第九話 疾走
更新遅くなってすみません
14日の日曜日に
さいたまスーパーアリーナで開催された
マーチングバンド全国大会に向けての練習と本番で忙しく執筆が遅れました。
少々慌てて執筆したので
展開が強引かもしれません
そそれではどうぞ!
ガルディア樹海、ここは超高難度迷宮であるガルディアの大迷宮が存在する場所。
その中心部付近に強い閃光が走り、消える。そして、その場には二つの人影があった。
片方はマントで身を包み、顔にはターバンを巻いて顔を隠している。ターバン越しに見える輪郭や、背丈から男だと予想が出来る。
もう片方は肩甲骨まで伸びた白く美しい髪の毛、かなりの美貌を誇る顔立ち、出るとこは出て、絞まるところは絞まっているバランスのいい体つきから、女性だと一目で分かる。
「ぐっ!」
「どうした?ゼオン」
「・・・・いや、何でもない」
ゼオン呼ばれた男は、体に電気が走ったような感覚に見舞われた。だが、それも一瞬だった為、特に言う必要も無いだろうと判断して誤魔化す。
「まずは近くの街に向かうか」
「そうだな、どちらに向かえばいいんだ?」
「西に進んで街道に出よう。街道に出たら南に向かえば街に着く」
「分かった、じゃあ久々に思いっきり駆けたい。背中に乗ってくれないか?」
白髪の女性は突如光に包まれ、大きな狼の姿となった。
「分かったよ、サラ」
「ありがとう。さあ、乗ってくれ!主」
嬉しそうに言うサラに、ゼオンは苦笑しながらその背中にまたがる。
「では行くぞ。西に進めばその街道があるんだな?」
「あぁ」
「分かった」
サラは一瞬、身を屈めるように姿勢を低くして一気に踏み込んだ。
ドンッ!
正にこんな音が響く。そして徐々にその速度は増していき、周りの風景が一瞬で後ろへと飛んでいく。
更に
「い、いきなり!?」
空中を踏み始めた。
「主よ、しっかり捕まっていてくれ」
ゴウッ!
木々という障害物の無い大空へと昇ってから更に加速する。最早、走っているなんてレベルを越えている。空中を走っている時点でそうなのだが、速度が凄まじい。
旅客機と戦闘機の間くらいか?
前世の経験からどれ程の速度なのかを予測する。
「サラ!街道が見えたら地上に降りろ!」
「何故だ?」
「猛スピードで空中を走る狼は見たことが無いだろうからな!魔物が攻めてきたと勘違いされる可能性が高い!そうなると面倒だ!」
「そういうことか、分かった。ところで街道ってあれか?」
「はやっ!」
出発からまだそこまで時間が経っていないにも関わらず、もう街道が見えてきた。ゼオンは降りるようにサラに指示して街道を走る。
「・・・大丈夫か?」
「なにがだ?」
「いや、疲れてねえかな?と思ってな」
「ありがとう、もう少し走らせてくれないか?」
とても楽しそうなサラの様子にゼオンは笑みを浮かべて、無理はするなと伝えて走らせることにした。
その矢先
「む?主、魔物の臭いと人間の臭いがする」
「なに?」
サラに言われて魔力探知と気配探知の範囲を広げる。すると確かに大きな気配と小さな気配の反応があった。
「気配の大きさからみて、おそらくサイクロプスだ。相手の人間は苦戦してるみたいだな」
気配の動きと魔力の流れでサイクロプスと戦って苦戦していると推測を立てる。この様子だとゼオンとサラがサイクロプスがいる地点に到達する頃には倒されているなんてことは有り得ないだろう。そして面倒な事に、街道のど真ん中で戦っている。
「チッ!面倒だがやるしかないか。サラ、背中借りるぞ」
ゼオンは両足でサラの背中に乗り、合流したらそのまま飛び乗ると言い残して跳躍した。
「・・・主も常識はずれな事をしてくれる」
サラはゼオンが一気に小さくなっていくのを眺めながら呟いた。
ーーーーーーーーーーーーーー
「グワァァァァァァ!!」
ズドン!
