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 十日目


 今日から魔法の使い方を勉強することになった。

 僕の魔核を無理やり開いた魔法使いをみた瞬間、ぶん殴りたい衝動に駆られたけどぎりぎりで自制できた。

 殴るにしても騎士団長が先だ。

 それはさておき。

 魔法を発動するためには三つの物が必要だと教わった。

 魔力、回路、言霊の三つだ。

 まず魔核から魔力を引き出し、指先から放出して魔導回路を描く。

 魔導回路は魔力を魔法発動可能な状態に止めておく、スタンバイ状態らしい。

 使う魔法の規模で回路が変わるけど、同じ規模の魔法だと回路は同一のものを使うということだ。

 あとは詠唱によって発動する魔法が決定する。

 魔力がガソリンで回路がエンジン、言霊が機関といったところかな?

 とりあえず回路と言霊の座学を受けながら、魔核から魔力を引き出す練習をするように言われた。

 どうもこの魔核というのは心臓付近に存在しているらしく、そこから血流に乗せて移動させることができるらしい。

 とりあえず右手の指先から魔力を放出することには成功したけれど、放出後すぐ拡散してしまって回路を描くことはできなかった。

 ただそれだけでもかなり驚かれた、普通魔核から魔力を引き出すのにもっと苦労するらしい。

 魔法使いにべた褒めされたけどこれっぽっちもうれしくなかった。




 十一日目


 昨日に引き続き魔法の練習。

 一晩たったら指先から放出した魔力を空中に止めることができるようになっていた。

 それで空中に回路を描いてみるが、これが意外と難しい。

 空中だから腕が振るえるし、描く媒体がないから前後にずれたりもする。

 結局まともに回路が描けるようになるまで半日かかってしまった。

 けどそこからはスムーズに進んだ。

 回路さえ完成してしまえば言霊を乗せるのは難しくなく、次々に魔法を成功させていった。

 その結果また褒められた。

 適当に愛想笑いを浮かべておいた。

 けどあまり上手に笑えた自信はない。




 十二日目


 本日は騎士達が訓練している庭を半分ほど貸し切っての魔法練習。

 なぜ屋内でやらなかったかと言うと、もう屋外でしか試せないような規模の攻撃魔法しか残っていないからだ。

 騎士達の視線を受けながら次々に魔法を試し撃ちする。

 段々魔法の規模が大きくなっていくけれど、どうも限界を感じない。

 魔法は普通に発動するし、魔力が切れる気配もない。

 魔法使いが言うには非常に高い魔法使いとしての素養があるらしい。

 結局訓練所にでかいクレーターが5つくらいできた辺りで終了となった。

 これ以上の規模の魔法は城内で使ってもらっては困るという事だ。

 明日からは再び実践形式の訓練に入ると言われた。

 訓練が終わって部屋に帰ろうとしたところまた騎士団長が話しかけてきた。

 今度も「さすがは勇者様だ」とのたまった。

 頭の中で今日覚えた攻撃魔法を騎士団長に叩きつけるシミュレーションをして、なんとか手を出すのは我慢できた。

 そろそろ限界は近いかもしれない。




 十三日目


 今日からまた騎士達を相手に戦闘訓練が始まった。

 内容は一対一での魔法を絡めた模擬戦闘だ。

 しかし実際に戦っていると、近接戦闘中に魔法を発動するこはほぼ不可能ということが分かった。

 魔法を発動するためには回路を描かなくてはならないというのがくせものだ。

 空中に魔力を固定して回路を描くためには、止まっていなければいけない。

 とてもじゃないけど打ち合いながら回路を描くなんて無理だ。

 ただ攻撃魔法は鎧で防げるようなものではないので、発動させることに成功すれば簡単な魔法でも手傷を負わせることができ有効らしい。

 ただ魔法を使う際に相手にも発動する余裕があった場合、相討ちになるため危険だという。

 そのため魔法を発動するための隙を、いかにして一方的に作るかが大事になるということだ。

 結果、僕は騎士達に負け越した。

 何とか体勢を崩した隙に魔法を打ち込もうとしてみたけれど、発動する前に木剣で一撃入れられた。

 こちらが大勢を崩した場合は、木剣による追撃と魔法による追撃をうまく使いわけ一方的に打ちのめされた。

 火の魔法で腕を焼かれた。

 皮膚が焼き爛れて、僕の肉が焼ける匂いに気分が悪くなり吐いた。

 氷の魔法で足を止め、木剣を叩きつけられた。

 倒れた時に足の皮膚が剥げて、血があふれ出した。

 雷の魔法で電流を流された。

 身体が痙攣して、呼吸もできなかった。

 風の魔法で吹き飛ばされた。

 全身を強く打ちつけられて、血を吐いた。

 土の魔法で地面から生えた棘に貫かれた。

 あまりの激痛に気絶した。

 光の魔法で目を焼かれ、地面に叩きつけられた。

 暗闇の中、自分が今どんな姿勢で倒れているのかも理解できなかった。

 痛かった、すごく痛かった。

 苦しかった、すごく苦しかった。

 痛いと叫んだ、もう嫌だと何度も叫んだ。

 それでも訓練が中断されることはなく、治癒魔法をかけられ次の騎士の相手をさせられた。

 もう嫌だ、もう嫌だ、もう嫌だ。




 十四日目

 今日も昨日と同じ訓練で始まった。

 だけど勇者の力は、一日で実践戦闘訓練に適応してみせた。

 魔法の発動も早くなり、タイミングも把握できたため発動中に追撃を受けることもなくなった。

 昼には勝てることの方が多くなった。

 騎士団長はそんな僕を満足げにみて「さすがは勇者様だ」と笑った。

 殺したい。

 そんな事を考えていると、騎士団長がとんでもないことを告げてきた。

「次は複数人との戦闘だな」と。

 騎士団長の合図で三人の騎士が出てきた。

 頭が真っ白になった。

 意味が分からなかった。

 やっとまともに戦えるようになったというのに、これは何なのだろうか?

