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この世界と母の記憶(1)

「悲しい時こそ前を向きなさい、逃げてしまった時にはまた立ち向かいなさい、振り返ることはあっても歩みを止めず進みなさい、才に溺れず努力し続けなさい、神様はあなたに意地悪かもしれないけど、努力する者にはこの世界は優しいわ。


だから泣かないで…」




ーーーーベリル……ーーーー






名前を呼ばれた気がして目を覚ます。

ベッドに横たわった私は寝起きで虚ろな目のまま天井を見上げる。



「お母様?」



そう、さっきの声は確かにお母様の声だ。




もう……、現実では聴くことができない声。

さっきのはきっと夢の中だったから聞こえていたのだろう。


いつもは凛としているけど、私の名前を呼ぶ時はとびきり甘く優しく温かくなる声。


私の大好きなお母様の声。



夢で泣くなと言われたばかりなのに、私の目からは一粒の涙が落ちた。





ーーーー

ーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー



魔力を主に原動力とするこの世界。


私が住んでいるのはその世界の大国の一つ、サーディウス王国。


この国には六大貴族と呼ばれる家がある。


なんでもかつてこの世界には魔王という存在がいて、人間に災厄をもたらしていたそうだ。


そしてその魔王を討つべく立ち上がった7人の勇者が見事に魔王を倒したという、そのうちの1人が王になり、6人は国王を支える貴族となった。


実際にあった出来事だというこの伝説。

国王を支える6つの貴族こそが現在六大貴族と呼ばれるようになったのだ。


光の属性を司るホーリック王家。


火の属性を司るバーン家。

水の属性を司るアクアネス家。

地の属性を司るグランド家。

雷の属性を司るボルト家。

闇の属性を司るシャドウ家。


そして私の家。


風の属性を司るシルフィード家。


そのシルフィード家の1人娘がこの私。

ベリル・シルフィードです。


現在シルフィード家の当主は私のお父様


ユリウス・シルフィード。


シルフィード家の血を色濃く引き継いでいるお母様


エメリア・シルフィード。


元々お母様がシルフィード家の一人娘だったので、お父様が婿養子なのだそうだ。



お父様は仕事が忙しく家にあまり帰ってこないため、いつもそばにいてくれるお母様の方が大好きだった。


お母様は私に色々なことを教えてくれ、沢山の愛を注いでくれていた。






しかし私が10才になったばかりの時に突然の病で亡くなってしまったのだ。




お母様が亡くなって三ヶ月がたとうとしている。


私の心にはぽっかりと穴があいていた。



そのせいで部屋に引きこもってばかりだったけど、最近やっと外にでるようになった。



いつまでも落ち込んではいられないものね…。

お母様に顔向けできないわ。



それに、強く優しく美しかったお母様はこのシルフィード家に生まれたことを誇りに思っていた。


私もシルフィード家の令嬢たるもの、お母様のようにありたい。


悲しみは癒えないだろうけど、昔お母様が言っていたように前を向いて進まないと。


あのクールで無口なお父様も私のことを心配していたというし。

ちなみにお父様のような人をお母様いわくクーデレというらい。




令嬢として社交の場での稽古や、魔法の勉強を再開して気合をいれていくわよ!







と思った矢先。






お父様が突然帰ってきました。


自然と強く結び着いたシルフィード家の本邸は王国の中心にあるお城から半日ほどかかる距離がある。

なんでもこっちの方が自然が綺麗だからだそうです。


そんなことよりも、距離のある城に務めている父が突然帰ってきたのは何故なのでしょう?



「ベリル…部屋からでてきたのだな。


こんな時にもってくる話題ではないと思うのたが、陛下からの提案だからしなければならない。」



私の目の前に来て珍しく沢山喋ったと思ったら、陛下からの話だっとは。


驚きつつも頷いて先をうながす。



「実は……


第二王子、カイル殿下の婚約者にベリルが決定してしまった…。



無論…

あのガキにまだベリルを渡す気はないが(ボソッ)」



それを聞いて私は何故か寒気を感じた。

けしてお父様の呟きが聞こえてしまったからではない。……きっと違う。


この話は前々からあったのだが、殿下とは一度しか会ったことがなく、会話もほとんどなかった。


前に婚約者候補として私の名前が指名されたらしいとお父様から聞いたときは、顔もうっすらと思い出す程度だったしはっきり言って何の驚きも実感もなかった。


それにお母様が猛反対していたので、まさか実現するとは思っていなかったのだ。

お母様は私がちゃんと愛せる相手を自分で見つけてほしかったのかもしれない。


ちなみにお父様とお母様は実は恋愛結婚なのだ。


貴族の中ではより高い身分との婚約を、と思っている人がほとんどなので珍しいのかな?

