第五話 ペナルティー
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「・・・これ、売ったらいくらするんだ?」
ゴーレンから抜き取った魔石を眺めながら呟くのはゼオン・マークス。
「まぁいいか」
そう言いながらターバンとマント、そしてフリューゲル等を納めたベルトを装着する。
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・
ゴーレンを倒したことで更に奥へと進む扉が出現する。
出現した扉へ向かって歩き出したころにやっとゴーレンとの戦闘が終わり、この迷宮も間も無く攻略なのだという実感が生まれ、ゼオン自身も緊張の糸が切れるのを感じた。
しかし、それがいけなかった。
ビキッ!
「んがっ!」
突然の筋肉痛にも似たような痛みが全身に走る。
「んだよ!これ!いででででで!!」
リミッター解除
スキル効果:体中のストッパーを取り払い、極限まで肉体を強化できる。ただし、肉体に過剰な負担が掛かるため、使用後はペナルティーが発生する。
使いすぎると死の危険がある。
怖いスキルだった。
ゼオンは痛みを堪えながら出現した扉、宝物庫の入り口へと向かう。
冷や汗が凄まじいほどに滲んでいる。表情も苦しそうだ。
どうにか宝物庫の扉の前にくると門番を象った2体の10メートルはある巨大な像が槍を持って仁王立ちしている。扉の左に立っている像は左手に槍を持ち、右手を左胸に置いている。因みにゴツいおっちゃんみたいな体格と顔つきをしている。逆の右に立っている像は右手に槍を持ち、左手を右胸に置いている。こっちは細マッチョの爽やかそうな顔つきをしている。
一歩前に出ると。
ガゴォ!
ゴツいおっちゃんの像がこちらを向いた。
『貴様がガルディアの試練を乗り越えし者か。貴様のその力を称え、この奥へと進む資格を与えよう』
言い終わると右手をゼオンにかざして神秘的な光を放ち、ゼオンを包む。それが終ると元の体勢に戻る。
そして今度は爽やかそうな像がこちらを向く。
『貴様がガルディアの試練を乗り越えし者か。貴様のその力を労い、傷と疲れを癒そう』
左手をかざし、緑色の光が放たれてゼオンを包み込む。一瞬にしてその傷が癒され、疲れが取れていくのを感じた。
そして今度は2体が同時に動き出す。
扉の前に立ち、それぞれが扉に手を添える。
『『貴様がここまで来れたその力、しかと見届けた。そしてこれは我らが主、ガルディアのお言葉だ』』
『全ての試練を乗り越えし者よ』
『この先にあるものは全て自由にするがいい』
『『されど、悪しき事に利用することなかれ』』
言いながら扉が開かれる。
ゴォン・・・
ベルキンもラウラドも、こんな演出だったなと思い出しながら歩を進める。そして、初めての者が見れば絶対に、息を飲むか絶句のどちらかの反応をするであろう光景が広がる。
それは、
金、銀、財宝の山だ。それだけでなく今の時代ではあり得ない、神代の技術で作られた魔法武器や魔法道具の山。
まさにここは宝の山だ。
しかし、ゼオンはそれに目もくれず一直線にある場所へ向かう。
ある場所というのは
ゼオンの魔導神銃「フリューゲル」や「神製布のマント」「神製布のターバン」が保管されていたような部屋。
「・・・水晶?」
扉をこじ開けて中に入ると、他の二つの超高難度迷宮のように鎮座する像があった。
それは両手を膝の上に乗せるような姿勢で、その手のひらに水晶のようなものが乗せられていた。
ゼオンはその水晶を手に取ろうと触れた瞬間。
ドンッ!
