プロローグ
むかしむかし、あるところに。
それは美しい妖精のようなお姫様がいました。
ところが、その美しさに嫉妬した悪い魔女によって深い眠りにつく魔法をかけられてしまったのです。
さらには、眠りについたお姫様を森の奥にある塔に隠してしまったのでした。
そこにたどり着くには、鋭い棘がある茨の道を通り抜けなければなりません。
迷路のように生い茂るそれのせいで、助けに行こうとしたものは皆帰らぬ人となりました。
これも悪い魔女の仕業なのでしょう。
やがて助けに行く人がどんどん減り、皆あきらめかけていた時…
勇敢な王子様がお姫様を助けるために森へ入ったのでした。
その王子様は茨の棘にが自分の体に刺さろうともあきらめず進み続け
月が高く登った頃に
ようやくお姫様のもとへたどり着いたのです。
王子様は横たわるお姫様を起こそうと
声をかけたり、揺さぶったりしました。
それでもお姫様は目覚めません。
魔女の魔法は簡単にはとけないほど強力だったのです。
床に広がる絹のような深緑の髪も
透き通る陶器のような肌も
花弁ような唇も
月の光に照らされて儚げに輝くだけ。
「どうか目を開けておくれ、その綺麗な翡翠の瞳をもう一度僕に見せてくれ。」
王子様は愛おしそうに寄り添います。
そう…2人は恋人だったのです。
王子様がけしてあきらめなかったのも、それが理由。
恋人を失ってしまうかもしれない恐怖に、王子様の目からは自然と涙がでてきます。
その雫がお姫様の頬に落ちました。
すると……
お姫様がそっと瞼を開けたのです。
王子様は喜びました。
魔法を解く鍵は愛する者の涙だったのです。
ロロナ・シャルラーク署
ヘンブリッツ童話シリーズ『 茨の姫君』より抜粋