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サクラ、サク  作者: 宙埜ハルカ
第四章:夏休みは修羅場
72/80

72.BBQ不参加命令【山野大樹視点】

 咲良の怒った声に一瞬怯んだ大樹だったが、子猫の反撃のようで、内心ニヤリとしてしまう。そして大樹は冷静に問いかけた。


「ふーん、じゃあ咲良は何が分かっているんだ?」


「それは……綾さんは、好きな人から別に恋人がいるなんて聞かされたら怖いって思ったから、お兄ちゃんに確かめられなかったんでしょ!」

 咲良はまだ興奮がさめず、怒りのままに吠えた。


「だけどそれって、俺の事を疑っているって事じゃないかな?」


「だから、お兄ちゃんの携帯電話から電話がかかってきたからだって。だから綾さんも信じちゃったんだと思うよ」


「ふーん、俺だったら、本人の口から聞くまで信用しないけどな。咲良は、他の女から綾の弟と別れてくれって言われたら、本人には確かめないのか?」

 大樹の突っ込みに咲良は一瞬顔をしかめた。しかしすぐに「私の事はいいの」と慌てたように言った。

 そんな咲良を見て、大樹はやっぱり何かあるなと、その表情を伺う。そして、咲良と綾の弟との交際宣言は、やっぱり胡散臭いと、大樹は確信したのだった。


「お前達のお陰で五年前の真相が分かったし、本当に感謝しているんだ。だから、咲良はもう無理しなくてもいいんだよ」

 大樹は咲良の本音を引き出そうと、優しい言葉をかけた。


「む、無理って、何よ!」

 動揺を誤魔化すように、咲良が声を上げる。


「お前にはあいつは重荷だろ? それに五年前の事がなかったら、付き合ってなかったじゃないのか?」

 大樹の中で引っかかっていた疑惑を、カマを掛けるように突っ込む。


 (だってそうだろ? 俺に交際宣言をした途端、五年前の話ばかり。胡散臭く思っても仕方ないだろ)


「お、お兄ちゃん……。やっぱり気づいていたんだ」

 咲良はどこかホッとしたように、ポツリと言った。


「そんな事……俺は咲良のお兄ちゃんなのに、分からないはずないだろ」

 大樹は内心『やっぱり』と思いながら、咲良の気持ちを受け止めるように微笑んだ。


「お兄ちゃん……」

 単純な咲良は、兄の優しい言葉にウルウルと瞳を潤ませる。


「だけど、俺はそんな事に咲良を利用して欲しくなかったよ」

 大樹は咲良の反応を見るため、少し本音を言ってみた。


「利用じゃないの! 石川君も私も、兄弟の事を思う気持ちで協力し合ったの」

 咲良は駿を庇うように、又声を上げる。まるでそれは洗脳されているかのように、自分の意思でした事だと言い張る咲良に、大樹は内心嘆息した。


「お前達二人が俺らの事を思ってくれたのは嬉しいし、そのお陰で誤解していた事が分かったから、感謝もしている。でもな、咲良の気持ちを利用して、こんな事に巻き込むのは、やっぱりずるいやり方だと思うよ」

 次は咲良の相手への気持ちの部分を指摘した。大樹は咲良の表情が歪むのを見逃さなかった。


「そんなんじゃないの! 石川君は何も悪くないの」


「じゃあ、咲良はあいつの事、どう思っているんだ?」

 大樹は咲良に考える隙を与えず、すぐに問い返す。


「それは……、と、友達だよ」

 だんだんと誤魔化し方が雑になっていく咲良の本当の気持ちを吐き出させるため、大樹は切り札を出す。


「友達ねぇ。咲良は高校の時、あいつは憧れの王子様だったんだろ?」

 母親から聞き出した咲良の好きな人情報から、大樹は綾の弟がその相手だと確信していたのだ。


「えっ? どうして、それを……」

 やはり、墓穴を掘る咲良。


「やっぱりな。お前の気持ちなんかバレバレだよ。あいつもわかっていて咲良を巻き込んだんだろ」

 咲良は困惑したように俯いた。大樹もちょっと言い過ぎたかなと思って戸惑う。すると、いきなり咲良が顔を上げて、真っ直ぐ大樹を見つめた。


「お兄ちゃん、ごめん。お兄ちゃんが言うように、五年前の誤解を解くために、付き合っているフリしてくれって石川君に言われて、石川君のお姉さんを思う気持ちに感動して協力したの。もちろんお兄ちゃんのためって言うのもあったよ」


