第二十一話 何がガラクタだって?
転移魔法士と色々な話をしてから別れて、そのまま宿屋「銀の匙」へと向かった。
時間帯はすでに夕方を過ぎつつあり、十八の刻に近い。
そのため無駄なことはせずに宿へ戻って今日はもう休もうと決まったのだ。
「1週間近く迷宮に潜っていたが。中々の進歩だったな」
「え?」
「確かにな。魔物に対する立ち回りも上手くなったし、適切な判断も出来るようになってきたと思うぞ?」
「そ、そうかな」
ゼオンの誉め言葉とそれに付け加えて誉めるサラの言葉に照れながらこ答えた。
「今更だけど、何で迷宮に潜ろうって思ったの?」
「迷宮の方が地上よりも魔物と遭遇するし強いからな、経験を積むならそっちが良いだろうと思ったんだよ」
実践に勝る経験は無し!
と言ってなんかそれっぽくまとめたが。
「チンタラ教えんのもメンドイし、じゃんじゃん戦わせた方が楽だったからってのが本音だな」
さらりと本音をしゃべる。
「ちょ!それってつまり適当にやってたってこと!?」
「まどろっこしいのが嫌いなだけなんだよバカちん!」
「はっはっはっは!」
ゼオンとメリアのやり取りを聞いて笑うサラ。
こんな感じで都市内を歩き、宿屋「銀の匙」に着いた。そして、ドアを開けた瞬間。
「うお!?」
何かが飛んできた。
ゼオンは飛んできた何か、否。飛んできた人物を咄嗟に右回し蹴りで蹴り弾いた。
バキィッ!!
「ばぶぅっ!!」
ゼオンに蹴り飛ばされた人物はその勢いでスパイラルしながら水平に吹き飛び、壁に突き刺さった。
「おや、良い蹴りじゃないかい!・・・・ってあんたか」
「よう、おばちゃん。アレはおばちゃんが投げたのか?俺に向かって」
壁に頭が突き刺さったままの人物(男)を指差す。
「あんたに向かって投げたんじゃなく、外に向かって放り出したんだよ。あんたがタイミング良すぎなだけさね」
「なんだ、俺の気配に気が付いて投げつけたのかと思ったよ」
「そんな器用なことアタシには出来やしないよ。っていうか投げたのはアタシじゃなく、そこにいる用心棒さ」
女将の視線を辿るとゴツい大男が立っていて、何故か上半身裸でボディビルポーズである「サイドチェスト」を決めていた。
もう本当にビシィッ!と効果音をつけたくなるほどにバッチリと、しっかりと、その筋肉を披露していた。
「そ、それより。あの男が何かやらかしたのか?」
銀の匙の女将が客をぶん投げるような事をする程だ、相当なことをしたに違いない。
「貴様ら!我らに手を出してただで済むと思っているのか!」
ゼオンと女将の会話を妨げるように声が響いた。
「は?なにあれ」
「あぁ~・・・とりあえず原因はアレさね」
「よく分からんが、」
「テューバー子爵に目を付けられてのさ。そこに突き刺さってるアレとあいつらはその手の者だよ」
ゼオンが蹴飛ばした男も含めて、目の前に居るのはテューバー子爵に使える騎士だった。
「なんで貴族に目を付けられるんだよ・・・」
「おい!無視するな!」
「ま、話しはあいつらを退けてからだな」
そう言って歩き出したゼオンにサラが言った。
「何をする気だ?」
それに対してゼオンは振り向いて、顔を隠すターバン越しにニッコリと笑って。
「話し合い♪」
絶対違うでしょっ!!
メリアはそうツッコミそうになるのを必死に抑えた。
「なんだ貴様は!」
「通りすがりの冒険者だよ」
「冒険者風情が何か文句でもあるのか?」
「俺らは疲れてるから休みたいんだが。そうやってピーピー、ギャーギャー騒がれると迷惑なんだわ」
「なんだと!?」
「だから、そうやって一々大声で騒がれても迷惑だって言ってんだ。だからお引き取り願いたいんだが?」
「貴様!冒険者とはいえ平民の分際で!」
「聞こえなかったのか?」
ゾワッ!
