第十話 ギルドにて
お待たせしました!
第十話をどうぞ!
ゼオンとサラは「一昨日来やがれ!」と言う、明らかにウチの料理に文句言うヤツは容赦なくシメ出すぞ!と主張している、宿と料亭を兼ねた宿屋に決め、そこで食事をすることになった。迷宮攻略の祝いとサラの歓迎を兼ねた二人の食事は実に豪華な物だった。
ゼオンは今の時代の食べ物をサラに少しでも知ってもらおうと、奮発して殆どのメニューを注文した。
その結果、二人では食べきれない量となってしまったので周りの興味深げに見ていた客を呼び、少しずつ分けていき。いつの間にかゼオンとサラの座るテーブルに人が集まって、最終的にはテーブルを繋げての宴会のようになってしまった。
その最中に酔った勢いでサラに触れようとした輩もいて大変だったわけだが。
全て触れる前に薙ぎ倒して、その度に「俺の女に触れるな」と、のろけの入った忠告をし、それが怒りを買うどころか。
「イヨッ!男前!」
とか
「かっこいいな!あんちゃん!」
とか
「男気溢れるな!」
とか
「私もあなたの女にして!」
とか
色々な野次が飛び交い、逆にこの宴会を盛り上げる事となってしまった。
そんな中でもサラは楽しそうに笑っていたので、ゼオンはよしとして、宴会に参加。
そして、そろそろ切り上げようとした所で。
「おっちゃん!この際だから在庫処分しちまえよ!その分は俺が払うからよ!」
「おう!いい度胸じゃねえか!そう言ったからには全部平らげて貰うぞ若僧ども!!」
誰かが言い放ち、おっちゃんと呼ばれた亭主が豪快に答え、その直後から適当に盛り付けた感溢れる料理や、ただ焼いただけの物、更には「え?これ高級食材じゃね?」と誰かが呟いてしまうほどの物まで出て来始めた。
この高級食材の真相は、腐りかけではあったものの、それは腐敗ではなく、偶然にも環境が整ってしまって発酵していた物だった。
「って!腐りかけ出してんじゃねえよ!」
「んだとテメェ!在庫処分しろっつっただろうが!ガタガタ言わず味わって食えやぁ!」
「腐りかけ味わえってか!」
「ようし!お前面貸せやぁ!シメ出す!」
「もうアナタ!そうやってすぐアツくならないの!」
冒険者と思われる格好をし、在庫処分しろと始めに言った男と亭主の言い争いが始まり、亭主の奥さんと思われる綺麗な声がする。この言い争いは亭主が厨房の中から怒鳴っている為、冒険者も亭主も顔は見えていない。
この亭主もこんな騒ぎの中でよく聞き分けれるものだと考えずにはいられない。
「はいはーい、ごめんなさいね。追加の料理よ」
綺麗な声の主が両手と頭に料理がガッツリ盛られた皿を乗せて厨房からやって来た。
「ヒュー!エリナさーん!俺んとこに来なよ!亭主より激しく愛してやるからよぉ!」
「てめっ!俺らのエリナさんだろが!手ぇだそうとしてんじゃねぇ!!」
「ほらもう、そうやって触ろうとしないの!また主人に半殺しされるわよ?」
エリナと呼ばれた亭主の奥さんは、美人でかなりのナイスボディをしている。こんな、むさ苦しい喧騒の中でも嫌な顔など一切せず、むしろ楽しそうにに対応してくるところが、エリナを人気にさせている要因の一つだ。とは言っても、男性人気の大半はその美貌だったり、身体だったりなので、亭主がエリナに手を出そうとした輩を半殺しにすることがよくあると言う。
今、この瞬間もそれが起ころうとしている。
厨房の出入口から包丁と思われる刃物が高速回転しながら飛んで来て、ブーメランのようなカーブを描きエリナに触れようとした男の手をかすめてテーブルに深々と刺さる。
「・・・すげぇコントロールだな」
ゼオンは表情をひきつらせてそれを見る。
厨房の出入口に目をやると、左手に中華包丁を持った亭主がのそりと表れる。
ムッキムキの筋肉質な体で、イカツイ顔付き。身長も高く、纏う貫禄もあってゼオンは大熊が出たのかと勘違いしてしまった。それほどの迫力のある登場だった。
「おう、若僧が。誰に触ろうとしたってぇ?え?」
「あ、いや・・・」
大熊のような亭主がテーブルに刺さった包丁を抜き、もう一度刺し、中華包丁を首に当てて物凄く低いトーンで語りかける。
こういうのをドスの効いた声と言うのだろうか?と冷静に思考するゼオンはしている。
「俺の料理に文句言うヤツはシメ出す」
包丁をつ突きつけられた男は、突然何を言い出す?と言った表情をしている。
「俺のカミさんに手ぇ出す奴ぁ、捌く!」
