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第十二話 語らい

「さて、迷宮に入る前に簡単な自己紹介と得意武器とかお互いに把握しておくか」


メリアとゼオン、サラが臨時でパーティを組むことが決定し、そのまま3人はギルドの酒場の角席に座って話をしていた。そしてゼオンが最初にメリアが話すよう促す。


「メリア、見ての通り剣士をしているわ。私の無理なお願いを聞いてくれてありがとう・・・」

「気にすることはないさ。私はサラ、ゼオンとは恋仲にある。格闘戦は一応出来るが、メインはしんりょ・・・魔法だ」


サラが神力と言いかけて、魔法と言い直したことを一瞬気にしたメリアだが、ゼオンが口を開いたことでそれは直ぐに消える。


「俺はゼオン。メインは・・・」


ゼオンは言葉を一度区切り、左の腰に手をまわす。


「こいつを使った近接戦がメインかな?」


そうして取り出したものをゴトリと音を立ててメリアの目の前に置く。もちろん自身の体で周りからはみえないようにしてだ。そして角席にしたのはこのように魔導神銃フリューゲルを隠す為だった。


「こ、これは?」


メリアにしてみれば見たことも無ければ、その使い方も分からない。根本的に武器なのかすらも分からないのだ。


「これは魔導神銃フリューゲル。魔力をそのまま弾丸にして撃つ物だ。弓なんかよりも確実に仕留めれる。所謂、アーティファクトだ」

「っ!?」


ゼオンの言葉に、声すら出せない程に驚くメリア。だが、それも仕方がないことだ。

ゼオンが言ったアーティファクトとは、神代にあったとされる技術で作られた物を指す。当然だが今ではそんな技術は失われているため、別名失われし技術と呼ばれているし、神々によって作り出された物でもあることから神の遺産とも呼ばれている。


「これが、神の遺産?」

「そうなるな」

「因みにその武器は武の神、ベルキンが造ったものだ」


サラの付け足しにさらに驚愕するメリア。ベルキンは超高難度迷宮を造った神の一人であるのだから。この世界では超高難度迷宮を造った神を、創造の主神ルティナを支える神として神柱と呼ばれている。その神柱が造った武器なのだ、どれ程の代物なのか一瞬で理解できるだろう。


「でもなんでベルキン様が造ったもの・・・を・・・」


言いながら何となく理解してしまったのだろう、語尾が小さくなってしまっていた。そして最初は理解してしまったことを理解できていなかったのか、戸惑った表情をしており、思考の中で理解したことを呵責するようにゆっくりと整理し、段々と分かってきたのか、その表情は徐々にではあるが、またも驚愕のものへと変わっていった。


「まさか、ベルキンの大迷宮・・・を?」


メリアが何を言わんとしているのか、それに気付いたゼオンは、さっきから表情の移り変わりを面白く思いながら見ていた為に更なる驚愕の言葉を述べる。


「ラウラドとガルディアも攻略している」

「ブフゥッ!!!??」


気持ちを落ち着ける為に水を口に含んだ瞬間だったメリアは思わず吹き出す。


「ゲホッ!ゲホッ!・・・カフッ!」


そして、とどめに。


「因みにガルディアは俺一人で攻略している」


メリアは信じられない言葉の連続に驚きを通り越して、何も言えなくなっていた


「ゼオン・・・それくらいにしてあげてくれ」


それを見かねたサラが止める。


「そうだな。とりあえず俺はそれくらいのことは出来ると思っていてくれ」

「・・・」


未だに何も言えないメリアはコクリと頷くのだった。


「とまぁ、そんな訳だ。自己紹介も終わったし、これで解散としようか。お互いに必要な物資もあるだろうしな。明日は朝の・・・そうだな、六の刻の鐘が鳴る頃に出発しようか」


