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サクラ、サク  作者: 宙埜ハルカ
第二章:憧れのその先
28/80

28.合コンお誘いミッション

――――――――咲良が石川君に告白するのなら、私も恭ちゃんに告白する。


 突然の由香の提案に咲良はたじろいだ。

「いや、いや、いや、私の事は今は関係無いでしょう?」


「あら、咲良は自分が出来ないのに、人には勧めるんだ?」

 さっきまで形勢逆転だったはずなのに、目の前の由香はいつもの調子を取り戻し、ニヤリと笑った。

 由香の瞳は『咲良だってできないくせに』と挑発するようにきらめいた。

 一瞬咲良は『受けて立ってやろうじゃないの!』と言いそうになった。

 (ダメ、ダメ、ダメ。ムリ、ムリ、ムリ。告白なんて、とんでもない!!)


「咲良が出来ないのなら、篠田さんにお願いしてよね。合コン」

「えー!! そんなぁ」

「じゃあ、石川君に告白する?」

 由香に追い打ちをかけられて、咲良はうっと言葉に詰まると、プルプルと首を横に振った。 

(告白なんかしちゃったら、サークルにも行けなくなって、見るだけもできなくなるよ)


「じゃあ、しかたないわね。篠田さんによろしく」

 由香はそう言うと、自分の方の灯りを消してベットに潜り込んでしまった。

 咲良は慌てたように「由香ぁ」と呼んだけれど、背を向けた由香は「おやすみ」と言うとすぐに寝息をたてて眠ってしまった。


 どうしてこうなってしまったのだろう?

 どこで間違ってしまったのだろう?

 確かにいつもと形勢逆転したはずなのに……。

 あの拗ねて可愛い由香は幻だったの?

 この後咲良はベットの中で悶々とし続けたのだった。


          *****


 この日から、この話を蒸し返そうとすると、決まって由香に「告る気になった?」と言われてしまう咲良は、何も言えなくなってしまった。そして最後に「篠田さんによろしく」と付け加えられてしまう。

 今では咲良の方が溜息ばかりになってしまった。


 6月の半ばだと言うのに今年は空梅雨なのか晴れ続きのある日、咲良は午後から1コマしか講義を取っていないので、寮に帰るには早すぎる気がして、いつものように課題をするべく図書館へ向かっていた。今日は由香はバイトで、彩菜はクラブのため、火曜日はいつも時間を持て余してしまう。

 6月の陽射しはもう夏の物で、それでも風のある今日は木陰に入ると涼しく、木陰のベンチに誘われるように座り込んだ。

 あの日からずっと咲良の頭の中は二つの事がグルグルと回り続けている。

 篠田さんに合コンの話をするべきか、王子に告白するべきか……。

 由香に上手くマインドコントロールされたように、咲良はこの二つの内、どちらかを選ばなければいけない様な気になっていた。

 (だいたい、篠田さんってどこへ行けば会えるのよ)

 咲良は心の中で悪態を吐く。

 王子に告白は、何度考え巡らせても、GOサインは出そうにない。

 (そうよ、篠田さんに話をしたけどダメだったって言えばいいんだから……)

 全くの作り話だと気が引けるので、一応篠田さんにはそれらしい話をして、断られるに決まってるから、1回だけ会って話をしなければ。

 そこまで考え巡らせた時、肩をポンっと叩かれ、咲良は驚いて叩いた主を見上げた。


「咲良ちゃん、何度呼んでも気づかないから……」

 咲良は見上げたまま、これは神の采配だろうかと思った。


「し、篠田さん。ど、どうしたの?」

 余りにタイミング良く現れた篠田を見上げている咲良に、ニコッと笑いかけると彼は隣に座った。


「休講になって時間空いちゃったんだよ。咲良ちゃん、暇そうにボーっとしてたから……」

 (暇そうにボーっとって……確かに暇だけどさ)