いつか詳しい馴れ初めを知りたいものだ。


それにしてもこの婚約がタイミングを見計らって決定されたようで胸糞悪い。


普通喜ぶか驚くかをするところだろうが、私はそれ以前に寒気を感じたし。


第二王子。

王家の血を引く者と婚約できるなんて本当は嬉しい話題のはずなのに。


もしかしてお父様は私の心にぽっかりと開いてしまった穴を婚約者でうめてくれようとしている?


確かに殿下は私と同い歳で、仲良くなればきっと心の支えになるだろう。


だけど…


なぜ私は喜べない?


さっきから胸の奥がざわざわする。




正直断りたいが陛下からの提案だしお父様は大丈夫なのだろうか?

決定されたことなのだから尚更無理だろう。


断って何か迷惑をかけてしまうのでは?


お母様を亡くして、お父様も表情にはあまり出さないようにしているのだろうが物凄く悲しんでいる。

辛い……辛いもんね?


そんな傷心したお父様に

面倒が振りかからないだろうか?


「私も突然のことで…。なんと言ったらいいか。

それに、第二王子とは一度しか会ったことがありませんし。

とりあえず理解はしました。実感が湧きませんが……、お家同士の取り決めたこと。この場合相手は王家ですし、私が嫌とは言えません。」


お父様の立場が悪くなってはいけないと思い、この答えをだした。


それに第二王子のことは印象が薄いというだけで嫌いというわけではない。

もしかしたらこれから好きになることだってあるかもしれない。



その答えに何故かお父様は一瞬苦しそうな表情をみせた。



「……そうか。いや……、すまんベリル。」


何故謝るのか、一体何に対する謝罪なのか私にはわからない。

そっと首を傾げてみせる。


「一応承諾ということにはするが、俺からも陛下に色々と言わせてもらうことにしよう。」



そうして私の頭をひと撫でしたお父様は、またお城へと戻りました。




「……はぁ。」


お父様を見送った後ついため息がでる。



どうも胸騒ぎがするんだよなぁ……



お母様風に言うと


風がざわついているぜ



口調を真似するのはいいけど、けして人前で使うなとお母様が言っていた…………


確かに令嬢として…淑女としてはダメよね。




とりあえず今日は稽古も何もないし、久しぶりにお母様の部屋に行こう。


何故か行かなければならない気がしたのだ。


亡くなった後もそのままになっているお母様の部屋へ。

沢山の思い出が詰まっているので、あまり行きたくないと思っていた筈なのに……。




…この胸騒ぎの答えがそこにあるのだろうか?




お母様の遺言で、部屋の鍵は私が預かっている。

スペアは執事長のセバスが厳重に保管しているとか。



さっそく中へ入ると、窓から沈む夕日の光が差し込み部屋をオレンジに染め上げている。



「…懐かしい。」



思わず声に出す。


また込み上げてきた寂しさを振り払うように歩きだし。

生前お母様が使っていたベッドの前まできた。



「お母様、私…このまま婚約してしまうのかしら。ほとんど会ったこともない人と。」


そこでぽつりぽつりと語りだす。お母様への報告のつもりだ。

なんだかどこかで聞いてくれている気がして。



「なんだか嫌な感じがしたの。相手は王族なのにね?

不思議よね、何故かしら?お母様ならわかる?」


お母様は物知りで

私の質問になんでも答えてくれていた。

魔術師として色々な研究にもたずさわっていたらしい。



「カイル殿下。

全然喋ったこともないし。


いったいどんな方なのかしらね?」



何気なく呟いた一言。


するとその時、背後で凄まじい光が生まれた。


驚いて振り向くと、そこには……



お母様の形見である、深紅の宝石が付いたペンダントが輝きなら部屋の中心に浮かんでいたのだ。



正直ひびった。


おっといけない、あまりの事につい我を忘れてしまったわ。


恐る恐る近付き、浮かぶペンダントにそっと触れると…


さらに強い光が私を包みこんだ。



次の瞬間、私の頭の中にありとあらゆる知識と記憶が流れ込んでくる。



痛い!頭が割れてしまいそうなほどに。


だけどペンダントは離さず握っている。いや、手が離せないのだ。


頭を抱えなからひたすらたえる。


激痛とは裏腹に、包み込んでくる光は温かくて優しい。






あぁ……知っている。





この温もりはお母様のもの。




この知識と記憶はお母様のものなのね?





…………そこで私の意識はプツリと切れた。








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