第十五話 カーゼル迷宮都市
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それでは第十五話をどうぞ!
カーゼル迷宮都市。
ここは迷宮から得られる利益を目的に冒険者が集まり、その冒険者から迷宮の素材を買い取る為に商人が集まり。露店が開かれ、店が建てられ、宿が建てられ、次第にそこに住み着く人々が現れ始めて街が出来た。更にその街が大きくなっていつの間にか迷宮都市と言われる程になっていた。
「ゼオン、ここまでの護衛助かった。報酬を決めていなかったが、何がいい?」
「そうだな・・・・なら、商隊として持っている独自の情報網。それを必要な時に活用させてくれないか?」
「なに?」
「商人や商隊にとって情報は命だろ?だから情報が回るのは何よりも早い」
「なるほどな」
「悪用はしないから安心してくれ」
「ハッハッハ!大丈夫だ!今日まで一緒に行動してきたが、お前は信頼できる男だ!だが、なんのために我々を使うのか教えてくれないか?」
ゼオンが彼らイーリス商隊に何の情報の収集に使おうと考えているのかと言えば、それは魔族や魔王についてだった。だが、未だに神々から魔族や魔王が活動を始めたという知らせを受けていないためゼオンはまだ身動き出来ないな状態にある。
では何故魔族や魔王が活動を始める前にゼオン達が行動出来ないのかという話になる。ゼオンは直接ルティナ神から使命を帯びている。だが、だからといって何の行動も起こしていないものを討伐に向かうということは流石に無理なのだ。直接話を聞いているゼオンはともかくとして、何も知らない人間からすれば、それらが実際に存在しているという証拠がまだないし、それらの存在によって人間側に被害も出ていないため大義名分もない。だからゼオンは行動を起こしづらいのだ。
もっとも、それは建前の話であり、活動もせず息を潜めているため居場所の特定はおろか、情報すら集めれないからこちらも行動のしようがないというのが本音だ。
だったら魔族や魔王が活動を始めたときのために、少しでもアンテナを張っておこうと考えてイーリス商隊に護衛の報酬として要求したのだ。
情報収集は少しでも人が多い方がいい。
だが、それはまだ言うわけにもいかないので。
「すまないが、今は教えれない。だが、時が来たら必ず教える。だから頼む」
と、理由は話さない方向で進める。
「訳あり・・・か。了解だ!これから先も何かあったらこのイーリス商隊を頼ってくれ。クロルド・イーリスの名に掛けて、イーリス商隊があんたをサポートするぜ!ゼオン!」
「・・・あぁ、その時は頼む!」
ガッシリと堅い握手を交わすゼオンとクロルド。
「サラお姉さま!またどこかで!」
「あ、あぁ。だが、そのお姉さまはやめてくれ」
「メリア!元気でね!!」
「うん!セイも元気でね!」
「ゼオンの旦那!世話になったな!!」
「俺も気合いで営むぜ!」
「お、おう・・・」
こうして色々な言葉を交わしながらゼオン達3人とイーリス商隊は別れた。
「・・・ん?サラ、お姉さまなんて呼ばれてたのか?」
カーゼル迷宮都市の中を歩きながら先程のやり取りを思いだし、サラがお姉さまと呼ばれていたことに気がつく。
護衛の時も割りと一緒にいたのだが、いつの間に?
「ヴェンツォがいた盗賊が襲ってきたときにな。四方から飛んで来た矢を全て弾いたのが切っ掛けらしい」
ヴェンツォとはカーゼル迷宮都市に入る前に引き渡した盗賊のことだ。
サラが風の神力で飛来した矢を弾いたとき、イーリス商隊の一部の女性達がサラのファンになりお姉さまと呼ぶようになった。もっとも、サラの前でお姉さまと呼ぶようになったのは昨日のことだという。
「お姉さまはやめて欲しいのだがな」
と言いつつ満更でもないような表情をしていたのをゼオンは見逃さなかった。
「まぁ、それは置いとくとして。宿をとりに行くか」
「そうだな」
「それならウチに来ないかい?」
宿を探そうとして突然声を掛けられる。
「私は、宿屋の女将をやっているものさ。盗み聞きをするつもりはなかったんだが、聞こえちまってね」
突然の誘いにキョトンとした表情のメリアと特に表情を変えないサラ、そしてめんどくさそうな表情(ターバンで隠れて見えないが)をするゼオン。
そんな三人の視線の先には正にオバチャン!といった体型と容姿をした年配の女性がいる。
「せっかくのお誘いだが、断る」
「・・・何故だい?」
「道端で勧誘してくるんだ。怪しさ全開だ」
「アッハッハッハッハ!怪しかったかい?そりゃあすまないことをしたねぇ」
ジ○リに出てくるような、何かと優しく見守ってくるおばさんな雰囲気が半端じゃない。
「ま、そう言うことなら、止めやしないよ。カーゼルは宿屋が多いからね、競争がスゴいんだよ。アンタの言うような怪しい経営をやってれば直ぐに叩かれて信用も無くして出ていかざるをえなくなるから、その辺は安心してくれて構わないよ」
それだけ言うと去って行く。
その場には何とも言えない余韻が残っていた。
