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第三十三話 異常個体

カーゼル迷宮 第55階層








「くっそう!魔物共が凶暴化していると思えば、今度はアンデッドだと!?」


そう悪態つく大男は鎧に身を包んでおり、顔だけ晒している。顔付きは大雑把な性格をしているのではないかと思えるもので、見た目から30代と予測できる。その手にはハルバートと呼ばれる槍、斧、鉤の3つを組み合わせたような複雑な形状の長物である。その腰には予備としてなのか長剣がさげられている。


「やはり噂は本物だったようね、ビルマ」


ハルバートを武器に戦う大男をビルマと読んだのは女性だ。スタイルはスレンダーで顔立ちは凛としたものだ。弓を武器に戦っているようだが、完全な後援ではないだろうことは両腰に携えられたダガーを見れば分かるだろう。


「ウゴァァァァァァァ!!」


その女性に食らい付かんとゾンビが迫るが。


「ファイアーウィップ!」


炎の鞭を振るいそれを退けたのはローブを着て杖を持った魔法使いの青年。彼の名はキギル。


「カレン、コイツらをどうにかしないと脱出も出来ないようだよ?」

「分かってるわよキギル」

「とにかく突破するぞ!ウォーレンは俺と前衛!キギルとリンは援護!カレンは遊撃として、臨機応変に頼むぞ!」


ビルマが指示を出し、ウォーレンと呼ばれた長髪を1つまとめに結んだ男は「おう!」と片手直剣を右手に、短剣を左手にそれぞれ握る。猫耳を生やした金髪女性、リンはカレンの持つ弓よりも大きい、大弓を構えてゾンビの弱点属性である炎を矢に纏わせ、放つ。


「グゴォォォォォォ!!」


炎を纏った弓が1体のゾンビを貫き、火だるまにしたのを合図に、5人は一気に仕掛ける。


その動きは見事な連携で、55階層まで来るだけの実力があると認めさせるものだった。


しかし、そんな5人でも今相手にしているゾンビには苦戦している模様。


それもそのはず。


このゾンビ達は、ただのゾンビではなく。武器を持ち、多少の知性を感じさせる動きをしているのだ。

ただでさえ痛覚がなく、無茶苦茶に突っ込んでくるだけの存在が武器を持ち、思考して攻撃を繰り出してくるのだから、かなりの驚異となる。


「キギルさん!こんなゾンビ聞いたことあります!?」

「なんでそれを僕に聴く!」

「魔物に関しちゃ、あんたが一番知識があるからに決まってんだろ!だよな?リン!」

「はい!」


状況は混戦。互いを援護するのが難しくなってきている。


何がこんな状況に陥らせているのかと言うと、最初は十数体だったゾンビ達が、どこからともなく表れているせいだ。


「ビルマさん!ウォーレンさん!ゾンビ達からできるだけ離れてください!カレンさんとリンさんは二人の援護を!」

「おい!何をするつもりだ!」

「広域凍結魔法『絶対零度(アブソリュートゼロ)』を撃ちます!」


この発言に驚く4人だが、それも無理は無いだろう。

何故なら・・・


「まだ完成させてないでしょ!?大丈夫なの!!?」


キギルはまだ「アブソリュートゼロ」を成功させたことがないのだ。


爆裂魔法(エクスプロージョン)を使った方がまだよくありませんか?」

「それは駄目だ。皆がやられる」


ゾンビは確かに火が弱点ではあるものの、ここは迷宮の中であり、これまでに放ってきたキギルの火魔法やリンの炎を纏った矢の影響によりかなりの熱気が溜まっている状態にある。


「熱気の逃げ場が無いここでエクスプロージョンを撃てば、爆風や熱風を僕達も受けることになる」


そう言ってアブソリュートゼロの詠唱を始めるキギル。


「とにかくやるしかないのね!ビルマとウォーレンの援護をするわよ!」

「はい!」


二人の援護に向かうカレンとリン。その助けをうけて崩しつつあった体勢を立て直すことができたビルマとウォーレン。それを時間稼ぎに詠唱を続けるキギル。





そして。



幾何学模様の魔法陣が展開される。



「・・・ぐっ!詠唱が完了した!下がって!!」


それを聞いてキギルの元まで一気に走り出す4人。


だが。



パリィィィィィン!!


