第十四話 根性と気合い
展開がめちゃくちゃになってる気がします・・・
「どこを撃ち抜かれたい」
その言葉と共に放たれた雰囲気、否、殺気は目の前の盗賊たちを威嚇するには充分過ぎるものだった。
「さぁ、答えろ。3秒以内に答えればリクエストに応えてやろう」
この世界の人間は秒という時間単位を知らない。故に何を言っているのかは理解できなかったが、挑発を受けているのは明らかだった。
そして一番先頭にいた盗賊が剣を握り直し、振りかぶった瞬間。
「時間切れだ」
きっかり3秒後、ゼオンはスキル「瞬歩」を発動して、いつの間にか剣を振りかぶった盗賊のすぐ目の前まで接近し、魔導神銃「フリューゲル」を顎に突き付けていた。
「こん・・・ばぁっ!!!」
ドパァンッ!という炸裂音と血肉が弾ける音がほぼ同時に鳴り響き、盗賊の頭部が一瞬で吹き飛んだ。
その光景に盗賊たちは一瞬硬直してしまう。銃という武器を知らない者からすれば、突然頭が粉々に砕け散ったようにしか見えないのだから。しかも丁度その背にフリューゲルは隠れてしまっていた為に、尚更何が起こったのか分からない。
それ故の一瞬の硬直。
この一瞬がゼオンにとっては充分過ぎる隙となった。
先程頭を粉砕した盗賊の死体が地面に倒れきる前に次の盗賊の元へと瞬時に立ち位置を変え、胸を撃ち抜く。
ドウッ!
「・・・かっ!」
撃ち抜かれた胸には風穴が空き、そこにある筈の心臓は微塵と化していた。
そして、ゼオンが胸を撃ち抜くと同時に頭部を失った盗賊の死体が地面に倒れる。ゼオンの動きがどれだけ速いか、これで分かるだろう。
ゼオンは更に攻撃を続ける。
振り向きざまに両腕をクロス刺せて左右の盗賊を撃ち抜き、撃った反動を利用して直ぐに両腕を広げながら体を捻って前方と右斜め後ろの盗賊を撃ち抜いた。
そして最後の一人に右のフリューゲルの銃口を向けてトリガーを引く。
ガチン!
撃鉄がぶつかる音が静かになったが、銃口からは魔力の塊とも言える弾丸が出ることは無かった。
「チッ」
ゼオンはその出来事に舌打ちをする。
何故なら、フリューゲルは不発となったからだ。
だがこれはフリューゲルが故障した訳ではない。周囲に転がる6体の盗賊の死体を見れば分かるが、フリューゲルによって撃ち抜かれた箇所の損傷が最初の一人に比べて小さくなっている。
つまり、最後の不発は威力を抑えようと込める魔力の量を減らしていった結果、逆に足りなすぎて弾丸が射出されなかったのだ。
「あ・・・あぁ・・・」
何が起こったのかは分からないが助かったと理解した盗賊は、言葉になっていない声をあげながら尻餅をついていた。
ドンッ!ドンッ!
