第三十二話 依頼
久しぶりに早めの投稿が出来ました
それではどうぞ!
ギルドの応接室。
大きな窓からは日差しが入り、部屋全体を明るくする。
フカフカなソファーが向かい合わせに設置してあり、その真ん中に机。
片側にギルドマスターのカリーナが、もう片側に黒い髪、黒いロングコート、黒いブーツという全身真っ黒な格好をしたゼオン。それとは対極的に白いチューブトップ、青白いショートパンツ、白いアームカバー、白いニーハイブーツ、青白い袖無しジャケットと、ほぼ全身白のサラが座っている。
「本題に入る前に1つ確認させてほしいことがあるの」
最初に口を開いたのはカリーナだった。
「サラ、と言いましたね。あなたはまさか神獣様・・・ではありませんか?」
カリーナの言葉を聞いたゼオンはサラに目を合わせ、答は任せる、とアイコンタクトを送る。
それを受け取ったサラは答えた。
「そうだ。私は神獣で白天狼という種族だ」
やはりか。
カリーナは内心呟く。
カウンターで驚いたのはサラから滲み出るモノが魔力の類いではなく、それよりも上位の力を感じさせるものだったからだ。
そしてカリーナの側を飛び回っている精霊達がサラに対して敬うような態度をとったことも大きい。
これらのことから、精霊よりも更に上の存在、神もしくは神獣ではないかと推測できた。
「失礼を承知でお聞きします。なぜ人間と共に行動しているのでしょうか?」
カリーナがこう聞きたくなるのも仕方のないこと。
精霊という存在と意志を交わすことの出来る人種族であるエルフ族にとって、神獣や神というのは他の人種族の考えとは違った意味で崇高な存在としている。
「言っただろう?私とゼオンは恋仲にあると」
カリーナの表情は驚きに包まれる。
「神である存在と人間が!?」
ゼオンはカリーナが何故驚いたいるのか、なんとなく察することができた。
つまり、今のゼオンとサラのように神獣と人間が仲良く一緒にいて、しかも"恋人です"なんて言われるのは、かなり驚きというかあり得ないというか。
とにかく信じられない事なのだろう。
「サラとは、超高難度迷宮で出会って、契約を交わしているんだ」
この言葉に、驚きが強すぎて逆に冷静になってしまったようで。一度、目をつむって深呼吸をしてからまた目を開く。
「私たちエルフが精霊達と契約できるように、神獣や神とも何らかの契約ができる事は聞いたことがあるわ」
言葉を区切る。
「・・・色々と突っ込みたいところけど、本題に入るわね」
本当に、それはもう本当に、物凄くツッコミをいれたいけど、と内心で呟きながら話を続ける。
「最近、迷宮の様子がおかしい。という話は聞いている、あるいは体験していると思うわ」
「そうだな。活発化というか凶暴化というか。とにかく魔物がすごかったからな」
「私達がギルドに立ち寄ったのはその報告のためだ」
カリーナはゼオンとサラの言葉を聞き、何かを決断したかのように二人を見据える。
「ゼオンとサラ様に、迷宮の調査を依頼したいの」
「なに?」
「まってくれないか?」
ゼオンはサラを見る。なぜまってくれと言ったのか、それが気になったからだ。
「様をつけるのはやめてくれないか?今は神獣としてではなく、一人の人間としてここに、ゼオンの隣にいるのだ」
そっち!?
ゼオンはズルリとソファーから滑り落ちた。
てっきり、先程言われた迷宮調査の依頼について何か言いたい事があるのだと思っていた。カリーナもそうだったのだろう。目が点になっている。
「・・・分かりました。では人間として接しましょう」
立ち直ったらしいカリーナはそう告げる。
「フフッ。ありがとう」
微笑みと共に礼を述べるサラ。それはとてもやわらかいもので、見るものを安心させ、見惚れさせる程であった。
「・・・で?迷宮の調査を俺らに依頼したいってのはどういうことなんだ?」
サラとカリーナのやり取りを見ていたゼオンは、それを切って、言った。
「あんたもこの異変は成長が間近だからだって判断しているんだろ?」
「その事なんけど。もしかしたらそれだけじゃないのかも知れないのよ」
「それだけじゃない?」
「55以降の階層でアンデッド種の魔物が出現していると報告を受けているわ」
それが何か問題あるのか?