「んなっ!」
一瞬大きく輝いて魔力が発生し、その魔力が衝撃波となりゼオンを吹き飛ばした。
先程の門番のような像から最高位の治癒魔法を受けたが、それでもペナルティーが幾分かマシになった程度でしかなかった。
おそらくではあるが、このペナルティーはスキルの発動によって生じているもの、つまりスキルの延長線、またはスキルの一端として扱われたのだろう。
そんな状態でゼオンは飛ばされた。
「う・・・あっ!」
かなり痛かったようだ。
「私の封印を解いたのはだれだ?」
低く響くその声にゼオンは咄嗟に反応する。
「封印?」
呟きにそれは反応し、ゼオンを見る。
「私の封印を解いたのはお前か?」
それは狼だ。それもただの狼ではなく、白く美しい体毛に覆われ、輝いてさえも見えるその姿はとても大きく、高さはゼオンの肩ほどにまである。
その足下に砕けた水晶の破片が転がっていたことで、封印というのはあの水晶の事なのだと理解した。
「なるほどな、私が仕えるに相応しいか。試させてもらおう!」
白い狼は突然ゼオンに襲いかかる。
「んだと!?」
ゼオンはへペナルティーによって軋む体に鞭を打ってそれに対応する。
飛び掛かってきた白い狼に対し、姿勢を低くしてその下に潜り込むように前に出て首と腹に手を添える。飛び掛かってきた勢いをそのまま利用して背負い投げの要領で地面に叩き付ける。
「ぐはうっ!」
そのまま押さえ付けた。
「くっ!この私が一瞬で組み伏せられるとは・・・」
現在の白い狼の体勢は、あお向けの状態で押さえ付けられている。
「それも、腹を見せるように・・・確かにお前は強いな。主よ、先程の非礼お詫びしたい」
「いきなり話をすすめられて、主と呼ばれてもな。説明を求めてもいいか?」
「すまない、説明をする。だ、だがその前 に・・・」
「ん?」
白い狼の最後の少し躊躇するような言動に首を傾げるゼオン。
「その・・・いつまでもこの体勢なのは流石に恥ずかしい。拘束を解いてもらえないだろうか?」
前世での野生動物の知識では、相手にお腹を見せるという行為は降伏の証だったり、敵意はないという意思表示だったはずだ。
この様子からすると、この世界でも多分それは同じなのだろう。しかもこの状況はそれを無理矢理させている。この狼は人語を話す程の知能がある。そんな生き物が降伏を示す体勢をいつまでもとらされているのは流石に恥ずかしいのだろう。
「わるい」
「い、いや、良いのだ・・・」
起き上がり顔をそらす狼。気のせいか、恥じらいの表情にも見える。
いや、雄の狼にそんな表情されてもな
「コホン!説明をさせて貰おう」
気持ちを切り替える為か、わざと大きく咳払いをして説明を始めた。
この狼は、「白天狼」という神獣で、神代に神「ガルディア」によって封印されていたらしい。その際に
「お前の封印を解く者が現れたら、その者に仕えよ」
と言われていたようだ。
しかも、それは丁度、ベルキンの大迷宮やラウラドの大迷宮、そしてこのガルディアの大迷宮など、超高難度迷宮が作られた時期らしい。
それらの事情を聞いたところで。
「あんたを従えるのは分かった。だが地上に出て街なんかに行ったらあんたの正体を隠す必要がある」
「何故だ?」
「神獣がホイホイ街を歩いてろ。大騒ぎだ」
「私が地上にいた頃は、周神や神獣は普通に出歩いていたぞ?」
「それは神代だろ?今はそんな時代から相当な歳月を経てんだよ。今では神や神獣は崇めるだけの高みの存在だ」
白天狼はそこ言葉を聞いて驚いたが直ぐに考える素振りを見せて、こう切り出した。
「では、私が人の姿になれば良いのだな?」
「は?」
直ぐに白天狼は光に包まれ、人のシルエットへと姿を変えていく。
光の影響でまだシルエットしか見えないが、全体的に曲線的な体のラインをしていて、胸には小さすぎず、大きすぎない程よい膨らみ。その下には引き締まったくびれと綺麗なラインをしたお尻。
・・・は?
このシルエットは完全に女性のそれだ。
ゼオンは混乱した。明らかに男性な声を発していた狼が人の姿になると女性?雄じゃなくて雌だったの?
