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サクラ、サク  作者: 宙埜ハルカ
第四章:夏休みは修羅場
77/80

77.突然のプロポーズ【咲良視点】

「それより、姉さん達の修羅場ってなんだよ?」

 駿が改めて茉莉江に問いかけるのを、咲良も内心頷きながら、耳を傾けた。


「そうそう、綾ちゃんにプロポーズしたの、山野さんのお兄さんなんだって?」


「プロポーズ?!」

 駿と咲良の声が綺麗にハモった。


 (お兄ちゃん、やり直す気なんか無い様な事、言っていたのに)


「そう、プロポーズと言うか、伯父さんに『綾さんと結婚を前提としてお付き合いさせてください』って頭を下げたの。もう、皆びっくりしちゃって……、でも、一番驚いていたのは綾ちゃんだったみたい。綾ちゃん、急に泣き出して、あんな綾ちゃん初めて見たよ」


「それで、どうなったの?」

 咲良は身を乗り出すように続きを催促する。


「それで、山野さんのお兄さんが二人だけで話をさせてくださいって、二人で綾ちゃんの部屋へ行ったまま、まだ戻ってこないの。なんでもね、同じ高校で付き合っていたんだって。でも大きな誤解ですれ違って、五年間会わないままだったのが、大学の共同研究で再会したんだって。なんだか運命を感じない?」

 茉莉江は恋愛ストーリーでも話すようにうっとりとしている。咲良も同じように、「やっぱり運命だよねぇ」と相槌を打った。


「それより、どうしてそうなったんだ? 僕が話していた時は、二人は喧嘩していたんだぞ」

 駿は一人納得がいかず、追求する。


「あ、そうそう。又あのずうずうしい姉妹が来たのよ。去年、純君と駿が振り回されたから、綾ちゃんが警戒していたんだけど、どうやら山野さんのお兄さんに言い寄っていたみたいで、綾ちゃんが阻止しようとしていたみたい。なんでもね、あの姉妹の姉の方が、山野さんのお兄さんの大学時代の他大学との合同サークルで一緒だったみたいで、その頃から憧れていたんですって。まさかの再会で、その姉の方がずうずうしくもこれは運命の再会だと舞い上がってしまって、親に紹介したりして周りを巻き込んで、大騒ぎだったの」

 茉莉江の話を聞いて、咲良はそのまま頭の中で想像する。まさか兄がそんな目にあっているなどと思いもしなかった咲良は、ちょっとその場にいたかったな、などと不謹慎な事を思っていた。


「その騒ぎとプロポーズがどう繋がるんだよ?」

 まだ納得できない駿が口を挟む。


「だから、まだ途中だって。それでね、阻止しようとしていた綾ちゃんとそのずうずうしい姉が言い合いになって、その騒ぎを聞いて伯父さんと伯母さんと山野さんのご両親が出てきたの。その時、いきなり山野さんのお兄さんが伯父さんに向かって、さっき言った言葉を言ったの。皆ポカーンとしちゃって、それで、山野さんのお兄さんが高校の時の二人の事を説明したの。そうそう、二人の誤解を解くきっかけは駿と妹のお陰だって言っていたよ。なんだか姉弟揃って、夏なのに春が来たね」

 そう言ってニヤニヤ笑う茉莉江に、嫌そうな顔をした駿が「夏なのに春って、センス無いな」とこぼした。

 そんな二人を見て、咲良は力関係が分かった様な気がした。どうやら女性の方が強い親族のようだ。



「あの、両親は何処にいるか分かりますか?」

 一応だいたいの話が分かったので、咲良は気になっていた事を尋ねた。


「やだー、山野さん。そんな丁寧な言葉使わなくても良いよ。ご両親はね、今伯父さん達と応接室にいるはずだよ」

 イメージと違う茉莉江の雰囲気に飲まれ、咲良はかろうじて「はい」と答えた。


「じゃあ、咲良、今から挨拶に行こう」


「え? 今から? どうしよう……」

 咲良は体調が悪いと嘘をついた事を思い出し、急に不安になった。


「大丈夫。僕に任せて」

 咲良は観念するしかなかった。



 応接室と思わしき部屋の前まで来ると、ドア越しに楽しそうな話し声と笑い声が聞こえてきた。咲良は途端に緊張が増す。そんな咲良に構わず、駿はドアをノックした。

 どうぞの声がかかり、駿がドアを開けた途端、中の和やかな雰囲気が溢れ出た。


「あら、駿。どこにいたの?」

 駿の母親と思われる人の声が聞こえると、咲良は駿の後ろで小さくなった。


「山野さんの娘さんの咲良さんに連絡を取ったら、もう体調が良くなった様なので迎えに行っていたんだよ」

 駿が説明すると、驚いた咲良の両親が「え? 咲良?」と振り返った。


 咲良はおずおずと駿の後ろから出ると、「ご心配掛けてすいません。石川君のお言葉に甘えに来てしまいました」


「ああ、あなた達、知り合いだったわね。大歓迎よ。いらっしゃい」

 綺麗な女性がニッコリと笑って迎えてくれた。そこに驚いた咲良の母親が、慌てて立ち上がると咲良の方へやって来た。


「咲良、もう大丈夫なの?」

 心配顔の母親に、咲良は「大丈夫だよ」と微笑んだ。父親は友人で駿の父親と思われる男性に「息子に続いて娘まで騒がせて、すまない」と謝っている。それを見て、咲良は申し訳なくなったが、その男性が「良く来てくれたね」と咲良に向かって声を掛けてくれた。


