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第三十八話 熱く語り合う

いつも読んでくださってありがとうございます!



世の中楽しいことばかりじゃないのは当たり前さ。

じゃあ楽しくのことはどう乗り越えればいいのか!


楽しくないことも楽しんでしまえばいいのさー!


とポジティブ思考が復活しつつあるモリータです。

見る人によっては能天気なヤツが書いた

第三十八話をどうぞ!!

「あ"~!ひと騒動あった後の風呂は気持ちがいいもんだな」

「フフフ、確かにな。それにこうして二人きりでの入浴も久方ぶりだ」


風呂というよりは温泉と言った方が正しいその場所には、湯気に隠れた二人分の影があった。1人は黒髪黒目、引き締まった体格の青年、ゼオン。もう1人は美しい白い髪と、滑らかそうな白い肌が魅力的な女性、サラだ。


「ああ、そういえばそうだな。夜はいつも一緒になってるんだが・・・・」

「は、恥ずかしいことを言わないでくれ」


ゼオンの意味深な返しに、頬を赤くしながら答えるサラ。

その空気はとても甘く、本人達にしても久しぶりの水入らずの一時であった。


そう、この何気ない一時が一番幸せなのだ


もし周りに人がいればそう思ってしまうだろう程の甘く優しい雰囲気が漂っているのだ。


さて、何故この広い風呂場にゼオンとサラ二人きりで居るのかと疑問に思う人もいるだろうが、その理由は至って簡単。

魔族の両手両足をフリューゲルで撃ち抜いて使えなくした後、マウンティス伯爵が丁度到着した。



以下、魔族を連行するよう指示した後のゼオンとのやり取り。






ーーーーーーーーーーーーーーー





「ゼオンよ、リッド商会の摘発、テューバーの逮捕に続いて此度の魔族撃退。本当に助かった!何か褒美を出したいところなんだが、要望はあるか?」

「風呂」

「は?」


ただ一言、そう即答したゼオンにマウンティス伯爵は一瞬だが戸惑った。


「ふ、風呂?」

「風呂だ」

「そんなのでいいのか?」

「疲れを取りたいし、サラと二人でゆっくり浸かりたい」

「そ、そうか」

心許(こころもと)ないなら、メリアとルークにも何か個別に聞いてみるといいさ。あと、あの筋肉もな」


そう言って差された指の先にいたのは、上半身裸のままポーズを決めているゴウゲンだった。


「ふむ、そうだな。風呂に関してはこちらで手配しよう」





ーーーーーーーーーーーーーーーーー




といった経緯で、ゼオンはサラと二人で風呂、というより温泉を満喫していた。


「今日は色々と大変だったな」


ゼオンの肩にもたれ掛かりながらそう呟くサラ。そして、ゼオンはそんなサラの肩を優しく抱きながら言った。


「そうだな。だが、これからは更に大変になると思う」

「再び魔族との戦争が起こるのか・・・」


サラの言葉には暗さと重さがあった。おそらくは神代の、魔族との壮絶な戦争が繰り広げられていた時代のことを思い出したのだろう。


「魔神や魔族と戦うのは正直恐い」

「・・・・・」


ゼオンは何も言わない。神代の戦いの当事者なのだから、心の奥にはその戦いによって負った傷はあるだろう。いや、あるはずだ。


いつの日か、その心の傷を自分の手で癒してあげたい。


魔神や魔族関連の話をする際にサラの表情に影がかかる度に思うことだった。


だから今回の魔族襲撃の時、ゼオンは敢えてサラを住民の避難と防衛に行かせたのだ。ゼオンのこの気遣いには当然サラも気付いている。だからこそ、サラは言う。


