第六話 サラ
前回の更新で2500pv突破とお伝えしましたが
その後すぐに3500pv突破し、間もなく4000に達しそうです。
本当にありがとうございます!
フカフカのベッド、暖かい布団。徐々に覚醒していく意識の中で、自分は寝てしまっていたのだと理解する。
それと同時に何かに抱き付き、何かに抱かれている。こちらも暖かくスベスベとした滑らかな手触り。ほんのり優しい匂い。どこか懐かしさを感じるような落ち着くこの感覚は久しく感じていないもの。
思わずそれを抱き寄せる。
すると顔に柔らかいものが押し付けられる。とても気持ちのいい感触で、ついもう一度押し付けてしまう。
「・・・んっ!」
え?
思わぬ声にゼオンは目を開け、それをかく確認する。
目の前には綺麗な白い肌に、柔らかそうな双岳。その頂上にはピンクの綺麗な・・・
「う"わぁっ!!!」
ゼオンはお驚きのあまりベッドから転げ落ちてしまった。起きたら美女とも美少女とも言える女性が裸になって隣で寝ていたのだ。
「・・・ん?なんだ、起きたのか。おはよう、ゼオン」
「あぁ、おはよう・・・って!そうじゃねぇだろ」
ゼオンの隣で寝ていた女性、サラは首を傾げる。
「どうしたのだ?」
「どう・・・なんで裸で寝てんだよ」
「あぁ、その方がゼオンが暖かいと思ってな」
「なんでそうなる?」
「主人に尽くすのは当たり前ではないか?」
「・・・」
何を言っている?といった表情で当たり前の事を、当たり前のように言うかの如く答えるサラにゼオンは何も言えなくなってしまった。
気を取り直して立ち上がろうとするが。
「おっと」
しかし、フラついてしまった。
「まだペナルティーが続いているようだな。もう少し横になってた方がいい」
まだ休んでいるように言うサラ、それに対してゼオンは。
「そうしよう。だがその前に」
「ん?」
「服を着てくれ」
「そう面と向かって言われると流石に恥ずかしいな」
布団で体を隠すようにしながらサラは呟いた。
「あ、そうだった。向こうにお風呂があったんだが、入るか?」
「お風呂?」
「知らないのか?お風呂というのは・・・」
「いや、風呂というのが何なのかは知っている。風呂まであるとは思わなくてな」
「そうなのか。中々に凄いお風呂だぞ?」
サラに風呂に入るように進められたので入ることにしたゼオン。しかし、足取りがおぼつかないのでまた獣化したサラに背中に乗せて貰い、風呂があるという場所にむかう。
「癒しの湯?」
まるで温泉宿のような名前だった。
「見てみろ」
「あ、あぁ」
戸を開けてなかを見ると。
「風呂ってか、温泉じゃねえか」
見た目は風呂ではなく温泉だった。
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「あ"~、いい湯だ」
オッサンのようなことを言うゼオン。いや、前世の記憶がある分、精神年齢はオッサンと言っても過言ではない。
しかし、足を伸ばして入れる風呂などあの事故死以来、本当に久しぶりなので仕方がない。
「・・・・事故っていうか完全に殺人だよなあれ。あのあとアイツはどうなったんだろうな」
久々の温泉(?)に生前のことを思い出すゼオン。アイツとは浅倉 誠也だった頃のゼオンを引き殺した元上司のこと。
「何でこんなどうでも良いことを思い出すんだよ・・・」
考えていた事をぬぐい去るように、わざと豪快に顔を洗う。
しかし、モヤモヤしたものが残る。
どうでも良いとは思っていても、やはりあの元上司を許せないのだ。
あんな企業でもゼオン、誠也は頑張ったのだ。だからこその実績であり出世なのだ。それに比べ、元上司は企業の上層部に媚を売るだけでほとんど実績を挙げていない、言わば無能上司だった。そんな奴に逆恨みされ、殺された。誠也にだって両親や妹という家族がいた。割り切ってはいても、やはりそれを考えると怒りが込み上げてくる。
それでは駄目だ。
バシャアン!!!
