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サクラ、サク  作者: 宙埜ハルカ
第四章:夏休みは修羅場
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64.BBQの予定とプールの約束【咲良視点】

 咲良の父親はお盆休みになると、Q大の保護者会で再会した友人を含め、久々に大学時代の友人達と泊まりで集まったようだ。

 上機嫌で帰ってきた父親は、夕食の席で冗舌にその時の話をした。どうやら保護者会で再会した友人とマドンナが結婚した経緯を聞いてきたらしい。


「以前にマドンナの話をした時、マドンナはお兄さんが亡くなって実家へ帰ったきり、大学には戻ってこなかったって話ただろう?」

 父親の話に咲良はそこまで覚えていず、曖昧に微笑んだ。父親は咲良の反応には気にも止めず、酔ったように話し続ける。


「本当は一度だけ戻ってきたらしいんだ。それも冬休み中の寮にほとんど人がいない時に、荷物を引き上げるために。それで、その時に偶然飯田……いや、この前再会した友人がバッタリ会って、マドンナの窮状を聞き、いきなりプロポーズしたらしい」


「えー。いきなりプロポーズ? 」

 咲良は思わず声をあげた。母親も同じく驚いた顔をしている。


「そうだよ。皆も驚いたよ。どうやら、マドンナのお兄さんが亡くなって、マドンナが家業を継ぐ事になって、お見合いをさせると言われていたらしい」


「それって、お見合いが嫌で逃げてきたお姫様と、お姫様を秘かに想っていた騎士が運命の再会で結ばれるって奴だよね」

 咲良は父親の話すエピソードで、すぐに妄想の世界へ飛んだ。


「まあ、なんだ、そんな良いものでも無いと思うが、その後苦労をしてマドンナの身内に結婚を認めてもらったらしい。それであいつは抜け駆けをしてしまったと思って、誰にも連絡できなかったそうだ」

 咲良の言葉で、盛り上がっていた父親の熱がダウンし、少々冷静になったようだ。



「それでな、そのQ大の保護者会で再会した友人だが、結構近くに住んでいる事がわかったんだ。お父さんの会社と同じ市内なんだよ。だから、子供も同じQ大へ行っている事だし、家族で交流しませんかって誘われたんだよ。8月の最終日曜日にBBQパーティをするから是非来てくださいとの事だ」

 父親はニコニコと報告した。


「えー、大凪市(おおなぎし)なの?」

 咲良の自宅は大凪市に隣接する町だ。そして、咲良が通っていた高校が大凪市にある。


「そうなんだ。お父さんも驚いたよ。こんなに近くにいたのに、27年間も気づかなかったんだからなぁ」


「本当よねぇ。遠く離れたQ大で再会するなんて、もう一度Q大から友達関係を始めなさいって事じゃないの?」

 母親がやけに上手い事を言って、父親はその言葉に感動をしている。



 (再会した友人って、マドンナと結婚した人の事だよね?)


 咲良は一瞬保護者会の帰りの母親の様子を思い出し、母親はマドンナに会うのは嫌じゃないだろうかと心配になり、母親の表情を窺った。


「Q大生の親同士として交流を持つのはありがたいわね。母親同士、情報交換したいわ。それに、BBQも久しぶりだし。どう? 咲良も行くでしょ?」

 まるで保護者会の帰りの会話などなかったかのように、のほほんと発言する母親の懐は、広いのか狭いのか、咲良には良く分からなくなった。


「え? BBQ? どうしようかな?」


 (よく知らない人達とBBQなんて、あまり行きたくないなぁ)


