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第一話 ゼオン・マークス

ここはガルディアの大迷宮。


世界有数の超高難度迷宮の一つである。

その中層部、第52階層に一つの人影があった。


恰好は動きに合わせてなびく無地のマント、その下には鎧などは着用しておらず、長そで、長ズボンの服を着ている。とは言っても現代的なデザインではなく、中世ヨーロッパを思わせるものだ。これはかなり特殊な素材から作られていて、柔軟性が高く戦闘などの動きを阻害しないようになっている。その腰にはベルトと、それに備え付けられたホルスターが両サイドにあり、このホルスターの中には、「この世界に存在するの?」とツッコミを入れたくなる武器、リボルバー銃が収納されている。このホルスターは収納時に銃を完全に隠すようにできているため、抜かないと羽織っているマントもあって視認できないようになっている。


顔はターバンを目元以外の全てを覆い隠すように巻いているために、その素顔の確認はできないが、唯一露出している目と、顔の輪郭から整った顔立ちをしているのではないかと予想できる。



その顔を隠しているターバンはかなりの長さなのだろう。顔を隠すように巻いているにも関わらず、腰にまで余り布が垂れている。


彼の名はゼオン・マークス。既に2つの超高難度迷宮を攻略している男だ。年齢は18歳。身長は170前後とこの世界の平均身長に比べると少し低めである。


今は彼の育ての親にして師でもあるガイン・マークスが人生を全うしてからは一人で活動している。

何故今現在一人で超高難度迷宮であるガルディアの大迷宮に居るのかというと。


一人で超高難度迷宮を攻略できれば、もう何も言うことはない。


と、ガインに言われているからだ。

安心して眠ってもらうために一人で攻略する。

自分を拾ってもらい、ここまで育ててくれたことを感謝し、少しでも恩返しが出来ればと思ってのことだ。


ゼオンなりの親孝行というもの。


「ん?」


突然何かの気配を感じ取る。


その直後に地面が盛り上がり、地中から10メートルを超える大蛇が姿を現した。その容姿はアナコンダに近い。


「ゴシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」


威嚇するように口を大きく開け、蛇特融の鳴き声を発した。


「グランドスネイカーか」


このグランドスネイカーと呼ばれた魔物は地中に潜る習性があり、奇襲を仕掛けてくる厄介さを持っている、それ以外にも麻痺効果を持つ毒液を吐きかけて獲物を弱らせ捕食する。


ゼオンは腰を落して低く構える。


「威厳のある登場だったが、早速沈んでもらう!」


魔力で脚力を強化して地面を蹴り、跳躍。

一瞬で肉薄し、グランドスネイカーの頭部にその脚を叩き込む。


バギャアァッ!


骨を砕き、胴体と頭部を分裂させた。


「・・・ッチ!まだいるのか」


未だ、地中に複数の気配があることに気付くゼオン。


ボゴゴォッ!


そして、それを証明するかのように次々と姿を現すグランドスネイカー。その数は20にも及ぶ。


ゼオンはすかさず両手を腰にまわす。

その先にあるものは、リボルバー銃。


その銃身は分厚く、長さは30センチとリボルバーにしては少々大柄なものだ。シリンダーは魔力を各属性に変換する特殊な鉱石、魔鉱石で作られていて。そこに魔力を込めることで魔力を弾丸として放つものとなっている。


つまり、魔力さえ切れなければ弾数に制限はないという事。


ゼオンが初めてガインと共に潜った超高難度迷宮、ベルキンの大迷宮の最奥の宝物庫、その更に奥に鎮座する像が抱くようにして持っていた箱の中にあったものだ。


その名も【魔導神銃「フリューゲル」】


遥か太古の、魔神から世界を守る為に神々が戦ったとされる時代、神代に武の神ベルキンによってつくられたものだ。


ゼオンはシリンダー状の火、地、風、雷、氷、それぞれの魔鉱石を両サイド5つ、計10個の魔鉱石を取り付けている腰ベルトにフリューゲルを添える。現在のフリューゲルには半透明の青白い魔鉱石。どの属性にも変換しない無属性の魔鉱石が装填されている。そこから流れるような動作でシリンダーを切り替える。装填した魔鉱石の色は紅。火属性だ。


そのまま両手にもったフリューゲルの銃口をそれぞれの標的へと向け、トリガーを引く。


ドォン!


魔鉱石に込められ、圧縮された魔力が放たれる炸裂音。


ドパァンッ!!