「あ"あ"ぁぁぁぁあぁぁぁぁあああぁぁ!!!!」
今度は威力を抑えつつ、ちゃんと弾丸が射出されるぎりぎりのところに魔力を微調節して両肘の関節を破壊する。
「くっ!あ"ぁ!いっでぇ!!」
「当たり前だろ?肘関節を破壊したんだからな。仕方の無いことだ」
「仕方の無いこと!?ふざけるなっ!!」
自分の腕が使い物にならなくなったことを、仕方無いで済ませたゼオンに対し、怒りを露にする。
「なに言ってんだ?そっちは俺達を殺すつもりで襲ったんだろ?だったら殺されても文句言えないぜ?」
「ぐっ!」
盗賊は苦悶の声をあげる。これはゼオンに言われたことに対するものと肘の痛みを堪えるものの二つの意味があった。
「人に刃を向けるという事がどういう事なのか。しっかり考えるんだな」
「・・・・・・」
ゼオンの言葉。これはこの盗賊に向けた言葉だが、同時に近くで見ているメリアに対しての言葉でもあった。ゼオンに視線を向けられ、それにメリアは気付くが、言葉の意味を直ぐには見出だせなかった。
それはまだメリアの経験が浅いが故のことだろう。
「さて、メリア。戻るぞ」
「あ、うん」
盗賊が着ている服の襟元を掴み、引きずりながら言う。
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ゼオンが他の援護に向かうと既に戦闘は終わりかけていた。
「なんつーか、すげぇな」
「うん、何て言うか、凄いね」
ゼオンとメリアは同じ意見を交わしていた。盗賊側は全滅。それに対してイーリス商隊側は死者どころか怪我人すらいなかった。いわば、圧倒的なまでの圧勝。
「念のため捕虜を一人確保しといたが?」
「ん?あぁ、ゼオンか。何故捕虜を?」
ゼオンはクロルドに尋ね、クロルドな何故一人捕虜を確保したのか尋ねる。
「コイツらのアジトの場所を吐かせて、使えそうな物と売れそうな物をいただこうと思ってな」
「ふむ、考えることは一緒だな。今回の盗賊から得られる利益をゼオン達に全て譲るとしよう」
「・・・・良いのか?」
ゼオンは少し考えて口を開く。
「今回、襲撃に対処出来たのは誰よりもはやくゼオンが盗賊を察知してくれたからだ。これはそのお礼といったところだな」
「へぇ、気前が良いな」
「君のような実力のある冒険者とは仲良くしておきたいのでな」
純粋に自分達の利益の為。それを隠さずに言ってくるところはゼオンにとって好印象だった。ニコニコしながら近付いてきて、利益を得ようと媚びを売るような奴より、クロルドのように利益になりそうだからと面と向かって言ってくれた方が、かえって清々しいからだ。
もっとも、性格も関係するのだが。
「なら、ありがたく貰うとしよう」
ゼオンは盗賊にアジトの場所と残りの盗賊メンバーの数を吐かせようと向き直ったところで。
「待ってくれ!何もしなくても全部話す」
自主的に全てを話すと言ってきた。
「なんだ、どういう風の吹きまわしだ?ガセを吐いたら二度と自分で歩くことも、自分で食事を摂ることもできなくなるぞ?」
「嘘は言わねぇ」
「その代わりに見逃してくれってか?」
今までのパターンでは全てを話すから代わりに見逃して欲しいと言ってくることが多かった。
その度に全部を吐かせた後は逃がさずに始末してきた。仲間を売ってでも自分だけは助かろうという腐った考えを持っている者は、ここで見逃してもろくなことにならないという考えをゼオンは持っているからだ。
「いや、殺してくれて構わねえ」
「・・・・は?」
思わぬ言葉につい間抜けな声を出してしまうゼオン。
「俺は盗賊だ、あんたたちを殺して積み荷を奪おうとしてたんだ。だったら殺されても文句は言えない」
次に出てきた言葉は、先程ゼオンがこの盗賊に向けて放った言葉だった。
「俺だって好きで盗賊をやってた訳じゃねえ。仕事が無くなって盗賊にならざるをえなかったんだ」
これを機に、残りの盗賊メンバーを始末したら自分も始末して欲しい。そう言ってきたのだ。
「同情をかって見逃してもらおうって腹か?」
「ちがう!あんたも言ったじゃないか!人に刃を向けるということがどういうことなのか考えろってよ!」
「・・・なるほど、考えた結果か」
「・・・・」
盗賊は無言という形で肯定する。
「どうする?クロルド」
「・・・俺?」
「あんたはこの商隊の隊長だろ?それに雇われた護衛でしかない俺にはその辺りの決定権はないと思っている」
「ハッハッハ!お前みたいな冒険者は中々いないぞ?」
クロルドはその見た目通り豪快に笑い、判断を降した。
「ま、そんな訳だからお前をどうにかするのは、残った盗賊とアジトを片付けてからだな」
「・・・だ、そうだ。残りの人数を教えろ、そしてアジトにはあんたが案内しな」
ゼオンは「どんな訳だ?」と思いつつ盗賊に指示する。
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それから少し。残った盗賊も全て倒し、アジト内の盗品と思われる品々を回収し終えた。
「それじゃ、お前は次の街で騎士団に引き渡す」
「・・・・は?」
「だから、お前は次の街で騎士団に引き渡すって言ってんだ」
盗賊のなに言ってんの?といった疑問の声に対し、同じ説明をし直した。
「お前は改心しようとしてんだろ?だったら殺すわけにはいかねえ」
「だが!俺は盗賊でお前達を殺そうと・・・」
「やかましいわボケェ!」
バキィッ!!
