第三十四話 遭遇
めちゃくちゃ間があきました
ほんとすみせん!
「ものすごい魔力のうねりっつうか、うごめきっつうか・・・とりあえず不気味だよな」
ゼオンは魔力探知スキルから感じ取れる周囲の不自然で不気味な魔力の動きを感じ取っていた。
これは迷宮が拡張を始めようとしているからだろうと考える。
ビルマ達と別れてから3日という驚異的な早さで、最下層の第60階層に到達していた。
次から次に現れる魔物達をゼオンとルークが片っ端から薙ぎ払っていったのだ。時にはルークが地割れを起こすほどの強大な斬撃を放ったり、ゼオンが広域大量殲滅兵器をぶっ放したりと、ペース配分をまるで考えてない、メチャクチャでハチャメチャな速度で迷宮を進んでいった。
その結果、迷宮内の地形が少々、というよりかなり変わってしまったわけだが。
それは置いておき、今回の調査で何故最下層を目指しているのかを説明しておく。
魔物は魔石と呼ばれる器官をもっており、魔石があるかないかで魔物と動植物を区別している。
その魔石と似たものが自然発生した迷宮にも確認されており、これを迷宮の核と呼んでいる。そして、それは必ず最下層にある。
ゼオンはこれを調べれば何か分かるのではないかと思い、向かっているのだ。
「"核"はどこにあるんじゃろうな」
「さぁな。とりあえず分からんから片っ端から探しているんだが」
「・・・それらしいものも見つからないな」
ルークの言葉にゼオンが答え、サラが付け加える。
「なんか妙じゃない?」
不意にメリアがそんな事を言う。
「この辺りに来てから一切、アンデッドとか襲って来ないじゃん?」
「・・・と言うより遭遇すらしてねぇよな」
「とりあえず戻ってみらんか?」
ルークの提案を聞き、顎に手を添えて暫し黙考するゼオン。その様子をサラは静かに見守り、メリアとルークはああでもない、こうでもないと憶測を議論しあっている。
「でも偶然遭遇してないってことも考えられるよ?」
「じゃが、偶然にしてはおかしいじゃろ?」
「ん~・・・あのアンデッド達は何か目的があってここに来た・・・とか?」
「何を目的にじゃ?そもそもどうやってここに来るんじゃ?」
「ふむ、何か目的があるとするなら、迷宮が拡張とやらをするときに発生するらしい膨大な魔力ではないか?」
メリアとルークの議論にサラが参加した。もっとも、単なる思い付きを言ったに過ぎず「戯言だ」と自分で言ったことを鼻で笑っている。
「・・・サラ、今なんて言った?」
だが、それを拾う者がいた。
先程まで黙考していたゼオンだ。
「ん?戯言・・・?」
「違う、その戯言の内容だ」
「あぁ、目的があるとするなら、迷宮が拡張する時に発生する膨大な魔力ではないかと言ったのだ」
「目的は・・・魔力・・・?」
ゼオンは眉をひそめ、難しい顔をする。
「・・・すまない、面白くなかったか?」
ズコ
メリアがバラエティー番組のリアクションよろしくコケる。
「・・・・この場合は面白い面白くないの問題じゃないと思うよ?」
「さっきサラが言ったこと・・・拡張の時には発生する膨大な魔力を目的にしているのは案外、的を射ているかもしれん」
この言葉に一同がゼオンを見る。
「実際どうなのかは分からんがな。とりあえずアンデッド達と遭遇してたとこまで引き返すとしようか」
「そうだな。何か分かるかもしれない」
ゼオンの意見にメリアとルークも異論はなく、引き返すことになった。
それから暫くして、再びアンデッド種の魔物達に遭遇・・・というより襲撃を受けるようになってくる。
その様子はまるで、何かを守ろうとしているかようである。
「ちょっ!今度はすごい襲撃なんだけど!」
黒刀【シュベルトゲベール】を振るい、襲い来るアンデッド達を退けながらそう声を漏らすメリア。
「喜べ!こいつらはもれなく異常個体だぞ」
「通常種の方が喜べたんだけど!」
現在襲い掛かって来ているアンデッド達はその全てが異常個体となっていることが確認できた。
ボロボロの大小様々な剣を器用に扱うゾンビや、剣だけでなく、槍や大盾まで装備した人骨のアンデッド種、スケルトン。その他にも矢を正確に射るゾンビ、スケルトンのアーチャーがいたり、幽体が鎧に取り憑いた魔物、デュラハンがいたり。そのデュラハンに至ってはゾンビと化した馬、ホーンゾンビにまたがっており、その光景は正にアンデッド種の軍隊となっていた。
「こやつら、統率がとれておるように見えるのはワシだけか?」
「奇遇だな。俺もそう思っていた」
「もしかして上位種がいるのかな?・・・きゃっ!」
メリアが自分の意見を言うためにアンデッドから意識を反らした瞬間が隙となってしまい、スケルトンの持つ大盾による一撃を受けてしまう。
そこに追撃を加えようと大盾を振りかぶるスケルトンだったが。
ガシャアッ!
