第四話 破壊の巨人
ゼオンが驚いた理由は。
目の前に大きな扉があった。
ただのドデカイ扉ならばさっきまでいた85層のボス部屋とみて間違いないだろう。しかし、明らかに違う装飾が施されている。神によって刻まれた古代文字、金の外枠、扉全体に刻まれた壁画のような絵。
「まさか、100層の・・・ラスボスの部屋なのか?」
そう、ここまでの装飾が成されている扉は、この奥に迷宮最後のボス級魔物が居ることを示しているのだ。
因みにゼオンは扉に刻まれている古代文字を読むことができる。
『数々の試練を乗り越えし者よ、これが最後の試練なり。汝の力、我に示せ』
こんな感じの意味合いとなる。
「この文字が刻まれてるってことは。ラスボスか」
しかし、なんでいきなりラスボスの部屋に飛ばされることになったのかは謎だ。
ベルキンの大迷宮ではデッドリーコングは99層のボスだった。そのデッドリーコングを倒すことができれば最後の試練、100層のラスボスに立ち向かうのに相応しいと判断されるのではないかと考えられる。
あの部屋はトラップであると同時にショートカット部屋でもあるのだろう。
そう勝手に結論付けて扉を開く。
ギギギギィィィィィィィ・・・
軋む音と共に開く扉。同時に部屋の壁に取り付けられた松明に火がつく。
そして、その奥に巨大な影が立ち上がる気配がする。
ズズン・・・ズズン・・・とゆっくり近づいてきて、その全貌を現した。
岩や金属が混ざった体にゴツゴツした体躯、体長は10メートルといったところか。目は右に片寄った単眼で赤く光る魔石がついている。その魔石の単眼がある顔は、肩とほぼ同化しており、横をみる際は体ごと捻らないと見えないのでは?といった感じだ。
「ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・」
低い唸り声のような音を発するその存在は
「ゴーレム?・・・・いや、ゴーレンか」
ゴーレムは魔石の魔力を動力源に動く魔動兵士だ。
魔石に死んだ生物の魂が宿って、周りの岩や砂などで体を形成し生まれたものや、人工的に作られたりするもの。そして、ゴーレンは動力源である魔力が暴走した結果、より攻撃的な体の構造と性格を造り上げたものをいう。こうなると周りから魔力を吸収するため、機能停止することなく動き続け、破壊の限りを尽くす。かなり厄介で強力な魔物だ。
そのため、ゴーレンは別名「破壊の巨人」と言われている。
目の前のこいつも、その「破壊の巨人」ゴーレンだ。
ゼオンの魔力探知で、魔力の暴走が確認できた。
直後、魔力がゴーレンの単眼の魔石の集まっていくのを察知した。
バウッ!
ドドドドドドドドドドン!!!
単眼に収束された魔力は、細いビームとなって放たれた。
「あっぶね」
強烈な一撃だった。ゴーレンの足元からゼオンの真横に一直線に走るビームの爪痕は、キレイなもので、周りにはヒビなど入っていなかった。
ゼオンはこれを咄嗟に体を横にそらして避けたのだ。
「仕組み的にはフリューゲルと一緒か?」
フリューゲルを抜き、青白い無属性のシリンダーを装填し構える。
ズドドンッ!
二つの銃口から炸裂する魔力弾は一直線にゴーレンをとらえた。
しかし、
パァンッ!
ゴーレンの体を破壊することなく霧散した。
否、吸収された。
「・・・・やはり各部位の魔石を破壊しないとだめか」
ゼオンはフリューゲルの弾丸が無効化されるという現実に、焦らず次の手を考える。ゴーレムやゴーレンは動力源となっている魔石を破壊することで倒せる。ゴーレンはゴーレムと違い、複数の魔石を有していて、それを吸収用の魔石と動力源用の魔石に分けている。つまり、吸収用の魔石を破壊すれば有利に戦いを進められる。
ターバンを外し、棍状にして構える。
対するゴーレンは両手を前にかざし、手のひらの魔石に魔力を集め、連謝してきた。
ゼオンはスキルの「見切り」と「見極め」をフル活用し、肉体強化と身体補助も駆使してそれを弾く。
「見切り」
スキル効果:対峙した相手の動き、攻撃方法やパターンを見切る
「見極め」
スキル効果:相手の弱点部位や、攻撃の軌道を見極める
正直「見切り」と「見極め」の二つのコンボは最強だと思われる。
ゼオンは棍を振るい、飛来する魔力弾を弾き続ける。
SF好きな人が見たらスター・ウ〇ーズに出てくるジェダ〇の騎士のようだと口を揃えて言うだろう。
それほどにこの光景は凄まじいものといえる。
手のひらに収束させた魔力が切れたのか、魔力弾の連謝が止まる。その隙に脚力を強化して一瞬で肉薄する。ゴーレンが対応しようと右腕を振りかぶったところで空跳を使い、自らの軌道を変える。空を切った右腕の肘にある魔石目掛けて棍を降り下ろす。
「まずは一つ!」
パキィィン!
高い音を響かせながら砕ける魔石。ついでに棍を軸に体を回して肩の魔石に蹴りを叩き込む。
パキャァァ!
二つ目を破壊した所で魔力の動きを感じ取り、離脱する。
その直後。
ゴウッ!
ドドォン!