「しでう"ぁッ!!?」
抗議しようとした盗賊を殴って黙らせる。
それを見たそれぞれの反応は。、
妻であるリーヤが「流石クロ」と呟きながら頬に手をあて、やや赤面。
商隊のメンバー達は殴られた盗賊に対して「痛そう・・・」と同情の視線を向け。
サラとメリアは「え?」という表情。
ゼオンは「めちゃくちゃだな・・・」といった視線をクロルドに向けている。
「とにかく!お前は次の街で騎士団引き渡す!」
クロルドはめちゃくちゃで豪快な男だった。
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翌日、昼頃
十二の刻の鐘がなる前には無事、カーゼル迷宮都市へ向かう中継の街、ウェメルに到着した。
門番をしている騎士に盗賊を引き渡す。
ちなみに盗賊の肘は、サラの天空の神力で綺麗に治癒されている。
「しかし、盗賊相手に一切の被害も出さす壊滅させるとは、さすが武装商隊なだけあります」
「ハッハッハ!俺たちじゃない。この冒険者のお陰だよ」
クロルドはゼオンの背中を叩きながら言う。
「彼が盗賊の接近を誰よりもはやく察知して、教えてくれたからな」
「ほう、かなりの実力者なのだな」
そんな言葉を交わし、街の中へと入っていく。
この日は必要な物資の補給をして、宿へ向かい、翌日早朝の出発に備え、それぞれは早めに就寝した。
が、それは全員ではなかった。
この商隊は男性だけではなく女性もいる。つまり、カップルや夫婦もいるということであり、たった2、3日とは言っても禁欲状態であったのには変わりない。
それ故にいくつかの部屋では営みが行われた。
翌早朝の集合時には十数人の男女が目元にクマを作っていたり、疲れた表情をしていたり。更には宿の女将から、
「昨夜はハッスルしてる方が多かったようですね」
と言われる始末。
隊長のクロルドはそれに対し、
「ハッハッハ!ハッスル出来るときはハッスルする!それが我が商隊の成功の秘訣よ!」
と答え抜いて、「だが」と続ける。
「プライベートを仕事に持ち込むぬは良くないな。切り替えが出来ていない奴等は罰として昼飯抜きと、次の街に着くまでの見張りを強制する!」
クロルドの言葉に「勘弁してくださいよぉ!」という声があがるが、それを無視してイーリス商隊は出発した。
ちなみにクロルドとリーヤ、ゼオンとサラの二組も昨夜は営んでいた筈だが、普通にピンピンしていた。
商隊メンバーが何故かと問うが。
クロルドの
「根性だ!!」
という答えを聞いた瞬間、こういう人だったと改めて思い知らされ、ならばゼオンは?と同じ質問をすると。
「・・・・気合い?」
彼らは思った。
あ、ダメだ
と・・・
それから数日。
襲いくる盗賊や魔物を蹴散らし、無事カーゼル迷宮都市へと到着した。