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 前書き


 僕が異世界レドムガラドに来て今日で三日目。

 この世界に来てから起こった出来事を書き残しておこうかと考え、日記をつけることにした。

 まずは一昨日からの出来事を思い出しながら書いていこうと思う。




 一日目


 学校からの帰り道、突然視界が真っ白になった。

 突然の事態にへたり込んでいると、少しずつ人影が浮かび上がってきた。

 目を擦り再度見開くと、そこは見知らぬ部屋の中だった。

 部屋の中には漫画や映画でしか見たことないような煌びやかな衣装を身にまとった、騎士や貴族のような人立っていた。

 意味が分からなかった。

 その中でも一番偉そうな人が騎士達に僕の知らない言葉で指示を出した。

 すると騎士達は僕を取り押さえ、首にチョーカーのようなものを巻きつけてきた。

「これで言葉が通じるはずだが、どうだ? 私の言葉が理解できるか?」

 そう先ほど指示を出した男が流暢な日本語で問いかけてきた。

 僕がそれにうなずくと、彼は僕に事情を説明してきた。

 ここはレドムガラドのリムル大陸、そこに存在するルディア王国の王城。

 現在このレドムガラドは人類滅亡の危機に瀕しており、それを阻止するために異世界から勇者を召喚した、それが僕だということだ。

 勇者には人類を滅ぼそうとする魔王を倒して貰わなければならないということだ。

 それだけ一方的に説明されると、さっそく訓練に入ると言って騎士達に連れ出された。

 そのまま騎士達が使っている訓練所へと連行され、木剣を手渡された。

 僕は剣なんて使えないと主張したが、使えるようになって貰わないと困ると言われて強行された。

 そのまま僕は木剣で滅多打ちにされた。

 殴り合うような喧嘩の経験もなく、竹刀すら握る機会のなかった僕では抵抗もできなかった。

 こんなの無理だと主張したが、出来ようが出来まいが体に教え込ませると無視された。

 そのまま日が暮れるまで訓練は終わらなかった。

 何度か骨が折れたり、血を吐いたりもしたけど治癒魔法とやらで治されて訓練は続行された。

 夜になると騎士達の宿舎の空き部屋に放り込まれ、そのまま意識を失った。




 二日目


 朝食を出されたが、ろくに喉を通らなかった。

 すると昨日と同じだけの訓練をするのだからと無理やり食べさせられた。

 そして吐いた。

 その後昨日と同じように訓練が始まったのだが、少し不思議なことが起こった。

 何故か騎士達の動きについていけたのだ。

 動きが目で追えるようになったため、少しずつだが騎士達の剣を受けれるようになっていた。

 昨日のようにもろに木剣を受けることがなくなったため、骨折などの重傷にまで及ぶこともなくなった。

 しかし全身打ち身だらけ、すごく痛い。

 魔法で治してくれと懇願したら、その程度の怪我で動けなくなるのでは困ると無視された。

 その後痛みで動きを鈍らせた所、お腹へともろに一撃を貰い血を吐いた。

 内臓を痛めた気がした。

 痛い、苦しい、もう嫌だ。

 そう泣き言を漏らしていると治癒魔法をかけられ、立ち上がらせられた。

 そして訓練は今日も日が沈むまで続けられた。




 三日目


 騎士達との訓練は今日も行われた。

 だけど昨日以上に不思議な出来事が起こっていた。

 騎士達と打ち合えているのだ。

 攻撃を受けながら、隙を見つけて反撃ができるようになっていた。

 これが勇者の力なのだろうか?