目と包丁がギラリと光った。
「何枚におろしてほしい?二枚か?三枚か?」
「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「コラッ!」
「いって!」
男が可愛そうになってきた所でエリナがお盆で亭主の頭を叩いて止める。
「おろすのは良いけど程々にね?注文もまだ溜まってるから」
「あいよ。若僧!もう手ぇ出すんじゃねぇぞ?」
「・・・はい」
エリナの発言に一部おかしな所があったがここで突っ込んだらダメな雰囲気があった。
「で、お前が今日宿泊するお客さんか」
「あぁ、俺はゼオン。こっちはサラだ」
「ほらよ、部屋の鍵だ。はやくそちらのお嬢さんを休ませてやりな。お疲れのようだからよ」
「・・・そうだな。気遣いありがとう」
亭主の言葉にゼオンは、いつの間にか自分にもたれ掛かって寝息を立てているサラに目を細めて答える。
「まぁ、こいつらは何かあればすぐにこんな騒ぎをやりたがる奴らばかりだからな、後は放っておいても勝手に騒ぐ」
鍵を受け取り、サラの頭を数回撫でて、亭主の言葉に甘えて休むことにした。
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「・・・・」
翌朝、ゼオンは起きて早々に何とも言えない状況に置かれていた。
「サラ、起きてんの?寝てんの?」
「はむはむ・・・」
「はむはむじゃねぇよ」
状況を説明するとこういうことだ。ゼオンが首筋に変な感覚を感じて目を覚ますと、サラがゼオンにのし掛かりその首筋をはむはむしていた。
「はむ、なんまはわまみふるむなふひうむ、はむはむ」
「寝ぼけてんな・・・」
「獲物・・・」
「いでっ!本気で噛むな!」
サラは寝ぼけてゼオンの首筋を何かしらの食べ物と勘違いしたのか、割りと本気で噛んできた。それに驚き大声を出すゼオン。サラはその大声で起きた。
「・・・すまない」
先程まで見ていた夢を思いだし、ゼオンの首筋にて出来た歯形を見て状況を察したサラは気まずそうに謝罪する。
「あむっ!」
「ひゃっ!!」
ゼオンはサラの耳を甘噛みし、サラは驚いて可愛い声を出す。その様子に満足したようで
「これでおあいこな?」
と言い、それ以上は特に突っ込まず次の話題を切り出す。
「今日はギルドへ登録に行くか」
「あ、あぁそうだな」
二人は着替えて外に出る準備を始める。
その後、ゼオンとサラは準備を終えて昼に近い朝食を取り、亭主と2、3言葉を交わしてギルドへと向かった。
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冒険者ギルド
入ってすぐに見えるのは酒場で、その奥に受け付けカウンターがある。
中の様子を一言で表すなら、騒がしく賑やか、だ。
仕事に失敗したのか反省会を開いているグループや、逆に仕事を成功させてきたのだろう、乾杯をしているグループ。今から仕事なのだろうか、作戦会議のようなものを開いているグループもある。
他には受付嬢をナンパしていたり、冗談を言い合って笑っていたり、女性冒険者が言い寄ってきた男性冒険者を張り倒していたり。
本当に騒がしく賑やかだ。
そんな冒険者ギルドだが、扉が開かれ、二人組が入ってきて少し。それは収まっていた。
「なんだあの女、スッゲー美人じゃねえか」
「隣のやつはなんだ?顔がわかんねえな」
「美しい・・・僕には彼女しかいない!」
ヒソヒソと話が始まった。
主に二人組の内の一人、白い髪の女性、サラのことだった。
「ギルドの登録に来たんだが」
「あ、はい登録ですね。こちらの用紙に名前と性別をお願いします」
受付嬢は登録用紙を出して言う。
「字は大丈夫だよな?」
「あぁ、ある程度は書けるようになった」
迷宮でサラに格闘術を教えていたとき、今の時代の文字の読み書きが出来ないことが発覚した。それからは文字と格闘術を平行で教えていたのだ。
登録用紙への必要事項の記入が終わり受付嬢に渡すと、少々お待ちくださいと言って奥へと入っていった。
「お嬢さん、この後時間あり・・・」
「お待たせしました、こちらがギルドカードになります。ランクは10からとなりますが」
「失れ・・・」
「あ、それに関してなんだが。彼女は俺の推薦として5からにしてもらえないか?」
「あの・・・」
「ご、5ですか!?失礼ですがあなたのランクは」
