リンカだ。



 「ケンちゃん、 どうかした? 顔色悪いよ? 」


 リンカはいつもの笑顔を少し曇らせて聞いてくる。 リンカは少し背が小さいが、 スタイルは悪くない。 世間一般的にも美人と言われる見た目だろう。 しかし決して派手ではなく、 地味目な印象だがそのお陰で付き合いやすい子だった。


 「あ、 ああ……。 なあ、 なんかここおかしくないか? 」


 「? なにが? 」


 とぼけている様子も無い。 でも、 ケンジには分かった。 今、 微妙に視線をずらした。


 「リンカ……、 知ってるだろ? 俺に嘘はつけないって」


 そう言うとリンカの顔が少しだが強張った。 しかし、 すぐに立ち直ると


 「別に嘘はついてないけど……、 ケンちゃんの言う違和感て何? 」


 「……、 そうかあくまでとぼけるか。 まあ、 いいや。 俺が言う違和感はな、 太陽が無いってことだ。 俺の目の前で太陽が消えたんだぜ? 違和感どころじゃねえだろ。 それに、 太陽が無いのに明るいなんておかしくないか? 他にも違和感のある所は幾つかあるが、 最大の違和感はそこだよ」


 ケンジが一番の疑問をぶつける。 さあ、 なんて返すのか。


 「太陽……ってなに? ここが明るいのは当たり前だよ? 朝と昼は空の色が変わることによって明るくも暗くもなるんだから。 大丈夫? ケンちゃん、 疲れたんじゃない? 一緒にお家帰ろう? 」


 ……、 ああ言ってしまった。 決定的な事を……。 リンカが俺に嘘をつくなんて、


 「嘘だな。お前の言葉は矛盾している。それにお前はリンカじゃないだろ? アイツは俺に嘘はつかない。 嘘をつけない。 嘘をついたらその動揺が心を伝って俺に来る。 そう出来てるんだ。 なのに、 お前からはそれが無いんだよ」


 アイツが俺に嘘をつくなんて有り得ない。 絶対に無い。 俺らの関係性は幼馴染みなんて言葉でさえも軽くなる。 そんな関係なんだよ……! 俺らは!


 目の前のリンカは絶句している。 それはそうだろう。 ケンジからまさかこんな事実が伝えられるなんて思っても無かっただろう。


 「い、 いや。 だとしても! 動揺してるだけ!? そんなので私が嘘をついているなんてわからないじゃない! 太陽なんてそんなの元々無いのよ! 」


 だから、 その言葉が矛盾してんだよ。


 「この高校の近くにさ、 幼稚園があるんだよ。 そこでさ、 子どもたちの可愛い絵が飾ってあったんだ」


 「だから、 何? 」


 「その絵には、 太陽が描いてあったぜ? 」


 「……! 」


 「おかしいよなあ? 元々この世界には太陽が無いのに、 何で太陽が描いてあんだよ? 」


「……」


 リンカは何か焦っている様な顔をしていたが、 突然


 「……はは、 あはは、 あはははははははははははははははははははははははは! まさかそんなので気付かれるとは! そのまま場所ごとここに移したのは間違いだったか! 」


 リンカが突然大声で笑い始めた。 しかし、 ケンジはその様子を冷めた様子で見ていた。 逆にこれまでの疑問が全て解けてスッキリしていた。 しかし、


 「そのまま場所ごと移した……? 」


 その時、 見知らぬ女性がケンジたちのすぐ横から歩いて来た。


 「それは魔法。 魔法とは自分の身体に流れるテシオン体と空中にあるテシオン体を己の身体を媒体に超常現象を発動させること」


 一言で言うなら、 美少女だった。 ケンジらと同じくらいの年齢だろう。


 学校の制服のようなものを来ている。 腰あたりまで伸ばした髪は綺麗な金髪。 胸も申し分なく大きい。 スタイルも完璧だった。


 身長はケンジより四センチ低い程度だろう。 おそらく百七十二センチ程。 女性としてはかなりの高身長。


 「魔法……? 」


 「まあ、 俄には信じられないでしょうが事実、魔法は存在しています。 おそらくこの現状は空間魔法によって校舎とその周りを異空間に移したのでしょう。 だから太陽が無いのだと思います。 ここまでの規模の空間魔法など見たことはありませんが。彼女を倒せば元の世界に、元の空間に戻れますよ」


