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サクラ、サク  作者: 宙埜ハルカ
第四章:夏休みは修羅場
57/80

57.自動車学校【咲良視点】

 母親がパートに出かけた後、咲良も慌てて出かける準備をした。今日は自動車学校の入校の日だ。一緒に入校する高校からの友人の柚子とは、最寄り駅で待ち合わせている。


「咲良、ひさしぶり」


「柚子こそ、元気していた?」


「電話で話したじゃない」


「でも、顔見たら、時間の経過を認識した」


「えー? 私、変わった?」


「うん。柚子、綺麗になったよ。やっぱり恋する乙女は違うねぇ」

 お化粧の技術が格段にアップしたと、咲良は柚子の顔を見て思った。


「何言っているの、咲良だって……。都会へ行ったから、もっと垢抜けているかと思ったけど、変わっていなくて安心した」


「それ、褒めてないよね?」


「ん……咲良は咲良だから、いいじゃん。それより、急がなくちゃ」

 何となくモヤモヤした咲良だったが、咲良自身も相手を褒めているようで、心の中では結構失礼な事を思っていた。

 咲良は『まっいいか』と頭の中を自動車学校の事へとシフトチェンジした。




 入校の手続きのためにカウンターの前に並んでいると、チラホラと知っている顔を見かける。やはり地元だなと咲良は何となく嬉しくなった。


「柚子って今日入校だったんだ?」

 話しかけてきたのは、咲良の知らない顔だった。どうやら柚子の大学の友人のようだ。


「美晴はもう入校したの? 又いろいろ教えてね」


「うん、OK。そう言えば、噂の彼氏は一緒じゃないの?」


「免許を早く取りたいからって、合宿式の車校に行っているの」


「そうなんだ。でも、早く免許を取って、ドライブに連れて行ってくれるんじゃないの?」

 咲良は何処かで聞いた話だなと会話する二人を見ていた。


 (そう言えば、最近柚子との会話に柴田君の話題は出なかったよね)


 咲良の方も下手に柚子彼の話題を出して、王子の事を訊かれたくなかったという理由もあった。

 思い返せば柚子からのメールに彼の話題が出なくなったのはもっと以前だったようなと、咲良は内心首を傾げる。


 (もしかして、二人の仲がこじれている? まさか、別れたとか?)


 大学の友人の問い掛けに笑って誤魔化した柚子とその友人が会話を終え、去っていく友人の姿を確認した後、妙な胸騒ぎがした咲良は、今知った事実を確かめるように問いかけた。


「柴田君、合宿式の車校へ行ったの?」


「うん、そうなんだけど……」

 柚子は答え辛そうに言いよどむ。咲良はますます不安になりながら、柚子の言葉を待った。


「まあ、後で話すよ。それより順番次だよ」

 何となく又誤魔化されたような気がしたが、順番が来て手続きを済ます。その後もゆっくり話すまもなく、入校説明・適性検査を受け、最初の学科教習を受けた。



 入校日のスケジュールが全て済んだ後、咲良達は柚子のお勧めのパンケーキのお店に寄る事にした。高校生の頃より行動半径も交流も広がった地元大学生の柚子は、美味しいスイーツのお店にかなり詳しくなっているようだった。

 やけに饒舌にいろいろなスイーツのお店の話をする柚子を、咲良は何処か訝しく思いながら、相槌を打つ。


 (やっぱり、柴田君と何かあったのかな?)


 わざと彼の話を避けているような柚子の話が途切れたところで、咲良はとりあえず先程と同じ質問をする事にした。


「ねぇ、柴田君は合宿式の車校へ行ったの?」

 柚子は少し戸惑ったような顔をしたが、すぐに堪忍したように咲良をまっすぐに見つめた。


「圭吾はサークルの仲間と一緒に合宿式の車校へ行ったの」


「そうなんだ。もしかして、柚子も一緒に合宿式の方へ行きたかった?」

 もしかして、自分に遠慮して合宿式の方へ行けなかったのだろうかと咲良は心配になった。しかし、柚子は首を横に振った。


「私は運動オンチだし、そんなに短期間に集中して免許取るなんて無理だから……ゆっくりの方がいいの」

 それは自分もそうだと咲良は思ったが、柚子の様子が落ち込んでいるように見えた。


「そう、だったら、友達の言うように柴田君が早く免許を取って、柚子とドライブとか行こうと思っているんじゃないの?」

 少しでも励まそうと、咲良は明るい声で言ってみたけれど、再び柚子は首を横に振る。


「圭吾は早く免許を取って、サークルの仲間とドライブ旅行に行くみたい。……それに、そのサークルの仲間の中に、圭吾の事を好きな子がいるの。合宿の間もずっと一緒だし、一緒に旅行に行くし……」


「そんな……柴田君にかぎって……」

 柚子と柴田が付き合う事になったのは、高校2年生の時に同じ委員会の代表になり、よく話をするようになって、柴田の方から告白をしてきたからだった。それまでは咲良と同じ様に、王子一筋で騒いでいたのに、告白された途端、すんなりリア充へと移行していった。

 咲良からすると、柴田の方が柚子の事をより好きだと思っていた。


 (やっぱり環境が変わると、人の心も変わっちゃうのかな?)