サラの放った火球で粉砕された。
「ゼオンが言っただろう?もれなく異常個体だって」
「うぅ・・・ごめん、サラ」
「まだまだ気を抜けないのだ。引き締めろ、いいな?」
「わかった!」
サラのフォローもあり、すぐに立て直すメリア。
それを確認したゼオンはすかざず指示を飛ばす。
「メリア!サラの後ろへ!サラは結界を張ってアンデッドどもを通すな!」
「え?」
「・・・!わかった!メリア、さがれ」
サラはメリアを庇うように前にでて、光の神力で壁をつくる。
「よくやった!」
ゼオンはそう言いながら、異空間倉庫からあるモノを取り出す。
それは折り畳み式で先端には砲身が6つ、環状に取り付けられた機関銃の一つ、ガトリング砲。
その性能は毎分約6000発もの弾丸を撒き散らし、それでいて破壊力も充分に兼ね備えた驚異を誇る。
現代の地球でも、いまだに対空兵器やガンシップの武装として運用されている代物である。
ゼオンの力作の1つだ。
折り畳まれた砲身を展開させ、射撃時の衝撃に負けないよう肉体強化で踏ん張り、更に身体補助で体を支える。
環状に取り付けられた6つの砲身が音を立てて高速回転し始め、
ドオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
切れ目のない銃声を響かせなからガトリングガン砲が火を吹く。銃口からは魔力の塊が全てを貫かんと絶え間なく飛び出し、地面をえぐり、壁を削り、岩をも砕く。
もちろん標的となっているアンデッド達も例外なく、その弾丸のシャワーを浴びて倒れていく。否、粉砕されていく。
「サラは結界を維持しつつアンデッドが密集する所へ!俺はこのまま掃射しながら付いていく。メリアとルークも続け!」
「わかった!」
「うち漏らしはワシが片付けるわ!」
「ゼオンは大丈夫なの!?」
ゼオンの指示にそれぞれ答え、メリアが心配の声をあげる。
「問題ない」
「サラは!?」
「このまま壁を維持するだけなのだ。雑作もない」
「いくぞ!」
次々と飛び出してくるアンデッド達は、ガトリングの咆哮と共に撃ち抜かれ、ゾンビの肉片やスケルトンの破片、デュラハンの残骸を残していき、ガトリングの掃射が終わった頃には、ゼオン達が通った跡がはっきりと分かる程にその残骸を残すことになっていた。
そしてゼオン、サラ、メリア、ルークの四人は、とある場所に辿り着く。
「兄貴は既に気が付いとるかもしれんが」
「あぁ、この壁の向こうが迷宮の核だな。そして、アンデッドはこの辺りを守っているようにみえた」
「つまり、核のところに何者かがいるってことだな」
「恐らくはな」
壁の先に強い魔力を感じており、そこに何者かの気配もまた、感じ取っていた。アンデッド達はここを守るかのように行動していたことから、この気配の主がアンデッドを使役しているのだろうと予想できた。
「そういうことなら、先に進むとしようかのう!」
「そうだね!」
ルークは言い終わると同時に背中から愛用の斬馬剣を抜き放ち、魔力を込めて壁に向かって振り下ろした。
ズドォォン!!
凄まじい地響きと共に、壁には大きく亀裂が生じる。
「はぁっ!」
メリアはその亀裂に向けて、鞘に納めたままのシュベルトゲベールを掲げ魔力を込める。
ドゴンッ!!