そんな思考がぐるぐるまわる。
光が消え、ハッキリと見えるようになった目の前の存在を見る、観る、視る。
体のラインは先程説明した通りだ。顔立は大人びてはいるが、その表情はあどけなさを感じさせる、美しいと同時に可愛いも兼ね備えているといった感じだ。頭髪は白く、流れるように滑らかな髪質で、肩甲骨まで延びている。透き通るような白い綺麗な肌。そして、どこから出たのが、白いワンピースを着ている。身長は162センチ。総合的に16歳位の少女と言った感じだ。美少女とも美女とも言える容姿をしている。
「女・・・だったのか?」
「あれ?気が付かなかったのか?」
念のためにスキル「鑑定」で目の前の少女を見る。
名前:ーーーーー
種族:神獣「白天狼」
性別:女
状態:人化
マジで女だった。
スキル以外のステータスを見て疑問を感じた。
「名前・・・ないのか?」
そう、ステータスに名前が表示されていないのだ。
「ガルディア神に、主となる者に名を貰えって。それが同時に契約にもなるって言っていた」
「そ、そうか」
「だから、その・・・名前・・・欲しいな?」
恥ずかしそうに上目使いしながら言ってくる。
それにゼオンは思わず呟いてしまった。
「かわいい・・・」
「ちょっ!」
「あ・・・」
聞こえてしまったようだ。
「えっと、名前だったな?」
「そ、そうだ」
ゼオンは大して気にしていないが、少女はかなり気にしてしまっている様子で、うつむいてしまっている。
「サラ」
「え?」
不意に出てきた言葉に少女は顔を上げる。
「サラってのはどうかな?って」
「サラ・・・」
少女はまるで大切な事を覚えるように、「サラ」という単語を小さな声で繰り返し呟く。
やがて少女は顔を上げてゼオンに告げる。
「ありがとう。あなたにに貰ったこの名前、大切にするよ、ご主人さま」
微笑みながら言う少女、サラ。ゼオンはそれを見て顔が熱くなるのを感じた。
「どうした?」
「え?あ~えっと、そのご主人さまとやめてくれないか?」
ゼオンは赤面したと気付き顔をそらしていた。それを誤魔化すように言った。
「何故だ?」
「なんていうか、そんな風に言われるのはちょっとな」
「そう、じゃあそうする、でもなんて呼ぼうか」
納得はしたようだがどう呼ぶか悩んでいるようだ。
「じゃあ、主とか?」
ご主人さまとは違う呼び方で思い付くのはこれくらいだった。
「んーそうだな、こうしよう。人の姿の時は名前で、あの狼の姿の時はその「主」という呼び方でどうだ?」
「本当に良いのか?」
「その方がメリハリがつくだろう?」
「わかった」
再び微笑んで答えるサラ。
「俺はゼオン・マークスよろしくなサラ」
「うん、よろしくな。ゼオンさん」
「呼び捨てな?」
「・・・ゼ、ゼオン」
微妙に頬を赤らめてゼオンの名を呼ぶ。
『契約が完了しました』
脳内にアナウンスが流れる。
自分のステータスを確認すると、新しく従魔の覧ができており、そこに神獣「白天狼「サラ」」と表示されていた。
サラもステータスを「鑑定」で見ると。名前の覧にはサラと表示されており、新に主という覧が出来ていてそこにゼオンの名が表示されていた。
「さて、目的も達成したんだ。さっさとこの迷宮を・・・っ!」
突然の目眩と全身に走る痛み。ペナルティーがまだ続いている事を思い出す。
「・・・くっ!悪いがサラ。迷宮を出るの、もう少し待っててくれないか?」
「だ、大丈夫か!?」
「スキルペナルティーだ・・・」
リミッター解除の発動による反動で起きるペナルティーの辛さは相当なものだった。
「それならいい場所があったはずだ」
「?」
サラが言うには、ここは隠し部屋があり、そこは寝室のようになっていて、充分に休めるそうなので。ペナルティーが終るまではその部屋で過ごすことにした。
「こっちだ」
「ありがと・・・うっ!」
足に力が入らなくなってきているようで、フラフラし始めるゼオン。そしてとうとう支えきれず倒れてしまう。
それをみ見たサラは獣化して元の白く美しい、大きな狼の姿となりゼオンの元へと歩み寄り、伏せる。
「主よ、私の背中に乗るといい」
「すまない、助かる」
ゼオンは己の体を引きずるようにサラの背にのる。するとサラは力強く立ち上がり歩き出した。
暖かくフワフワしたその毛並みと心地よい揺れ、そしてサラの優しい匂いに、ゼオンはいつの間にか寝息を立てていた。
やっとヒロイン登場です!
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