下
二十一日目
隙を見せれば矢が飛んでくる。
攻撃すれば盾で止められる。
硬直すれば槍で追撃される。
体勢を崩せば魔法で止めをさされる。
僕の剣は全く届かない。
魔法を使えば矢と槍で突ら抜かれる。
何もできない。
今日も焼かれる。
死にたい。
二十二日目
弓矢による攻撃にはかなり適応できてきた。
ほぼ完全な精度で軌道が読める。
でも防げない。
槍の猛攻に対応している隙に矢が撃ち込まれる。
避けきれるはずがない。
十人全員に注意を向け続けることなんて不可能だ。
また今日も焼かれた。
二十三日目
槍持ちの騎士に手傷を負わせることに成功した。
だけどすぐに他の前衛組がカバーに入って追撃はできない。
そのまま壁の向こうで治癒魔法による治療が行われる。
騎士はすぐに前衛に復帰。
勝てない。
また槍で貫かれる。
でも死ねない。
明日もまた続く。
二十四日目
今日も焼かれた。
今日も貫かれた。
死にたい。
二十五日目
前衛をすり抜けることに成功した。
そのまま弓持ちを仕留めにかかる。
でも剣持ちの二人に止められた。
そこを背中から槍で貫かれた。
また勝てなかった。
もう死なせて欲しい。
二十六日目
魔法の発動に成功した。
僕の技量は、回路を守りつつ騎士より早く魔法を発動できるまでになっていた。
それでも隙を生み出していない相手に魔法を直撃させることはできない。
自分に治癒魔法をかけてみるが回復は間に合わない。
向こうはいくらでも回復する猶予がある。
勝てない。
二十七日目
終に騎士達を全滅させることができた。
それを可能にしたのが、新たに身に着けた形成後の回路の維持能力だった。
回路は基本魔力の供給を受けている間しか形を保つことができない。
つまり魔力を放出している指から離れると拡散してしまうのだ。
ただ回路に注入されている魔力が多ければ多いほど長い時間形を維持できる。
僕には底なしの魔力があって、使うのは所詮簡単な魔法のみ。
例え数十倍の魔力を注入したところで余裕はある。
そしてこの完成された回路を破壊する方法は、魔力で直接干渉するしかない。
魔法によって発生した物理現象では干渉できず、また放出後すぐ拡散する性質上魔力を放出している手で直接触れる以外干渉する手段はない。
すでに完成した回路を使用するため発動までのタイムラグはほぼなく、少しでも隙ができれば直ちに攻撃ができる。
魔法の直撃を受けた者を助け起こそうとすれば、動きを止めた瞬間攻撃魔法の餌食だ。
防御に徹すればいくらでも耐えきる自信はあった。
そして隙ができた者は一撃で行動不能に追い込めた。
戦いの末、僕は終に勝ったのだ。
「さすがは勇者様だ」と拍手を贈ってくる騎士団長。
すぐにでも切り殺したかった。
次は五十人か?
次は百人か?
そう身構えていると、「これで訓練は終わりだ」と彼は告げた。
理由は単純で、これ以上の人数と戦闘を行うことは通常ないからだという。
例え相手が百人千人いたところで、一度にその全てが個人を攻撃できるわけではない。
その規模の相手ならば、接近する前に広域殲滅魔法を叩きつけてしまえばいい。
それをできるだけの魔力が勇者には備わっているのだから。
理由は理解できた。
それで次は何をさせる気なのか尋ねた。
実践だそうだ。
明日から三日かけて最前戦まで連れて行くとのことだ。
僕は終に戦争に駆り出されることになった。