第二十二話 騒動前のカウントダウン
やっぱり全てにおいて、得意分野、苦手分野がありますよね。
高校の部活時代に得意なこと、出来ていることばかりを練習している後輩や先輩を見てきました。
もしかしたら自分もそんなことをやっていたかもしれません。
克服って大事ですよね!
そんな何言ってんの?なことを発言している
モリータですが、やっと更新出来ました。
この作品を楽しみにしていいただいている方々には
本当に申し訳なく思っています。
更新速度がんばってあげていくのでこれからも
よろしくお願いします。
それではどうぞ!
「あ・・・な!」
あまりにも一瞬で唐突な出来事に、会長であるガウェイル・リッドは言葉を失った。
「さて、なんでこのアーティファクトが使えないと言えるのか。理由を聞かせてもらおうか?」
その言葉ではっ!と我に帰ったガウェイルは冷や汗を我慢しながら場所を変えて話そうと言って応接室へと案内した。
「ここ、カーゼルの迷宮では、最近質のいいアーティファクトが発見されていないですからね!」
「ほう?つまり、まともな鑑定もせずにガラクタと決めつけたのか?」
この事にさらにムカついたゼオンは、いじめてやろうと考えた。
「この剣はカーゼルの迷宮で見つけたものじゃないんだがな」
「なに!?だが!この女は迷宮で見つけたと!」
口調に本性が出始めたガウェイルを無視してゼオンは話を続ける。
「迷宮はここ以外にもいっぱいあるだろ?」
「ぐぅ!」
「それに、確かに質の良くないアーティファクトでもマジックアイテムよりも高値で取引されるだろ?なんで買い取れない?」
この質問はガウェイルの思惑をしっかりと捉えていた。
セーウェのような平民はアーティファクトやマジックアイテムという存在を知ってはいても、その価値や扱いをちゃんと知らないものが殆どだ。だから、今回のようになにも知らない平民がアーティファクトを売るために持ってきても、質が悪いから金は払えないと言った後、何か理由を付けて無償で取られるのだ。
勿論、無償で奪い取ったアーティファクトは高値で売り捌かれる。
ガウェイルもそれを狙っての事だったのだ。そして、アーティファクトを譲った冒険者、ゼオンの事も無償で譲っていることから、アーティファクトに関しては無知だと判断して騙そうとした。
だが、結果は失敗に終わり、これが原因でガウェイルにとって悪い方向へと一気に傾くこととなる。
「俺は定住の拠点を決めて行動している訳じゃない。どういうことか分かるか?」
「・・・・?」
唐突に始まるゼオンの話に訳が分からないといった表情をするガウェイル。
「つまり、この世界の色んな所を見て回ってる。文字通り冒険してるってことだ。その中には勿論迷宮もカウントされる」
迷宮から超高難度迷宮まで潜っている。ただの集落から大国まで色んなものを見てきていると言葉に出してハッキリとアピールする。
「その剣はな?高難度迷宮で見つけた代物でな」
「!?」
「色んな国や街、村でその価値を鑑定してもらったが、誰もガラクタなんて言わなかったぜ?むしろ一目見た瞬間にアーティファクトだと見抜いただけでなく、驚いてた。中には腰を抜かす人まで居たほどだ」
次から次に口から出任せが出てくる出てくる。
【スキル「詐欺師」を所得しました】
まさかのスキル所得。
詐欺師というスキルを所得したゼオンは、いじめるだけでなく、詐欺師らしく金まで巻き上げてやろうとまで考えてしまった。
「なんで驚いただけでなく、腰を抜かす人まで出てくると思う?この剣にはそれだけの価値があるってことさ」
ゴクリとガウェイルは唾を呑む。ここまで何故ガウェイルが口を挟まないかと言うと、挟まないのではなく挟めないのだ。会話の中には口を挟めない絶妙な「間」というものが存在しており、現代のキャッチーセールスなどの詐欺師は、この絶妙な「間」で言葉と言葉を途切れさせないことで、口を挟ませず、尚且つ不快に思わせずに話を展開していく。ゼオンもまた、この絶妙な「間」で話を途切れさせずに話をしている。つまり、今現在この場の空気は、ゼオンが支配してしまっているのだ。
