第四十話 武装商隊再び
お久しぶりですモリータです。
ここ暫くの間、色々と忙しく中々執筆することができませんでした。
本当にすみません。
約2年も投稿していないので読者の方々はもう離れてしまっているのだろうと思いながらアクセスを見てみると、未だに読んでくれている方がいて下さったことに驚きを隠せません。
本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
「まずは何のために迷宮の最下層に潜んでいた?」
「迷宮が拡張する時に放出する膨大な魔力を我がものとするため」
「あの杖でか?」
「そうだ、あの杖は特殊な製法で作られた魔水晶をはめ込んでいる。その水晶が魔力を吸収し、ワタシに供給するようになっているのだ」
「ふむふむ、じゃあ次だ。他に人種族の生活圏に入り込んでいる魔族はいるのか?」
「いる」
「目的は?お前と同じなのか?」
「違う。他の同胞達は人種族の重要な都市や適当に選んだ小さな村等へ派遣されている。目的はお前達人間族や他の人種族に混乱をもたらすためだ」
「それはどこだ」
「それはワタシには知らされていない」
「・・・ちっ!使えねぇな。お前達魔族が拠点としているのはどこだ?」
「狂気の森の先にある海に浮かぶ孤島だ」
「遥か彼方じゃねぇかよ。魔族は軍を持っていたりするのか?」
「同胞の戦士達が魔王四眷属が率いる4つの部隊をもっている」
「ちょっと待て、魔王四眷属ってのはなんだ?」
「4人の幹部だ。獄炎のフレイア様、大地のグランセル様、疾風のウインドル様、流麗のアクアシス様だ」
「大層な名前だな、まったく」
『この四人は神代の戦いを生き残った魔族の末裔であり、純血の魔族だ。魔神信仰で魔族へとなった我々とは力の大きさも魔族としての地位も違う』
『純血とかあったんだな。どうでもいい情報までありがとうな』
ガウェイル・リッドの自爆発言を録音したのと同じマジックアイテムから流れる音声には、魔族から聞き出した情報がしっかりと残されていた。
「流石はゼオン殿だな」
「何故魔族に食料を与えたのかと疑問でしたが、自白剤を混ぜていたのですな。しかし、魔族は何故料理を警戒もせず食べたのでしょう?」
現在は録音した魔族の声をマウンティス伯爵の館にある応接室に、伯爵本人とその執事兼護衛のセバス。冒険者ギルド、カーゼル迷宮都市支部ギルドマスターのカリーナ。そして、今回の魔族襲撃事件を終息させ、その戦いぶりが元で「黒き嵐」や「黒嵐」と異名付けられた男、ゼオンの4人がいた。
そして、先の会話はマウンティス伯爵とセバスである。
「警戒せずに食べたわけじゃないさ」
「・・・と言いますと?」
「あの料理には自白剤だけじゃなく、食欲を刺激する匂いを発する薬品も入れておいただけの話だよ」
「ちょ・・・あなたエグいわね・・・」
「トラウマ植え付けられるくらいボコっても魔族の情報を吐かなかったからな。こうするしかないだろ」
「と、トラウマ?」
「ゼオン殿?魔族に何をしたのだ?」
「ん?骨という骨を砕く勢いで殴ったり蹴りつけたり壁に叩きつけたり?」
「・・・えげつないわね」
いくら魔族が全人種族の敵であるとはいえ、流石にやりすがではないか、という考えがカリーナの頭につい浮かんでしまう。
「それで、その魔族は?」
「放心なう」
「「「なう??」」」」
「気にすんな。今は情報を吐いてしまったショックで放心してる」
さすがに「~なう」という現代日本の若者言葉(?)は通じなかった。
「あ、そうだゼオン殿。此度の魔族襲撃事件の終息のことは国王に報告させてもらうがいいか?」
「リヴァイト国王陛下に?」
「そうだが?」
国王へ報告すると聞いて少し考える素振りを見せるゼオンに疑問を持つ伯爵。
「すまないな、魔族という大敵の襲撃があったんだ。そして、一人の冒険者とその仲間がそれを阻止した。領主としても国に仕える者としても報告しない訳にはいかないのだ」