「ほら、カード」
「!・・・え!?ちょっ!これ!!」
ゼオンは驚いた受付嬢にランクは声に出して言わないようにと、落ち着いてくれ、の二つの意味を込めて右手人差し指を口元に当てる。
「・・・あ、失礼しました。確かに確認しました。ゼオンさんの推薦があるため、サラさんのランクを5とします」
カードのランクの所に5という数字が表示された。
「これで登録完了となります。ようこそ、冒険者ギルドへ!これからの活躍、期待しています!」
精一杯の笑顔で言う受付嬢。それにサラも笑顔で。
「ありがとう」
と答える。その笑顔はとても美しく、横から見ていたゼオンだけでなく、真正面から受け止めた受付嬢までも見とれてしまっていた。
「登録は終わったようだね・・・」
「さて、これからどうする?早速何かの依頼でもうけてみるか?」
「いや、ゼオン?さっきから気になるんだが」
「ん?」
「コイツは誰なんだ?」
サラのどうしようと言いたげな表情で目線を辿ると見知らぬ男が佇んでいた。
「知らね。誰だよお前」
「こ、この僕をお前だと!?散々無視した挙げ句に・・・だが君に用はない。用があるのはそこの美しい女性だ!」
ゼオンとサラは受付嬢を見る。
「へ?あ、いやサラさん!あなたのことだと思いますよ!?」
「なんだ私か」
「サラに何の用だ?」
二人の視線を受けた受付嬢は慌てて違うと言って、男が用があるのはサラであると訂正する。その後、サラが紛らわしいなと言った様子で、ゼオンがサラの代わりに男に答えた。
「へぇ、サラって言うのかい?いい名前だね。僕はヘレス、これから一緒に食事でも「オイ」・・・」
ヘレスと名乗った男の言葉を遮るゼオン。
理由はサラを食事に誘ったこともそうだが、それとは別にもう一つ。どちらかと言えばこっちの方がゼオンとしては重要だった。
「何触ろうとしてんだよテメェ」
ヘレスがサラの手を取ろうとして、その腕をゼオンが掴み止めていた。
「君は何なんだい?僕の邪魔をしないでくれるかな?」
「こちらからすればお前の方が何なんだって話なんだが?」
「な!」
「俺達は今からどの依頼を受けようかって話をしようとしていたところだ。そこにお前は割って入ってきてんだよ。にも関わらず、どの口が邪魔をするなと言ってんだ?俺らからすればお前が俺達の邪魔をするなって言いたいよ」
「・・・・ぐっ!」
これはキツイ
周りの者達はそう思った。それは何故か、ゼオンが言っていることは正しいからだ。
「君はサラさんの何なんだ!!」
「わかんねえのか?」
ゼオンはつ掴んでいる腕を顔の高さまで待ってきて徐々に力を込めていく。
「サラは俺のパートナーであり、家族であり、恋人だ」
がぁぁぁぁぁぁぁん !!!
ヘレスの様子を描写するなら正にこうだろう。
「そんな・・・こんな美しい女性は僕に相応しい!」
崩れ落ちたが直ぐに力が込もり始める。
「君みたいな顔を隠しているような奴にこんな美しい女性が似合う訳がない!どうせ醜いから隠しているのだろう!?それに何の力もない!なにもできないに決まっている!そうだ!君は騙されてヘブゥ!!」
またもこと言葉が遮られる。
今度はサラの手によって。スパーン!と響くビンタでヘレスは撃沈。
「貴様!主は・・・ゼオンは偉大だ!私を孤独から救ってくれた!貴様の様に小さい男ではない!私はこの身をゼオンに捧げるとガルディア神とルティナ神にも誓っている。これ以上私の前でゼオンを貶してみろ!汚してみろ!!私は許さぬ!ゼオンは貴様ごときが侮辱して良い存在では無いことを覚えておけ!」
サラの髪が揺らぐように逆立ち、神力が少しだが溢れていた。そのせいか、どこか神の怒りをかったと錯覚しそうだった。
「サラ、もういい。それ以上はやめておけ」
ゼオンはサラを後ろから抱き締めて優しく呟きかける。
「だが・・・」
「お前の気持ちは分かった、分かっている。だからここからは任せてくれないか?」
「・・・わかった」
頭を軽く撫でて、ヘレスを見下ろす。
「まぁ、そんな訳だ。もしこれ以上俺らに関わろうとするなら流石に俺もお前に何もしない自信はないな」
言外にサラが何かする前に俺が鉄槌を下すと伝えて、掲示板から1枚、依頼書を取り、受付を済ませてサラと二人でギルドを出た。
因みに何故ゼオンが何もせずに出ていったかと言うと。尻餅をついていたヘルスの股関がビッショリ濡れていた為に、何もする気がなくなったからだ。