風呂の水面を叩く。
「俺はもう誠也ではない。ゼオン・マークスだ!」
誰でもなく自分自身に言い聞かせるように言う。
別に誰かに答えて欲しかったわけではなかったのに。
「ゼオンはゼオン以外の誰だというのだ?」
それに答える者がいた。
「サ、サラ!?」
声に驚き振り向いたその視線の先に、先程起きたときの用に全裸になったサラの姿があった。
そして、ゼオンの隣に浸かる。
「いい湯だな」
「なんで入ってきてんだよ!別々に入るって言ってなかったか!?」
「そうなんだが、主の背中を流すべきだと思ってな?」
「はい?」
「それとも、私では嫌か?」
不安そうに上目使いで見てくる。
「別に嫌って訳じゃねえよ・・・」
その言葉にホッとした表情をし、すぐに切り替えて聞いてきた。
「それより、どうしたんだ?自分の名前を叫んだりして・・・」
「え?あ、いや・・・」
つい叫んでしまった事をどう誤魔化そうかと悩むゼオンだったが、それはすぐに杞憂に終わる。
「無理に言う必要はないさ。もし必要なことなら話してくれるだろうしな」
「は?」
「聞いて欲しくない事だったのではないのか?」
「・・・あまりな」
少々曖昧な答え方になったがそれを聞いてサラは微笑んだ。
「ゼオンのことは詮索しないよ」
「・・・」
ゼオンは思わずサラを見る。
「どうした?」
「いや、なんでそんなに俺のことを?」
「ゼオンは私の主だ。主に尽くすのは当たり前ではないか」
またも当然といった様子で言うサラ。
「確かにそうかもしれんが、それでも昨日今日会ったような奴にそこまで尽くせるものなのか?」
サラとゼオンが出会ったのは、つい昨日の話であり、サラのゼオンに対する接し方はまるで長年連れ添ったような感じだ。そこまでする程の信頼できる要素が何処にあるのか、ゼオンはそれが聞きたかったのだ。
「私がゼオンに襲い掛かったとき、君は一瞬で渡しを組伏せた。その瞬間、ゼオンの強さを目の当たりにした気分になってな。同時にこの人にはまだまだ底知れぬ力があるんだと思った」
サラは神獣という存在だ。それを一瞬で組伏せたゼオンの力はそれだけで充分に示せた。それでもサラはゼオンは本気でやってないんだと本能で察したのだ。
「そして、この人になら私の全てを捧げてもいい、捧げたいと思えたんだ。それに・・・」
サラは少し頬を赤く染めて、
「あんな格好を無理矢理させられて見られたんだ、他の誰かに仕えるなど無理だ・・・」
「そっか、腹を相手に見せるという行為は服従だったりするもんな?」
「!・・・普通の動物ならそうだが、神獣はちがう」
サラの頬の赤みが増した。
「神獣、特に私の種族においては裸を見られる以上に恥ずかしいことなんだ」
「え?」
裸を見られる以上に?