「・・・取り合えず宿を探そ?」
メリアの提案に従い宿を探すべく歩を再び進め始めた。
その後「銀の匙」という前世で読んでいた漫画のタイトルと同じ名前の宿を発見した。気になり中に入ってみると。
「・・・・え?」
「・・・・あ」
「・・・・ウソだろ?」
という3人のリアクションが出る。それぞれ上からメリア、サラ、ゼオンの順番だ。
何故こんなリアクションが出たかというと。
「おや?さっきの3人のじゃないか。どうしたんだい?」
入って直ぐのカウンターに立っていたのは先程遭遇したオバチャンだった。
「アッハッハッハッハ!アンタらとは縁がありそうだねぇ!」
結局、ゼオン達3人はこの「銀の匙」に宿泊することとなった。
「早速なんだが、どっか思いっきり体を動かせるような所はないか?剣を振り回しても、魔法をぶっ放してもいいような」
「なんだ、鍛練でもするのかい?それなら良いところがあるよ!・・・とは言っても限度はあるがね」
銀の匙の女将は「来な」と手招きをして、宿の裏に案内する。
「・・・これは」
案内された先には壁で周りとは仕切られ、地面は綺麗に整地された、屋外訓練場と言える場所があった。
そして、それをみて真っ先に声を漏らしたのはメリアだった。
通常の宿屋に広場があったとしても大した広さもない、正に庭と言えるようなものでしかない。しかし、ここにあるのはそれらとは全く違う空間だった。
「確かに、ここでならある適度は動けそうだ」
「そうだな、早速使わせてもらうか」
「?」
サラとゼオンは何やら納得している様子でメリアのみが置いていかれている。
「てな訳でメリア、この木剣を持って真ん中に立て」
「・・・え?なんで」
突然の言葉に状況を飲み込めないメリア。
「なんでって、迷宮に潜る前にもう少し回避能力を鍛えるんだよ」
カーゼル迷宮都市に到着するまでに襲撃してきた魔物は全てメリアがメインで撃退してきていた。これは勿論メリアを鍛えるのも目的ではあるのだが、同時にメリアの戦闘能力や対応能力、使用できる魔法など、実力を見るためだった。その結果「防御は出来ているが回避が出来ていない」という結論に至った。
メリアの使用する武器は片手直剣であり、剣身で受け止めるような防御を行えば次の動作へと移るのに隙が出来てしまう。
今ゼオンがメリアに叩き込もうとしているのは回避と武器を使った受け流しだ。
何故回避だけではなく受け流しもやるのかというと、理由は簡単で相手の攻撃、特に剣などを使った攻撃を流せばその分、相手の隙になるからだ。
「それじゃ、早速やっていくぞ」
ゼオンは木剣を取りだしながら言う。
「受け流しというのがどういうものか、体験してもらうから、掛かってこい。勿論、遠慮することはない。俺を殺すつもりでな」
木剣を手首で∞の字に振り、体の横で2回まわして切っ先をメリアに向け、その流れのまま剣身に左腕を添え、腰を落として構えた。
「・・・じゃあ、お言葉に甘えて全力でいくよ!サイクロプスの時の台詞も撤回させるから!」
「根に持ってたのか・・・」
次の瞬間、メリアはゼオンに肉薄して上段から全体重を乗せて木剣を振り降ろす。
ゼオンの言葉を行動で肯定した。
「動きが素直過ぎるな」
ゼオンは感想を述べながら、振り降ろされるメリアの木剣に対し真横に構え、お互いの木剣がぶつかる瞬間、ゼオンは右手の力を抜いて自分の木剣をメリアの木剣が滑るように受け流す。
「え・・・」
更にその直後、ゼオンは手首で木剣を切り替えしてバランスを崩したメリアの首に木剣を添え一本取った。
「っ!」
「ま、こんなもんだな」
絶句するメリアに対し、ゼオンは木剣を血払いするように振るいながら軽い口調で言う。
「ほら、まだまだだぞ?もっと掛かってこい!」
「っく!」
メリアは再び木剣を握りしめ、横一文字に斬りかかる。ゼオンは振るわれた木剣に自分の木剣を当てて、上へとその軌道を変えさせてくぐるように払い、今度は腹部に木剣を構えてまた一本。
「まだまだ!」
「そうだ!その身で体験し、感覚を体に覚えさせろ!」
メリアはこれならば対応出来まいと、突きを放ってくるが呆気なく受け流され一本取られる。
それから暫く、メリアはボロボロになるまでゼオンにシゴかれた。
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「まったく、もう少し限度を考えないか?」
サラは苦笑いしながらゼオンに言う。
「いやぁ、楽しくてついな」
「なにが「ついな」よ!しかも楽しくてって・・・」
私で遊ばないでよ!と目で訴えてきている。
「明日は逆にお前が俺の攻撃の回避と受け流しだ」
「話しをそらさないでよ!」
「まあそう怒るな、ゼオンも悪気があるわけじゃないからな」
「これが素だと結構・・・というより、かなりタチが悪いよ?」
「それがゼオンなんだ、一緒にいる間は受け入れるしかないさ」
「おい待て、誰がタチ悪いって?」
お前だよ!!
メリアは口にはせず思考の中て全力で突っ込んだ。