「そ、そんな!!」


アブソリュートゼロの魔法陣が突然砕け散る。


「ま、まさか!ここで失敗したの!?」


そう叫ぶのはカレンだ。


自分の失敗が原因で仲間の命を危険に・・・・


キギルはそう考えるが、魔法陣が砕ける直前に感じた違和感に疑問が浮かぶ。


その違和感とは、魔法陣を展開していた自分の魔力に何かが入り込んで来たような、何かが邪魔をしてきたような、そんな感覚だった。


それが何だったのか、気にはなったが今はそれどころではない。


「はやく援護しないと!・・・っ!」


援護の為にと魔法を展開しようとするが魔力が込められない。


アブソリュートゼロはかなりの魔力を消費する魔法で、魔法陣が砕け散った時、一緒に霧散してしまったのだ。


キギルの目に写るのは自分以外の4人のメンバーと、その背後に迫る武器を持った奇怪なゾンビの大群。


もう駄目だ!助けられない!


そう思い、それらの現実を捨てようとしたその時。





「不完全な魔法を実戦で使えば、自分達すらも危険に晒すことになる。覚えておけ」




誰かが隣で呟く。




思わず振り向いたキギルの視線の先にいたのは。


黒い髪、黒いロングコートと全身真っ黒の男。




ゼオンだ。



ゼオンは右手をかざして何かを掴むような動作をして一気に引いた。


「うお!?」

「な、なに!?」

「きゃぁ!」

「え?え?」


全力で走っていた4人が突然宙に浮き、何かに引っ張られる様にキギルの所まで飛んだ。


ゼオンの魔力念動力だ。


「よく分からないけど、なんとかなりました」

「まだなってねぇよ!あんたら!何者かは分からないが、ここは逃げた方が良い!」

「そうだ、こいつらはただのゾンビではない!」


状況の把握は出来ていないものの、なんとか忠告する。


「この迷宮内でなんらかの異変が起きておる。ワシらはその調査の為に最下層まで行かねばならんのじゃ」


独特の口調で話す男はルーク。斬馬刀を武器に戦う「赤眼」の異名を持つ。その隣には赤い髪が特徴のメリア。ゼオンだけでなく、ルークからの指導もあって、実力もかなり上がっている。


「そんな訳だ。こいつらを殲滅して先に行く」

「だからこいつらは!・・・」


ビルマの言葉を無視してゼオンは走り出し、わざとゾンビ達の注意を引き付けるように跳躍して、大群のど真ん中に着地する。


「さぁ、答えろ。どこを撃ち抜かれたい?」


フリューゲルを構えながら問う。


「ウゴォォォォォォ!!」


ドパァン!


叫びながら接近してきたゾンビを撃ち抜く。


「答えようもなかったな」


冷たく吐き捨てて「ガン=カタ」の構えをとる。


それからは速かった。



ゾンビ達の間を縫うように移動しながらトリガーを引き、その度に炸裂音が響き、破壊の閃光が走る。


集団と戦う時にこそ、その真価を発揮する銃格闘術「ガン=カタ」による攻撃は、やはり怒濤の如くゾンビ達の数を減らしていく。


後にビルマ達はその様子をこう語った。








「黒い嵐」が吹き荒れているようだったと。








振り抜かれた剣をフリューゲルで弾き、それによって出来た隙を逃さずにゾンビの頭を粉砕。さらに左右にいるゾンビを撃ち抜き、跳躍して立ち位置を変え、魔力の弾丸を乱射する。


「ワシも行くとしようかのう!斬波(ざんぱ)!!」


そこにルークが斬撃を飛ばすスキル「斬波」を発動しながら参戦する。


「オォラオラオラオラオラオラオラアァァァァァ!!」


斬馬刀の重量を感じさず軽々と振り回して切り飛ばし、叩き潰し、薙ぎ倒すその姿は圧巻だった。





「な、なんなんだあいつら・・・」

「あのゾンビ達をこうも一方的に倒すとはね」


ビルマとウォーレンが信じられないといった風に呟く。


「あの二人は異常・・・・っていうか色んな意味で常識外れなんで気にしないでください」


無理だろ!


