第四十二話 魔剣
お待たせしました。
第四十二話をどうぞ!
「伯爵!皆様!急停車させます!!何かに掴まってください!!!」
ガタンッ!
「っ!?」
御者をしているセバスが慌てたように声を張り上げ、宣言した通り馬車を急停車させる。
「・・・セバス、何事だ?」
「盗賊です」
御者との連絡要の小窓ごしに行われたマウンティス伯爵とセバスの必要最低限の短いやり取り。
そして、ゼオンはすぐにその小窓から盗賊の様子を確認する。
「貴族を乗せていると明らかに分かる馬車を襲撃するとわ、ずいぶんと大胆じゃのう」
「先頭のリーダーと思しき奴が魔剣を持ってる」
小窓から盗賊の様子を確認しつつ、スキル「解析の神眼」で所有している武器の解析を終えたゼオンが呟く。
「なんと!それならこんな大胆な行動に出るのも頷けるのう」
「・・・しかし魔剣とは厄介な」
魔剣とは武器型のアーティファクトのことを言い、その性能は様々である。
中には、文字通りの一騎当千、もしくはそれ以上の力を発揮するものも確認されいる。かつて英雄と呼ばれ数々の伝説を残したゼオンの育ての親であり、ルークの師匠でもあるガイン・マークスもまたその魔剣の所有者であった。
もっとも、ガインは魔剣以外にも様々なアーティファクトを所有していたのだが。
閑話休題
「魔剣持ってるっつっても、所有者であるあいつは大した実力はないみたいだな。行ってくる」
そう、いくら高性能な魔剣を持っていようとも、その所有者の実力が伴っていなければ魔剣の力に頼る戦い方になり性能を引き出すことができないのだ。
そして、ゼオン達一行の前に立ちはだかった盗賊のリーダーは正に、魔剣の力に頼っているタイプであった。
それを見抜いていたゼオンは自分1人だけで充分だと馬車の中にいるマウンティス伯爵とサラ達に告げ馬車を降りる
・・・・ゼオンが身に纏う黒いコート「リュストゥングマンテル」のポケットに付与された異空間倉庫からある物を取り出しながら。
「・・・ゼオン殿」
1人で馬車から降りてきたゼオンを見て、セバスは小さくゼオンへと声をかける。
「こいつらに時間はかけてられない、任せろ」
セバスが愛用の武器「三節棍」に手を掛けていたのを見てそれを制止する。ゼオンの実力を知っているセバスは三節棍から手を放して答える。ただ一言、お願いしますと。
それを聞いたゼオンは一瞬不敵な笑みを浮かべてから盗賊たちの前へと歩み寄る。
「・・・お前はなんだ?」
「まぁまぁ、剣を降ろしてくれ。俺達はここを通りたいだけなんだ。要求は金目のものか?」
魔剣を抜き、その切っ先を向けてくる盗賊のリーダーをゼオンは両手を挙げながら話しかける。
「分かってんじゃねぇか」
「こんな豪華な馬車を狙うんだ、それ以外にないだろ」
「見たところ、お貴族様の馬車だろ。護衛も付けず無用心だな」
盗賊に無用心だなどと指摘されるとは、とんだ皮肉だなと内心笑いながら先ほど取り出していたあるものを数個、盗賊達の足元への放り投げる。
「ほら、お目当てのもんだ」
「・・・・んだこれは」
「アーティファクトだ。売れば相当な金額になる。これで見逃してくれるか?」
放り投げられた黒い楕円に近い形の物を1つ拾い上げ、リーダーばニヤリと笑みを浮かべる。
「気が変わった。他にも持ってんだろ?全てよこせや」
このセリフに後ろに控えていた盗賊達も剣やナイフ等、各々の獲物を構えて戦闘体勢となる。
その様子を見ていたセバスと馬車の中から様子を伺っていた、マウンティス伯爵、サラ、メリア、ルークの面々に緊張が走る。
しかしゼオンは再び両手を軽く上げて言う。
「まぁ、そんなこったろうと思ったよ」
開かれた両手の平からは数個の輪っかのようなピンが重力に従い落下し、キィンッと高い金属音を立てて地面と接触した。
その瞬間、盗賊のリーダーが手に持っていた楕円形の物と、盗賊達の足元に転がっていた楕円形の物が同時に爆発を起こし、盗賊達を巻き込んでしまう。
「あ〜言い忘れてたけど、そいつは手榴弾っつって、使い捨ての爆発するアーティファクトなんだ。もちろんピンは抜いてるから爆発するぞ」
グローブから展開される魔力シールドでセバスと馬車を爆風と衝撃波、そして飛び散る手榴弾の破片から守りながら明らかに遅い忠告をするのだった。
「一網打尽・・・か」
爆発に巻き込まれた盗賊達の体が吹き飛ばされて原型を留めていないものや、吹き飛ばされてないまでも、体の各部が欠損してしまっているもの、飛び散った破片によってズタズタにされているもの、様々な死体をみてマウンティス伯爵が呟く。
「うーん、やはり圧縮した魔力だと威力が高過ぎるな、これじゃ本来の使い方ができない。爆薬を頑張って作るかもう少し圧縮魔力の量を減らすか・・・・」
こんな惨状を作り出した本人はブツブツと何やら呟いていた。