「鑑定の結果はどこもかなりの金額を提示してきたよ。そんな中でも一番安かったのが、大金貨50枚だったよ」
「お!大金貨50枚だと!?」
「そうだ、ちなみにとある村の鑑定士はこう言ったよ。もし、これを私に買い取れと言うのなら、この村の財政が破綻する。とな」
嘘だろ?と目を見開くガウェイル。
ここでこの世界の通貨について説明する。
この世界のお金は全て硬貨であり、価値が低い順に
鉄貨
小銅貨
大銅貨
小銀貨
大銀貨
小金貨
大金貨
白金貨
となっている。
金額は
鉄貨=1円
小銅貨=10円
大銅貨=100円
小銀貨=1000円
大銀貨=1万円
小金貨=10万円
大金貨=100万円
白金貨=1000万円
ゼオンが言った大金貨50枚は5000万円ということだ。つまり白金貨5枚になる。
「これほどの代物をあんたは見抜けなかった。商人としての見る目を疑うよ」
わざとらしく溜め息を吐いて、やれやれと首を横に振る。
「・・・っく!分かりました。大金貨50枚で買い取らせてともらいましょう」
「ペケだな」
「・・・え?」
「最低でも大金貨50枚と言ったんだぞ?ここまで大きな商会なんだ。もっと大きい金額を提示しろよ」
「ぐっ!では、どれくらい払えと?」
「そうだな、大金貨500枚だな」
「ご!500!?」
白金貨50枚の金額、つまり5億円。
ガウェイルが破産しても払えない金額だった。
「そ、それは流石に払いきれません、100枚にして頂かないと!」
「500枚だ」
「150!」
「500枚」
「200!」
「400枚」
「250!」
「300だ」
「大金貨250と小金貨5枚!」
「300だ」
ガウェイルは冷や汗を垂れ流しかなり焦っていた。
現在のガウェイルの総資産は約白金貨40枚。このまま大金貨300枚を払ってしまえば、今後の大きな取引が難しくなってしまい、大金貨300枚の損を取り戻すのはかなり難しい。いくらテューバー子爵が後ろ楯になっているとは言っても、流石に厳しいのだ。
「それでは私が破産しかねない!」
「んなもん知るかよ。今は自分の利益しか考えてないんだ」
「ふざけるな!」
「お前もやっていることだろ?」
「なに?」
「自分の利益ばかりを優先した、強引な取引ばかりやっているじゃないか」
この間もガウェイルは思考していた。どうすれば上手く安く買い取れる、もしくは断れるかと。しかし、色んな意味で徐々に追い詰められているガウェイルに、良い案が浮かぶはずがなかった。
しかし、何かが頭の中で呟くようにあることを思い出した。
ヤドク草を使った薬物の売買があるではないかと。
これで思考に余裕を少し取り戻したガウェイルは言った。
「さ、300枚ならお支払しましょう」
「なんだ?急に励精になったな。損を取り戻せるだけの何かがあったってことか?」
この言葉にガウェイルはニヤリと笑ってセーウェをチラリと見た。それを見逃すゼオンではない。
「ヤドク草を使った薬物で利益を得るか?」
「!?」
「言ってしまえば、このアーティファクトの金額以外にもアンタが俺に対して適当な取引をしようとした事と、ヤドク草を使った薬物の売買の口止め料も含まれているんだ」
「ふ、ふん!もしそれを憲兵や騎士に言われた所で、私には何の支障も起きん!」
後ろ楯になっているテューバー子爵、もしくはガウェイル自信の私兵が、憲兵や騎士の中に入っており、内側からの情報操作も不可能ではないと言う。
「つまり、それで私が捕まることはないのだ!」
「誰が領主や憲兵にチクると言った?」
「え?」
「商売ってのは信用が一番大事だよな?」
ガウェイルは、その言葉が頭に染み込むような感覚にとらわれる。