「ねぇ、柴田君の事を好きな子って、柴田君に告白してきたの?」


「それは圭吾が何も言わないから分からないけど、以前デート中にサークルの人達と偶然出会って、その女の子の様子を見ていたら、そんな気がしたし、最後に睨まれたから絶対だと思う」


 (う~ん。微妙だよね。でも、恋する乙女の勘は侮れないか……)


「でも、柴田君の態度はどうなの? 何か変わった所ってある?」


「大学が違うと、やっぱりお互いの友達やサークルの付き合いもあるし……。でも……私も悪かったんだ。大学デビューで舞い上がっていたから」


「舞い上がるって……」


「だって、大学生になって大人になった気がしなかった? 自由になった気がしなかった? 特に咲良は親元を離れているから、もっと自由でしょ? それに、王子とお知り合いになんかなっちゃっているし……。私も負けてられないから素敵な先輩とお知り合いにならなきゃって、サークルに夢中になっていたと言うか……」


 (はぁ? 何それ?)


「それじゃあ、柴田君の事責められないよ」


「だから、私も悪かったって言っているの。だけど、圭吾は2週間も合宿した後に旅行まで行くって言うんだよ? 信じられないよ」

 怒りのテンションが上がり出した柚子の話を聞きながら、咲良はどっちもどっちだなと心の中で嘆息した。


「柴田君も受験勉強から解放されて、初めての夏休みで舞い上がっているんじゃないの?」

 咲良の突っ込みに、柚子は「それでも」と言いかけて、自分も舞い上がっていた事を思い出したのか口をつぐんだ。


「ねぇ、柴田君の態度が冷たくなったとか、連絡も来ないとか、しても無視されるとか、誘っても断られるとか……そんな事あるの?」

 咲良があらためて柚子彼について訊くと、柚子は先程のテンションは下がってしまったのか、「そんな事、ない」と首を横に振る。


「じゃあ、不満はあるけど、柴田君の態度は変わらないのよね?」


「まあ、そうかな? 圭吾はもともと淡白だし、でも一日一回は連絡をしてくれるかな?」


「その柴田君の事を好きかも知れない女の子が一緒じゃなきゃ、そんなに心配しないんじゃないの?」


「う~ん、そうかも。でも、2週間も一緒に寝泊りしていたら、絶対アプローチするよね? 圭吾が夏の誘惑に負けないか心配」


「夏の誘惑?」


「夏は開放的になるから、服も薄着になるし、迫られて拒絶できるかな?」

 咲良は恋する乙女の妄想に付き合いきれなくなり、今度は大きく溜息を吐いた。


「柚子は柴田君の事、信じられないの?」


「そう言うわけじゃないけど、心配なの」

 咲良は有りもしない浮気を心配されている柚子彼が気の毒になった。



「私の事より、咲良の方は王子とその後どうなの? 最近めっきり報告ないじゃない」

 柚子の反撃に咲良は怯む。柚子が大学生活に舞い上がっていたせいか、連絡が余り来なくなった事に合わせて、咲良の王子報告も途絶えがちだった。告白した事も、仮のお付き合いの事も秘密だ。


「そう言えば、年上の恋人が居るらしいって報告以降途絶えているけど、相変わらず王子はその人と付き合っているの?」

 そうだったと咲良は頭の中で、どこまで柚子に伝えたかと思い返す。


「あ、あの年上の彼女は王子のお姉さんなんだって。お姉さんのストーカー撃退のために恋人のフリをしていたんだって」


「えっ、ストーカー? 怖いね。でも、王子ってお姉さん想いだね。もしかしたらシスコンとか? そう言えば、王子のお姉さんも同じ大学なの?」

 柚子の反応に、咲良は反論したかった。シスコンではなく、女王様と下僕なのだと。しかし、そこまで詳しい話も出来ず、とりあえず大学の事だけ答えた。


「Q大の大学院」


「そうだったんだ。じゃあ、王子は今フリーと言う訳?」

 咲良は「うっ」と言葉に詰まる。頭の中ではどう答えればいいかと高速でフル回転している。

 結局咲良は「わからない」と首を振るのが精一杯だった。




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