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盗賊達の遺品の中で唯一無事だった魔剣を回収し、バラバラのぐちゃぐちゃになってしまった死体を他の遺品諸共サラの炎の神力で焼き付くし灰にして再出発した一行。
「フフ、それにしてもさっき馬車を出た時はゼオンは悪い顔だったな」
「ん?そんなに悪い顔してたか?」
「あぁ、何か良からぬ事を企んでいるような顔だと思ったら、あんな爆発を起こすアーティファクトを放り投げるんだ。どうりで悪い顔していると思ったよ」
メリアとマウンティスはいつもの冷静な表情と変わらなかったが?と首をかしげ、ルークはサラの言っている事に同意しているのか腕を組んでうんうんと頷いていた。
これはゼオンとの関係の長さや深さの違いからくるものであろう。
「じゃが、あの爆発で無事な辺り流石は魔剣じゃのう」
「いや、爆発の瞬間壊れたぞ。その後再生していた。これがこの魔剣の能力だな。斬り付けたものや、刃に触れたものの分解と再生だ。使いようによっては汎用性が高い魔剣だな」
例えば、地面に突き立てて分解と再生を行えば瞬時に壁を作り出したり、魔剣の刃を分解と再生で伸ばしたり縮めたりすることが可能といったところか。
「面白い能力だな」
「譲ってもいいぞ?」
「本当か!?」
というより魔剣の能力を説明している間、ものすごい目で魔剣を見つめていたのだ。なんとなく譲った方がいいような気がしてしまった。というのが正直なところ。
尤も、スキルを「解析の神眼」で解析してしまえば、魔剣がなくてもスキルを自分のものにできるため、後は不要だったというのもある。
ただし、解析したスキルは自分のものにはできるが、それはあくまでも「解析結果というデータの様なもの」として残るため、それを発動することはできない。しかし、それを「万物生成の加護」によって得たスキル「錬成」を用いて、作る武器や道具に「解析結果というデータのコピー&ペースト」という、所謂スキルの付与は行うことができる。
「ま、この3人の誰かが欲しいというなら別だがな」
この言葉を聞いたマウンティスはサラ達3人を見る。
「フフ、私に武器は不要さ」
と腕を組んで自慢げにサラ。
「そういう両手剣サイズはワシにとっては扱い辛いのう。せめて斬馬剣か大剣サイズじゃないとな」
と自らの愛剣、斬馬剣を指すルーク。
「うーん。私も借り物だけどこれがあるし・・・」
「もうそれやるよ」
メリアも手元に握っているゼオンから借りている黒刀「シュベルトゲベール」を見て、直後にゼオンからのあげるよ宣言。
「ちょ!えぇ!?ホントに?」
「あぁ。俺のは新しくナイフとして造ったからな」
「そんな・・・ゼオンがアタシに武器を譲るなんて・・・」
メリアの呟きを聞き取ったゼオンは。
「・・・・・・・・・」
メリアを無言で睨む。
「ごめん!ウソ!ありがたく頂戴いたします!!!」
「ならいい」
嫌な予感しかしないメリアは当然謝ることしかできない。
「そんな訳でみんないらないらしい」
「そ、そうか。では、いくらで譲ってもらえるのだ?」
「・・・あ〜・・・大金貨3〜4枚?」
「安いな」
「俺自身金にも困ってないし、遭遇した盗賊が偶然持ってた程度だしこんなもんだろ」
迷宮で見つけたものなら大金貨30枚くらいはふんだくるけどな、と笑うゼオン。
それから暫く、談笑(?)が続き、夜が近づき始める。
「皆様、今日はここらで夜営いたしましょう」
そして、それを見計らいセバスが馬車を停める。
「伯爵は馬車の中で寝て頂きますが他の皆様は如何いたしますか?皆様も馬車の中で寝て頂くことも可能ですが」
馬のブラッシングと餌を与え終えたセバスが訪ねてくる。
ゼオン達が乗ってきた馬車は普通の馬車と違い空間魔法が付与されており、夜数人同時に中で眠れるように付与された空間魔法を発動して車内を広くするこが可能となっている。
「昼間の盗賊みたいなことがあるかもしれないよ?」
「ふむ・・・確かに。さすがに全員で馬車で寝るとなると、何かあった時に咄嗟に行動できないだろうしな」
「このようにウチの女性陣は言っておられますので、俺達は見張りも兼ねて外で寝ることにする」
「それは私が見張りをやればよろしいかと」
セバスとしては客人という扱いであるゼオン達にはそういったことはさせたくないのであろう。
しかし。
「俺達は冒険者だ。こういうのは寧ろ俺達がやるべきことだ。自分で言うのもなんだが、俺らクラスの冒険者が無料で護衛をしていると思えばいい」
「分かりました。ありがとうございます」
こうして、夜営の準備が始まり、日が完全に沈む頃には食事と睡眠だけとなった。
夜の見張りはゼオンとメリア、サラとルークに別れる。この根拠はゼオンとサラの索敵能力が高く、ルークは二人ほどではなく、メリアはまだ経験不足というもの。
食事を終え、マウンティス伯爵とセバスは眠りについた頃。夜は更に深くなっていく。