第四十一話 出発
お久しぶりです。
前回の更新の際に更新を待っていたというコメントを頂き、この作品を楽しんでくれている読者がいらっしゃるんだなと、とても嬉しい気持ちになりました。
そんなモリータが送る、第四十一話をどうぞ!!
商人だからこそ持つ独自の情報網の利用という報酬。その理由を、話終えたゼオンはクロルドの反応を待つ。
「・・・超高難度迷宮を攻略しているというのは正直信じがたい話だ」
そう言われたゼオンは内心、だろうなと呟く。
この世界の一般常識として超高難度迷宮は攻略不可能な迷宮と認識されており、様々な戒めの童話の題材にもなっていて、言うことを聞かない子供に「超高難度迷宮に放り込むぞ」としつけに使われる程だ。そんな迷宮を3つ、内1つを1人で攻略しているというのは、むしろ信じろと言う方が無理な話である。
というより、世界の常識を覆してしまっている。
「だが何故だろうな、それを成したのがお前だと聞くと納得できるのは」
「おいコラ、どういう意味だ」
「ゼオンはそれだけの男だということだよ」
クロルドは言いながら腕を組んでうんうんと頷く。
「いや、なに一人で納得してんだよ」
それだけの実力を秘めているというのに、ゼオンは無自覚であった。
いや、多少自覚はしているのだが、ゼオン本人が考えている以上に周りの人間からすればぶっ飛んだ人物であるのだ。
「まぁいいや。それじゃ、クロルドのことマウンティス伯爵に紹介しないといけないから館に行こうと思うんだが、都合が良い日を教えてくれ」
それを「まぁいいや」で済ませる辺りが、ゼオンの性格を物語る。
「ふむ、流石に今日はお互いにデートだからやめておこう。・・・そうだな明日はどうだ?」
「構わん、決まりだな」
こうして、翌日にはマウンティス伯爵への紹介の終え、その際に武装商隊と名高いイーリス商隊を紹介されたことに驚き、マウンティスがソファーからずり落ちてしまうというハプニングが発生したが。その後、瞬く間に「イーリス商隊カーゼル支店」が展開されることとなり物流も元に戻るどころか、商隊として各地から様々な商品を仕入れていることでリッド商会以上に商品やお金の流れが盛んになることとなった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それじゃ、出発するぞゼオン殿」
「あぁ構わない。こっちはいつでも行ける」
マウンティス伯爵の呼び掛けにゼオンはサラ、メリア、ルークに目を配ってから答え、伯爵は四人が馬車に乗ったことを確認すると自身も同じ馬車へ乗り込み、出発した。
その馬車の馭者はもちろんセバスが務める。
「・・・ねぇ、本当に?私たちまで行くの?」
揺れる馬車の中でそう呟いたのはメリアだ。どうやら、これから国王に謁見し魔族襲撃の顛末を直接報告するために自分達まで王都へと向かうことに不満を抱えている様子である。
いや、不満というより不安である。ランク5や4の熟練者やランク3以上のバケモノ達ならまだしも、一般ランクの冒険者が国王に謁見などあり得ない話なのだから。
「当たり前だろ、今さら何言ってんだよアホたれ」
「い、いやだって、私はまだ最近ランク6に上がったばかりだよ?」
そう、先日の迷宮の調査と魔族襲撃事件での活躍でゼオン一行はランクアップすることとなり、メリアはランク8からランク6へ2段階アップ、ルークはランク4からランク3へ、サラはランク5からランク4へとランクアップしている。
ちなみにゼオンはというと、魔族と戦い、生け捕りにしただけでなく、魔族の情報を引き出すことまで成功させているため、ランク2のギルドカードを返上し、正式なランク0冒険者となった。
正式なランク0冒険者となりはしたが、やはり街や都市に入る手続きでランク0のカードをポンポン見せてればやはり大騒ぎになるということで、結局はランク2のギルドカードも所持することとなった。
ランク2でも充分な騒ぎになるんじゃねえのかとツッコミを入れたが、ランクが持つ意味そのものが違うとツッコミで返された。
閑話休題
「ランクなんざ関係ねぇだろ。お前も魔族襲撃事件の当事者であり、王へ報告する俺のパーティメンバーでもあるんだ。一緒に来ない方がおかしいだろ」
「う・・・」
ゼオンにツッコミを入れられ、より不安が募る。
「フフ、緊張する必要はないさ。報告するといっても、あったことをそのまま話せば良いだけだろ?」
「つーか、王としゃべるのはほとんど俺と伯爵だけになるだろうな」
「ふむ、君たちの中ではパーティリーダーであるゼオン殿が主に陛下と話すこととなるだろう。私が最初に報告し、ゼオン殿に補足してもらうといった流れになるはずだ」
「だそうだ」
ゼオンはマウンティス伯爵の説明を他人事のようにメリアへと流す。
そして、このやり取りで緊張も多少はほぐれたのか、メリアの表情に強張りが少しなくなった。
「と言うよりもじゃ。現在進行形で伯爵位の貴族と同じ馬車に乗っとるんじゃ。どっちかっていうと、そっちに緊張するじゃろ普通」
ルーくのツッコミでハッとなるメリア。国王との謁見にばかり意識が行ってしまい、今伯爵位を持つ貴族と同じ馬車に乗っているということを忘れてしまっていたようだ。
「あぁぁぁ!すみません伯爵!!失礼しました!!」
「やかましい、ちったぁ落ち着け」
ゴスッ!