六の刻は6時と一緒で、この世界でも1日24時間。一刻で1時間となる。だが、分や秒という時間単位は存在していない。細かく時間を分けたとしても

1時間を4分割した15分おき程度だ。その数え方は、1時間15分までを一の一刻、1時間30分までを一の二刻、1時間45分までを一の三刻と数えている。そしてゼオンが先程言った六の刻の鐘とは、街で時間を伝えるために鳴らされる鐘のことで、1日を通して六の刻、九の刻、十二の刻、十五の刻、十八の刻、二十一の刻、最後に日付変更である零の刻の計7回鳴らされる。

因みに今は十七の一刻、つまり午後5時15分頃である。


「いや、臨時とは言え私達はチームだ。皆で行動しないか?」

「それもそうだな。メリアは宿はもう取ってるのか?」

「依頼から帰ってきたばかりだから、まだ宿は取り直しないわ」

「じゃあ、必要な物を揃えたら『一昨日来やがれ』にメリアも連れて来い」

「ん?ゼオンは来ないのか?」


ゼオンが「一緒に行こう」又は「一緒に来い」といった言葉ではなく「連れて来い」と言ったことで、サラは一緒に行動しないのだろうと察して質問した。


「ちょっとやっておきたい事があるからな。俺は先に宿に行って、メリアの部屋の手続きもしておく」

「・・・そうか」

「一昨日来やがれに集合しよう。気を付けてな」


ゼオンが一緒に来ない事に残念そうな表情をしたサラだったが、気を付けるように言いながら頭を撫でられた為、今度は嬉しそうな表情をする。


それを見たメリアは、二人の間にある絆はかなり深いものなのだと理解せずにはいられなかった。


というか、側で見てるにも関わらず桃色の甘い空間を作り出され、自分は無視されているので、それを誤魔化す為にそういう事にしようとしたのだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーー



ゼオンと別行動になって暫く、最低限必要な物を集めるために道具店を見て回っている。


「サラ・・・さん」


そんな中でメリアはサラの名を呼ぶ。


「フッ、私を呼ぶときは呼び捨てで構わんぞ?」


肩越しに振り替えってメリアに微笑む。その姿はとても美しく、凛々しかった。思わず見惚れてしまうメリアだった。


「それで?どうしたんだ?」

「へ?・・・あっ!えと!」


サラの問いに我に帰ったメリアは慌てて聞こうとした言葉を紡ごうとする。


「その・・・サラさんにとってゼオンって、どんな人なの?」

「・・・そうだな、私にとっては掛け替えのない存在だな」


そう言う答えが帰ってくることをメリアは予測出来た。ゼオンと別れる前のやり取りでそれを見ているのだから。メリアが知りたかったのはその理由だった。


「でも、何でそんな風に?」

「何でと言われてもな。彼には大恩がある。私を救ってくれたのだ」

「救った?」

「そうだ、孤独や恐怖、不安からな。ゼオンには感謝してもしきれない恩があるんだ。だから私は彼に尽くしたいのだ。使える者としても、女としてもな」


サラの言葉に赤面してしまうメリア。それも無理もないだろう。恋愛経験ゼロのメリアからすれば「女として尽くしたい」という言葉はある意味で衝撃的だったのだから。少なくとも「使える者としても」という言葉に意識が行かない程に。

そんなメリアの様子を見てサラは内心、若いな。と呟く。実際サラは神代から生きている神獣なのだから精神年齢や見てきたもの、踏んできた場数などはメリアはおろか、1000年は生きるエルフ族でさえも到底及ばない。そんなサラであるため、そう思うのも仕方あるまい。


「それで?何でそんなことを聞くんだ?ゼオンの事が気になったか?」


突然何を言い出すの!そう言おうとして顔をサラに向けた瞬間に目が合う。サラの目に浮かんでいたのは、イタズラを思い付いたような笑みだった。それに対してメリアの中に現れた感情は、怒りや憤りではなく、その美しさに見惚れるというものだった。


