第十六話 オーク
お待たせしました!
第十六話です!
それそれではどうぞ!
「ハア、ハア、ハア、」
街道に向けて森の中を走る一人の少女。その手には薬草が入った手提げかご。18くらいではないだろうか。スタイルはかなり良く、今は走っているせいで胸が揺れている。
時折、背後を気にするように振り向く。その表情は、まだ追いかけて来ているのではないかという恐怖と追い付かれるのではないかという焦燥。それと同 時に、もう追って来てなどいないのではないかという期待も含まれている。
だが、それはほんの些細な期待にすぎず、次の瞬間には呆気なく崩れ去ってしまった。
「ブモォォォォォォ!」
背後から聞こえた雄叫び。これが、この女性が逃げている対象であり、少女を追いかけている存在の正体である。
人間のような姿をしているが顔は豚で体色も豚のそれに近い。体長は大体3メートルで汚い腰布をまいている、ゴブリンと同様に凄まじい性欲を持つことで有名な魔物、オークだ。ゴブリンと違うところがあるとすれば、メスが居ないことくらいだろう。
「あっ!」
オークの雄叫びに気をとられ、足元の倒木に気が付かず躓いて転んでしまう。
「あぅ・・・」
しかも、躓いた拍子に足首を捻挫してしまうという最悪の展開。
そして、無慈悲に近寄ってくるオークの数は5匹。
「た、助けて・・・」
少女は足の痛みに耐えながら、引き摺りながら距離を取ろうとするがオーク達は1歩ずつ、確実に、しかも体長の分歩幅も大きいため、距離は大きく縮まっていく。
オーク達は捕まえたとばかりに口からは涎を汚く垂らしており、心なしかニヤけて見える。それが気色悪さと気持ち悪さを増幅させ、更に捕まれば何をされるのか、より強く理解させられてしまう。
先頭のオークが少女に手を伸ばした。
「あぁ・・・かみさま・・・」
祈るが、しかし何もない、助からない、もう捕まるだろう。これから自分はこのオーク達に汚され続けるのか。
そう考え、諦めかけたその時。
ゴパァンッ!!
「ブモ!?」
伸ばされたオークの手が何かが弾き、その衝撃で手首の骨が折れる。
そして
「なるほど、ベルキンが言っていたのはこういうことか」
木々の間から飛び出してきた人物が何やら呟きながら少女の前に着地する。その人物は顔をターバンで隠しており、マントで身を包んでいて、その手には石ころが握られている。
「・・・え?」
何が起こったのか理解出来ていない少女はただ目を丸くする。
「なるほどな、試したいと言っていたのはそれか」
一人の女性が現れる。綺麗な顔立ちで、短めに切り揃えられたショートヘアで、それでも風になびく純白とも言えるほどに白い髪が更にその美しさを醸し出し、どこか神々しささえ感じてしまう。最近までは腰に届くロングヘアだったが、戦う時に邪魔だろうと言うことで髪型を変えている。
「大丈夫ですか?ねえ、ゼオンもサラも、もう少しはこの人のことを気にかけてよ!」
いつの間にか少女の側に来ていたのは、肩まで伸びた赤色の髪を一つに纏めて結んでいて、美人と言える顔立ちのこれまた女性。腰には片手直剣。
「お前は逆にもう少しは警戒しろ、魔物が目の前にいるんだぞ?他のことを気にかけてられるか」
「ゼオンの言うこともメリアの言うことも、一理あるな」
「メリア、この5匹のオークはお前が倒せ」
「え!?私一人!?」
「当たり前だろ、この一週間でどのくらい戦えるようになったかを見るんだ。一応、援護はするから安心しろ」
現れた3人。ゼオン、サラ、メリアは緊張感があまり無い会話を繰り広げている。
「あの・・・」
「ん?あぁ、大丈夫だ。あのブタヅラどもを倒すまで俺らの後ろでじっとしててくれるか?」
自分はどうすれば?と言いたげな表情の少女に顔をターバンで巻いて隠している男、ゼオンが後ろに下がるよう促す。
「サラはこの人の治癒を頼む、足を怪我してるみたいだからな」
「わかった」
サラは少女の足に手をかざして天空の神力を発動し治癒を始める。
「すごい・・・こんなはやく治せる治癒魔法なんて初めて」
少女はこれが普通に治癒魔法と思っているようだ。
「終わったぞ」
「あ!ありがとうございます!」
「気にすることはない」
微笑むサラをみて少女は見惚れてしまう。
「・・・あ、あの人は一人で大丈夫なんですか?」
少女は5匹のオークと一人で戦っているメリアを見る。
「いけるだろ」
軽いゼオンの返事。ゼオンは口元のターバンを下ろして続ける。
「一週間とはいえ、俺が直接鍛えたんだ。剣は元々良かったしアイツ自身かなり器用だからな」
言葉を一旦区切り、それに、と続ける。
「なんかあったら、俺がやるしな」
その表情から溢れるのは果てしない自信と、絶対強者と言える貫禄と迫力だった。
そんなゼオンから目が離せない少女。
「ハァッ!!!」
ザンッ!
すでに2匹のオークを仕留めているメリアは、3匹目のオークが拳を振るってきたところを回避しつつその腕を切断した。切断された腕は振るわれた勢いのまま、ゼオンやサラ、少女がいる方向へと飛んでいく。
「周りをまだ見れてないな、減点」
ドパァン!