「っ!こんの!」
咆哮をあげながら右手に持っている鈍器を振り降ろす緑色の肌の巨人、サイクロプス。
その正面に対峙するのは胴鎧に手甲、膝当てと脛当てという軽装備で、武器も片手直剣のみ。
軽装備なのこの人物が女性だからであろうか。見た目からは下の上、もしくは中の下くらいの実力と思われる。しかし、実際は違うのではないかとも思える。何故かと言うと、サイクロプスに一人で挑んでいるのだから。
サイクロプスは知能が低く、攻撃方法も一直線なものばかりで、バカ正直に正面から来ることもよくある。これらのことからある程度実践慣れした初心者でも挑むことは可能である。だが、その一直線な攻撃は威力はかなりのもので、一撃で鎧ごと体を潰される場合もある程。その為、まだ経験の浅い者はパーティーを組んで挑むが、熟練者は一人でも戦える相手だ。
この女性は一人でサイクロプスを相手にしているのでそこそこの実力はあると思われる。
しかし、装備には泥汚れが付着しており、所々には赤い汚れ、おそらくこれは血液なのだろう。だが、サイクロプスの返り血なのか、女性の怪我によるものなのか判断は難しいところ。いや、半々といった所だろう。サイクロプスには微妙に切り傷が確認できる。
「くっ!まさか一人で相手するのがこんなに厳しいなんてね」
彼女の名はメリア。ここの近くの街の冒険者ギルドの冒険者で、登録から僅か1年でランクは8と将来が期待されているルーキーだ。
冒険者ギルドとは、どこの国にも属さない独立機関であり、その地位は国の騎士団とほぼ同等にある。ギルドは各国の王都や街など至るところに支部として設置されており、騎士団が人員を割くことの出来ない仕事、主に魔物の討伐や薬草採取など。雑用から都市の防衛まで、幅広く請け負っている。
その冒険者ギルドに所属している者を冒険者と呼び、実力や実績に応じてランク分けして各冒険者に受けてもらう依頼を管理している。
ランクは数字で分けられており、一番下が10でそこから数字が小さくなる程上のランクとなっていて、最上位のランクは1となっている。噂ではランク0が存在するとかしないとか。
「私は・・・もっと強くなるの!」
片手直剣を握り直し、己を見下ろす緑の巨人へとその切っ先を向けて構える。サイクロプスはそれを待っていたと言わんばかりに右手に持っている鈍器を持ち上げようとしたその時。
ズドンッ!
「グワッ!?」
「・・・っ!」
サイクロプスが持ち上げようとした鈍器が突然何らかの抵抗を受けて地面へと砂煙を上げてめり込んだ。その勢いは小さな衝撃波を生む程だった。
「な、なんなの?」
突然の出来事に少し混乱するメリア。砂煙が晴れて視界がハッキリした時、混乱は驚愕へと変わる。
「!!!」
驚くメリアの視線の先には、地面にめり込んだ鈍器の上に着地した姿勢のまま、その場で静止している人物の姿が。体を覆い隠すマントに身を包んだ男は立ち上がると、その動作のまま後ろへと宙返りをしながら跳び、鈍器から降りる。更にそこから流れるように跳躍してサイクロプスの眼前へと肉薄する。
サイクロプスは地面にめり込んだ鈍器を引き抜こうともがいているままで隙だらけだ。
そこに、
「邪魔」
バゴォッ!!
ブチブチィッ!