「あう・・・」
久々のゼオンによるチョップがメリアの頭に炸裂した。
「ハッハッハ。構わん、ゼオン殿は既に私の友人として扱っている。そのゼオン殿のパーティメンバーなのだ、楽にしてくれていい」
「は、はぁ・・・ありがとうございます」
ゼオンのチョップによって出来たコブをさすりながら答えるメリアの様子を見ながら、なんとも不思議で面白いパーティだとマウンティスは思う。
ゼオンはリッド商会の違法薬物の製造と販売を暴き出し、その会長ガウェイルの逮捕に貢献。それだけでなく、ガウェイルに薬物製造売買の指示をテューバー子爵が行っていたという証拠まで掴み、こちらも逮捕に貢献している。更に先日の魔族襲撃事件においては、魔族と直接戦い、生け捕りにして情報まで引き出している。
そんな男と恋仲にあるサラは魔族襲撃事件の際には、強力な魔法(と周りには思われている)で、魔族が召喚したアンデッドを寄せ付けず、周辺住民の避難に大きく貢献。さらに負傷者には治癒魔法による治療を行っていた。
サラと共に周辺住民の避難に貢献したメリアもまた、その剣技でアンデッドを次々と葬り、援軍到着後は援軍と共にアンデッドの掃討を手伝い、ランク8とは思えない活躍を見せつけた。
そしてルーク。彼は赤眼のルークと名高い実力者で、アンデッド種の魔物、スケルトンの上位種であるラージスケルトンの一撃を真っ向から受け止め、更にはそれを押し返す程の力を持っている。そして、魔族を守っていた最上位種アンデッドのワイト2体を一撃で葬り去る程の実力であり、異名持ちは伊達ではないということを知らしめた。
ゼオンとサラは計り知れない実力を持ち、充分すぎる実力を持っているルーク、そしてこの3人に比べれば見劣りはしてしまうものの、まだまだ延び盛りであろうことが伺えるメリア。
これほどの人材を自分の部下に引き入れることができたら。
マウンティス伯爵はついついそんなことを考えてしまう。
考えながら、ふとゼオンが気になってしまい、そちらを見る。
「って・・・ゼオン殿はさっきから何をやっている?」
ゼオンが気になるというより、ゼオンが手元でやっていることが気になっている。
「あ〜これか?」
ゼオンは手元で万物生成の加護によって得たスキル「錬成」で、とある船の模型を造っていた。
「魔族が拠点にしている場所が狂気の森を越えた先にある海の孤島だって言ってたろ?その孤島に行くための船の設計模型だよ」
「・・・船にしてはかなりゴツゴツしているな」
「まぁ、船体は鋼鉄だし、船に攻撃能力を持たせて、孤島を直接攻撃できるようにしたいからな」
「ほほう、ちなみにこれは実物大となると、どれくらいの大きさになるんだ?」
「全長263m幅39mといったところか」
「「え?」」
「なんでメリアまで反応してんだよ」
「いやだって、263mは大きすぎ!第一に鋼鉄で造られた船が浮かぶなんてあるの?それに、例え浮いたとしてどうやって動かすの?」
「バカタレ、浮かべるための全長263m最大全幅39mなんだよアホ」
「なるほど、重量に対する浮力は充分ということだな?だが、メリア殿の言うとおりどうやって動くんだ?見た感じマストは無いから風を受けて動かす訳ではないのだろう?」
マウンティスの指摘に、ゼオンは模型をひっくり返して船尾を見せる。
「ここにあるスクリューを回転させて進むんだ」
「なんと!これを回転させるだけで進むのか!?帝国の戦闘船でも巨大な水車でやっと進むと言うのに!」
もしそれで本当に進むのなら画期的なことだぞ!と声を大にして力説する伯爵であった。
「だがそれだけ大きいものを造るのなら、莫大な資材が必要になるんじゃないか?」
伯爵の言葉を聞いたゼオンは異空間倉庫から、先程作っていた模型と似たものを10個取り出して自分の膝の上に乗せる。
「これは・・・その模型の試作か?」
「いや、これらも全て完成模型だ」
ズルッ!
試作かと思ったら、これらも造るものだと言われ、思わず座席からずり落ちてしまう伯爵。
「この10隻プラス、これとあと1隻の計12隻。さらにこれとは違うタイプの船を更に何隻か造るのつもりだ。だから相当な資材が必要になるな」
ゼオンの言葉に、つい「国と戦争でもするつもりか」と問いかけたくなってしまう。
この世界での海戦は魔法で敵の船にダメージを与えつつ接近し、最終的には体当たりを喰らわせ、船底部にある鋭角で敵の船に穴を開けて沈めるというもの。
これは、ゼオンが元いた世界の歴史の中で、日本とロシアの間で繰り広げられた日露戦争の中で行われた「日本海海戦」以前までの海戦でも実際に行われていた戦法である。
そして、この海戦を最も得意とするのが先程名前が挙がった「帝国」で、水車を推進力にすることで風に頼らず自力航行することを可能にさせた唯一の国であり、その構造等は一切明かされていないのだ。
マウンティス伯爵は、この船はそんな帝国の戦闘船も簡単に粉砕するだろうと考えていた。
そして
「伯爵!皆様!急停車させます!何かに掴まってください!!」
ガタンッ!
「っ!?」
その考えを止めるかのように馬車が止まる。
今回の話で出て来た
とある船の完成模型の話、やっと出せた・・・
なんの船なのか、分かる人はピンと来るかと思われます。