ゼオンがシュベルトゲベールにつけた機能の一つ、衝撃波だ。
これによって壁は砂埃を立てながら崩れ落ちることになる。
ゼオンは。
「すっかり使いこなしてんなー」
と感想を呟きながらその様子を眺めていた。
その目の奥には油断のない警戒を残しながら。
「ん?この力は・・・」
ふとサラがそんなことを呟く。
「どうした?」
「この奥にいる者の気配を私はかつて感じたことがある」
かつて?
この時のゼオンにはその言葉の意味を理解することは出来なかったが、すぐに知ることになる。
「おやおや。騒がしいお客さんの登場ですかな?」
このしわがれた声によって。
崩れた壁の奥にはバランスボールよりも大きい、光る球体、先程からゼオン達が言っていた迷宮の"核"なるもの。そしてその近くに佇む、黒いボロボロのローブに身を包んだ、見るからに怪しい人物。
壁が崩れたことで隔てるものがなくなり、それによって直に伝わってくる気配からは、本当に人と言っていいのか分からないものとなっている。
「人・・・いや、魔物?」
そう、人のようであり魔物のようでもある曖昧なものなのだ。
「ゼオン!気を付けろ!こいつは魔族だ!!」
サラが叫んだ瞬間。"核"が強い光を放った。
「ふはははははは!!来た来た!ワタシの正体に気付いたそちらのお嬢さんのことは気になりますが、先ずはこちらから片付けます」
サラが魔族と言った存在はそう言うと、手に持った杖を掲げる。
「出でよ!ワタシの私兵どもよ!こやつらに邪魔をさせるでないぞ!!」
魔族の杖から禍々しい魔力が溢れ、それを一気に振り下ろす。その動作がキーとなったのだろう、辺り一帯にいくつもの魔法陣が展開される。
「も、もしかして!召喚魔法!?」
「っ!これでアンデッドが何故この迷宮に出現しておったのか、納得できたわい!!」
そう、魔法陣からは無数のアンデッド達が這い出ようとしているのだ。
「させねぇよ」
ゼオンが両手を前にかざし、魔力を流す。
「・・・む?」
これに何かを感じたのだろ、魔族が声を漏らす。その直後、展開されたいくつもの魔法陣が砕けるように消え去ってしまった。
この現象はキギルの絶対零度が消え去った時と酷似している、いや、同じだった。
それもそのはず。
「・・・ちっ!」
これはゼオンが引き起こした現象なのだから。
魔法とは、簡単に言えば、魔力というエネルギーを変換することによって発動できるものである。
ゼオンは魔力念動力を応用して、変換される魔力に自分の魔力を干渉させて、それの流れを乱して無理矢理魔法の発動を止めたのだ。
その名も「魔法阻害」
これは魔力を変換できないゼオンだからこそできるものである。
「奇妙なことをしますねぇ・・・まぁいい」
「おい魔族、そんな禍々しい魔力を垂れながして何をするつもりだ?」
「おや、気になりますか?ならば見ていてください」
"核"に向き直った魔族は杖を両手で握りしめる。
ゼオン達四人は、直感的にこれをやらせてはいけないと悟り、行動しようとしたが既に遅かった。
ガツンッ!
魔族が杖を"核"へと叩きつけ、それをきっかけに拡張のため溢れていた魔力が全て魔族へと向かって言ったのだ。凄まじい量の魔力の渦が生み出す衝撃に、その動きを止められてしまった。
「くっ!これほどとはのう!」
「なによこれ!」
「拡張の為の膨大な魔力は伊達ではないってことかっ!」
「な・・・めんなよ」
ゼオンはこんな状態でもフリューゲルを1丁取りだし、実態の弾丸を装填して構える。
ダァンッ!
トリガーを引くが。
チュイン!
魔力の渦に影響されて弾道が反れてしまい、僅かにはずす。
それと同時に。
ゴウゥッ!
より一層強い魔力の渦が発生し、それは収まった。
『これは素晴らしい!これでワタシは今までよりも魔王や、眷属の方々のお役にたてる!』
そこには先程までとは全く違い、禍々しいを通り越してドス黒い魔力を纏い、宙に浮いている存在が。
「リッチ・・・いや、ワイトか?」
その姿は正にリッチやワイトという魔物のそれだった。