サラはその様子を見て、面白いと内心呟き、必要な物を買い揃えにいくのだった。



因みにその後はガールズトークとなるのだが、サラがあまりにも大人であった為に、キャピキャピしたものではなく、刺激の多い物だった。そのせいでメリアは赤面しっぱなしで、サラはそれを楽しんでいた。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーー





所変わってここは宿屋、一昨日来やがれ。


ここの裏庭でマントとターバンを外したゼオンが、一人で何らかの作業をしていた。


ゼオンの周りには色々な種類の魔石や魔鉱石といった鉱石類に、爪や牙、骨といった魔物の素材や毒素が含まれる植物が散らばっている。


「確かに、色んな物が作れるみたいだな」


自分の目の前にあるナイフや刀、或いは投擲用ナイフや針、更にはポーションや毒薬といったものを見て呟く。これらは全てゼオン自身が、技巧の神、ラウラドから授かった加護の能力で作り出された物だった。だが、これらはあくまでも生成の感覚を掴む為、試験的に作った物であり実戦に用いる為ではなかった。例え、ここにあるもの全てが騎士団や傭兵、冒険者、それだけではなく武器を作る専門である鍛冶師が見たら確実にかなりの金額を払ってでも手に入れたいと思う程の質の良さを持つ代物だとしてもだ。


「さて、本番と行くかな」


指をコキコキッと鳴らして、目の前に散乱する武器の1つ、刀を手に取り万物生成のスキルを発動し、この刀をベースに武器製作を始めた。


ゼオンがこれから作ろうと思っているのは、対人戦で使える武器だった。フリューゲルを使えばいいのだが、それでは相手を殺すどころか体を木端微塵に粉砕して吹き飛ばしてしまうのだ。集束させる魔力量を減らしたとしても、確実に命を奪ってしまうし、体の一部を吹き飛ばす。特に相手を生かしておかなければならない場合はフリューゲルを人に向けて撃つことは出来ない。最近は体の一部を吹き飛ばさない程度に威力を落とす程まで魔力コントロールの腕を上げているが、人に撃つなら魔力コントロールに意識を集中させ続けなければならなくなる。そうなると戦闘に向ける意識を削がれる為に、うまく立ち回れなくなるという欠点が生じてしまうのだった。その為に対人戦用のガン=カタでのフリューゲルの使い方は敵の動きを銃弾で阻害しながら格闘術で沈めるというものになっていた。うまく立ち回れなくなるとは言っても大した違いは無い。魔力のコントロールに意識を集中している為に相手の動きへの対応が微妙に遅れてしまう程度だった。


作業を開始して1時間、対人戦用の武器が完成した。


その出来は人どころか、魔物相手にも充分に通用する物になっていた。


「・・・作った後で言うのも何だが、本当に必要だったかな」


ゼオンがこう言うのも無理はない。対人戦用の武器を持っていなくても、人相手に充分やってこれたのだし、対人戦のガン=カタもフリューゲルは人を撃ち抜くのに用いている訳ではない為、必ずしも専用の武器が必要だった訳ではない。


「ま、後から考えればいいか」


考えるのをやめて片付けをして裏庭から戻ると、丁度サラとメリアの二人が帰ってきた。


「・・・どうしたんだ?メリア」


サラと並んで帰ってきたメリアではあるが、俯いているだけで黙っていた。髪の間から見える耳は赤くなっていた。


「ふふふ、メリアには刺激が強かったようだな」

「?」

「・・・・・・」


サラの言葉にゼオンは疑問符を浮かべ、メリアは何も言わず、代わりに耳の赤みが増していた。


この日は、食堂で夕飯を食べて就寝となって終わるのだが、ゼオンとサラが同じ部屋でメリアは違う部屋であった。明日、迷宮に潜るということの緊張からか、中々寝付けずにいたメリアは二人の部屋に向かったのだが、部屋の奥から聞こえてきたサラの艶やかな声に、湯気が出そうな程に顔を熱くしながら自室に戻るというハプニングが密かに発生していた。

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