「ここ、気持ちいいんですよ」

 咲良は心の中の文句を飲み込んで、笑顔で言葉を返した。

 咲良の言葉に篠田は嬉しそうに笑うと、風の吹く方に顔を向け、しばし涼しい風を受け止めた。


「本当だね。……で、咲良ちゃんは何してたの?」

「ん……脳内会議です」

 篠田は咲良の返事にプッと吹き出し、「君はやっぱり意外性があると言うか、面白い子だねぇ」と笑った。

 咲良にしたらなんだかバカにされているようでムッとしたが、篠田がとても機嫌良さそうだったので、これはチャンスかもとひらめいた。


「脳内会議の議題はなんだったの?」

「ハムレットですよ」

「ハムレット?」

 篠田は咲良の返事が思いもよらなかったのか、呆けた顔で訊き返した。

「To be, or not to be すべきかすべきでないか、ですよ」

 ハムレットの有名なセリフをとっさに思いついて口にした咲良だったけれど、これはピッタリだと悦に()った。

 神も味方している。舞台は整った。さあ、今こそ彼にお願いするのよ、咲良!

 

 咲良がどう切り出そうかと思案していると、隣のイケメンがさっきよりも盛大に笑い出した。

「アハハハ……君って……本当に飽きない子だね。それで、何をすべきか悩んでいたの?」

 (さあ、咲良。任務を遂行するのよ!)

「あの、篠田さんにお願いがあるんです」

「えっ? 俺にお願い?」

 咲良は緊張に震える胸のドキドキを押さえるべく、ゆっくりと「はい」と言いながら頷いた。

「あのですね、篠田さんは合コンとかされますか?」

「合コン? した事はあるけど、最近はしていないよ。でも、それがどうしたの?」

 篠田は思いもつかない問いかけに、きょとんとしながらも次はどんな言葉が出てくるのかと期待に瞳がきらめいている。


「あの、私達と合コンしませんか?」

 篠田は咲良の誘いに「えっ?」と驚くと、マジマジと咲良を見た。


「咲良ちゃん、合コンなんかしていいの?」

「ええっ! どうしてですか?」

「もう、石川の事、諦めちゃったの?」

 篠田は咲良の瞳を覗きこむように真っ直ぐに見つめて問いかけて来た。けれど咲良の思考は、途端に固まってしまった。

 (う、うそー! 王子の事、バレてる? どうして?)

 とっさにポーカーフェイスを作るスキルもない咲良は、あんぐりと口を開けたまま、篠田を見返した。

 

「この間の写真撮った日、石川が帰って行くのを切なそうに見ていたのでバレバレだったな。咲良ちゃんって、分かりやすいよ」

 篠田さんはそう言うとクスクスと笑った。けれど咲良は分かりやすいの言葉に青ざめた。

 (分かりやすいって……王子にもバレてる?)


「咲良ちゃん……ごめん。からかってる訳じゃないんだよ。咲良ちゃんの恋を応援したいと思ってるんだ。なのに、合コンなんて言うから……」

 咲良が余りに青ざめて固まってしまったからか、慌てたように篠田は謝った。


「あの、断ってくれていいんです。むしろ断ってください」

 篠田を合コンに誘うミッションはコンプリートしたのだから、早く断られて終わってしまいたい。

 咲良には今はそれどころじゃないのだ。


「えー! どう言う事?」

「だから、篠田さんは合コンなんてする気無いでしょう? だから断ってくれても、気にしませんから」

「咲良ちゃんは合コンしたかったんじゃないの? もしかして、俺の反応を見て楽しもうと思ってた? それとも、罰ゲームとか?」

「と、とんでもないです。あ、あの、頼まれたんです。私は無理だって言ったんだけど……でも、一応誘ってみないと、ダメだったって言えないから……だから、断ってくれていいんです」

「なに、それ。その頼んだ子って、俺が咲良ちゃんに声をかけたりしてるから、咲良ちゃんを利用しようとした訳? 咲良ちゃんはどうしてそんな子の言う事を聞くの?」

 篠田の真剣な追及に咲良はたじろいだ。こんな時上手く言い逃れるスキルを持たない咲良は慌ててしまった。


「違うんです。これにはふかーい訳が……」

「その深ーい訳とやらを聞こうじゃないか」

「篠田さん、これ以上訊かないでください。お願いします」

「でも、俺には訊く権利あると思うけど? それとも、石川の前で咲良ちゃんに合コンに誘われたって言おうかな?」

 (えー!! 王子の前で……)