「咲良、家族ぐるみで交流しようって誘ってくれたんだから、是非行ってくれよ。大樹にも声をかけるつもりなんだ」


「えー、お兄ちゃん? でも仕事が忙しいのに、帰ってくるかなぁ。お盆休みも旅行だって帰ってこないのに」

 すっかりその気の父親に、咲良は面と向かって嫌だとも言えず、この際兄に便乗して断ってしまおうかと言う考えが脳裏を巡る。 


「まあ、大樹が帰って来られないのなら仕方ないけど、誘うだけは誘ってみるよ。咲良はこっちに居るんだから、参加できるだろう?」


「あ……友達と約束していたような……」


「はっきりしていないのなら、こっちを優先してくれないかな?」

 何の約束も無い咲良には、懇願の眼差しで見つめる父親にノーが言えるほど、強くも我侭でも無かった。


「分かったよ。ご一緒させてもらいます」


「はははは、そうか、行ってくれるか。良かったな、母さん」


「フフフ、あなたの粘り勝ちね」

 笑い合う両親を見て、咲良は心の中で大きく溜息を吐いたのだった。



 その夜、再び溜息を吐いた咲良は、ふと母親の言葉を思い出した。

 『Q大生の親同士として……』


 (Q大生! そうだ、Q大生の子供が居るって言っていたじゃない!)


 女だろうか、男だろうか、何回生だろう、どの学部だろう、どんな人だろう……咲良の頭の中でいろいろな疑問が浮かんでは消える。

 明日父親に聞いてみようかと思った咲良は、でも、BBQを楽しみにしているように取られても癪に障ると思い直し、その後も興味の無いフリを続けたのだった。



     *****


 自動車学校のお盆休みが終わり、又通う日々が始まった。

 待ち合わせの駅で咲良が待っていると、柚子が嬉しそうに駆けてくる。


「おはよう。あのね、圭吾が帰って来たんだよ」

 なんだかんだ言っても、恋人が帰って来たのは嬉しいのだろう。


「おはよう。柴田君、もう自動車学校を卒業したの?」


「そう、それでね、今日本試験を受けに行って受かったら、帰りに車で迎に来てくれるって」


「へぇー、もう免許取れるんだ」


「そうそう、それからね、この前言っていた旅行は男子だけで行くんだって」

 すっかり安心した表情の柚子の報告を聞いて、咲良は浮気疑惑が払拭されて、内心ホッと安堵の息を吐いた。


「そっかぁ、良かったね。それで、旅行はいつ行くんだって?」


「この木曜日から一週間だって。ケチケチ旅行で高速を使わず、レンタカーで車中泊とかオートキャンプ場とか利用しながら行くから、女は一緒に行けないんだって」

 うふふっと最後に笑い声を上げた柚子は、自動車学校の初日の時の憂いはもう見当たらなかった。


 (やれやれ、これで一件落着かな)


 咲良も同じように笑い返し、「良かったね」と言った。



 自動車学校は順調に進んでいる。咲良達は第一段階の終わりに近づいて来た。

 ほぼ毎日通っている咲良と柚子は、たくさんの顔見知りができ、待ち時間に良くおしゃべりするようになった。そんな中に加藤もいた。

 その日、皆でおしゃべりをしていると加藤がある提案をした。


「なぁ、今度の日曜日に皆でプールへ行かないか?」

 すぐに皆も「いいね」と同意し、話が盛り上がる。


「市民プールに新しくウォータースライダーができたからでしょ」


「私も行きたかったの」


「俺はプール開きの時に行ったけど、凄かったよ」


 皆の話を聞いて、咲良もワクワクしてきた。 柚子が「新しく水着買わなきゃ」と呟いたのを聞いて、咲良も「私も、一緒に買いに行く」と、又楽しみが増えた。


 