突然、騎士達の背筋に悪寒が走った。
「お引き取りをお願いしたいと言っている」
ゼオンは、スキル【威圧】を発動。
目に見えぬ何かに押し潰されそうな感覚により、冷や汗を流し、自然と足がブルブルと震えだす騎士達。
騎士達は最初に気付くべきだったのだ。この「銀の匙」にゼオン達が入って来た時に何があったのかを。
投げ飛ばされ、宿屋に入った瞬間にはすぐ目の前にまで迫っていた男を避けるのではなく蹴飛ばしたのだから。それも、モーションに入ってから実際に技が決まるまでに、少しラグがある回し蹴りを使ってだ。これは、ゼオンの反射速度と身体能力の異常さが垣間見えた瞬間でもあったのだ。
周りはそれにツッコミを入れない程に、自然と、平然とやってのけるゼオンは本当にぶっ飛んだ存在であると言える。
そんな存在に、ただの騎士が敵うはずもない。
「ひいっ!」
「あ、あわわわわ!」
尻餅をつき、ただ怯えるしか出来ない騎士達に対しゼオンは再び口を開く。
「もう一度言う。出ていけ」
「お引き取りをお願いしたい 」から「出ていけ」に変わっていることに何か言う事もなく、コクコクと頷いて、その場を離れようとする。
「おい」
ビクッ!!
「そこに突き刺さってるバカも持っていけ」
騎士達は慌てて壁に刺さっている騎士を引き抜こうとするが。
抜けない。
「・・・・はぁ」
サラが溜め息をついておもむろに、壁に突き刺さってる騎士の元へと歩み寄り。
「場所を空けてくれ」
ひき引き抜こうと頑張っていた騎士に退いてもらい、
ドゴォッ!!
壁に突き刺さってる騎士に蹴りをかまして、更に深く刺し込んだ。
「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」
「ほら、これで抜けるぞ。さっさと抜いて、去れ」
騎士達の驚きを無視してその場を離れるサラ。
その後、あっさり抜けました。
「なんで深く刺し込んだのにあっさり抜けたの?」
「簡単な話さ。刺さっているものを1度押し込むことで穴が広がって抜けやすくなるんだ」
ゼオンに教えてもらったと微笑む。
「助かったよ、ありがとうね!」
「構わん。ところで、なんで貴族なんかに目を付けられるんだ?」
「この区画は貴族が泊まるような宿が多くてね。そんな中で平民相手の宿を経営してるんだから目障りなんだろうよ」
だから買収して裕福者向けの宿にしようとしているんだと説明は続いた。
「だがさっきので、あんたらにも目が向くんじゃないかい?」
「ふん」
心配そうな女将の言葉をゼオンは鼻で笑って返す。
「所詮は名ばかりの力だ。貴族ごときが俺をどうにか出来るわけでもないさ」
「ほう?権力には屈しないと?」
「力の前では権力など無意味だってことだ」
かっこいい事を言うねぇと笑う女将は心の底からこの男、ゼオンを心配するだけ無駄だろうと思った。
「女将よ、私は戻らせてもらうが。いいですかな?」
「あんたもありがとね、ゴウゲン」
「うむ。私は女将には恩があるのだ。恩返しのための用心棒なのだからお礼は無用ですぞ?」
女将はそんな昔のことなど、もう気にしなくていいと言うがそう言うわけにはいかないと譲らないゴウゲンと呼ばれた大男は、またもビシィッ!とポーズを決める。
女将以外の全員がポーズ決める必要ある?と内心突っ込んだのは言うまでもない。
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翌日
約束通り一晩中サラの相手をしたゼオンは、昼前に目を覚ます。その傍らには疲れてはいるものの、満足そうな表情で寝息を立てているサラ。ゼオンはそんなサラの頭を撫でてからベッドを降りて、軽く体を拭いてから部屋を出る。服装はいつも通り、特殊な柔軟性の高い生地で作られた服の上から、神製布のマントを羽織り、顔を隠すために神製布のターバンを巻く。そして、戻る前にサラが起きたときの為に、買い物に行ってくると置き手紙をすることも忘れない。