右裏拳を叩き込み、一撃でサイクロプスをダウンさせた。いや、裏拳の勢いで首が360度一周し、サイクロプスは絶命した。
その光景にメリアはただ目を丸くして、絶句するしかなかった。
サイクロプスが倒れ伏した音で我に返り、マントに身を包んだ男、ゼオンを見る。
そこで少しの沈黙が流れる。
「・・・あんた、冒険者か?」
沈黙を先に破ったのはゼオンだった。
「こんなヤツに苦戦してんのか」
「な!なによ!!」
口を開いた一言目に、いきなりこんな台詞が出てきた事にメリアは抗議しようとしたが、その暇を与えられる事なく、言葉を続けられた。
「街道のど真ん中でドンチャンやりやがって。街道の外に誘導することも出来ないんだな。その程度の実力なら、まだサイクロプスに一人で挑むのはやめた方が身のためだ」
ゼオンが言い終わると同時に白い大きな狼、サラが合流し、飛び乗る事でサラの走る速度を落とさせることなくまたがる。
「サイクロプスはお前に譲るよ」
そのまま走り去って行った。
「・・・・なんなのよアイツ!!」
メリアは怒りの声をあげる。
「次会ったら殴ってやるんだから!」
ーーーーーーーーーーーーーー
「さっきの娘は何だったのだ?」
街道を一応の目的地、ウレイルの街へ向かって疾走するサラと、その上にまたがるゼオン。
サラが言ったさっきの娘とは、先程サイクロプスと戦っていたメリアのことだ。
「普通のサイクロプスに苦戦していた、ただの冒険者さ」
「冒険者?」
サラにとっては聞き慣れない単語なのだろう。聞き返してくる。
「冒険者ってのは、冒険者ギルドに所属してる奴らのことを言ってな。一応俺もその冒険者なんだ」
「じゃあ、主はその冒険者ギルドの命令で動いているのか?」
「ギルドは何処の国にも属さない独立した機関でな。ギルド事態は冒険者に何かしらの命令を下すのとはない。仕事も自分の実力に見あった依頼を受ける訳だし、問題を起こさない限りは自由だな」
「そうなのか」
「まぁ、いくつか制約もあるけどな。冒険者ギルドに登録していれば、何処の国でも身分が必ず保証されるし、他にも色々と役に立つからサラにも登録して貰う予定なんだが、大丈夫か?」
「・・・この時代のことはまだよく分からないからな、主に任せるよ」
「そうか、ん?街が見えてきたな」
冒険者について話をしていると街道の先に街の門が見えてきた。
「この辺りで降りようか。サラも人の姿になっていてくれ」
「分かった」
サラは止まり、ゼオンが降りると人の姿に戻った。
「それにしてもかなり速いな。俺でも1日はかかったぞ?」
ウレイルの街からガルディアの大迷宮までの道程は、馬を走らせても1日半はかかる。ゼオンは馬よりも半日早いので、そのスペックには驚かされるのだが、サラはそれよりも遥かに早かった。
「風の神力での加速も加えていたからな」
こんな事が出来るのは白天狼くらいしか居ないらしい。
魔物から守るための外壁に囲まれたウレイルの街。その門に近づくと門番に声をかけられる。
「身分を証明出来る物の提示をお願いします」
ゼオンは冒険者ギルドに所属していることを証明するギルドカードを門番にみせる。
「こ、これは!!!?」
「落ち着け、そして口外するな」
「む、すまない」
ゼオンのギルドカードを見て驚く門番を落ち着かせてサラについて質問した。
「すまないが彼女は身分を証明出来るものを所持していないんだが」
「何故だ?」
「何故だって、そりゃあ閉鎖的な村の中で彼女が過ごしていたからだよ」
「閉鎖的な村?」
「そうだ。彼女、サラは修行と見聞を広めるために村を出て、俺と一緒に旅をしているんだ」
隣で話を聞いていたサラは「よくこんな出任せが出てくるな」と呆れとも、感心とも言える感情を抱いていた。
「なるほどな。ゼオン・マークス、君は冒険者だな。彼女の身分を証明出来るか?」
「俺の恋人だ。サラの身分はそれでいいか?」
「・・・・ま、まぁ君程のランクの冒険者ならばそれで充分だろう。通って構わない」
許可を受けて街に入る。
門を潜って真っ先に目にはいるのは、綺麗に整備された石畳道を走る馬車や、その脇を歩く人びと。その次に石、もしくはレンガ造りの建物。恐らく、民間や商店だろう。
中世ヨーロッパを思わせる風景だ。
そんな街を歩くゼオンとサラ。
「よくあんな出任せがスラスラと出てくるな」
「嘘を付く時は堂々としている方が怪しまれないからな」
実際、思い付きの出任せではあったが堂々とゼオンは語っていた為に門番に怪しまれることはなかった。
「ギルドの登録は明日にして、今日は宿を取るか」
「まだ夕方ではないか。先に登録でもいいぞ?」
「ここは多くの行商人や交易品が行き交う街でな。早めに宿を取ってないと良いところが無くなってしまう」
「そうなのか」
「それに、今日は迷宮の攻略の祝いとサラという新しいパートナーの歓迎をしたい」
「へ?」
ゼオンはキョトンとした表情のサラの手を引っ張り、宿屋へと向かった。