第三十話 趣味
ゼオンは目を覚まして、先程の出来事を思い出す。
名を呼ばれ気が付くと真っ白な空間に居て、そこに創造の主神「ルティナ」が存在していた。
そして、ルティナの口から出た。
『魔族が活動を始めようとしています』
という言葉に一瞬驚いた。だが、それだけではなかった。
魔族と魔王の出現という驚異はゼオンとサラがガルディアの大迷宮を出た後に、神託として世界各国の教会にいる巫女に伝えたという。ゼオン達以外の者達にも魔族の存在を認知してもらい、ゼオンと共に戦ってもらおうと考えてのことだ。
しかし、ゼオンの事を名は出さずに勇者として伝えた為に大国の上層部は「国の中で一番強い者が勇者」と解釈してしまったようだ。その結果、各国で優勝者は勇者として、国と共に魔族討伐に向かうという内容で闘技大会の開催が決定していった。
するとどうなるか。
複数人の勇者が誕生するという面白い出来事が発生するのだ。
だが、ゼオン自身は勇者になったつもりは無く、魔族と魔王の討伐に関しても「この世界を救うため」ではなく「大切な人を守るため」に行う。その為、わりとどうでもよかったりする。もっとも、敵となり自分の前に立ちはだからなければという条件付きだが。
しかし、各国のエゴや思惑も絡んで来るだろうから敵となる国は出てくるだろうことは予想できる。
「・・・ま、なるようになるでしょ」
とりあえず昨日伯爵からの報酬で素材を大量に入手できたので装備を一新して充実させようと考える。丁度そのタイミングで隣で寝ていたサラが目を覚ます。
「・・・おはよう、ゼオン」
「あぁ、おはよう・・・どうした?」
挨拶を交わしてすぐに抱きつくサラを見て不思議に思う。いつもはキスをしてから抱きつくのだが、キスもなく抱きつき、少しだが震えているようにも感じる。
「・・・サラも呼ばれたのか?」
「!・・・魔族が動き出した」
「ルティナに聞いた。少々めんどい事にはなっているが大丈夫だ。俺がいる」
「・・・そう、だな」
ゼオンに大丈夫だと言われると本当に大丈夫な気がして安心するから不思議だ。
「俺はしばらく装備製作にのめり込もうと思ってるんだけど、サラはどうする?」
「私はいつもゼオンの側にいるよ」
そう言って微笑むサラ。
俺にはもったいない女だとゼオンも微笑む。
とその時
「キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」
「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!?」
隣の部屋から叫び声が、というか絶叫。
「・・・メリアとルークか」
「何をやっているのだ」
一瞬ビックリした二人だが、すぐに冷静になり様子を見に行くことにした。
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「す、すまん!ホントにすまん!!」
何故か分からないが物凄い勢いでルークが謝っている。
「なにやってんだよ」
その様子を見たゼオンは思わずそんな言葉をもらした。
「あ、兄貴・・・」
「サラ・・・」
二人して挙動不審だ。
もしかして?と、とある展開が脳裏をよぎったがルークもメリアもちゃんと服は着ていてベッドも綺麗であることからそれは無いだろう。
ソファを見るとクッションに少し凹みができていて、ついさっきまで誰かが座っていた、もしくは寝ていたことを物語っている。
だが、状況がイマイチ掴めない。
「こ!これには訳があってじゃな!」
「・・・これってどれだよ」
「あ、あぁの!これはそんなつもりじゃなくてね?」
「だからどれだよ・・・て言うか」
ゼオンは一瞬でルークとメリアに肉薄し、
「ちったぁ落ち着けや!」
ベシッ!
「ぃた!」
バキィッ!