さらに魔王出現の神託も降りているのだからと付け加える。
「神託で勇者と共に魔族を討てと言われたんだろ?だから色んな大国が勇者を決めるために闘技大会を開こうとしているって話だし、この国もやるんだろ?」
「・・・なぜ勇者の話を?」
マウンティス伯爵は戸惑う。それもそのはず、闘技大会の話は各国で開催されると大々的に宣伝されていて、それに伴って魔族の復活と魔王の出現も一般にも知れ渡っている。しかし、勇者のことはそれぞれの国ではまだ公表されていない。
「まぁ、時期が来れば話すさ。それよりも王に報告に行くんだったら俺も一緒にいいか?」
「それは何でまた?」
「俺の口から直接話したが良いこともあるだろう?」
マウンティスはそれもそうかと納得する。
その後、王都への出発の段取りを話し合い解散となった。
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「さてと、屋台なんかもいっぱいあるんだし。サラ、欲しいものがあったら買ってやるから言ってくれ」
宿屋「銀の匙」に戻ったゼオンは部屋で待っていたサラを外に連れ出し、屋台が建ち並ぶ区画まで来ていた。
「なに?良いのか?」
「たまにはゆっくりデートも良いだろ?」
「フフ、それもそうだな。じゃあ早速で悪いんだが、あそこの屋台から美味しそうな匂いが漂ってるんだ」
そう言いながらサラが指差した先にあったのは。
「ほう、串焼きか」
香ばしいタレで焼いた肉の串焼きだった。
「おっちゃん、その串焼きを二つもらえるか?」
「あいよ!」
屋台の主人は注文を受けると、串が刺さった肉を焼き始める。火が通り、ある程度色が変わるとタレが入った容器にそのまま肉を突っ込み、肉とタレを絡ませて再び焼き始める。そして、こぼれ落ちたタレが火に触れた瞬間ジュゥッ!と音をたて、同時に腹の虫を刺激する香りを辺りに振り撒く。
「いい匂いだ、ご主人!それを2本、こっちにもくれないか?」
屋台周辺に漂う香ばしい匂いに誘われたのか、新たな客がやってくる。
「・・・ん?」
そして、その新にやって来た客の声にゼオンは聞き覚えがある気がしてならなかった。聞き覚えのある声の正体を確かめようと振り向いたゼオンは「あ」と声を漏らす。
それも無理はない。
その人物とは、ここカーゼル迷宮都市まで同行していた武装商隊と名高いイーリス商隊。その商隊の隊長を務めている筋骨隆々の男、クロルド・イーリスその人だったからだ。
「クロルドじゃねぇか、久し振りだな」
「・・・・?」
だが、当のクロルドは誰?と言いたげな反応だった。
「あぁ・・・これで分かるか?」
その反応の原因にすぐに思い至ったゼオンは、手で目元以外を覆い隠して見せる。目以外が隠された状態、すなわちイーリス商隊と行動を共にしていた時の顔を神製布のターバンで隠していた頃と同じ状態である。
「・・・おぉ!ゼオンか、久しいな!」
たったこれだけでピンと来たクロルドも大したものである。
「その様子だと、元気でやっているようだな。サラもかわりないようで」
「フフ、お前の方もなクロルド。リーヤもかわりなくキレイだな」
「あら、サラちゃんだって相変わらずキレイよ」
久方ぶりの再会で挨拶を交わし会う4人。
「ゼオン、身に付けてるやつ、まさかそれ全部マジックアイテム・・・にしてはかなりのものだな。アーティファクトか?」
さすがは商人を生業とし、商隊を率いているだけあるな。
とゼオンは内心で感心する。一目見ただけで普通の代物ではないと見抜いたのだ。もっとも、正確にはゼオンが技巧の神ラウラドから授かった「万物生成の加護」の力を使って作り上げた装備なのだが。
「ん〜、まぁな」
「ほほう・・・時にゼオン。先日、この都市に魔族による攻撃を受け、黒衣の男が嵐の如き活躍を見せ、見事魔族を打ち倒した、という話を聞いたのだか、まさかお前か?」
聞いていた特徴とゼオンの今の格好が一致するとリーヤが付け加える。