 その日の帰り、予定通り免許を取得した柴田が自動車学校まで迎に来た。咲良も家まで送ってくれるとの事で、後部座席に乗せてもらう。車は父親所有のものらしい。


「久しぶりだね、山野さん」


「柴田君も久しぶり、もう免許取ったなんて、早すぎだね」


「ははは、合宿は休日無しのびっちりスケジュールだったけどね」


「うわぁ、厳しそう」


「まあ、自動車の運転は楽しいから、そうでもないよ。そう言えば、俺の行っていた自動車学校で石川を見かけたよ」


「え? 石川君? 圭吾、そんな事言っていなかったじゃない」

 王子の名前が出て、咲良より先に柚子が反応した。


「忘れていたんだよ。同じ大学へ行っている山野さんを見て思い出したんだ」


「合宿式の自動車学校へ行くとは聞いていたけど、柴田君と同じところだったんだ。石川君はまだ卒業じゃないよね?」

 咲良は驚きを飲み込んで、連絡の来ない王子の様子を伺った。


「ああ、俺より入校が遅かったから、まだだろうね。でも、やっぱりあの石川はモテモテだったな」


「モテモテって、どんな風に?」

 またまた興味津々の柚子が口を挟む。


「待ち時間や、食事の時なんかによく女の子達に声を掛けられていたよ」


「そっかぁ。圭吾は声を掛けられなかったの?」


「いや、俺はサークルの仲間達といたから……」

 二人の会話が何やら不穏な雰囲気になっていたが、咲良は内心、『そうか、モテモテだったのか』とモヤッとしたのだった。



 思わぬところから王子の近況を聞いた夜、久しぶりの王子からのメールが届いた。自動車学校の様子ともうすぐ卒業検定を受ける事が書かれている。そして最後に『今週末までには帰れると思うから、今度の日曜日、会わないか?』とあって、咲良は驚いた。


 (え? 今度の日曜日? 会う? 何のために?)


 まさかドライブのお誘いじゃないよねと思いながら、『今度の日曜日は、自動車学校の友達とプールへ行く予定です。ごめんなさい』と咲良がメールを返すと、いきなり携帯が鳴り出した。


 (これは、電話だ。え? 王子?)


「もしもし、咲良? 久しぶりだね」


「こ、こんばんは、久しぶりです」

 咲良は驚きすぎて、いきなり噛んでしまった。


「ぷっ、なに緊張しているの? そっちは自動車学校どう?」


「順調ですよ。もうすぐ第一段階が終わります」

 何とか気持ちを落ち着かせて会話をするが、緊張のあまりタメ口が使えない。


「そっか。咲良、そんなに丁寧な言葉じゃなくていいよ。そう言えば高校の同級生とかも来ている?」


「は、はい、そうだね。高校の同級生は沢山見かけるよ。そうだ。加藤君にも会ったよ。GWの時に夏休みに連絡取ればって言ってくれたでしょう? 自動車学校でよくお話しをしているんだよ」

 何とか咲良はタメ口を使うように努力をしながら、加藤の話題が出て少し気持ちが軽くなった。


「加藤か……。もしかして、加藤もプールへ行くの?」


「そう、加藤君の提案で……」


「まさか、加藤と二人きりじゃないよね?」


 (なに、その焼きもち焼きの彼氏のような発言!)


「まさか! 6、7人で行く予定だよ」


「そうか……。僕も行ったらダメかな?」


「へ? い、石川君もプールへ行きたいの?」

 駿のまさかの発言に、咲良は慌てた。


「そう、いいよね、プール」

 咲良は瞬時にプールサイドで女性に囲まれる駿を想像し、柴田の『モテモテだった』と言う話を思い出した。


「で、でも、知らない人ばかりだし……皆も知らない人が混ざると気を遣うと思うし……プールは仲の良い友達と言った方が良いんじゃないかな」


「そう? じゃあ、咲良が一緒に行ってくれる?」


 (いやいやいや、もっと仲の良い人がいるでしょう? 神崎さんとか……)


 咲良の頭の中に神崎茉莉江が浮かんだけれど、何となく口には出したくなかった。


「私は自動車学校があるから……」


「でも、日曜日は休みなんでしょう?」


「でも、今度の日曜も、その次の日曜日も予定があるし、その次はもう9月だから、市民プールの営業は終わっているし……」

 今更ながら、BBQの予定がありがたいと思った咲良だった。




 

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