破壊の塊となった火属性の魔力弾は、一瞬で二体のグランドスネイカーの頭部を破壊した。


直後に一体のグランドスネイカーが突撃してくるが、それを跳躍して回避し、胴体に向けて二発の弾丸を撃ち込む。それを受けたグランドスネイカーは二か所の着弾点を中心に三つに分断されその命を終える。


ゼオンはそのまま空中を蹴り、別のグランドスネイカーの頭に乗り、その近くにいたグランドスネイカーを撃ち抜く。その間にゼオンを丸呑みしようと突っ込んできた別のグランドスネイカーを跳躍して回避する。これによって先ほどまでゼオンが乗っていたグランドスネイカーに激突してしまう。


ドドッ!


その瞬間を狙って放たれる弾丸。


もう一度空中を蹴り滞空時間を延ばしつつ、正面と左右の三方向を囲まれていることを確認。


右手のフリューゲルを右の、左手のフリューゲルを左のグランドスネイカーにそれぞれ向けて同時射撃。そのまま正面にいたグランドスネイカーを飛び越えながら撃ち抜いて着地する。


直後に背後にいた一体がゼオンに向けて毒液を吐きかけた。だが、ゼオンは焦ることなく左手のフリューゲルを、翠、風属性のシリンダーに装填し直しながら振り向き、毒液に向かって射撃。


ギョウゥゥン!!


火属性の弾丸とはまた違った炸裂音。風の弾丸は毒液を吹き飛ばし、そのままグランドスネイカーの開いた口の中に入り込み、蹂躙しながら貫通していく。


いや、貫通というよりは下顎を残して粉砕したと表現した方が正しい。


その後も、ハイスペックな身体能力と先程から使用していた空中跳躍スキル「空跳」を用いて、前世の記憶を頼りにゼオンが独自に編み出した銃格闘術「ガン=カタ」を駆使してグランドスネイカーを殲滅したのだった。


「ふぅ・・・」


一息つくように息を吐き、辺りをもう一度警戒して魔物がいないことを確認してから再び歩き出す。


この階層は辺り一面岩だらけのゴツゴツしたものとなっている。雑草が所々に生えている程度の殺風景な階層だ。


迷宮は遺跡にとどまっている魔力が影響して、そこ魔物が集まって迷宮になったもの、魔力や死者の強い思念が長い年月をかけて集まり続けてその土地が変異し、迷宮になったもの、神代に神の手によってつくられたものの3種類が確認されている。


これらの攻略には難易度があり、その難度によって名称が異なってくる。


迷宮:ある程度の実力者で構成されたパーティでも充分に攻略できる。攻略回数は年に数回から十数回。


大迷宮:かなりの実力者で構成されたパーティでないと攻略できない。攻略回数は数年に一度。


高難度迷宮:出現してから攻略回数が1、2回しかない迷宮。


超高難度迷宮:神々が作ったとされる迷宮と、出現してから一度も攻略されていな迷宮。


といった具合に分類されている。大迷宮と高難度迷宮には非常に大きな差があるわけだが。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ズズン・・・


不意に足音が聞こえる。


「わお・・・」


ゼオンは思わず声を漏らす。

足音の主はグランドアリゲイト。岩の鱗に包まれたワニ型の魔物だ。大きさは2.5メートルと言ったところか。

そのグランドアリゲイトがいきなり口を大きく開けて、そこに魔力を込めていく。


「魔法・・・か」


口に込められた魔力は地属性へと変換されていき、岩の形を成していく。


「ロックカノン」


形成した岩を砲弾のように放つ魔法で、使用者によっては非常に強力なものになりうる。


バゴォッ!


放たれた岩石を避けながらフリューゲルを抜き、跳躍する。そして、ロックカノンを放とうと再び口を開けたグランドアリゲイトに向かって。


「閉じろ!」


ドウゥンッ!


頭上から魔力弾を撃ち込み、それを閉じさせる。


これによって口に溜めた魔力が霧散した。それだけでなく、頭上からの魔力弾による一撃と、その勢いによって顎を地面に強く打ちつけてしまう二段ダメージを受ける事になった。


「今夜の食糧だな」


ゼオンは身体補助で自分の身体を魔力で押し、落下速度を上げながら足を突き出す。そのままグランドアリゲイトの脳天へと体重が十全に乗った重い蹴りの一撃を叩き込んだ。


ズドンッ!


この重い一撃により、頭蓋骨は砕かれ、衝撃によって脳は揺れ、グランドアリゲイトを死に至らしめたのだった。


「このまま野宿するか」


動かなくなったグランドアリゲイトに歩み寄り、後腰からナイフを取り出して解体を始めるだった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





翌日


次の階層に繋がる大きな扉を発見する。


「やっとか・・・・」


ゼオンは呟きながらも躊躇することなく、その扉に手を置いて力を込める。


ギギギギギギギギギィ・・・・・・・・・


強く軋む音を立てながらゆっくりと開けられる扉。少し開いてからは押す必要もなく、自動で動き、やがてズゥンと地響きを立てて止まる。


次の階層に繋がる階段が存在する部屋には、それを守る魔物がいる。


「オロチとは、これまたかなり強い魔物が出たもんだ」


先日、ゼオンが倒したグランドスネイカーなど、蛇型の魔物の中でも上位に位置する魔物


全身は黒い鱗に包まれ、30メートルを超える体躯に牙と角、鼻の部位からは鯰髭のようなものが生えている。その姿は蛇というよりも龍と言った方が正しく思えるその姿は、見る者に恐怖を抱かせるものだった。


「ゴアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


耳をつんざく咆哮を上げ、その巨体を持ち上げて戦闘態勢に入る。直後、口から火炎放射の如く、全てを焼き尽くさんと炎が吐き出されゼオンに襲い掛かる。その炎はゼオンの前方一面を炎で覆い尽くすほどに大きく、強い勢いを持っていた。


「いきなりかよ!」


ゼオンは咄嗟に羽織っているマントで頭ごと身体を覆い、魔力を込める。


このマントはゼオンが二つ目に攻略した超高難度迷宮、ラウラドの大迷宮で「フリューゲル」と同様、最奥で発見したもの。


魔力を込めることで、あらゆる打撃、斬撃、衝撃、魔法から身を守れる不思議なマントであり、その効果は込めた魔力によって比例する。顔を隠すように巻いているターバンもこのマントと共に宝箱の中に入っていた。


ゼオンはマントで炎から身を守りながらオロチにむかって走り、高く跳躍して炎から逃れるてターバンの腰にまで垂れている余り布を掴んで魔力を流す。


このターバンは魔力を込めることで高度が増し、更に魔力を流しながら動きを強くイメージすれば、実際にイメージの通り動くという、これまた不思議なもの。


ゼオンは魔力を込めながらターバンをほどく。


これによって露わになった素顔は整っていて、とてもたくましく、頼もしい印象を与え、その面構えはいくつもの修羅場を潜り抜けてきたと感じさせるもの。髪の色はこの世界では非常に珍しい黒で短髪となっていた。

ターバンはそのまま二つ降りになってねじれていき、棍のような形になる。それを掴み直し、空跳をつかって体を縦回転させながらオロチの頭に棍状になったターバンを叩きつけた。


「ゴア!」


攻撃を受けるとは思っていなかったのか怯んでしまうオロチ。その隙に着地して攻撃の構えを取るゼオン。


防御から攻撃へ転じる動きは流れるように自然なもので、守りから攻めへと行動を変えたことにオロチは気付けなかった為、この一撃をまともに喰らってしまったのだ。


「さて、さっさと先に進ませてもらうぞ?」


棍状になったターバンを片手もちで構え、腰を低く落とし、重心を体の中心にする。


高速移動スキル「縮地」を発動し、一瞬でオロチに肉薄し、長い胴体に一撃入れてその場から離脱、瞬時に立ち位置を変えてまた一撃。


魔力を使って肉体に強化を施し、魔力によって鋼鉄並か、それ以上に硬度を高められたターバンから加えられる一撃はかなり強力なものだった。

その証拠に、棍を叩きつけられた部位は陥没して出血しているか、抉れている。

次々に叩き込まれる攻撃、それを振り払おうと巨体を動かすも、素早く反応され避けられる。


ゼオンの怒涛の攻撃は胴体から徐々に頭部へと移動している。オロチの巨体では肉体強化と身体補助、そして高速移動スキル「縮地」を用いた高速戦法について行けず、ただ一方的にやられるのみとなっている。


それからしばらく、その一方的な蹂躙は終わりを迎える。


ゼオンは跳躍してオロチから大きく距離を取り、ターバンを再び顔に巻く。そして両腰からフリューゲルを抜き、そのまま両腕をダラリと下して、足を肩幅より少し広い程度に開く。

これはゼオン特有の「脱力の構え」だ。

脱力している間に、体全体へと魔力を循環させ、次の瞬間には爆発的瞬発力を生み出す、ある意味でゼオンの必殺の構えと言える。


「これで終わりだ」


オロチはゼオンのこの構えを隙と見たのか、口を大きく開けてゼオンを丸呑みせんと突進する。


その瞬間


ドンッ!

ゴボォ!


「ゴヒュッ!?」


ドバァァァン!!!!!


それは一瞬だった。


「脱力の構え」で体中に巡らせた魔力を一気に爆発させるように踏み込んだ瞬間、地面が炸裂したように弾け、ゼオンの身体はブレたと錯覚する程の速度でオロチの口内に突っ込み、そのまま体内をフリューゲルの乱射で破壊して背を突き破って飛び出したのだ。


オロチはそのまま、力なく倒れ込んで沈黙し、その上にゼオンは着地した。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・


オロチを倒したことで次の階層へと繋がる扉が開かれる。


ゼオンはフリューゲルをホルスターにしまい、先に進んでいくのだった。

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