「そこでた、俺が憲兵や騎士、領主にチクらず。ここの市民にこの情報を流した場合、どうなると思う?」
「ふん!たかが知れてる!」
ゼオンはガウェイルの言葉に、こいつはバカなのか?と本気で思った。
「お前、それでも商会のトップか?」
「なんだと!?」
「いいか?俺が流した情報はまず噂として広まる。噂ってのは必ず尾ひれ背びれが着くもんだ。ましてや、薬物まで製造販売してるんだ。信用は無くなっていくだろうな」
そこまで言われてはじめて理解する。
そんなこ事をされれば、せっかくここまで大きくした商会が潰れてしまい、この都市には居られなくなる。
「だから口止め料も含めた大金貨500枚なんだよ。それを300枚にまけてやるんだ。感謝しろ」
「あ、ありがとうございます」
ガウェイルは苦々しい表情で頭を下げるのだった。
それから暫くして、ゼオンはお金が入った袋を受け取り、応接室を出た。
受け取る際には数を誤魔化していたらその時は容赦はしないと言い。その言葉に青ざめたガウェイルは再確認の為と言って袋を持ち去りまた戻ってくる、という怪しい出来事があったのはここだけの話で、鑑定スキルを持っているゼオンは誤魔化せないということだ。
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「ま、まさかこんな大金で売れるほどの代物とは思いませんでした」
セーウェは ゼオンが応接室に案内されるとき、無理矢理付いて来させられた為に今のやり取りを全て見ていた。
「ほら、受け取れ」
「・・・・え?」
突然、大金貨300枚が入った袋を差し出されて固まるセーウェ。
「あのアーティファクトは既にあんたに譲っていた物なんだ。そして、あんたの代わりに俺が交渉したに過ぎない」
だからこの金はあんたらの物だと言って渡そうとする。
「ちょ、ちょっと待ってください!こんな大金いただけません!」
考えても見てほしい。
日本円にして30億円の金額を、ゼオンはポンと渡そうとしているのだ。受け取れないのは無理もない話というものである。
「ゼオンさんは私の解毒治療をしてくれました。そして、アーティファクトを譲って頂いた。それだけでなくアーティファクトを売る交渉まで代わりにしていただきました。そのお礼金として、借金の返済額と1ヶ月分の生活費だけいただいて、その残りをあなたにお譲りします」
そうきた来たか、と頬を人差し指で掻くような仕草をする。
「本当にそれでいいのか?」
「はい」
「全額受け取れば一生楽に過ごせるんだぞ。勿体ないと思わないか?」
「こんな大金を持っていても、誰かに盗まれて終わりです」
盗まれれば、それこそ勿体無いからゼオンに持っていって欲しいと伝える。
「はぁ、分かったよ」
「ありがとうございます」
折れた言葉に満面の笑みでお礼を言うセーウェ。18近い娘を持っているとは思えない、大人な色気がその笑顔にはあった。
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「くっそぉ!あの冒険者めが!!」
応接室に一人残ったガウェイルは、その怒りをどこにでもなくぶつけていた。
時には壁を殴りつけ、時にはソファーを蹴りつけ、時にはクッションを踏みつけ、叫ぶ。
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
そして暫く踞り、唸るように声を出す。
「う"ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅううううぅぅぅぅ!」
今回の大き過ぎる損失によって受けた屈辱は、より大きな憤怒の感情へと変わっていく。
「待っていろ」
不意に顔を上げる。その表情は鬼の形相、否、それ以上に怒りに満ちたものになっていた。
「貴様の全てを奪い尽くしてやる!!」
騒動前のカウントダウンが始まった。
お楽しみ頂けたでしょうか?