 咲良が目を見開いて固まっていると、篠田は申し訳なさそうな顔をして「ごめん、ごめん。苛め過ぎちゃったね」と謝ってくれた。


「いえ、いいんです。篠田さんには迷惑な話でしたよね。ごめんなさい」

「俺の方はいいけど……もしかして、その頼んできた人に弱みでも握られてない? 困った事になってるのなら、相談に乗るよ?」

 思わぬ篠田の優しい言葉に、咲良は気が緩んだ。


「違うんです。頼んできたのは私の大切な友達で、彼女は好きな人に彼女がいるみたいだから諦めようとして、篠田さん達と合コンして気を紛らわそうと……」

「じゃあ、なぜ咲良ちゃんは断ってくださいなんて言うんだ?」

「彼女は、好きな人にきちんとぶつからずに諦めようとしてるから、逃げてちゃダメだと思って……」

「でもさ、それならそれで俺まで巻き込まずに、そう話せばよかったんじゃないかな?」

「だって、そう言ったら、私が石川君に告白したら、彼女も告白するって言われちゃって……告白できないなら、篠田さんを合コンに誘えって……」

 篠田のニヤリと笑う顔を見て、咲良は喋りすぎてしまった事に気付いた。


「咲良ちゃん、語るに落ちるだねぇ。……そっか、石川に告白できないから、俺を巻き込んだ訳ね」

「わー、すいません。すいません。誘って断られて終わりだと思っていたから……巻き込んでごめんなさい」

 咲良は焦ってぺこぺこと頭を下げた。自ら王子の話をしてしまった事に、咲良は蒼白になった。


「それで、咲良ちゃんは石川に告白する気無いの?」

 ニヤリと笑って覗き込むように訊く篠田を、のけぞって遠ざけた咲良は、プルプルと横に首を振った。


「と、とんでもないです。彼女がいるのに……」

 尻切れトンボのように俯いてしまった咲良の言葉を聞いて、篠田はプッと噴出した。


「咲良ちゃん、君の言ってる事は矛盾してるよね? 友達には彼女がいてもぶつかれって言っておきながら、自分は彼女がいるからダメだなんて……それじゃあ説得力無いよ。だから友達も合コンの事、君に押し付けたんじゃないの?」

 篠田の言う通りだと咲良はうなだれた。思い返してみれば由香も同じような事を言っていたじゃないか。


「そうですね。篠田さんの言う通りです。自分の事、棚にあげてました」

 咲良は反省してシュンと(うつむ)いた。それでもやはり、由香には幼馴染ともう一度向き合って欲しいと思うのだった。


「咲良ちゃんは、このままでいいの?」

「このままって?」

「だから、石川に自分の想いを伝えないままでいいの?」

 篠田は再び同じ質問を繰り返した。

 想いって伝えるのが当たり前なのだろうか?

 見てるだけでいいなんて言うのは、おかしいのだろうか?


「高校の3年間も彼には美人で頭もいい彼女がいました。だから、見てるだけで良かったんです。そう言うのはおかしいですか?」

 咲良は真剣な面持ちで篠田に問いかけた。篠田は少し驚いた後、しばし考え込んでいるようだった。


「もしかして、咲良ちゃんって、石川がこの大学を受験したから、君もここにしたの?」

「ち、違います。飯島彼方先生の講義が受けたくて……」

「ああ、そんな事言ってたね。でも、石川がこの大学を受験する事は知ってたんじゃないの?」

 誤魔化す事の出来ない咲良は、篠田の追及する様な視線を避けるため顔をそむけると、「知ってはいましたけど……」と小さな声で答えた。


「咲良ちゃん、今時の小学生でも見てるだけでいいなんて言わないよ。もう、君は大学生なんだから、それなりの経験のレベルアップをしていかないと……」

 篠田は優しく諭すように咲良に語りかけた。

 咲良だって分かっているけれど、王子の事になると恐れ多いと思ってしまうのだ。今の王子との関係もギリギリ身に余る程の近さだと思う。


「ねっ、石川に告る気が無いなら、俺と付き合ってみない?」

 思わず顔をあげた咲良の瞳は、少し首をかしげて優しく微笑む篠田の顔を写していたけれど、咲良の頭の中は一瞬で真っ白になってしまっていた。





 


 


 


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