 夕方には騎士の一人に一本打ち込むことに成功した。

 その成果を見た騎士団長は「さすがは勇者様だ」と、僕に言った。

 不思議とうれしくなかった。

 成果を出したおかげか、僕の部屋は宿舎から王城の一室へと移されることになった。

 その扱いが気にくわなかった。

 それが表情に出ていたのか、僕を案内していた騎士が明日からは王城での座学が始まるからこちらに移ることになったのだと説明してきた。

 本人はフォローのつもりだったのかもしれないが、ますます気にくわなかった。

 案内された部屋は宿舎とは比べ物にならないほど豪華だった。

 庶民な僕では気後れしてしまうレベルだ。

 部屋の設備を説明してくれたメイドさんが、最後に何か他に必要なものはないかと尋ねてきた。

 そこで紙とペンを貰えないだろうかと頼むと、この手帳を僕に届けてくれた。

 ざらざらとした紙もインクに付けて使うペンも僕には馴染みはなかったが、十分だった。

 僕はそれを受け取り、これまでの出来事、そしてこれからの出来事を日記に書きつけることにした。

 僕の中のこの『想い』を忘れないためにも。




 4


 いたい




 五日目


 もうやだ




 六日目


 ようやく痛みも熱も収まってくれた。

 二日前、僕に魔法を教えると言って魔法使いの元へと連れて行かれた。

 彼は僕の体を調べると、魔核が閉じていると言った。

 魔核とは体内にある魔力を生み出す器官であり、本来なら5歳までには自然に開くものらしい。

 開かない者もいるが、ある程度の魔法使いなら無理やり開けることができるということだ。

 魔法を使うためにはこの魔核から魔力を取り出さなければならないため、魔核が開いていることが絶対条件となる。

 しかし、成長期を過ぎたあとの体で魔核を開くと拒絶反応が起こり非常に危険だという。

 第二次性徴を終えた後の魔核解放では、その二割が死亡すると言われているそうだ。

 それを隣で聞いていた騎士団長はかまわないからやってくれと指示を出した。

 魔法が使えなければ戦力にならないのだから選択の余地はないと言うのだ。

 僕は逃げ出そうとしたが、すぐに騎士団長に取り押さえられ無理やり儀式を行われた。

 それからは地獄だった。

 全身の筋肉が、骨が、内臓が悲鳴を上げていた。

 体が発熱しろくに呼吸することもできなかった。

 助けを求めたが、治癒魔法を使えば魔核が開く妨げになるからと拒否された。

 僕は三日三晩、ベッドの上でのた打ち回ることとなった。

 痛かった、苦しかった、つらかった、いっそ死にたかった。

 けど僕は死ななかった。

 いや死ねなかった、なのかな?

 僕が起き上がった事を聞いて騎士団長が訪れてきた。

 彼は非常に驚いていた。

 普通は魔核が開ききるまで一月はかかるそうだ。

「さすがは勇者様だ」と僕を称賛した。

 殺意が湧いた。




 七日目


 今日から本格的な座学が始まることになった。

 メインはこの世界の言語だ。

 魔法を詠唱するためにはこの世界の言語を理解しなければならないらしい。

 そのために一刻も早く修得するようにと言われた。

 無茶な話だ。

 数年に渡って勉強している英語ですら日常会話もろくにできないというのに。

 ただ僕には翻訳のチョーカーがあるためか、英語よりは早く馴染めそうだ。




 八日目


 不思議なことに、聞き取りだけならもう8割程度理解できるようになっていた。

 読み書きも基本的な部分はもう押さえていた。

 騎士達との訓練と似たような感覚だ。

 これも勇者の力なのだろうか?

 語学が順調なためか、少し地理や歴史の講義も受けることになった。

 この世界の情勢などが主な内容だった。

 魔王率いる魔族達の勢力図も示された。

 前は大陸の北部にいくつかの勢力が分布していて、その全てを合わせても大陸全体の一割にも届かないくらいしかなかったらしい。

 しかしここ数年魔王がまとめ上げてから勢力を増し、現在では大陸北部を中心におよそ三割が魔族達の支配地域になっているらしい。

 この魔王を討ち勢力の拡大を止め、人類を救済するのが勇者の使命だということだ。

 しかしどれだけ言葉を飾っても、これはただの暗殺ではないのだろうか?




 九日目


 僕はこの国の言語をほぼ完全に理解できるようになった。

 もう翻訳チョーカーも必要ないということで取り外されることになった。

 そしてこれまでの経験を踏まえて、僕は一つの結論を出した。

 勇者の力というのは、物事に適応できるようになる能力なのではないだろうか?

 剣を学んだ時も、魔核を開いた時も、言葉を覚えた時も三日で身に着けることができた。

 なんとも地味でありながら、ずるくさい能力だ。

 ちなみに、語学の座学を終えたという話を聞いてまた騎士団長が訪ねてきた。

「さすがは勇者様だ」と僕を褒め称えた。

 殴り倒したい衝動に駆られたが、どうせ取り押さえられて終わりになるのであきらめた。





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