「だが、今回の戦いでは改めて気付いたよ」

「・・・気付いた?」

「あぁ」


サラは1拍おいて答える。






「私の中の「恐れ」をゼオンは振り払ってくれた。そんなゼオンが私の側に居てくれているのだ。本当に何も恐れる必要はないのだとな」




「・・・はは」


ゼオンは思わず笑う。

先程まで抱いていた、サラの心の傷を癒したいという気持ち。それはもはや杞憂だったのだから。

サラは既にそれを克服している。


「ゼオン?」


突然小さく笑ったゼオンについ声をかけてしまう。それに対して何でもないと首を振るのだった。


「サラ。前にも言ったよな?何も怖がる必要はないと。俺が居ると」

「・・・そうだな」


初めて二人で風呂に浸かっていた時の事を二人は思い出していた。


あの時にゼオンはサラに誓った。(ひと)りにはしないと。そしてサラはゼオンのその誓いを受け取ったのだ。


「私はゼオンに守ってもらっている。だから私はゼオン、君を支えて行きたい」

「もう、充分に支えてもらっているよ」

「そんなこと、んっ・・・・」


優しい口付けでサラの言葉を遮る。



それから暫くの間、2つの影は1つに重なりあっていた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー




迷宮内の魔物の凶暴化に関しては、迷宮が拡張を始める兆候で間違いないが、アンデット種の魔物出現に関しては迷宮に潜む魔族が原因であったことが確認された。


その魔族が持っていた杖に埋め込まれている水晶は魔力を吸収する性質をもった魔鉱石と、魔法使いが魔法発動の媒体に使用する水晶を溶かし、1つに融合させた「合成魔水晶」であることが判明。この合成魔水晶を使った杖に、迷宮の「核」から拡張の際に放たれる膨大な魔力を吸収することを可能とし、魔族はこれを己の力へと変えた。


迷宮核の魔力を吸収した魔族の姿が変質したことに関しては未だ仮定の域をでないが恐らく、迷宮という特殊な環境の魔力を吸収したことによるものではないかと考えられる。







「以上が、今回の迷宮調査と魔族襲撃に関する報告だ」

「・・・迷宮調査の依頼、あなたに頼んで正解だったわね」


ギルド長室でゼオンの報告を聞いたカリーナは少しの沈黙の後、そんなことを言いながら報酬の大金貨3枚をトレイに乗せて渡す。


「確かに受け取った」

「捕らえた魔族はどうなっている?」


ゼオンが報酬を受け取ったのを確認したサラが口を開く。

やはり捕らえた魔族がどうなったのか気になっていたらしい。


「今は地下牢に拘束して隔離されているらしいわ」

「情報の聞き出しなんかはやってないのか?」

「マウンティスがあなたに協力して欲しいみたいなの」


そう言ってゼオンへと視線を向ける。


「俺?」

「えぇ、あなたよ。ゼオンに任せた方が良いかもしれないと、伯爵本人も言っているし、セバスもそれを薦めているわ。・・・あなた、相当気に入られているわね」


イタズラのように微笑むカリーナ。そんなカリーナを見てゼオンは呟く。


「勘弁してくれ」

「もし引き受けてくれるなら、武器に使えそうな素材を報酬として渡すそうよ?それもかなり希少なものをね」

「物で釣るか伯爵(あのやろう)・・・はぁ、仕方ない。引き受ける」


魔族の討滅はルティナに頼まれていることだから、出来るなら魔族に関する情報は自分の手で聞き出したいと思っていたことではあったため、こちらから頼み込むつもりだった。それが向こうからお願いしてきて、尚且つ報酬を渡すというのだからゼオンとしては損のない話しだった。