ゼオンは思い出す。襲い掛かってきたサラに何をしたのか。
先程から言っているように、組伏せて、あお向けで押さえつけていた。裸の女性を押さえつけていたようなものだ。そこまで考えたゼオンは。
「すみませんでしたぁぁぁぁ!!!」
申し訳なくなって全力で謝った。
「ゼ、ゼオン!?いきなりどうしたのだ!?」
「いや、そんな恥ずかしい事とは知らず」
「気にすることではない・・・」
「けどさ」
「今では見られたのがゼオンで良かったと思っている」
「は?どういうことだ?」
「神獣とは言え、私も女だ。自分よりも強い殿方に引かれるのは当たり前さ」
サラは顔を上げてゼオンを見つめる。
「・・・まさか?」
「私は神獣として仕えると同時に、女としてゼオンに尽くしたい」
サラからの突然の告白だった。それも昨日会ったばかりの何者かも分からないような奴に対して。
「何故そこまで俺のことを信用できるんだ?俺が悪者だったらどうするつもりだ?」
「大丈夫さ」
「なんでそう言い切れる?」
「ふふ。神獣の勘と女の勘だな」
「勘かよ。他には無いのか?その勘を裏付ける根拠みたいなさ?」
「そうだな、長年の勘と最近の勘かな?」
「結局勘かよ!」
返ってきた答えが全て見事に勘だったことに苦笑してしまうゼオン、それを見てサラは楽しそうに言う。
「ちゃんとした根拠ならある」
「あるのか・・・」
「そうやって私の戯言に付き合ってくれるところさ」
「・・・それがどう根拠になるんだよ」
ゼオンとしては少々意味不明な答えだった。
「ゼオンは優しい人だと感じるんだ」
「・・・」
微笑むサラ。その笑顔はとても妖艶で、ゼオンは自分の頬が熱くなるのを感じ、あわてて顔を反らす。
「ふふふ。さて、背中を流そう。こっちに背を向けてくれ」
ゼオンは無言で背を向ける。サラは持参してきたタオルでゼオンの背中を拭き始めた。
ゼオンの体つきはどちらかと言えば細いといった具合だ。しかし、それは服の上から見たらの話であり、実際には筋肉が凄い。ムッキムキというわけではなく、とても引き締っており、無駄な脂肪と筋肉が付いていない、それでも血管が浮き出そうなほどにたくましい筋肉だ。細マッチョと言える。
「こうして見ると、結構広い背中なんだな」
「なんだよ、いきなり」
「いやな?思ったより広い背中してると思ってね」
「そんなに広いのか?」
「大きくて、たくましい背中だ。ほら、抱ききれない」
「サ、サラ!?・・・!」
突然抱き付いてきたことに驚きの声を上げるゼオンだったが、気づいてしまった。
「・・・大丈夫か?」
サラが震えていることに。
「私は封印されている間、ずっと一人で眠り続けてきた」
遥か太古より封印されて以来ずっと一人で生きてきたサラは想像するのは難しい程の孤独を味わってきたのだろう。
「正直、寂しかったのだ。いつまで続くか分からない独りだけの時間がいやだった。そして怖かったのだ 」
「・・・」
ゼオンは無言でサラの言葉を聞き続ける。サラが言い終わるまで何も言うべきではないと悟ったからだ。
「だから封印を解いてくれるのは誰でも良かったのだ。はやくこの寂しさから、孤独から解放して欲しかった」
サラのゼオンを抱き締める腕に力が入る。
「そしてゼオンに解放された。だが今度は、また独りになるのではないかと怖くなってしまってな・・・私の身勝手だ。突然こんな話をしてすまなかったな」
そう言って腕を放し、再び背中を拭き始めたサラだったが、
「わわっ!?」
今度はゼオンがサラを正面から抱き締める。
「身勝手なものか、独りが寂しいのは当たり前だ」
「ゼオン・・・」
「サラ、お前はすげぇよ。何万年、何億年も独りで生き続けて、下手したら永遠に解かれないかも知れない封印が解かれるのをひたすら待ち続けるなんざ、俺には無理だ」
「・・・・」
「また独りになるのが怖いと言ったな?」
「・・・・」
サラは無言で頷く。
「怖がる必要はない。俺がここに居る」
「!」
「何があってもお前を独りにはしない」
「ゼオン・・・うっ・・・・」
サラはゼオンにしがみつくように抱き締め返して大粒の涙を流し始めた。
「だから安心して俺に仕えろ、俺に尽くせ。神獣としても女としてもな」
「っ!」
これがサラに対する答えだった。サラはゼオンの顔を見るために一度体を離す。そして、見つめ会う二人、流れる沈黙。だがそれは次のゼオンの行動によって崩れた。
「んむっ!??」
突然の口付け。そして口が離れ、ゼオンは言った。
「サラ、お前は誠意を持って俺に尽くそうとしてくれた。だから俺も誠意を持ってそれに答える」
再び抱き合い、唇を重ねる。ソフトだった口付けが徐々に激しくなっていく。
「サラ」
「ゼオン」
二人はお互いを求めあった。
その後、ゼオンが色々と早すぎじゃね?と自分にツッコミを入れたのはここだけの話。