ゴーレンから爆炎が上がり、その周りの地面も爆発を起こす。
「こいつ!どんだけ攻撃手段もってんだよ!」
そう呟いた瞬間、今度は足の裏と背中から魔力を放出し、それを推進力に超低空飛行でタックルしてきた。
「おまえモビル〇ーツか何かか!?」
ゴーレンは体を捻ってゼオンの方を向き、足で地面を削るようにブレーキをかけ、拳を槍のように変型させながら突っ込んでくる。
ガキィッ!
ゴーレンの体重と突進の勢いが乗った突きは強力なものだった。ゼオンが押し負けてしまい、吹き飛ばされた。
ゴーレンは更に、吹き飛んでいるゼオンに追い付くという離れ業を見せる。掴んで膝蹴りを叩き込み、地面に叩き付けて、追い討ちの拳。
「うがっ!!」
反撃しようとしたが、その前に次の攻撃が来た。
ゼオンをもう一度掴み、殴り飛ばした。
「あがぁっ!」
ゴッ!
激突した壁は崩れ、ゼオンに降りかかる。更にゴーレンの最初に放った単眼からのビームが再び炸裂し爆発を起こす。
「・・・・」
すこしの沈黙、そして
ドウッ!
表現するならばまさにこうだろう。衝撃波でも生みそうな程の勢いで空気が変わった。もし、戦いの熟練者ではない者ががこの場にいたならば。尻餅をつくか、気絶していただろう。歴戦の猛者でさえも、少なくとも冷や汗が止まらないか、怯んでしまう。
原因は先程吹き飛ばされたゼオンにあった。
「ゲホッ!・・・ンニャロー」
ゼオンから大量の魔力が放出される。
「本気で行くぞ!」
ゼオンは今まで、肉体強化を本気でやったことがあまりない。否、無意識で本気で出来ないのだ。
その理由というのは、肉体強化は魔力を体にコーティングすることによって身体能力、攻撃力、防御力を底上げするもの。ある意味、無理矢理強くしているようなもの。つまり、強化を強くすればするほど、体にはそれだけ負担がかかるのだ。
ゼオン自身もそれを分かっているため、普段は負担がかからないギリギリまで強化し、瞬間的に強い強化を行っていた。一番良い例はオロチを倒したときの「脱力の構え」だ。
しかし、その「脱力の構え」でさえも本気で強化していない。ゼオン自身は本気でやっているつもりだが、脳が、体が勝手に制御してしまうのだ。つまり、ストッパーが掛かっているのだ。
そして、今のゼオンの状態がそれすらも押さえ込んでストッパーを取り払い、体が壊れるギリギリまで強化できる状態。
リミッター解除。
一般的に言われる、潜在能力が一時的に発揮される瞬間だ。
『スキル「リミッター解除」を習得しました』
脳内にアナウンスが流れる。
その直後、ゴーレンが単眼からのビームを放ってきた。
「フッ!」
バシィッ!
ゼオンはそれを避けずに、殴って相殺した。
一歩踏み出して、持っていたターバンを放す。
もう一歩踏み出して、フリューゲルが納められたホルスターとそのシリンダーとなる魔鉱石を取り付けたベルトを外す。
また一歩踏み出して、マントを外す。
そう、装備を完全に解除したのだ。
そして低く構え
ドガンッ!!!
地面が爆発したように吹き飛び、同時にゼオンの姿が消える。
ガァンッ
ゴーレンが突然吹き飛ばされる。
ここまでの流れを説明すると。
リミッター解除によって極限まで強化されたゼオンはひと飛びでゴーレンの眼前まで肉薄し、蹴り飛ばしたのだ。
「これが極限まで強化した力か。体が軽い」
吹き飛ぶゴーレンに追い付き、膝蹴りを叩き込み、地面に叩き付け、追い打ちの拳。
ガゴォッ!
「さっきの仕返しだ」
そのまま押さえ付けて魔石を破壊しようとしたが、右手のひらがゼオンの真横にあり、魔石に魔力が収束されていくのに気がつく。
ドウン!
バキョッ!
魔力弾が放たれる直前にその右手を払い、明後日の方向へとそれをそらして右手を押さえ付ける。
そこに拳を叩き付けて関節部を破壊し、肘から下をもぎ取る。
「またか!」
ゴーレンの体に魔力が行き渡る。それを察知してすぐに離れるゼオン。
ドドォン!
ゴーレンの周りが爆発する。ゼオンが離れた隙に起き上がり。単眼に魔力を収束させていく。
「させるか!」
5歩ほど助走をつけて跳躍し、前方宙返りして右足を突き出す。
バギィッ!
ドゴォッ!
ライ〇ーキックさながらの飛び蹴りによって、魔力ビームを放つ直前だった単眼は破壊。同時に行き場を失った魔力が暴発した。それに伴い、両肩が崩れ落ちる。
「他の魔石を壊す手間が省けたな」
残るは、動力源となる魔石を破壊するのみ。ゼオンはゴーレンの胸部を見据える。
そこには動力源となる魔石が光っている。
今度はそこに魔力が収束されていく。
「そこからも撃てるんだな」
胸部集まる魔力は先程までよりも遥かに強大なものであることを察知し、直ぐに破壊に向かう。
「おらぁ!!」
胸部にゼオンの拳が炸裂し、めり込む。少しの間をおいてそれが抜き取られる。その手の中には、拳大の魔石が握られていた。
溜めが長かったせいかゼオンの方が上手となったようだ。
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
ズズゥン・・・
動力源を失った10メートルを誇る巨体は、ただの空洞となった胸部から、魔力を盛大に放出しながら倒れる。
それはまるで、ゴーレンの断末魔の叫びのようだった。
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