 ふざけているとしか思えなかった。

 騎士達が木剣を打ち込んでくるが、反応できずに倒れ伏した。

 痛い。

 痛い。

 痛い。

 声も上げられずのた打ち回った。

 すぐに治癒魔法がかけられ、無理やり立ち上がらせられた。

 また打ち込まれた。

 今度は対応しようとしてみるが、三本の木剣を止めることは叶わず倒れた。

 また治癒魔法、倒れる、治癒魔法、倒れる。

 なんども繰り返しているうちに、かろうじて木剣を受け、躱せるようになってきた。

 すると騎士の一人が下がり、回路を描き始めた。

 無理だ、防げない。

 目の前の二人を抜けて魔法を止めることなどできるはずがない。

 ふざけてる。

 こんなのおかしい。

 勝てるはずがない。

 結局僕は抵抗もできずに炎に包まれた。

 痛い。

 苦しい。

 死にたい。

 でも死ねない。

 また治癒魔法がかけられる。

 そしてまた焼かれる。

 結局訓練が終わるまで、僕は抵抗すらできなかった。

 もう嫌だ。


 ふと思った。

 訓練中は死ねないけど、自室なら問題ないのではないだろうか?

 僕は風の魔法で左腕を切り飛ばしてみた。

 血があふれ出す。

 痛い、熱い、けどこのくらいならもう慣れた。

 血がどんどんあふれ出す。

 止まる気配がない。

 このまま死ねそうだと自然と顔が綻んだ。

 もしかしたらレドムガラドにきて初めて笑ったのだったかもしれない。

 だというのに、騎士が部屋に駆け込んできた僕に治癒魔法をかけてきた。

 僕は部屋にいる間も監視されていたらしい。

 自殺も許してもらえない。

 もう嫌だ。




 十五日目


 今日も訓練所で模擬戦闘を行った。

 昨日よりも動けるようになっていたけど、突破できなかった。

 辛うじて一度だけ後衛の騎士の魔法発動を阻止することができた、けど騎士達は更に上手を行く。

 厳密な役割分担をやめて、臨機応変にこちらを攻撃してきた。

 少しでも誰かへの注意が逸れると、その隙を的確について回路を形成してくる。

 それを無理に止めようとすれば、他のフリーになった騎士が追撃してくる。

 一人が足止めに専念すれば、残り二人が回路を形成するのを止めるのは不可能だ。

 今日もまた焼かれた。

 今日も骨を折られた。

 今日も地面に叩きつけられた。

 今日も僕は痛めつけられ続けた。

 いつまでこんなことが続くのだろうか?




 十六日目


 やっと三人編成の騎士達を倒すことに成功した。

 体勢を崩している状態からでも魔法を躱し切れるまでに、反応速度も身のこなしも成長してきたおかげだ。

 火の攻撃魔法が発動してから、僕を足止めしている騎士を捕まえて盾にした。

 一人が落ちればあとは簡単だった。

 例え一人に足止めされたところで、回路を形成し終えるまで僕を抑え続けることはもうできない。

 二人で近接戦闘を挑んできたところで、今の僕なら捌ききれる。

 むしろ僕が魔法を使う余裕すらあった。

 二人目を雷の魔法で行動不能にしたところ、最後の騎士が降参を申し出てきた。

 無視して焼いた。

 どうせ治癒魔法をかけられるのだから問題はないだろう。

 炎に焼かれて悲鳴を上げる様を見て、少し気が晴れた。

 そんな僕に「さすがは勇者様だ」と声をかけてくる騎士団長。

 そのまま「次は五人だな」と控えていた騎士達に声をかけた。

 五人の騎士が木剣を構えて僕の前に並んだ。

 まだ終わらない。

 もう終わりにしたい。

 もう嫌だ。

 死にたい。




 十七日目


 痛かった。

 苦しかった。

 死ねなかった。




 十八日目


 辛うじて五人のうち一人を倒した。

 けど直後に魔法の直撃を受けて焼かれた。

 治癒魔法を受けてまた戦わせられる。

 また焼かれる。

 終わらない。




 十九日目


 午前は二人倒すことに成功した。

 午後には三人倒すことができた。

 でも倒し切れなかった。

 また焼かれた。




 二十日目


 終に五人との模擬戦に勝つことができた。

 達成感は全くなかった。

 この後の展開はどうせ同じだからだ。

 騎士団長の「さすがは勇者様だ」という称賛の声が訓練所に響き渡る。

 ああ、殺したい。

 でも無理だろう。

 腹立たしかった。

 次は十人を相手にしての戦闘だった。

 ただ今までと違い、騎士達の装備が統一されていない。

 前に出ている三人の騎士の盾は大きなものになっている。

 その他の前衛三人は槍を持っている。

 さらにその背後の二人は弓構えていた。

 最後の二人は今まで通り剣を持っている、たぶん魔法と遊撃の担当だろう。

 しかも全部が訓練用の木製武器ではなく、実戦用の鉄製武器だ。

 これを一人で全滅させろというのだ。

 ふざけいる。

 当然勝てなかった。

 手も足もでず、槍で叩き伏せられた所を焼かれた。

 なんで僕がこんな目に遭わないといけないのだろか?





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