 異世界ではなく異空間ということか。 つまり、 魔法使いも異世界の人間ではない。


 「貴様……魔法使いか? 」


 リンカはさして興味も無さそうに彼女に問いかける。


 「ええ、 桐中アカネと申します。 以後、 お見知りおきを」


 「ふん、 すぐに忘れてやる」


 そう言うとリンカは正に、 目にも止まらぬスピードでアカネに肉薄する。 アカネは目を見張るとすぐに場所を移す。


 リンカが着地した場所にはクレーターが出来ていた。


 「想像以上の強さですね……、 魔法についてなにも知らない。 そして、 将来魔法に関わることの無い男性の前で魔法を使うのは本来禁止なのですが、 仕方ありません」


 アカネはそう言うと、 いつの間に取り出したのか片手に分厚い本を持っていた。 イヤに古臭い物だったが、 何かが発動される。 それだけは分かった。


 「私の体内に流れるテシオン体に告げる! 私の言葉と意思に免じて力を与えたまえ! 」


 アカネの服装が変わる。 制服だったものから、 より活動的な格好に。 スカートを履いて上はタンクトップにジャケットの様な服装になっていた。


 「私の属性は雷! 貴女の様な動きの速い相手には相性の良い属性です! 」


 アカネが魔導書(おそらくそれで合っている筈だ)を手に魔法を唱える。


 「雷追撃!!」


 確かにリンカの動きが速いと言っても雷は光だ。 そのスピードは音の千分の一秒だと言われている。 だがケンジが見る限りリンカのスピードは……


 「なっ!? 雷より速く動く人間なんて! そんなのが!? 」


 「雷よりも私のスピードの方が少し速かったようだな。 流石に雷とスピードで競った事など無かったから少し不安だったが。 ああそうだ、 私の名前を告げていなかったね。 私の名前はルーシアだ」


 アカネは驚愕によって身体が全く以て動ける様子に無かった。 しかし、 ケンジの姿を認めるとすぐに身体を動かし


 「何してるんですか! はやく逃げてください! 魔法を使えない男性が、 魔法使いの私でも勝てない相手と戦うことなんて出来ないんですから! 」


 「さっきからアンタ何回も言ってるけど、 なんで男性は魔法が使えないんだ? 」


 「テシオン体が男性には流れていないからです。 テシオン体は清楚な女性にしか流れていないもの。 男性と交わればテシオン体は空中に消える。 それが魔法使いというものです」


 アカネはゆっくりとそう話した。 戦い方を見るに恐らく、 実戦よりも机と向かい合っている方が性に合うのだろう。


 「ん? じゃあどうやって魔法使いは増えるんだ? 結婚して子ども産んでももう母親の身体にはそのテシオン体ってのが流れてないんだろ? 」


 「テシオン体は空中に消えたあと、 産まれた子どもに定着する場合もあれば、 全く関係の無い子どもにテシオン体が現れる場合もあります」


 「つまり……、 魔法使いってのは超レアなのか? それじゃあ産まれる可能性なんか全然少ないだろ? 」


 「ええ、 だから魔法について知らない人が多いんですよ」


 「お主ら、 そうやって普通に話しているが私が居ること忘れてないか? 」


 少し拗ねたような口調でリンカ。いや、 ルーシアが聞いてくる。


 「ええ、 なのでこれから逃げますよ。 今の私では貴女には勝てませんから」


 「賢明な判断だ。 しかし、 ケンジはどうするのだ? まさかこのままこの場所に残すわけにも行くまい? 」


 「ケンジ……、 それが彼の名前ですか。 この場所から一緒に逃げた後、 ここでの記憶を消して元の場所に残して来ます。 恐らく普通に暮らせる筈です」


 「なるほどなるほど。 まあ、 この私が逃がす筈が無いがな」


 そう言うとルーシアはさっきよりも数段速い速度でこちらに向かって来る。


 「ほら、 一緒に逃げますよ! 」


 しかし、 ケンジは


 「いや、 逃げても無駄だろ。 アンタも見てたろ? アイツのスピードからは逃げられない」


 「……!、 でも! 」


 ケンジとアカネはすぐに飛び退いてルーシアの突撃を躱す。


 「このままじゃ死んでしまうんですよ!? 私はまだやり残した事がある! それを達成出来ずに死ぬなんて……」


 「まあ、 アンタは見たところデスクワークタイプっぽいしな。 戦うのは慣れてないんだろ? 」


 「な、 何故それを!? 」


 「魔法の発動スピードが雷の属性にしては遅すぎる。 それじゃあ宝の持ち腐れだろ」


 「な、 なんで発動スピードのことを……? 」


 ルーシアがあのスピードでこちらに向かって来る! アカネの引きつった顔が見えた。


 「ケンジさん! 」


 ケンジたちはルーシアのスピードによって起こされた衝撃と光に目が眩んだ。

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