 (妹よ。そこは最初からお兄ちゃんのためにと言って欲しかった)


 大樹は咲良が急に正直な話をしだした事に驚いた。


「だったら、別に付き合うフリしなくても、友達でも誤解を解く話は出来たんじゃないか?」

 大樹の突っ込みに、又咲良は戸惑う。


「そ、それは、私が告白したから……」


「はぁ? 告白ぅ? なんだ、それ? あいつは咲良の事バカにしているのか?」

 大樹は咲良の爆弾発言に、思わず怒りの声が出た。


「そ、そうじゃないけど……」


「あいつは告白してきた相手に、付き合うフリしてくれって頼んだって事だろ?」


「それは、たまたま告白したタイミングと、石川君がお兄ちゃん達の誤解を解きたいって思ったタイミングが合っただけで……」


「へぇ、かなりあいつに都合のいいタイミングだな。だったらもう目的は果たせたし、あいつとの関係もこれで終わりにしておいた方がいいよ」


「うん、分かっている。石川君には本当の彼女さんがいるから、私もこれからは距離を取った方がいいと思っていたの」


「はぁ? 本当の彼女? まさか、別に彼女がいるくせに、咲良に付き合っているフリをさせていたのか?」

 大樹は怒りと呆れで、苛立つ声をあげた。


「いや、これは、石川君は悪くないの。高校の時から付き合っていた彼女がいるの。二人は遠距離だから、私が勝手にもう別れたと思ってしまっていただけで……」

 そこまでされて、まだあいつを庇うのかと大樹は情けなくなった。恋は惚れた方が負けと言うが、咲良の場合は最初から勝負にもなっていなかったのだ。


「分かった。明日お前はBBQパーティに参加するな」

 大樹は、明日のパーティの主催者を知ってから懸念していた最悪の事態だと思った。行かない選択をしたら、両親は悲しむかもしれないが、咲良の心を守る方が先決だ。


「え? 明日? どうして?」

 大樹のいきなりの不参加命令は、咲良を戸惑わせたようだった。


「明日のパーティは、石川酒造の主催なんだ。つまり、親父の友達は綾達の父親なんだよ」

 ついに大樹は、最後のカードを切った。そのカードが、ジョーカーなのか分からないが、咲良にはそのカードそのものに近寄らせたくなかった。


「石川酒造……」

 咲良が独り言のようにポツリと呟く。


「なぁ、咲良。もう問題は解決したんだ。だったらもう綾の弟に会う必要もないし、距離を置いたほうが良いと、咲良も思っていたんだろう? 問題が解決した事は俺からアイツに話をして、礼も言っておく。だから、これ以上関わるな。親父達は上手く誤魔化すから、咲良は明日の朝、体調が悪いとか言ってドタキャンしろ」

 ここまで妹をバカにされて、親の友情に子供までが付き合う必要は無いと大樹は腹を決めた。今回だけは綾とその弟に用があるから参加するけれど、これが最後だ。

 

「お兄ちゃん、ごめんね」

 咲良は目に涙を貯めて、そう言うと、顔を伏せてしまった。


 (こんなに傷つけて、俺は絶対にあいつを許さない!)


 大樹はそっと咲良の部屋を出ると、怒りのままに部屋に戻った。



 部屋に戻って一人になると、大樹は少し冷静になった。

 さっきは怒りで余り考えられなかった大樹も、咲良の言った事を思い出すと胸が苦しくなった。


 (咲良は告白するほど、アイツの事が好きだったんだ)


 だから、顔のいい奴は女慣れしているから気をつけろって言ったんだと、大樹は心の中で悪態を吐く。

 ある意味人のいい咲良は、絆され易く、流されやすい。だから散々うるさく言ってきたのだ。

 大樹は大きく嘆息すると、明日の事を思い出し、頭が痛くなった。






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