ビルマとウォーレンの思考がシンクロした瞬間だった。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「このゾンビ達は通常種でも、亜種でも、変種でもなかった」


ゼオンはサラ、メリア、ルークの3人に加え、ビルマ達5人を交えて先程のゾンビについて話していた。


ゾンビはルーク参戦後、約5分(ゼオンの時間感覚)で殲滅された。


その後、各々が軽い自己紹介をして今に至るのだが、ビルマがサラに見惚れてしまい、それに気付いたカレンが肘打ちを顔面にプレゼントするという出来事があった。


「え?じゃあ、まったく新しい種ってことかい?」


魔法使いの青年、キギルが疑問をぶつけるように言った。


「それは分からん。だが、これだけは確かだ。俺は解析スキルを持っている。それで解析した結果、あのゾンビ達は【異常個体】となっていた」


「「「「「異常個体???」」」」」


5人が口を揃えて鸚鵡(オウム)返しする。


「前に2度、異常個体に遭遇したことがある」


その内の1回は以前メリア達に話した、貴族に目をつけられた時の出来事で。その貴族が奥の手として、捕獲し、薬品でドーピングしまくって無理矢理強化させた魔物だった。


「その魔物が異常個体と出ていたな。俺の・・・」

「ちょっと待って?てことは、さっきのゾンビ達も薬品か何かでドーピングされていたってこと?」


ビシッ!


「いった!」


ゼオンの言葉を遮ったメリアにデコピンを喰らわせる。


「とりあえず話を聞け。これは俺の予測でしかないんだが。異常個体ってのは、なんらかの力の影響で通常種が変異を起こしている個体なんじゃないかと思う」

「それはどういうこと?」


もう1つの異常個体との遭遇は、超高難度迷宮である、ラウラドの大迷宮でだった。


「超高難度迷宮には特殊な魔力が充満していたりするからな。おそらく、その影響で変異を起こしていたんじゃないかと思う」


「「「「「超高難度迷宮!?」」」」」


再び声が重なる5人。


「突っ込むとこはそこじゃない。つまり、異常個体とは通常種のまま亜種や変種になることだと認識すればいい。すこし違うけどな」

「今回の異常個体は迷宮の成長が影響しているってことか?」

「まぁ、そうなんだろうけど。マスターも言っていたが、この迷宮は本来アンデッド種は出ないらしいんだ」

「そうか」


サラの言葉に答えた後、ゼオンはしばし黙考し。


「やはり、最下層まで行くしかないかな」

「待ってください。ここでもこんな強力な魔物が現れているのに、最下層に近付けばもっと協力なやつが現れるかもしれませんよ!?そこに4人だけなんて!!」


たまらなくなったリンが声を張り上げる。


「リンの言う通りだ。危険だぞ?」

「だったら私たちも加勢しない?」

「そうだね。こういう所では人では多いに越したことはないしね」

「いや、あんたらは先に地上に戻ってマスターに報告してほしい。異常個体の出現と、俺らは更なる調査の為に最下層に向かうとな。あ、あと」


ゼオンは一拍おいて、


「嫌な予感がするともな」


この瞬間、何故か5人は寒気が走った。


中々の強さを見せ付けたゾンビの群れを容易く葬り去ったゼオンの強者としての風格を、長く冒険者をやっているが故の本能で察し、その強者が嫌な予感がすると言っているのだから無理もないだろう。


「ま、というわけじゃ。頼んだぞ?」

「・・・なんでお前が締めんだよ」

「たまにはええじゃろ?」

「あ、そだ。次出現した魔物はメリアがやれよ?」

「えぇぇぇぇぇぇ!?」

「お前さっき参加してなかっただろが!」

「入る余地なかったじゃん!」

「無理矢理にでも入り込め!」

「そんな無茶苦茶な!」

「落ち着けメリア。私も手伝って上げよう」





「「「「「・・・・・・・」」」」」





ゼオンたち4人は、これから危険な所に向かうとは思えない空気だった。

いかがでしたか?


無理矢理な展開になっていないかが心配です

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