「僕達、まだ食事していないんだ。食べに行ってくるよ」

 駿がそう言うのを聞いて、咲良はお腹がすいていた事を思い出した。


「そうね、そうしなさい。咲良さん、ゆっくりして行ってね」


「ありがとうございます」

 咲良がお礼を言っていると、ドアを叩く音が聞こえた。新たなる登場人物に咲良は身構える。


「すいません、お待たせしてしまって」

 新しく現れたのは、咲良の兄の大樹だった。入ってきた途端、駿と咲良がいるのを見て驚いていたが、駿に「上手く行ったようだな」とニヤリと笑った。

 大樹に続いて綾が俯き加減で入ってきた。こちらを見た綾に、咲良は軽く会釈したが、彼女は恥ずかしそうに小さく会釈すると、そっぽを向いた。そんな綾を見た咲良は、あの女王のような王子姉は何処へ行ったと、心の中で突っ込みを入れた。


「しっかり話は出来たかな?」

 駿の父親が大樹と綾に問いかける。


「はい、先程は突然で綾さんの気持ちも訊かずに言ってしまいましたが、二人で話し合った結果、やっぱり結婚を前提の交際をお許し願いたいと思います」


「そうか……。私の時は妻の祖父になかなか認めてもらえなくてね、何ヶ月も毎日お願いに行っていたよ。まあ、君にそこまで求めないが、二度と誤解などですれ違わないよう、確かな絆を作って欲しい。綾を頼むよ」


「はい、ありがとうございます」

 大樹と綾が揃って頭を下げた。その様子を見ていた咲良は、大好きな恋愛小説を思い出した。

 それは、事情によりヒロインが嘘を吐いて身を引くように別れた恋人達が、数年後に再会し、いろいろな誤解を解いて再び愛を確かめ合うまでの、じれじれしながらもお互いに想い合う運命の恋人達のストーリーだった。

 咲良は、寄り添う二人を見て感動に胸が震える。


「お兄ちゃん、綾さん、おめでとう。良かったね」

 込上げる熱い想いと涙を耐えて、咲良は二人に祝福の言葉を送った。


 咲良がふと我に返り周りを見回すと、咲良の両親が駿の両親にペコペコと頭を下げている。

 いきなりやらかした長男の言動をわびているのだろうと思うと、咲良は両親が少し気の毒になった。

 それでも、お互いの両親の間には喜びの雰囲気が溢れているから、きっと皆に祝福されるだろう。


「咲良、今の内に食べに行こう」

 駿が小声で耳打ちするのを、咲良は少しくすぐったい思いをしながら頷き、彼に付いて部屋を後にした。


「お兄ちゃんと綾さん、良かったね」

 咲良は駿と歩きながら、さっきの感動がまだ覚めやらず笑顔で駿に話しかけた。


「まさかプロポーズまで行くとは思わなかったけど、結果オーライだな」

 駿も機嫌良く言葉と笑顔を返す。

 いろいろあったけれど、自分たちが起こした行動が、幸せに繋がったのだと思うと、大きな満足感に二人は包まれていた。


 咲良達がガラス張りの庭に面した部屋まで戻ってくると、茉莉江がこちらに気付いた。


「ご両親に会えた?」


「はい、会えました。それより、お兄ちゃん達、結婚前提の交際を許されたんですよ」

 茉莉江の問い掛けに咲良は、再び感動を思い返して告げる。


「そうなんだ。姉さん達が戻ってきて、咲良のお兄さんが父さんにもう一度お願いしたんだ。それで、すんなり許されたよ」

 駿も咲良の言葉を補足するように告げた。


「うわぁ、綾ちゃん、良かった。ずっと引きずっていたから誤解だと分かって本当に良かった。これで、婚約していないのは駿だけだよ。ふふふ、もうしちゃえば?」 

 茉莉江は驚いた後、心から喜んでいるようだった。しかし、その後がいけない。


 (神崎さんって、やっぱりこんな人なんだ)


 咲良は、やっぱり残念でならなかった。


「茉莉江、からかうのは止せ。俺達はまだ始まったばかりなの。茉莉江みたいに赤ちゃんの時からじゃないんだから」


「ふふふ、良いわね、初々しくて。山野さん、ゆっくりして行ってね」

 駿の抗議もスルーして、愉しげに笑う茉莉江は、咲良にも優しく笑いかけウィンクした。そんな茉莉江の対応に咲良は驚いたが、人懐っこいその性格に親しみを感じ始めていた。




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