「ほぶぅっ!!」
メリアにはチョップを、ルークには蹴りを叩き込んだ。
「何があったのか説明しろよ。これがどうのと言われても、どれがどうなったのか分からん!」
「す、すまん」
「はい」
ゼオンのチョップと蹴りでそれぞれ少しは冷静になれたのか挙動不審ではなくなっている様子。
そして二人は説明した。
ゼオンとサラがベッドに潜り込んだ後気まずくなったので部屋をでて、隣にあるメリアの部屋にいったという。そこで暫く話をしていたがいつの間にか寝てしまっていたらしい。
「それがなんであんな叫ぶようなことに繋がるのだ?」
「「・・・・」」
サラの質問に答えずらそうな様子。
「ここまで来ると多分だが。起きたら密着でもしてたんじゃないのか?」
「「!!」」
図星のようだ。
「別に体を重ねたわけでもないんだろ?」
「「ぶっ!?」」
「フフ、初なやつらめ」
サラの目には初と写るらしい。
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それから一時間程かけてやっと気持ちを切り替えさせてから、これからどうするかという話になった。
「そんなわけで、色んな国で闘技大会が開催されるらしい」
「ワシもその話はちょっとじゃが知っとるぞ。この国も間もなく開催が告知されるらしい」
「闘技大会の話をするってことはゼオンも出場するの?」
「しねぇよ、めんどくせぇ」
「え、でもゼオンの実力なら優勝できると思うけどな」
「優勝できるできないの話じゃないんだよ」
メリアはどういうこと?と首をかしげた。
ゼオンは神から直々に魔族と魔王の討伐をお願いされているのだ。ルティナの言った勇者とはゼオンのことであり、国が闘技大会を介して選んだ者ではない。
「ルティナ神がゼオンに直接お願いをしているのだ。言ってしまえば、勇者とはゼオンのことだ」
「・・・え?」
「勇者なんて大それたもんじゃねぇよ。魔族だろうが魔王だろうが魔神だろうが敵なら潰す。ただそれだけだ」
なんでゼオンは毎回毎回ぶっ飛んだことを言い出すのか。
そう思わずにはいられないメリア。
「それは置いといてだ。メリア、悪いが魔族との戦いに備えて、色々と装備を一新したい」
「え?じゃあ」
これで終わりなの?そう言いかけるが。
「いや、そんな無責任な事はしないから安心しろ」
メリアが何を言おうとしたのか察したゼオンは先回りして答える。
「1週間ほど、装備製作に集中したい、それだけだ」
「その間私はゼオンと一緒にいるつもりだ」
「メリアは・・・そうだな。ルーク」
「ん?ワシか?」
「お前、メリアと一緒に迷宮に潜ってやってくれないか?」
「!?」
目を見開いて驚くルーク。
「そんな驚くことかよ・・・」
「じゃが、兄貴とパーティを組んでいるのであろ?ええのか?」
「お前は俺とは違う強さを持っているからな。メリアにとってもいい刺激になるさ」
答えになっていない。
「メリアはええのか?それで」
ポーカーフェイスを装っているルークだが、少し赤面している。
「・・・むしろお願いします!」
OKらしい。
「わるいな、二人とも」
「・・・・・・」
「・・・なんだよメリア」
何とも言えない表情で見詰めてくるメリア。
「ゼ、ゼオンが・・・謝罪の言葉を・・・」
ゴスッ!
「お前シバくぞ」
「うぅ~・・・もうシバかれてんだけど」
拳が炸裂した所を擦りながら涙眼になっていた。
この日、メリアとルークは早速迷宮へと向かい、ゼオンはサラが見守る前で新たな装備の製作に取り掛かった。
最初に何をしたかと言うと、ゼオンが身に付けているターバンとマントの素材となっている「神製布」の再現だった。
神製布は糸を織りながら、神力を込めることで完成するものらしい。ゼオンは神力の代わりに魔力を込めるとどうなるかと実験してみると、「神製布」ではなく「魔製布」」が完成した。
これに魔力を通して硬化させてみると、神製布よりも魔力と相性が良く、魔力の通りが非常にいい。
魔力を通して作られたおかげだろうとゼオンは予測する。
この予測は正解で、神製布は魔製布よりも性能は良いのだが、神力ではなく魔力で使用するとその性能も充分に発揮されない。神力を宿すサラが使った方が腐らせずにすむ。逆に魔製布は神製布ほどの性能は無いが魔力で神製布を使うよりも効果的に運用できる。
つまり、ここでゼオンが神製布から魔製布に切り替えても、その武装の質はプラマイ0ということだ。
いや、効果的に運用できることから、むしろプラスだろう。
「この神製布のターバンとマントはサラにやるよ」
「私に?」
「あぁ。これは一見布だが、魔力や神力を通すと防具や武器に早変わりだからな。それに神製布は神力を持つサラが使ったがいいだろうしな」
後で服にでも作り替えてやるよと言ってサラに手渡した。サラはそれを受け取り、
「ありがとう」
と、少々恥ずかしそうに答えた。
微笑みで返したゼオンはしばし考える。
「魔製布を作って、何にするからなんだよな・・・・」
意外な所で悩む。
ゼオンが作り出した魔製布は黒い生地になった。ターバンやマントではなく別のものがいい。
自分の戦闘スタイルを考えてみる。
ゼオンは魔導神銃「フリューゲル」2丁を使っての「ガン=カタ」をメインに使っている。
「銃、黒い生地、格闘・・・・あ」
ふと、あるものが脳裏に浮かんだ。
黒いロングコートを見にまとい、銃撃戦や格闘戦を繰り広げるアクション映画が。
「マ〇リックス・・・」
「マトリッ〇ス?」
「いや、こっちの話だ。気にしないでくれ」
「フフッ、そうか」
「どうした?」
サラが終始ニヤニヤしていることに気が付き訪ねる。
「迷宮を出て以来、久々に楽しそうなを見れたのでな」
いつも楽しんでるんだけどな、と思いつつ自身も気が付いた。
自分の口角がつり上がっている。
武器や防具、この他もの作りがこちらの世界に来てから、ゼオンの趣味になっていると気付いた瞬間だった。
という訳で、新装備製作をはじめました!
新しい装備に関しては
けっこうやりたい放題やってしまいそうです