この世界と母の記憶(2)
……何度も
…………何度も
何度も何度もなんどもなんどもなんどもナンドモ
私が死んでいく
時には斬られ
時には魔法で
時にはギロチンで
様々な死に方で
それは本の中でだったり、不思議なからくりの画面の中でだ。
だけどそれは私が体験するような形の映像となり頭の中に流れてくる。
死ぬ時の痛みが私に伝わってくるような鮮明なビジョン
この目線だとまるで私の世界は物語のようだ。
いや、実際そうなのだろう。
お母様の……いや、誰かの記憶?のはずなのに
私に待ち受ける未来というように
この現実でも起こりうるということを突きつけてきた。
物凄い吐き気が襲ってくる。
その時
突然景色は写り変わり
沢山の人々が行き交う道に立っていた。
吐き気は消え失せている。
景色が変わったおかげだろうか。
周りには見たこともない高くそびえ立った建物がいくつもあり、色んな雑音が混ざり合い
箱形の何かが高速で移動していて、空には大きな鳥の様な形をしたのもが雲で線を描きながら飛んでいる。
あれらはどうなっているのだろう?
やはりどう考えても私の世界ではない
……よね?
違う文明が発展しているようだ。
そんな世界で生活している誰かの記憶。
穏やかで平和な世界の記憶だ。
見たこともない景色ばかりで心が踊ってしまう。
しかし突然それも終わりを告げる。
先程から高速で移動している箱型の何かの目の前へ、小さな女の子が誤って飛び出してしまった。
記憶の誰かは助けようとその子に駆け寄り……
そこで記憶が途切れた。
死んでしまったの?
あんな早さの物体の目の前に飛び出したのだ。
それも無防備な状態で……
きっと助からなかったのだろう。
暗闇の中から私の意識が浮上してくるのがわかる。
その時微かに聞こえた。
お母様の声で「私の日記を読んで。」…と。
それから私は目を覚ました。
目からは勝手に涙が出ている。
長い長い記憶の旅だった気がしたけど、外を見たら夕日が沈みかけている状態だったからそんなに時間はたっていないのだろう。
そしてわかったことがある。
私はこのままだと遠くない未来に…
死ぬかもしれないと。
お母様の…いや、お母様の前世の記憶をみてわかったのだ。
前世の記憶にある物語の世界とこの世界は凄く似ているらしい。
もちろん違うところもあるが、それに気づいたお母様は自分の役どころについて悩まされた。
主人公の選択肢で死に方が左右される悪役令嬢の母親だということに。
そして自分がお腹を痛めて産んだ愛娘を何とかしてやりたいと、幸せな未来を掴んでほしいと思い
できる限りのことをしてくれたようだ。
自分の時間を犠牲にして、私が生きる方法を考えてくれたのだ。
物語を思い出すも同時に設定通りなら自分の命も長くはないと思い出したお母様は私と過ごす時間を本当に大切にしていてくれた。
お母様はたとえ前世の記憶が蘇ったとしてもお母様として私を愛してくれた。
そして自分の運命は変えられずお母様は亡くなってしまった。
私に沢山のものを残してくれたのは嬉しい。
でも…
私がいなければ…
お母様は自分の時間を犠牲にせず、治療に専念できたのではないだろうか?
もっと長く生きてくれていたのだろうか?
そう思わずにはいられない自分がいる。
様々なことが一気に頭に流れこんできたせいか、思考がぐるぐるする。
普通に考えて、こんなことをすぐに頭の中で整理できる人はいないだろう。
とりあえず私は、お母様の日記を読むことにした。
日記を探すと、机の中にしまってあったので簡単に見つけられた。
そこに記されているのは、前世の記憶が蘇ってから死ぬ前日までのこと。
お母様の苦悩と私やお父様をいかに愛しているかがわかる文面だった。
そしてお母様が亡くなってしまったのを自分のせいだと、責めるなと書いてある。
私が後からこうして悩むって全てお見通しなのね。
他にも前に進めとか、自分はけして運命通りに死んでしまったわけではない、だから運命を変えて生きて…とか
私を励ます言葉ばかり。
私は泣きながらだけど、少し笑みがこぼれた。
泣くのはこれで最期にしよう。
お母様にいつまでも心配をかけるわけにはいかない。
強く…強く生きよう。
その日を境に
私は泣かなくなった。