何の買い物かと言うと、これから作ろうと考えている武器の素材で迷宮で手に入らなかった分を揃えるだけ揃えようと考えてのことだ。まずは武具を取り扱っている店に行って、武器製作の元に出来そうなアーティファクト、もしくはマジックアイテムを探す。
そんな中で、防御魔法【魔障壁】を展開することができるマジックアイテムの盾や、込める魔力によって何処までも伸びていく、伸縮自在の鎖を放つ籠手のアーティファクト等を手にいれる事が出来た。
「リッド商会・・・か」
他の店よりも一際大きい建物が目に入り看板を見ると、リッド商会の文字が書かれいた。
テューバー子爵を後ろ楯に、この都市の中でもかなりの大きさを誇る商会となったリッド商会は1つの建物の中で、食品、薬品、雑貨、衣類、武具といった、複数種類の商品を取り扱う店を構えていると聞いていたが。
「店っていうか、こりゃデパートだな」
大きさは前世のデパート程ではないにしても、目の前の建物の大きさは、この世界に生まれて初めて見る大きさだった。
横に広い2階建ての建物と言えばイメージは伝わるだろうか?
「ま、どんなもんか見てみようじゃねえの」
ゼオンは店内の武具店を目指して入っていく。
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「ですからね?セーウェさん、何度も言ってるでしょ?これは確かにアーティファクトではあるんですけどガラクタなんですよ!わかります?」
「ですが会長さん!」
「こんなもん買い取ることも出来ませんね。体調が治ったんなら、またさっさと仕事した方が借金返せるとおもいますよ?こんなもの売るよりはよっぽどねぇ」
「うぅ・・・」
という場面に遭遇しているゼオンは少々ムカついていた。
この会長(セーウェが会長さんと呼んでいたから断定)は試作品とは言え、力作の1つでメリアに貸している黒刀の前身となった剣をガラクタ呼ばわりして買い取れないと言っているのだ。
「それに、知り合いの冒険者に譲って貰ったって言いますけど、誰なんですか?どんな人物なのか見てみたいですよ」
そんなに見たいなら拝ませてやるよ。
ゼオンはこめかみに青筋を浮かべてセーウェとリッド商会会長の元へと向かう。
「失礼」
「な、なんですか!?君は!」
「あ、あなたは!」
突然の介入に驚く二人。
「俺はそのアーティファクトをこの人に譲った冒険者なんだが?」
「き、君が?」
「偶然立ち寄った所、その剣について何か揉めているようだから来てみたんだ」
「なるほど。君がこのガラクタをこの女に譲った冒険者ですか」
またガラクタと言ったことに反応するゼオン。
「ガラクタとは、どういうことだ?」
「アーティファクトの割には使えないって事ですよ。そんなことも分からんのですか?」
まったく・・・と首を横に振る会長。
「へぇ?じゃあその剣、ちょっと貸してくれ」
「いいですが、何をする気ですかな?」
会長から剣を受け取った瞬間。
ヒュヒュン!
鞘から剣を抜き、2度振るった。それもかなりの早さでだ。
「な、何をするんですか!?」
「・・・これのどこが使えないんだ?」
ゼオンが会長を見据えて呟いたその時。
ジャラリと音を立てて会長が首に提げていた豪華なネックレスのチェーンが外れて落下し、カラン・・・と今度は指輪の宝石のみが半分に割れて床に落ちる。
外れたチェーンも割れた宝石も断面は綺麗なものだった。
「・・・で?何がガラクタだって?」
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