「っ!?」
ゼオンは何やら評価しながら、それをあっさりとフリューゲルで撃ち落とした、否、粉砕した。
見たことのない道具の用な物。それから放たれたものは魔法のようで魔法ではない。
「そういえばお前、何でこんな所で一人でウロウロしている?」
「え?あ、薬草の採取に来てたんです」
少女は手提げかごを拾い、散らばった薬草を集め直す。
「薬草?だったら冒険者ギルドに依頼すればいいだろ?」
「そうなんですけど、あまり時間が無いんです」
時間が無い?
そう問い返そうとしたところでメリアが最後のオークを倒した。
「話は後だな」
ゼオンはメリアの元へと向い、先の戦闘の良かった点と悪かった点を伝える。
「後は迷宮の中でミッチリと実践するからそこで、今言ったことを直せるようにな」
「・・・はい」
褒める言葉よりもダメ出しや罵倒の方が圧倒的に多かった為、落ち込みぎみのメリア。
だが、これがゼオンの前世からのやり方だった。
褒めるべきところは褒めるが、それ以外は全て罵倒し、否定する。
悔しさは高みへ行く糧となる。
これを信条の一つとしているからだ。
罵倒され、否定されれば悔しさを感じる。だから今度は見返してやろうとそれを克服する。ゼオンは前に指摘した事が出来るようになっていればそれを褒め、更にアドバイスまでする。罵倒するだけでなく出来るようになったことを褒めることで、相手はしっかりと自分を見てくれているのだと実感し、より指摘されたことを改善しようとする。
アメとムチのようなものだ。
「・・・で?時間が無いってのはどういうことだ?」
メリアを連れて戻って早々にゼオンは話しを続ける。
「母が病気で・・・」
「病気?」
「はい。原因は分からないんですけど、ひどい熱と体中の痺れがあるみたいで動けないでいるんです」
「痺れ?」
ゼオンは呟いて考える。ゼオンは幼い頃から育ての親にして恩師であり、オヤジとよんで親しんでいたガイン・マークスから、戦闘技術やサバイバル技術の他に色んな病気のことについても教わっていた。
だが、体中が痺れるような病気は聞いたことがない。
「そのお母さんの所に連れていってくれないか?」
「・・・え?」
ゼオンは少女のお母さんの病気が気になり診せて欲しいとお願いする。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カーゼル迷宮都市に戻り、少女、ユイのお母さんが居る家へと着いた。
「ここです」
「邪魔する」
ユイに案内されてお母さんが寝ている部屋へと入る。早速、病状を見始めたゼオンは暫くして口を開く。
「やはりな」
「え!?何か分かったんですか?」
「あぁ」
「お母さんはどんな病気なんですか!?治るんですか!?」
「まずは落ち着け!」
「あぐっ・・・」
慌てるユイの脳天にチョップを叩きつけて黙らせる。舌を噛んでしまったようで、涙目になっている。
「もう一度確認なんだが、この症状が出始めたのは半月程前なんだよな?」
「はい、そうです」
ユイの答えにゼオンはもう一度考えてから言った。
「これは病気なんかじゃない」
「「は?」」
ユイだけではなくメリアまで間抜けな声を発する。
「ではどういうことだ?」
サラが続きを話すように促す。
「これはヤドク草という毒草の毒にやられている」
思わぬ言葉にユイは動揺した。
「だが、森の奥にでもいかない限りはヤドク草に触れる機会はないはずだ。ユイ、心当たりはないか?」
「そ、それは・・・」
ゼオンから目をそらし、どもる。
「あるんだな?」
ゼオンの眼光が鋭く光る。
「ヤドク草の毒は神経毒で麻痺と痺れを引き起こし、1週間放置すれば発熱作用まで出てくる。そしてさらに放っておけば死ぬぞ?」
「うっ・・・」
「更にこれは裏の話になるが、ヤドク草の毒は調合次第では麻薬になる」
だんだんと青くなるユイの顔を見ながらゼオンは言った。
「そんなヤドク草に関わる何かをやったんだろ?」
確信をついた言葉。
「ち、ちがいます。お母さんは」
「ゆ、ユイ・・・もう良いの」
「お母さん!」
「あな、たの言う通り・・・です・・・」
目を覚ましたユイの母親が辛そうにしながらも言葉を紡ぐ。
「お母さんは休んでないと!」
「いいの、この、 方も・・・言ったよう・・・に、私はも、う死ぬ、から・・・」
「そんな!」
「私は、もう・・・助から・・・・ないのよ?」
ユイとその母親との間で繰り広げられる会話にゼオンはちょっとイラッとして。
「とりあえず黙ってこれ飲んでろ!!」
ガポッ!
「んむっ!?ん"む"ぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~!!!」
異空間倉庫から取り出した小瓶を母親の口の中に捩じ込み、無理矢理飲ませる。
「ちょっ!!ゼオンさん!何をやって・・・」
「うっせぇ。勝手にしっとりしてんじゃねえよ。お前の母親にゃあ聞かないといけない事がある」
「で、でも!何を飲ませたんですか!?お母さんグッタリしてるじゃないですか!」
「解毒薬だ」
「・・・え?」
「ムカついたから一番不味いのを飲ませた」
「ホントに何やってるんですかぁ!!」
お礼を言おうとしたユイだったが、ゼオンの一言でそれは吹き飛んだ。
感想などお願いします