「耳が早いな」
「ハッハッハ!商人は情報が大事だからな!」
クロルドの言葉にゼオンはそれもそうかと納得する。
「あんちゃん方、串焼きできたぜい。立ち話もなんだろうそっちにテーブルあるからそこでゆっくり話な!」
串焼きを4本持った屋台主の言葉に甘えて、テーブルに座る4人。
もっとも、屋台主としてはテーブルに座らせて話をさせているうちになにか追加注文が入るのではないかという下心があり、当然商人であるクロルドと冒険者として色んな所を旅し、色んな人に出会ってきたゼオンもそれに気づいている。
「じゃあ、他にも何品か貰えるか?」
だが、あえてそれに乗るゼオン。
「あいよ!」
屋台主は再び串焼きを作り始め、その様子を見送ったゼオンは話を切り出す。
「魔族騒ぎの件を知っているなら、その前に起こったリッド商会のことも知っているのか?」
そう、ある母娘との偶然の出会いから始まった騒動の事だ。・・・とは言っても、一瞬で治まったため騒動と言っていいのか甚だ疑問なのだが。
「あぁ、この都市でもかなり規模の大きい商会だからな。それが潰れたと言うんだから驚きだ。まぁ、ゲルを裏で製造販売していたのなら仕方のないことだがな」
違法行為で儲けるなど言語道断だ!と言い放つあたり、クロルドは商人として強い誇りを持っていることが伺える。
「それなら話がはやい。今回リッド商会が取り潰しになったことで、商品の行き来が少し停滞気味になっているらしいんだ」
「・・・まぁ、大きな商会だったからな」
「リッド商会を潰したのはほとんど俺のようなもんだから、俺が代わりとなり得る者を斡旋しろとここの領主に言われててな」
「・・・っ!ゲホッ!ゲホッ!」
ゼオンの言葉を聞いた瞬間にむせてしまうクロルド。
「ちょっ!クロ!?大丈夫!?」
「ゴホッ!・・・ゴホン!あ、あー・・・・潰した?」
「ん?あぁ、リッド商会をか?」
「そうだ」
「潰したな」
何があったんだ・・・・
と疑問を口にしそうになったがゼオンの隣に座るサラを見て納得に至る。
リッド商会長のガウェイル・リッドはかなりの女好きとして商人の間では有名だった。気に入った女が現れれば、金、不正、脅し、手段を選ばず手に入れようとする程だった。
ゼオンが出会ったセーウェ、ユイ親子も表には出なかったが、ガウェイルは狙っていたのだ。だからこそセーウェの夫は不正に借金を抱えさせられ使い潰される形で殺されるに至り、借金の返済を脅しにセーウェとユイを我が物にしようと企んでいたのである。
クロルドは、サラに目を付けたガウェイルがゼオンに何かしらのちょっかいを出し、それでゼオンの怒りを買い叩きのめされ、さらに違法薬物の件まで表に出てしまい取り潰しとなったのではないかと推測する。
先にゼオンがガウェイルの怒りを買ったという点以外は間違っていない辺り、高い洞察力がある。
「そんなことよりだクロルド。あんたが率いるイーリス商隊に潰れたリッド商会の代わりを務めてもらいたいんだが、どうだ?」
「・・・ふむ」
「一応、俺の紹介であれば信用できるとマウンティス伯爵は言っていたし、出来る限りの援助もすると言っていたが」
「ハハ・・・ここの領主に直接援助して貰えるのか、それはすごい」
クロルドは一瞬でここ、カーゼル迷宮都市に店を構えて商売を始めることの益、不益を考える。
「いずれはここにも拠点となる店を構えたいと思っていたとこだったんでしょう?丁度いいんじゃないかしら?」
少し熟考に入ったクロルドへとリーヤは助け船を出す。
「ふむ・・・もう少し準備が進んでからと考えていたが、伯爵が援助してくれるならばあるいは・・・よし!その話、受けようではないか!!」
ゼオンとクロルドは硬い握手を交わす。
と同時に頼んでいた追加が運ばれてきて、しばらくの間、4人は話を続ける。その中にはカーゼル迷宮都市に来るまでの護衛の報酬としてゼオンが提示した、商人だからこそ持つ情報網の利用も入っていた。