ゼオンは問う。
迷宮なのだから色んな魔物がいて当然なのだ。確かに迷宮の種類によっては水棲の魔物しか居ない迷宮や特定の種族がのみが存在しない迷宮等もある。むしろ全種の魔物が出現する迷宮などあり得ない話だ。もっともそれは、超高難度迷宮を除いてだが。
「ここの迷宮はアンデッド種の魔物は一切出現しない迷宮なのよ?」
「・・・そういうことか」
このカーゼル迷宮都市の迷宮はアンデッド種が出現しない迷宮だと確認されている。
ならば。
「成長の過程で新たな種が出現するようになったりとかはしないのか?」
「それこそ超高難度迷宮でもない限りはあり得ないし、聞いたことも無いわ」
「そういうもんか?」
自然発生の迷宮で、未だに成長している迷宮なんだからあり得そうなんだけどな・・・
そう考えるゼオンだったが。
「人によって使える魔法の属性があるように、迷宮にも産み出せる魔物の種族が存在している。迷宮研究家達もその結論を既に出しているわ」
100年以上前にね。
そう付け足された言葉には、かなりの説得力があった。
「迷宮では何が起こるか分からないわ。だからあなた達に調査を依頼したいのよ」
「なんで私達なのだ?腕利きなら他にもいそうだが」
「あなたの想い人、ゼオンという男は1日でリッド商会長をコテンパンにした後に、貴族の逮捕まで導いたのよ?しっかりと証拠を掴んだ上でね」
普通だったら1日では終わらない。それをやってのけたゼオンだから、調査を依頼できる。
「それに、神獣を恋人にするほどなんだもの。あなた達にしか頼めないわ」
肩を竦めながら言うカリーナ。
「だったらその依頼。俺とサラ以外に後二人、参加させても大丈夫か?」
「二人?」
「一人は俺が鍛えているメリアって娘だ。もう一人は赤眼のルーク」
「あ、赤眼?なんで異名持ちの名前が出てくるのよ。どういう関係よ」
ゼオンは答える。
「俺の弟弟子だ」
「本当にどういう関係よ・・・」
逆に理解できなかった様子。
しかし、カリーナの脳裏に浮かび上がったのはゼオンのランクだった。
ランク0
今となっては噂でしか知られていないランクであり、最近では英雄ガインがそれに近いと言われていた。
そのランクを目の前の男。ゼオンは持っている。
そんな男なのだから、異名持ちと関わりがあっても不思議ではない。と自己完結させる。
「まぁ、良いわ。この依頼はランク0冒険者として依頼したが良いかしら?」
確認の為に訪ねるカリーナだったが。
「いや、0というランクは確かに俺のランクではあるが、オヤジに譲ってもらったランクでもある。今回はランク2冒険者として依頼を受けたい」
「・・・・譲ってもらった?」
「知ってるだろ?ガイン・マークス」
「えぇ!?」
声に出して驚くカリーナ。
「オヤジって、つまりお父さん?」
「育てのな」
この世にはなんとも不思議な縁や繋がりがあるものだ。
因みに、テューバー子爵を告発する依頼の際にランク0のガードを隠さずに見せた理由は。ここのギルドをまとめる者に対して、本当のランクを掲示しない訳にはいかない。
と考えての事だった。
「まぁ、そんなわけでランク2として頼む。ルークとメリアには俺から伝えておく」
「わ、分かったわ」
「調査報告はまたここに来ればいいのか?」
「私に報告があると受付嬢に言ってくれれば、それで良いわ。報酬は、そうね・・・大金貨3枚でどうかしら?」
「・・・悪くないな。その依頼、受けよう」
「助かるわ」
こうしてゼオンとサラは、メリアとルークも同行させる為にギルドを出て、宿屋「銀の匙」へと向かうのだった。