「じゃあ、このまま伯爵んとこに行けばいいのか?」

「えぇ、手続きはこっちでやっておくから。今から行っても大丈夫よ」


ゼオンとサラはギルドを出るのだった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー






ゼオンはサラを宿屋「銀の匙」に帰してから1人でマウンティス伯爵の館へと来ていた。


「マウンティス伯爵からの依頼で来た。伯爵に取り次いでくれ」


門番へと声をかける。


「なに?伯爵からの依頼?冒険者がここへ来るとは聞いていないが?」

「まて。君はもしかして昨日魔族を倒した者か?」

「そうだが?」

「おお!伯爵の友人とはあなたのことでしたか。お待ちしておりました『黒嵐(こくらん)』様」
































「は?」






聞き慣れぬ単語で呼ばれたゼオンは思考がフリーズしてしまい、なんとか復帰するも結局はそんな間抜けな声を出すので精一杯だった。


「ちょ、ちょっと待てや。その『黒嵐(こくらん)』てのはなんだ?」

「魔族を倒した黒衣の男の事ですよ。魔族が召喚したアンデット共を次々と葬っていく様は正に黒い嵐(・・・)のようだったと」


つまり、ゼオンに付けられた「異名」だ。


「・・・・で、伯爵の友人というのは?」

「その黒い嵐の如き戦いを見せた男は伯爵の御友人だとか。そして、近々こちらへいらっしゃると」

「ふぅ~・・・・・・・・・」


出来ることなら。


「なんっだよそれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

と叫びたいところなのだが、大きく息を吐いてその衝動を抑える。


「ま、まぁ話しは分かった。じゃあ取り次いでもらえるな?」

「はい、直ちに!」


門番の1人は踵を返し、館の中へと走っていく。その走っていく門番を眺めながらゼオンは思った。


伯爵(あのやろう)なに勝手に俺を友人扱いしてやがんだ!と。


「お待たせいたしましたゼオン様」


そう思わないでやってくれ、とでも言うようなタイミングでセバスがやってくる。


「此方へいらしたということは魔族の件、引き受けていただいたということで間違いありませんかな?」

「まぁ、そうだな。こっちとしても魔族のことは調べないといけないんでね」

「そうでしたか。では、伯爵がお待ちです。こちらへどうぞ」


セバスの後を付いていく。その背中を見ながら思い出すのは、魔族が召喚したアンデットと戦う彼の姿だった。


セバスが扱っていた武器は三節棍(さんせつこん)だった。


この武器は3つの棍棒を鎖等で連結させた武器である。


三節棍は「棍」の打撃と「鞭」のしなやかさの2つを兼ね備えた武器であり、このしなやかさを活かした遠心力が加わった一撃は相手の防御の内側まで入ってくるため防御が困難である。だが、逆にこのしなやかさがネックでもあり、先端部分は制御できない。跳ね返って自分に当たったり、振り回して自分の当たったりと自爆が多いのが欠点な武器でもあるのだ。


これらの理由から技術習得が困難な武器として知られている。


しかしその特性から、敵に接近されて懐に入られても、連結部を折り畳めば充分に対応できる。更にはそのリーチの長さを活かして振り回せば敵の接近を許す隙を作らない。


このように中距離戦闘にも近距離戦闘にも向き、それでいて攻防一体を兼ね備えた三節棍は欠点こそあるものの、最強の武器とまで言われている程だ。


そんな扱いが難しくも最強の称号を持つ三節棍をまるで身体の延長線のように扱って見せたセバスの技術には、ゼオンも舌を巻いた。


「いかがなさいました?」

「ん?」


ゼオンの視線に気が付いたのか、セバスが尋ねてくる。


「いや、昨日のセバスの戦いを思い出してな」

「いやはや、それはそれは。年甲斐もなく恥ずかしいところを見せてしまいましたな」

「とんでもない。こちらとしてもセバスのような実力者と一緒に戦場に立ったんだ。勉強になったよ」

「若人の学びの役に立てたのならば、暴れた甲斐もあったというものです」

三節棍(あんなじゃじゃうま)をあそこまで扱って見せる人なんてそうはいない」

「そういえばゼオン様は三節棍のことをよくご存知で」

「昔、趣味で色んな武術か格闘技を・・・・・」


こんな感じでゼオンとセバスは武器や武術等について熱く語り合いながら、マウンティス伯爵の待つ執務室へと向かうのだった。

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